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子肌育Blog アトピーに負けない生活。

子どものアトピー性皮膚炎治療、スキンケアなどについての正しい知識を、わかりやすくまとめています。

退院まであともう少し…ネフローゼ再発1回目


こんにちは。橋本です。


今日の名古屋は、朝から小雨が続いていますね。


私はというと、今、1回目のネフローゼ再発で入院しているところです。


写真は、天気がいい日の病室からの眺め。


名大病院:鶴舞公園


今回の入院は、名古屋大学医学部附属病院です。


いつも名大病院(めいだい・びょういん)ってよんでますが、ここの病室からの眺めは最高ですね。


病院の前が、鶴舞公園(つるま・こうえん)という名古屋市が作った最も古い公園で、街の中心部にもかかわらず、広い緑に囲まれています。


それが、病室から見ると、まるで自分の庭のよう。


それだけで気分が良くなっている、今日この頃です(苦笑)。


鶴舞公園:夜明け


5か月前…前回、はじめてネフローゼを発症し入院した病院は藤田保健衛生大学病院でした。


藤田病院は自宅からは少し遠いということで、先生と相談し、通院からは、ここ名大病院に切り替えました。


その後経過は、何事もなく順調だったのですが、ついに再発。


入院してまもなく4週間ほどになりますが、ネーフローゼの症状である「尿へのたんぱくの漏れ」や「むくみ」は、もうまったくない状態です。


今回の入院は、あと1週間ちょっと。トータルで5週間になりそうです。


ネフローゼは、いつ再発するかが分からない病気で、正直、「あと、どんだけ入院を繰り返えしゃあいいんだよ」って思いますが。


とりあえずは、「おきることは受け入れて、できることをやっていくしかないな」という感じです。


ではでは。


あともう少し入院が続きますが、今後ともよろしくお願いします!


 


橋本夏樹


 


 


 


関連記事:

こいつが記事を書いています

「体験談」という落とし穴

ブログに来てもらえることが励みになってます


強いステロイドでも、保湿剤と混合してあれば、子どもに使っても大丈夫?


こんにちは。橋本です。


昨日いただいたコメントで、かなり「あるある的」な質問がありました。


普段はそのままコメントで答えているのですが、記事で答えたほうがより多くの方の不安解消になるのではないかと考え、記事にまとめてみました。


質問の内容は、本当に素朴な疑問です。カンタンにいうと、


素朴な疑問:

病院で出してもらったステロイドを調べると、かなり作用が強めのステロイド。


でも、保湿剤で薄めて容器に詰めてくれたステロイドなら、副作用の心配はないのか?


といった内容です。


いただいた質問に対するここでの答えは、医者でも何でもない私の意見。


あくまでも、いち患者としての意見です。


お医者さんの治療方針や、やり方を否定するものではありませんので、よろしければ参考にしてくださいませ。


ステロイド:調合


 


実際の質問の内容


実際にいただいたコメントはこちらです。


橋本さんこんにちは。


現在3ヵ月の子がいますが、健診でアトピーの気があると診断され、体用のお薬としてプロペトにマイザーを混ぜてある塗り薬を小児科で処方されました。


マイザーがステロイド薬と聞いて不安になり、このサイトにたどりついたのですが、マイザーは子どもに使わないとあってますます不安に...。


ランクがベリーストロングでも、保湿剤と混ぜてあれば子どもに使うこともあるのでしょうか?


- shiraさんのコメントより


では、順番に疑問をひもといていきたいと思います。


 


ベリーストロングのステロイドは子どもには強すぎる?


まずは、「子どもにベリーストロングのステロイドを塗ってもいいのか?」という問題です。


ランクがベリーストロングでも、保湿剤と混ぜてあれば

子どもに使うこともあるのでしょうか?


- いただいたコメントより抜粋


科学的根拠に基づかない極端な治療をなくし、より適切な治療をどこでも受けられるようにすることを目的に、日本皮膚科学会が「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」というものを作成しています。


いわゆる標準治療というのは、このガイドラインに沿っています。


このガイドライン(2009年改訂版)によると、ベリーストロングは、


高度の腫脹(しゅちょう:「はれ」のこと)、浮腫(ふしゅ:「むくみ」のこと)、浸潤(しんじゅん:「炎症細胞が皮膚組織に染み入る」こと)ないし苔癬化をともなう紅斑丘疹の多発高度の鱗屑痂皮の付着小水疱びらん多数の掻破痕(そうはこん:「かき傷」のこと)、痒疹結節(ようしん・けっせつ:「かゆいゴリゴリ」のこと)などを主体とする


- 日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2009年改訂版)から引用


こういった比較的症状が強い湿疹に使うとされています。


紅斑、丘疹、苔癬化、小水疱、びらん、痂皮、鱗屑、苔癬化など、湿疹の専門用語ついては、以下の記事を参考にどうぞ。


参考記事:

湿疹の三角形…湿疹の見た目がどう変化するのかを知る


ですので、「何が何でも子どもにはベリーストロングは使えない」ということはありません。


むしろ心配なのは、症状がひどいのに、弱いランクのステロイドを塗り続けるパターンです。


湿疹がなかなか良くならないばかりか、いくら弱いといえども、長く塗り続ければ副作用が出てしまうことも考えられます。


個人差があるので「長く塗り続ければ」と曖昧にしかいえないですが、「長く」とはニュアンス的に、およそ1か月とか、2か月とか毎日塗り続けた場合の話です。


そもそも、「1か月塗り続けないと症状がおさまらない」というのは、湿疹の重症度にステロイドのランクが見合っていない、釣り合っていないということですね。


強い炎症がおこっている湿疹やかゆみに、弱いステロイドを塗ってもおさまってくれません。


炎症がきちんとおさまらないことには、「症状の悪化がさらなる悪化を呼び込む」という悪循環につながりかねないのです。


治療ガイドラインで言っているのは、つまりはこの「重症度に合わせたステロイドを処方してあげなさい」ということに尽きます。


それこそが、お医者さんの経験と技量だ、と。


ですから、「何が何でも子どもにはベリーストロングは使えない」ということはありません。


質問をくださったshiraさんに「この薬で大丈夫だろうか?」という不安にさせてしまったのは、じつは私の不手際でした。


ベリーストロングのステロイドを説明する記事に、私が「通常、子どもには使いません」と手短に書いていたためだと思います。


コメントをもらえたおかげで、この説明が、大きな誤解、必要のない不安をあおっていることに気がつけました。


適切な治療の参考になるように、記事を早速、改善しておきたいと思います。


 


