強いステロイドでも、保湿剤と混合してあれば、子どもに使っても大丈夫?
こんにちは。橋本です。
昨日いただいたコメントで、かなり「あるある的」な質問がありました。
普段はそのままコメントで答えているのですが、記事で答えたほうがより多くの方の不安解消になるのではないかと考え、記事にまとめてみました。
質問の内容は、本当に素朴な疑問です。カンタンにいうと、
素朴な疑問:
病院で出してもらったステロイドを調べると、かなり作用が強めのステロイド。
でも、保湿剤で薄めて容器に詰めてくれたステロイドなら、副作用の心配はないのか?
といった内容です。
いただいた質問に対するここでの答えは、医者でも何でもない私の意見。
あくまでも、いち患者としての意見です。
お医者さんの治療方針や、やり方を否定するものではありませんので、よろしければ参考にしてくださいませ。
実際の質問の内容
実際にいただいたコメント はこちらです。
橋本さんこんにちは。
現在3ヵ月の子がいますが、健診でアトピーの気があると診断され、体用のお薬としてプロペトにマイザーを混ぜてある塗り薬を小児科で処方されました。
マイザーがステロイド薬と聞いて不安になり、このサイトにたどりついたのですが、マイザーは子どもに使わないとあってますます不安に...。
ランクがベリーストロングでも、保湿剤と混ぜてあれば子どもに使うこともあるのでしょうか?
- shiraさん のコメントより
では、順番に疑問をひもといていきたいと思います。
ベリーストロングのステロイドは子どもには強すぎる?
まずは、「子どもにベリーストロングのステロイドを塗ってもいいのか?」という問題 です。
> ランクがベリーストロングでも、保湿剤と混ぜてあれば
> 子どもに使うこともあるのでしょうか?
- いただいたコメントより抜粋
科学的根拠に基づかない極端な治療をなくし、より適切な治療をどこでも受けられるようにすることを目的に、日本皮膚科学会が「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」 というものを作成しています。
いわゆる標準治療 というのは、このガイドラインに沿っています。
このガイドライン(2009年改訂版)によると、ベリーストロングは、
高度の腫脹 (しゅちょう:「はれ」のこと)、浮腫 (ふしゅ:「むくみ」のこと)、浸潤 (しんじゅん:「炎症細胞が皮膚組織に染み入る」こと)ないし苔癬化をともなう紅斑 、丘疹の多発 、高度の鱗屑 、痂皮の付着 、小水疱 、びらん 、多数の掻破痕 (そうはこん:「かき傷」のこと)、痒疹結節 (ようしん・けっせつ:「かゆいゴリゴリ」のこと)などを主体とする
- 日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2009年改訂版)から引用
こういった比較的症状が強い湿疹に使う とされています。
紅斑、丘疹、苔癬化、小水疱、びらん、痂皮、鱗屑、苔癬化など、湿疹の専門用語ついては、以下の記事を参考にどうぞ。
参考記事:
⇒ 湿疹の三角形…湿疹の見た目がどう変化するのかを知る
ですので、「何が何でも子どもにはベリーストロングは使えない」ということはありません。
むしろ心配なのは、症状がひどいのに、弱いランクのステロイドを塗り続けるパターン です。
湿疹がなかなか良くならないばかりか、いくら弱いといえども、長く塗り続ければ副作用が出てしまうことも考えられます。
個人差があるので「長く塗り続ければ」と曖昧にしかいえないですが、「長く」とはニュアンス的に、およそ1か月とか、2か月とか毎日塗り続けた場合の話です。
そもそも、「1か月塗り続けないと症状がおさまらない」というのは、湿疹の重症度にステロイドのランクが見合っていない、釣り合っていないということですね。
強い炎症がおこっている湿疹やかゆみに、弱いステロイドを塗ってもおさまってくれません。
炎症がきちんとおさまらないことには、「症状の悪化がさらなる悪化を呼び込む」という悪循環につながりかねないのです。
治療ガイドラインで言っているのは、つまりはこの「重症度に合わせたステロイドを処方してあげなさい」 ということに尽きます。
それこそが、お医者さんの経験と技量だ、と。
ですから、「何が何でも子どもにはベリーストロングは使えない」ということはありません。
質問をくださったshiraさんに「この薬で大丈夫だろうか?」という不安にさせてしまったのは、じつは私の不手際でした。
ベリーストロングのステロイドを説明する記事に、私が「通常、子どもには使いません」と手短に書いていたためだと思います。
コメントをもらえたおかげで、この説明が、大きな誤解、必要のない不安をあおっていることに気がつけました。
適切な治療の参考になるように、記事を早速、改善しておきたいと思います。
ステロイドと保湿剤を混ぜて出してくれる2つの理由
次は、混合の問題について です。
> ランクがベリーストロングでも、保湿剤と混ぜてあれば
> 子どもに使うこともあるのでしょうか?
