フランスのパリで開催された、ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールのピアノ部門が終わった(公式サイトはこちら)。
これまで、ネット配信を聴いて(こちらのサイト)、感想を書いてきた。
今回の6人のファイナリストたちについて、改めて備忘録的に記載しておきたい。
ちなみに、2019年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールについてのこれまでの記事はこちら。
(2019年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール(ピアノ部門) 出場者発表)
(2019年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール(ピアノ部門) 予選開催中)
(2019年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール(ピアノ部門) 予選通過者発表)
(2019年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール(ピアノ部門) セミファイナル開催中)
(2019年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール(ピアノ部門) セミファイナル通過者発表)
26 Clément LEFEBVRE (France) Age: 29
今大会の第6位。
フランスらしい整った美音に、優美で端正な演奏様式を持つ。
ラヴェルの「鏡」抜粋、ラモーの新クラヴサン組曲抜粋、フランクの「前奏曲、コラールとフーガ」、ベートーヴェンの協奏曲第1番あたりが印象的。
29 Kenji MIURA (Japan) Age: 26
今大会の優勝者。
軽快でロマンティック、そして洒落た遊び心を持つ。
キラキラしすぎない、渋めのシックな音が魅力。
王子様系というよりはダンディズム系(?)。
モーツァルトのソナタ第9番K311、ラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」、リストのダンテソナタ、ショパンの協奏曲第2番あたりが印象的。
どの曲も粋な演奏だが、特にショパンの協奏曲が美しく、おそらく優勝の決め手となったのではないだろうか。
30 Keigo MUKAWA (Japan) Age: 26
今大会の第2位。
また、私の中での個人的な今大会のファイナリストのMVP。
爽やかな抒情性、豊かなエスプリに満ちた表現を持つ。
その優雅さは、生粋のフランス人からもなかなか聴かれないほど。
また、浜コンのときもそうだったが(その記事はこちら)、どの曲も高い完成度で仕上げてきており、不出来な点があまりない。
この特長は、今回のファイナリスト6人の中でも際立っていた。
バッハのパルティータ第2番、ラヴェルの「鏡」、サン=サーンスの協奏曲第5番あたりが印象的。
37 Zhora SARGSYAN (Armenia) Age: 24
今大会の第3位。
シャープで細身かつ情熱的なロマンティシズムを持つ。
ラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」、シューマンの「クライスレリアーナ」、ラフマニノフの協奏曲第1番あたりが印象的。
39 Alexandra STYCHKINA (Russia) Age: 15
今大会の第5位。
15歳と思えない鮮やかなタッチに、溌剌とした勢いを持つ。
ドビュッシーの「映像」第1集、バッハのインベンション全曲、リストの「バッハの動機による変奏曲」S.180、ベートーヴェンの協奏曲第1番あたりが印象的。
10 Jean-Baptiste DOULCET (France) Age: 26
今大会の第4位。
くっきりとした存在感のある音に、詩的な表現力を持つ。
バッハの「最愛の兄の旅立ちに寄せて」、ドビュッシーの「版画」、ブラームスの幻想曲集op.116、バルトークの協奏曲第3番あたりが印象的。
以上である。
1位、2位がともに日本人という、記録的快挙。
2人とも素晴らしい演奏だった。
以前、好きな日本人ピアニストを挙げる記事を書いた際、私は三浦謙司と務川慧悟を、好きな日本人ピアニストのトップ50に入れた。
もし今選んだならば、トップ10にも入れていたかもしれない。
なお、結果発表・授賞式のネット配信を私は観なかったが、聞くところによるとブーイングが飛んだという。
ヨーロッパではよくありそうなことである。
あちらでは、ブラボーと同じくらいブーイングが飛び交う。
ミラノ・スカラ座など、ブーイングのすさまじさはサッカーの試合さながらだという。
あちらでは、日本ほどにはクラシック音楽が高尚なものでなく、スポーツのように一般の生活に根付いている証拠だろう。
ブーイングは、いわばプロの洗礼のようなもの。
気にするには及ぶまい。
最後に、もう一つ。
ファイナル最終日の記事のコメント欄でお教えいただいたのだが、アルゲリッチが途中で審査員長を辞退した、という話があるらしい。
情報源はこちらだが、この記事によると、“マルタ・アルゲリッチが審査委員長を務めていたが、ファイナリストを選ぶ審査過程で委員間で意見が対立、彼女は怒りを爆発させ、ファイナルに立ち会わなかったばかりか、本来審査委員長が行なう、審査結果の発表にも姿を見せなかった”とのこと。
真偽のほどは不明だが、本当なら40年近くも前の1980年ショパンコンクール、いわゆる「ポゴレリチ事件」以来かもしれない。
アルゲリッチはこの事件以来、2000年・2010年・2015年のショパンコンクールでも、2015年の浜コンでも、多少の不満はありながらもおとなしく審査していたはず。
よほどの逸材がセミファイナルで落とされたということだろうか。
セミファイナルで落ちたピアニストのうち、私のまだ知らないピアニスト、Yiheng WANGとKyubin CHUNGのどちらかがそうなのか?
興味は尽きない。
揉め事の妥当性を広く判断してもらうためにも、ぜひ予選から全ての演奏をネット配信してほしかった。
→ と書いていたけれど、ご指摘いただいて授賞式の映像を実際に観てみると、アルゲリッチがいた。
和やかそうで、怒っているようにも見えない。
彼女がファイナルの審査に立ち会ったかどうかはよく分からないが、少なくとも授賞式に出席したのは確かなよう。
上記はもしかしたら誤情報か、少なくとも何かしらの尾ひれがついているのかもしれない。
お騒がせしてすみません。
それにしてもこの授賞式、とても良い。
2位の名が呼ばれた際、務川慧悟が自身のことよりもまず隣の三浦謙司を祝福するシーン。
そしてその後、三浦謙司が少し感極まるシーン。
感動的である。
ブーイングは、地元のピアニストが優勝しなかったからというくらいの、無害なものだろう。
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