ステロイドと保湿剤を混ぜて出してくれる2つの理由


次は、混合の問題についてです。


ランクがベリーストロングでも、保湿剤と混ぜてあれば

子どもに使うこともあるのでしょうか?

- いただいたコメントより抜粋


お医者さんが、「ステロイド」と「保湿剤」を混合して処方してくれるのには、おもに2つの目的があります。


2つの目的とは、「手間をかけずに塗れるようにすること」と、「副作用が軽くなることを見込んで」。この2つです。


 


1) 手間をかけずに塗れるように


1つは、「塗りやすさ」を考えて。


いくら、湿疹、かゆみがつらいからといっても、毎日薬を塗るのは、人によってはものすごく負担に感じる場合もあります。


それも、ステロイドと保湿剤を塗り重ねたり、塗る範囲が広かったり、何種類もの塗り薬を使い分けたりすると余計に、ですよね。


そのため、手間をかけずに塗れるように配慮して、1つに混ぜた塗り薬を、容器に入れて渡してくれることもあるわけです。


治療にとっては、面倒くさくて途中から塗らなくなったり、塗ったり塗らなかったりするというのが、いちばん困るわけですから。


 


2) 副作用が軽くなることを見込んで


単純に考えると、ステロイドを保湿剤で薄めれば、それだけ副作用も軽くなるように思えます。


「薄めてある分、副作用も出にくくなるはずだから、そのまま塗るより安心だね」


なんとなく、そう感じるかもしれませんが。


じつは、ステロイドは保湿剤で薄めても、副作用が減るとは限りません。


アトピー:混合軟膏


 


ステロイド外用薬は薄めても…


ステロイド外用薬には、血管を収縮させる効果があります。


そのため、ステロイド外用薬の効果を調べる方法として、血管収縮の度合いで、そのステロイドの効果を試験することがあります。


下のグラフは、この血管収縮試験を利用して、ステロイド外用薬をワセリンで1,024倍まで希釈した場合の効果を調べたものです 1)


ステロイド:希釈


この結果からわかるのは、「4~16倍程度の希釈では効果にあまり差がない」ということです。


半分に薄めれば、効果が半分になるわけではなく、効果は同じ。


それどころか、16倍に薄めても効果は、ほぼ同じなんですね。


64倍に薄めて、やっと効果が半分程度に弱まっています。


よく使われるステロイド軟膏のサイズが1本5gなので、16倍に薄めるというと、80gの保湿剤に混ぜることになります。


たとえば、5g、5gの半々どころか、80gの保湿剤に5gのステロイドチューブ1本混ぜても、効果がほとんど変わらないわけです。


「保湿剤80gにステロイドチューブ1本分を混ぜる」といってもイメージしにくいですが、一般によく使われる保湿剤、ヒルドイドソフト軟膏1本が25g。


つまり、


希釈実験からいえること:

ヒルドイドソフト軟膏3本分の量のワセリンにステロイド1本分混ぜても、ステロイドの強さは、ほとんど変わらないだろう


ということなんですね。


 


ステロイドを半分に薄めても、強さが半分にならない理由


薄めたとおりに、薄まらない理由は、薬物濃度の問題だと考えられています。


ステロイド外用薬は、すべてが薬物ではありません。


ワセリンなどの基剤(きざい:「ベース」のこと)に、ステロイドという薬物を溶かし込んであるのが、ステロイド外用薬です。


実際には、ステロイド…副腎皮質ホルモン(ふくじんひしつ・ほるもん)という薬物は、基剤の中に結晶として散らばっているような感じなんですね。


アンテベート軟膏の基剤中に、「どれだけ薬物が溶けているか」を調べると、およそ「16分の1」 2)


16分の1以上に薄めていかないと、効果が下がっていかないというのは、アンテベートの場合、ちょうどこの薬物濃度に一致しています。


もし仮に、薄めれば薄めた分だけ効果が減るなら、そもそも、ステロイドを強さによって細かく分けて製品化する必要はないはずです。


ステロイド1種類だけあれば、どんどん保湿剤で薄めていくことで、様々なランクの軟膏ができてしまうわけですからね。


もちろん、実際にはそんなことにはなりません。


だからこそ、細かく強さが違ったステロイド外用薬が30種類以上も作られているわけです(軟膏とクリーム、ローションの違いで種類が増えているということもありますが)。


そしてさらに、これもそもそもの話なんですが。


「効果が高いのに、副作用が少ない」というステロイド外用薬を作る、決定的な技術はまだ開発されていません。


「アンテドラッグ」というステロイドが血中に入っていきにくいタイプのステロイド外用薬も使われていますが、塗った部分の皮膚への副作用がなくなるわけではありません。


強い効果があれば。強いステロイドであれば、どうしても強い副作用がつきまとうもの。


副作用が少ないステロイド外用薬は、それだけ効果も弱くなってしまうのです。


「効果だけ強い割りには、副作用がない」という都合の良いステロイドは、現在のところまだないのが本当のところです。


つまり、アンテベートの場合、たとえワセリンで64倍以上に薄めて副作用のリスクが半分程度になったとしても、いちばん大事な「皮膚の炎症をおさえる力」も半分程度に落ちてしまうわけなんですね。


これでは、副作用の心配がなくても、湿疹がうまくおさまってくれない、ということになってしまいます。


 


混合しても、ステロイドが強くなるか、弱くなるかは分からない


ステロイドと保湿剤の混合には、もうひとつ問題点があります。


それは、皮膚からの「浸透のしやすさ」の問題です。


下のグラフが、混合した場合の「浸透のしやすさ」違いを調べたものです 3)


ステロイド軟膏単独と、
それに尿素クリームを混ぜた場合の「皮膚への浸透しやすさ」の違い

ステロイド+尿素:透過比


 

リドメックス軟膏を単独で使うよりも、パスタロンソフトという尿素クリームと混合した場合は4倍以上の浸透しやすさ。


同じ尿素クリームでも、ケラチナミン軟膏と混合した場合は、3倍以上の浸透しやすさ。


浸透しやすくなるということは、それだけ混ぜたステロイドも吸収されやすくなり、効果が強くなると考えられます。


つまり、薄めて効果が弱くなるどころか、保湿剤によっては、効果が強くなってしまうこともありうるのです。


混ぜたことによって浸透しやすくなったのは、クリームに含まれる乳化剤によるものだと思われます。


しかも困ったことに、グラフからもわかるように、同じ尿素クリームに混ぜても、ステロイドの種類を変えると、「浸透しやすさ」まで、まるで変わってしまいます。


リドメックスにパスタロンを混ぜた場合は、浸透のしやすさが4倍だったのが、ステロイドをアンテベートに変えると、2倍になってしまいます。


つまり、組み合わせによって、浸透のしやすさが全く変わってしまうわけです。


極端なことを言ってしまえば、混合することで効果が強くなるのか、弱くなるのかは、どんな保湿剤を使うか、どんなステロイドとの組み合わせでやるかで、まるで違う。


「やってみなけりゃ、調べてみなけりゃ、使ってみなけりゃわからない」という状態なんですね。


これは、よく考えてみれば当たり前のことで、商品化されているステロイドは、発売前に効果や安全性を厳しく検証しているからこそ、品質が保証されているのです。


 


大事なのは、「実際の経過を診てもらう」こと


ステロイドをそのまま使ったほうがいいのか、混合したほうがいいのか。


こうして見ると、答えは、1つじゃないのも少しは感じてもらえるかと思います。


予想できる効果や副作用がストレートなのが、そのままのステロイド。


混合した場合は、混合の仕方、組み合わせによって、効果が大きく変わる可能性もある反面、効果も副作用もほとんど変わらないケースもあり、どう変化するかは未知数です。


ただ、お医者さんは、初めての混合方法で作った軟膏を処方をするわけではないはずです。


これぐらいの症状には、どの混合軟膏をどれだけの期間塗れば、きれいにおさまってくるのか?


毎日の診察、経験で、ある程度わかっているはずです。


それに、混合軟膏の「塗る手間を軽減する」というメリットも、ケアを続けていく上で、なかなか捨てがたいものです。


少しばかり手間でも、最低限、品質が信頼できるステロイドを使うか。


それとも、塗りやすさを考えて、先生の経験を信頼して、「これで試してみましょう」という混合軟膏を使うか。


お医者さんとよく相談することが大事です。


さらに大事なのは、どんなステロイド外用薬を使うにしても、再診で経過をていねいに診てもらうことです。


再診でみてもらうポイント:

薬の効果で、順調に皮膚の炎症がおさまってきているか?


副作用が出ていないか?


最初は、通常、1週間後の再診で、経過を診てもらいます。


参考記事:

ステロイド外用薬は最初、1~2週間でよくなるものを


副作用は怖いものではなく、早めに再診で見つけてもらえば、そこでステロイドを中止することで、皮膚萎縮線条(ひふいしゅく・せんじょう)以外の副作用はゆっくり回復していきます。


あまりにも怖がって、塗る量、塗る期間が足りないなどしたほうが、炎症がおさまらず、かえって治療を難しくしてしまう。


こっちのほうが、より心配なんですね。


炎症が消えてすべすべの肌に戻れば、あとは湿疹がぶり返さないように、保湿剤でフォローアップしていく。


もしくは、段階的にステロイドを弱いものに切り替えたり、段階的に減らしていくのが、治療の基本です。


もちろん、薬まかせ、保湿剤まかせ、だけの治療ではなく、普段からできる範囲で悪化因子を取り除いていくことも、お忘れなく。


 


 


 


関連記事:

最善のアトピー治療法とは?

湿疹が「苔癬化」していませんか?

汗をふく……フレンチタオルの作り方


参考文献:

1) 川島 眞: 合成コルチコステロイド Betamethasone butyrate propionate (TO-186) 外用剤の血管収縮能の検討. 臨医薬 6: 1671-1681, 1990.

2) 大谷 道輝, 松元 美香, 山村 喜一 ほか: 基剤中に溶解している主薬濃度および皮膚透過性を指標としたステロイド外用薬の先発および後発医薬品の同等性評価. 日皮会誌 121(11): 2257-2264, 2011.

3) 大谷 道輝, 山田 伸夫, 高山 和郎 ほか: 市販ステロイド外用剤の混合が与えるヒト血管収縮効果への影響. 薬学雑誌 122(1): 107-112, 2002.


赤ちゃんの服は、「大人より1枚少なめで」っていうけど…


こんにちは。橋本です。


大人の感覚で、「赤ちゃんは暖かくしてあげないと…」と思って服を着せてあげる。


その親心が、じつは赤ちゃんにとっては、「ちょっと暑いよー」という状態になることがあります。


もちろん、赤ちゃん自身で着たり脱いだりすることはできませんし、口では言ってくれません。


それもあって、ついつい、親目線、親の体感で、服の枚数を調整してしまうんですね。


ところが、これが赤ちゃんの体感からすると、少し暑い。


そうすると、必要以上に体温を上げてしまい、余分な汗をかくことによって、かゆみが出てしまう、湿疹を作ってしまうこともあるわけです。


そうならないためには、「赤ちゃんの服は、大人より1枚少なめで」が、ひとつの目安ですよー、といわれることがありますが…。


本当に、赤ちゃんに着せる服は少なめで大丈夫なんでしょうか?


赤ちゃん:服の枚数


 


赤ちゃんは“寒さ”に弱くないの?


「赤ちゃんは暖かくしてあげないと…」というのは、ある意味正解です。


なぜなら、赤ちゃん…とくに新生児は、熱を失いやすい体の作りになっているからです。


新生児は大人に比べ、まだ熱を保つ働きをする皮下脂肪が少なく、熱を発する基礎代謝量も少ない。


さらには、体が小さい割に体の表面積が大きいため、皮膚から熱が逃げやすいという性質があるんですね。


だからこそ、産まれてしばらくは、適切な温度環境になるよう、親が保温調節してあげることが、大切なのは間違いありません。


 


アクションからくみ取るのが基本


温度環境が適切かどうかの判断は、赤ちゃんの行動を注意深く見守るのが基本です。


たとえば、「静」と「動」も体温調節のシステムのひとつ。


省熱と放熱のバランスが、「静」と「動」という赤ちゃんのアクションの違いを生み出しています。


産まれたての赤ん坊は、よく身を縮め激しく泣き続けますよね。


あれは、本能で寒さを避けるために、「動」というアクションによって熱を生み出し、自ら体を温めているという側面もあるのです。


逆に、ガニ股、万歳ポーズで、手足を伸ばし静かに眠り続ける時は寒くない…安心して熱を放出している。


この状態が、「静」というわけですね。


赤ちゃんは、寒い時には積極的にアクションをおこす。


では、暑い時にはどうでしょう?


 


赤ちゃんは“暑さ”に弱い


じつは、より気をつけてもらいたいのは「暑さ」です。


さっきは、「赤ちゃんは寒さから守らなければいけない」って言ってたのに、今度は「暑さに弱い」って言ってみたり。


「着させろ」と言ったかと思えば、「服は少なめで」と反対のことを言う。


お前はバカか、と怒られそうですが(苦笑)。


赤ちゃんは寒さに弱いのは間違いないものの、「赤ちゃんは暑さに弱いもの」という意識もそれ以上に大切だ、ということなんですね。


寒い時には、赤ちゃんは泣いたり、震えたりするので、危険信号をくみ取りやすい。


さらに、そうして自ら熱を発することは、体温をキープし、自衛することにもつながります。


つまり、まだ小さいながらも、寒さに対しては、赤ちゃん自身が努力して、わずかながらでも回避することができるわけです。


それに比べ、暑さに対しては、赤ちゃんは汗をかくことでしか対応できません。


大人のように、窓を開けたり、エアコンをかけたり、服を脱いだりといったことができないのですから。


そうなると、暑さに対しては、親の育児方法が大きく影響してくるというわけです。


赤ちゃんが自分の意志で回避行動ができる「寒さ」に比べ、自分の意思ではなかなか行動しようがないのが「暑さ」。


そういう意味で、「赤ちゃんは暑さに弱いもの」という意識が大切なんですね。


乳幼児の呼吸が、ある日突然止まってしまうSIDS(シッズ:乳幼児突然死症候群)というのを耳にしたことはないでしょうか?


乳幼児突然死症候群は、それまで健康だった赤ちゃん(おもに1歳未満)が、何の前触れもなく突然呼吸を停止してしまい、亡くなってしまう現象です。


参考サイト:

乳幼児突然死症候群(SIDS)をなくすために


この現象の原因は不明であるものの、「うつぶせ寝」が最大の原因ではないか、と考えられていますが。


過度に暖めすぎたり、服を着込まさせたりするのも、このSIDSの危険因子ではないかという意見もあります。


この意見を厚生労働省は、公式に認めるには至っていませんが、アメリカ小児科学会は、2011年に「温め過ぎないこと」をSIDSの予防として認めています 1)


まだまだ議論の余地がありますが、こうした面からも、赤ちゃんを思えばこその保温が、逆に負担をかけているケースがあることが、指摘されているわけです。


 


「赤ちゃんの成長」と「体温」をデータから見てみる


どこからが快適で、どこからが暖めすぎなのか?


はっきりさせるのは実際には難しい問題です。


個人差も大きいですからね。


でもやはり、先ほどにも触れたように、いちばんは、「赤ちゃんのアクションからくみ取る」ということです。


それを踏まえた上なら、次のようなデータも、ひとつの参考になります。


乳幼児の1日の体温の動きをあらわしたグラフです 2)


グラフ:乳幼児の体温比較


これを見てもらうと、生後1か月までは、ほんの少し体温が高めで、1日の中での変動が少ない。


つまり、体温のコントロールがまだ頼りない状態ともいえます。


生後3~4か月以降から体温は、36度台前半へと下がり、1日の中での変動にもメリハリが徐々に出てくる様子がわかるかと思います。


比較すると、だんだんリズムが出てきてますよね。


それだけ成長によって、寒さに対する体温調節も徐々にコントロールしやすくなってきていると考えられるわけです。


 


じゃあ、実際に何枚着ればいいのよ


ですから、産まれた直後に役立っていた暖める行為も、同じように続けていては、成長した3~4か月以降では、デメリットが出てくる可能性もあります。


この時期の赤ちゃんは新陳代謝がいいですよね。


寝返りも打ちはじめ、動きもどんどん活発になってくる時期です。


大人と同じ厚さの服を着れば、必要以上に汗をかいてしまい、結果、汗が冷えて風邪を引いてしまったり。


汗が肌への刺激になったり、場合によっては、体が温まってかゆがったりすることにもなります。


これって、アトピーの子どもにとっては、大きなデメリットです。


そのため、赤ちゃんに着せる服の枚数の目安は、


生後1か月頃まで大人より1枚多め


生後3ヶ月頃まで大人と同じ程度


生後3ヶ月頃以降大人より1枚少なめ


このような感じで、赤ちゃんの様子を見ながら、成長に合わせて臨機応変に変えていく。


大人の感覚から推し量るだけでなく、赤ちゃんの都合に合わせて、うまく段階的に対応していくことが大切なんですね。


このようにみてみると、「大人より1枚少なめで」という心づかいは、健康やスキンケアにとって意味のあること。


もちろん、アトピーを悪化させない、ぶり返させないためにも、必要なケアであるわけです。


 


 


 


関連記事:

まだ小さいから、保湿だけでなんとかしたい

子どもがぐずってばかり。かゆみ止めを飲んでるせい?

アレルギーが心配な場合の「離乳食の進めかた3か条」


参考文献:

1) Task Force on Sudden Infant Death Syndrome, Moon RY: SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Expansion of Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment. Pediatrics 128(5): 1030-1039, 2011.

2) 巷野 悟郎 ほか: 健康小児の体温の研究. 厚生省小児保健環境研究班, 1979.


ただの乾燥肌体質?…尋常性魚鱗癬(じんじょうせい・ぎょりんせん)とは?


こんにちは。橋本です。


遺伝がかかわるもので、尋常性魚鱗癬(じんじょうせい・ぎょりんせん)という皮膚の病気があります。


この尋常性魚鱗癬という病気。世間に広く知れ渡っている病気ではありません。


なので、「生まれつきひどい乾燥肌体質で…」と困っている子どもの中には、じつはこの尋常性魚鱗癬かもしれないというケースがあるのです。


たとえば、足のすねの乾燥がひどく、肌が魚のうろこみたいになり、カチカチに薄くひび割れる、とか…。


そして、尋常性魚鱗癬は、アトピーともつながりの深い病気でもあります。


尋常性魚鱗癬とは


 


尋常性魚鱗癬は、最も多い魚鱗癬のタイプ


尋常性魚鱗癬は、魚鱗癬(ぎょりんせん)という病気の数あるタイプ(病型)のひとつです。


発症する人の割合は意外にも高く、200~250人に1人の割合だとみられています。


同じ「魚鱗癬」といっても、タイプによって見た目も大きく違い、軽症から重症まで様々。


症状のあらわれ方、特徴によって、いくつものタイプにわかれます。


尋常(じんじょう)とは、「通常の」という意味。


つまり、尋常性魚鱗癬は、数ある「魚鱗癬」のタイプの中でも、最もよくみられるタイプの魚鱗癬というわけなんですね。


さらに、尋常性魚鱗癬は、「最も軽症タイプの魚鱗癬」であることが特徴です。


インターネット上で公開されている写真の中には、ほかの重症タイプの魚鱗癬を「尋常性魚鱗癬」と混同して掲載しているものもあるので、注意が必要です。


なぜなら、魚鱗癬に関してほとんど予備知識のない状態で、そういった画像を目にすると、尋常性魚鱗癬という病気を誤解してしまうことにもなりかねないからなんですね。


 


「尋常性魚鱗癬」は、こんな感じの病気です


魚鱗癬でもっとも特徴的なのは、「肌の表面が硬く、うろこ状になる」という症状です。


もちろん、症状の強さは人それぞれなので、こういった症状が「うっすら」としか出ないケースもあります。


このように聞くと、「ああ、鮫肌のようなもんでしょ?」とイメージする人もいるかもしれませんが、魚鱗癬と鮫肌は、全くの別物。


魚鱗癬は、角質の増殖のスピードが早くなり、それにもかかわらず、角質が固着し、はがれるのが遅れる病気です。


症例写真:尋常性魚鱗癬
症例写真(6枚):尋常性魚鱗癬


では、尋常性魚鱗癬とは、実際にはどんな症状があらわれるのでしょうか?


尋常性魚鱗癬の特徴を手短にまとめると、全体像は次のような感じです。


 


特徴的な症状


・比較的、軽症のタイプの魚鱗癬


・全身的に、肌が極度に乾燥する


・ただの乾燥肌体質と思い込まれるケースもある


・肌の表面の角質がカチカチに硬くなる


・重症例では、角質が褐色調で浅黒くなり、白くひび割れる


鱗屑(りんせつ:硬く張りついた角質のはがれ)が出る


・肌が干からびた田んぼのような見た目になる


紅斑(こうはん:皮膚の炎症による赤み)は通常出ない


・表皮の顆粒層が通常より薄くなったり、消失していたりする


 


鱗屑の状態


・細かいものは、白い米ぬか状


・重症例では、荒く、褐色でうろこ状


 


症状の出やすい場所


・腕や足の皮膚が伸ばされやすい面


・特に足のすね部分に強い症状が出やすい


・背中などの体幹に出ることもある


・ひじ、ひざ内側などの皮膚が縮む場所はきれい


赤ちゃん:足のすね


 


パーマー・ハイパーリニアリティーという症状


・手のひらの手相線が深くなることが多い


・親指の付け根のふくらみ(母指球:ぼしきゅう)に出やすい


・母指球では、指の軸に対して、水平方向に手相線が強くなりやすい


症例写真:尋常性魚鱗癬にみられるパーマー・ハイパーリニアリティー
症例写真尋常性魚鱗癬にみられるパーマー・ハイパーリニアリティー


 


合併しやすい病気


・アトピー(成人まで持ち越しやすい)


・ぜんそく(2歳未満での発症例も多い)


 


発症時期


・生まれた直後には症状が出ない


・生後2か月ぐらいまでに症状が出始めることが多い


 


症状の変化


・気温や湿度の高い夏に軽くなり、冬に悪化しやすい


・冬は硬くなった肌の亀裂によって歩きにくくなることがある


・汗が出にくくなり、体温の調節がうまくいかないことがある


・10代を過ぎると、症状が軽くなることが多い


・成人になると自然軽快する場合もある


 


発症の頻度は?


・およそ200~250人に1人の割合


 


遺伝の形式


・常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたい・ゆうせい・いでん)


・正確には半優性遺伝


・ホモでフィラグリンが完全に欠如 ⇒ 比較的重症型


・ヘテロでフィラグリンが半分量になる ⇒ 比較的軽症型


・人種によって変異するフィラグリン遺伝子が違う


・日本人では、現時点で8つのフィラグリン遺伝子で変異が報告されている


 


確定診断


・遺伝子検索でチェック


・皮膚生検(ひふ・せいけん)で顆粒層を観察する


・特有の症状を多く満たしているか


 


治療方法


・遺伝子(体質)がかかわるため、根本治療はまだない


・保湿剤などで、症状をおさえるのが基本


・角化(かっか:表皮細胞の新陳代謝)の異常に対しての効果を見込み、活性型ビタミンD3軟膏(製品名:オキサロール軟膏、ボンアルファ軟膏など)を使うことがある


・魚鱗癬は皮膚のバリア機能が低下し、吸収が異常に良い場合があるので、外用薬を使う場合は、中毒や副作用に十分に注意する


・重症型魚鱗癬で使うエトレチナート(レチノイド)の内服(製品名:チガソン)は、通常使わない


・アトピーを合併している場合は、通常のアトピーの治療もおこなう


 


治療に使う保湿剤


保湿剤(角質軟化作用のあるもの)


・サリチル酸ワセリン


・尿素配合クリーム


保湿剤(肌の抱水力を高めるもの)


・ヒルドイドソフト軟膏


保湿剤(皮膚のバリア機能を補強するもの)


・セラミド含有クリームなど


 


尋常性魚鱗癬…これ以外にも魚鱗癬には様々なタイプがあり、内臓の病気など、ほかの病気が元で、魚鱗癬が出ることもあります。


そして、アトピーを合併する場合も、しない場合もあります。


そのため、尋常性魚鱗癬かどうかは、こうした尋常性魚鱗癬の特徴をおさえて、専門のお医者さんにきちんと診断してもらうことが必要です。


そして、「ただの乾燥肌体質」と「尋常性魚鱗癬」も、明確にわけていく必要があります。


とはいっても、尋常性魚鱗癬は、重症型の魚鱗癬ではないので、保湿剤のケアで効果が見込みやすいタイプの魚鱗癬ともいえます。


また、そうした保湿剤によるケアで、皮膚のバリア機能が低下しないようにキープしていくことが大事です。


なぜなら、それが魚鱗癬の症状がおさえられるだけでなく、アトピー、ぜんそくの合併という、いわゆるアレルギーマーチの進行を予防できるとも考えられるからです。


 


「原因不明の謎の病気」ではなくなった


尋常性魚鱗癬が、遺伝性の病気であることは、古くから知られていました。


遺伝によって、皮膚が不完全に形成されてしまうんだろうな、という感じでとらえられていたわけです。


インターネット上で公開されている遺伝性疾患のデータベース OMIM( オミム:Online Mendelian Inheritance in Man )では、OMIM#146700という番号が与えられています。


しかしながら、細かいメカニズムなど、「なぜこの病気がおこるのか」という原因は長い間不明とされてきました。


それが、2006年にイギリスで、尋常性魚鱗癬がフィラグリン遺伝子の変異(へんい:違い)が原因でおこることが突き止められたんですね 1)


フィラグリン遺伝子に変異があることで、角質水分保持に重要な働きをしているフィラグリンが減少。


そのために、皮膚がひどく乾燥し、角化(かっか:表皮細胞の新陳代謝)に異常がおこっていたのがわかったわけです。


原因不明の病気が、説明のつく、わかりやすい病気になった瞬間です。


 


アトピーは「アレルギーの病気」から「バリア機能の異常による病気」へ


尋常性魚鱗癬の原因がフィラグリン遺伝子の変異であることがわかったのは、大きな発見でした。


しかし、大きな発見は、それだけでは終わっていません。


さらにこの発見の意味が大きかったのは、


尋常性魚鱗癬の原因遺伝子フィラグリンの変異がアトピー患者の約30~50%に存在する


という報告があったこと。


日本人のアトピー患者でも、少なく見積もっても3割弱でフィラグリン遺伝子の変異があると予想されています。


参考記事:

「フィラグリン遺伝子変異」の発見で、アトピー治療はどう変わったか?


常識的な考え方では、「アトピーはアレルギーの病気」という考えが根強くありました。


もちろん、この考え方はある意味、間違っていません。


しかし、実際には最低でもアトピー患者の3割弱は、フィラグリン遺伝子の変異による皮膚のバリア異常が、病気のはじまりになっている可能性が出てきたのです。


皮膚のバリア異常により、外部からのアレルゲンに感作されやすい環境を作り、アトピーになるきっかけを作ってしまう。


さらには、それに引き続くぜんそくなど、アレルギーマーチにもつながっていくことも考えられるわけです。


そういう意味でも、尋常性魚鱗癬の症状は、しっかりと保湿剤でケアしていくことが大切。


場合によっては、尋常性魚鱗癬かどうかを診断してもらうことが必要かもしれません。


尋常性魚鱗癬の発症の頻度は、およそ200~250人に1人の割合というわりには、なかなか認知度の低い病気です。


しかし、尋常性魚鱗癬を「ただの乾燥肌体質」と軽く見るのは、健康を管理していく上では、「大きな見逃し」ともなりうるわけなんですね。


 


 


 


関連記事:

「IgE」ってなんですか?

「食事制限」はアレルギーマーチの予防になるのか?

子どもは「苦痛」に気づいていない


参考文献:

1) Smith FJ, Irvine AD, Terron-Kwiatkowski A, et al: Loss-of-function mutations in the gene encoding filaggrin cause ichthyosis vulgaris. Nat Genet 38: 337, 2006.


お菓子は子どもの知能に影響する…はホントウか?


こんにちは。橋本です。


「超ショック!ジャンクフードがIQを低くすることが発覚」


こんなタイトルのニュース記事があり、アメーバニュースでも取り上げられていました。


アメーバニュース:

超ショック!ジャンクフードがIQを低くすることが発覚


「ジャンクフードは子どものIQを下げる」


これだけ聞くと、ちょっとショッキングな事実に感じます。


たしかにそう言われてみれば、ジャンクフードばかりを食べていると、栄養が足りなくなり、「脳の成長が遅れてしまうのではないか?」と心配になります。


このニュースを根拠に、


「お菓子ばかり食べてると、勉強ができなくなるよ!」


と、明日から自信を持って子どもをしかるママがいるかもしれません。


でも本当に、ジャンクフードを食べたせいで、子どもは勉強ができなくなってしまうのでしょうか?


お菓子:脳の発達


 


どんな研究か


ニュースの元になったのは、先日2012年7月19日に発表された論文です。


ジャンクフードを日頃から食べていた子どものグループ、それに対して健康的な食生活をしたグループ。


それぞれのグループを比較して、食事パターンとIQ(知能指数)の関係を調査した研究です 1)


対象になったのは、8歳の子どもたち7,097名。


その子どもたちでIQテストを実施し、点数を調査。


そして、生後6ヵ月、15ヵ月、2歳時の食習慣をアンケートにより把握し、子どもたちを過去の食習慣で3グループ(A, B1, B2)にわけて分析しました。


 


調査結果


それぞれのグループを比較してわかった「食事パターンとIQの関連性」は、次のとおりです。


 


Aグループ) ジャンクフードを日頃から食べていた子ども


子どもの食生活

2歳以下の時点で、ビスケット、チョコレート、お菓子、炭酸飲料、ポテトチップスなどを日頃から食べていた


IQテストの結果

8歳の時点でIQが平均よりも2ポイント低かった


 


B1グループ) ジャンクフードをあまり食べなかった子ども(パターン1)


子どもの食生活

6ヵ月の時点で母乳育児、15か月、2歳の時点でハーブ、豆類、チーズ、生の果物、野菜などの家庭的現代食


IQテストの結果

8歳の時点でIQが平均よりも1~2ポイント高かった


 


B2グループ) ジャンクフードをあまり食べなかった子ども(パターン2)


子どもの食生活

6ヵ月の時点で、肉、調理された野菜、デザートなど、伝統的な家庭料理を中心とした食生活


IQテストの結果

8歳の時点でより高いIQスコアに関連付けられたが、15か月、2歳の時点で似たような食生活のパターンをしていても関連は認められなかった


 


補足) 市販のベビーフードを利用していた子ども


さらに市販のベビーフードを、6ヶ月時点で利用していた場合では、知能指数にマイナスの影響をおよぼしたと推測された反面、2歳時点で利用していた場合には、プラスの影響をおよぼしたと推測される


 


こうした結果から、この研究では、「生後6か月から2歳になるまでの食事パターンは、8歳でのIQに小さいながらも持続的な影響を与えている」と結論づけています。


じつは、こうした結論の論文は、これが初めてではありません。


2011年2月7日にも、これに似たような調査方法、結論を持つ論文が発表され 2) ニュースとしても取り上げられています。


 


このような研究の問題点


ただし、このような研究から「ジャンクフードは子どものIQを下げる」というには、3つの問題点があります。


1) 第3の要因がある

2) 横断研究である

3) 違いがわずかである


これだけでは、なんのことだか分かりにくいので、1つずつ詳しく見ていきますね。


 


1) 第3の要因がある


この研究では、「ジャンクフード食べる」ことと、「IQが低くなる」こと…この2つを結びつけています。


つまり、「ジャンクフードを食べる」ことが原因で、その原因によって「IQが低くなる」という結果につながっている、という考え方ですね。


そして、実際にデータを取ってみたら、事実そうなっている、と。


しかしそこで、注意してほしいことがひとつあります。


それが、「第3の要因」です。


見かけ上は、ジャンクフードが原因で、IQが低くなっているように見えます。


ところが、「ジャンクフードを食べがちになる」ということと、「IQが低い」ということ…この両方に影響を与える第3の要因があるのです。


この場合、第3の要因は「家庭環境」です。


まっとうに考えれば、こちらのほうが「IQが低い」という結果をもたらす大きな原因と考えられます。


ジャンクフードをあげ過ぎないよう、バランスのよい食生活に気をつけている家庭。


そんなきっちりした親が、子どもを「勉強せずにテレビばかり見る」ような環境にはしないはずですよね。


反対に、ジャンクフードを好きなだけあげている家庭では、子どもの教育レベルについても、それほど意識が高くない可能性があるのです。


家庭学習:知能指数


こうした隠れた「第3の要因」は、バイアス(事実をゆがめるもの)というもののひとつで、原因と結果を見誤る元になるものです。


「第3の要因」のことを、専門用語では交絡因子(こうらく・いんし)とよんでいます。


交絡因子とは、「混乱させる要因」という意味で使われる言葉です。


たとえば、「小学生は足が大きいほど、漢字がよく書ける」という話。


こんなことはよく考えなくてもおかしいことは分かりますが、おそらくデータを取れば、足の大きさに比例して、漢字テストの点数がいいという結果が出るでしょう。


しかし、この場合の交絡因子は、「年齢」です。


「足が大きい」というのは見せかけの原因に過ぎず、「漢字が良く書ける」ことの真の原因は、「年齢の違い」というわけです。


これをジャンクフードのケースにあてはめるとどうでしょう?


つまり、


ジャンクフードが直接的にIQを低くするのではなく、交絡因子である「家庭環境」がジャンクフードの多い食生活にし、「家庭環境」がIQを低くするのではないか?


それがこの研究デザインからみえてくる、ごく自然な疑問です。


ただ、交絡因子の影響を取り除く計算方法はあるのですが、「家庭環境の違い」を数字にすることはほぼ不可能です。


そのため、このような研究デザインでは、結果から「家庭環境の違い」の影響を差し引く計算はできないんですね。


ジャンクフード:交絡因子


 


2) 横断研究である


時間的経過で変化を調査していくコホート研究とは違い、こうした研究は横断研究(おうだん・けんきゅう)とよばれています。


ある1点の時間…たとえば、この研究では、「8歳時」という時間を横断する(横切る)ように調査しています。


それに対して、コホート研究は、時間軸に沿って変化を長く観察していくので、縦断研究(じゅうだん・けんきゅう)とよばれています。


日本の国土の形に沿って旅をするのを「日本縦断の旅」っていいますよね。


それと同じ感じで、コホート研究は、縦断研究とよぶわけです。


ある瞬間の時間にフォーカスしたような横断研究は、時間的経過による変化を比較していません。


そのため、原因と結果を結びつけるには、コホート研究のような縦断研究に比べると、根拠として弱いわけなんですね。


 


3) 違いがわずかである


何かを測るときに、「誤差」はつきものです。


しかも、知能テストは、身長計などのように正確に測定できる道具ではありません。


同じ人が身長を測って5mmの差が出てしまうことはあっても、きちんと測定すれば5cmも誤差が出ることはないですよね。


しかし、知能テストの場合は少し違います。


やる気がない、緊張しすぎている、そういう心理状態でテストを受けても良い点数は出ません。


理想的な状態でも、知能指数でプラスマイナス5ぐらいの誤差は出てしまうものだといわれています。


同じ学力の子でも、学力テストを受ければ、90点と95点ぐらいの差がついてもおかしくないことを考えれば、想像できるかなと思います。


つまり、平均的な知能スコアが100のテストだとしたら、知能指数が97の子どもも、102の子どもも、どちらも「平均的な知能」と考えるのが妥当です。


97と102では、5ポイントの差があるものの、「97は102より頭が悪い」とはいえないわけです。


「知能指数なんか当てになんないよ」というわけではなく、知能テストはどうしても誤差をなくすことができないテストなんですね。


7,000人以上を調べて、「食生活の違いによって、IQに違いがみられた」というのは事実です。


しかし、もし仮に「IQが低い」ことのすべて原因が「ジャンクフード」にあったとしても、その差は2ポイント。


「ジャンクフードを日頃から食べていても、結局、影響はその程度かよ」


「それなら、普通に勉強頑張ればいいんじゃね」


というのも、一方で素直な解釈なのかもしれません。


 


子どもに嘘を教えないために


以上のような妄想(?)も含めて考えると、ジャンクフードがIQに影響するのかどうかの研究は、まだ始まったばかりだと考えたほうが良さそうです。


ところが、言葉は不思議なもの。


「健康的な食生活がIQの高い子どもを育てる」というと、もっともらしく聞こえてしまうんですよね。


「バランスのとれた食事をしてるから、頭が良くなるね!」は、願望や期待を込めていうのであれば問題はありません。


しかし現時点で、「ジャンクフード=IQを低下させる」が真実だと言うには、かなり問題があります。


少なくとも、ニュースが言うように「判明」や「発覚」や「解明」はされていません。


「お菓子を食べてる子は頭が悪くなる」という間違った情報が、子どもたちのワイワイ楽しい時間を台無しにしてしまうのはもったいないことですよね。


まじめに働くお菓子メーカーの人にとっても、とんだとばっちりです。


間違った情報を根拠に行動させるより、よりよい集団生活を楽しんでもらうほうが、子どもにとっては、はるかに大事です。


しかし実際のところどうかというと。


こうしたことを「子どものジャンクフード=IQを低下させる」の証拠だとして、ニュース記事の結論までそのまま。


コピペしてブログなどの記事になり、広まっているのが現実です。


そこに「ホントかよ?」という疑いの目を持つ冷静さはないように感じます。


たくさんの情報から嘘を見抜くのは、なかなか難しいことです。


「どこまでが解明できていて、どこからがまだはっきり解明できていなのか」


情報量が増える世の中では、こういったことを時と場合に応じて踏まえていく必要があります。


子どもに嘘を教えないためにも。


自分自身が間違った情報の発信源にならないためにも、ですね。


 


まとめ


・ 「AだからBになった」のよう「原因と結果のつながり」があるかないかの判定は、少しでも手を抜くと誤りやすいので注意が必要


・ 子どものIQを調べたら、ジャンクフードを日頃から食べていた子どもでは平均がわずかに低く、あまり食べていなかった子どもでは平均がわずかに高かったのは事実


・ しかし、ジャンクフードが脳の発達に影響を与えるかどうかは、このような研究方法の結論だけでは確定しない


・ なぜなら、家庭環境が良ければ、食事だけでなく、勉強も親が良くサポートしている可能性が大きいから


・ きちんとした食事は大事だが、子どもに嘘を教えてはいけない


ジャンクフードだけでは栄養が足りないのは確か


・ だから、現時点では、「偏食は病気の元」と教えてあげれば十分では?


 


 


 


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参考文献:

1) Smithers LG, Golley RK, Mittinty MN, et al: Dietary patterns at 6, 15 and 24 months of age are associated with IQ at 8 years of age. Eur J Epidemiol 27(7): 525-535, 2012.

2) Northstone K , Joinson C , Emmett P , et al: Are dietary patterns in childhood associated with IQ at 8 years of age? A population-based cohort study. J Epidemiol Community Health 66(7): 624-628, 2012.