- いただいたコメントより抜粋
お医者さんが、「ステロイド」と「保湿剤」を混合して処方してくれるのには、おもに2つの目的があります。
2つの目的とは、「手間をかけずに塗れるようにすること」と、「副作用が軽くなることを見込んで」。この2つです。
1) 手間をかけずに塗れるように
1つは、「塗りやすさ」を考えて。
いくら、湿疹、かゆみがつらいからといっても、毎日薬を塗るのは、人によってはものすごく負担に感じる場合もあります。
それも、ステロイドと保湿剤を塗り重ねたり、塗る範囲が広かったり、何種類もの塗り薬を使い分けたりすると余計に、ですよね。
そのため、手間をかけずに塗れるように配慮して、1つに混ぜた塗り薬を、容器に入れて渡してくれることもあるわけです。
治療にとっては、面倒くさくて途中から塗らなくなったり、塗ったり塗らなかったりするというのが、いちばん困る わけですから。
2) 副作用が軽くなることを見込んで
単純に考えると、ステロイドを保湿剤で薄めれば、それだけ副作用も軽くなるように思えます。
「薄めてある分、副作用も出にくくなるはずだから、そのまま塗るより安心だね」
なんとなく、そう感じるかもしれませんが。
じつは、ステロイドは保湿剤で薄めても、副作用が減るとは限りません。
ステロイド外用薬は薄めても…
ステロイド外用薬には、血管を収縮させる効果があります。
そのため、ステロイド外用薬の効果を調べる方法として、血管収縮の度合いで、そのステロイドの効果を試験することがあります。
下のグラフは、この血管収縮試験を利用して、ステロイド外用薬をワセリンで1,024倍まで希釈した場合の効果 を調べたものです 1) 。
この結果からわかるのは、「4~16倍程度の希釈では効果にあまり差がない」 ということです。
半分に薄めれば、効果が半分になるわけではなく、効果は同じ。
それどころか、16倍に薄めても効果は、ほぼ同じ なんですね。
64倍に薄めて、やっと効果が半分程度に弱まっています。
よく使われるステロイド軟膏のサイズが1本5gなので、16倍に薄めるというと、80gの保湿剤に混ぜることになります。
たとえば、5g、5gの半々どころか、80gの保湿剤に5gのステロイドチューブ1本混ぜても、効果がほとんど変わらないわけです。
「保湿剤80gにステロイドチューブ1本分を混ぜる」といってもイメージしにくいですが、一般によく使われる保湿剤、ヒルドイドソフト軟膏1本が25g。
つまり、
希釈実験からいえること:
ヒルドイドソフト軟膏3本分の量のワセリンにステロイド1本分混ぜても、ステロイドの強さは、ほとんど変わらないだろう
ということなんですね。
ステロイドを半分に薄めても、強さが半分にならない理由
薄めたとおりに、薄まらない理由は、薬物濃度の問題 だと考えられています。
ステロイド外用薬は、すべてが薬物ではありません。
ワセリンなどの基剤 (きざい:「ベース」のこと)に、ステロイドという薬物を溶かし込んであるのが、ステロイド外用薬です。
実際には、ステロイド…副腎皮質ホルモン(ふくじんひしつ・ほるもん)という薬物は、基剤の中に結晶として散らばっているような感じなんですね。
アンテベート軟膏の基剤中に、「どれだけ薬物が溶けているか」 を調べると、およそ「16分の1」 2) 。
16分の1以上に薄めていかないと、効果が下がっていかないというのは、アンテベートの場合、ちょうどこの薬物濃度に一致しています。
もし仮に、薄めれば薄めた分だけ効果が減るなら、そもそも、ステロイドを強さによって細かく分けて製品化する必要はない はずです。
ステロイド1種類だけあれば、どんどん保湿剤で薄めていくことで、様々なランクの軟膏ができてしまうわけですからね。
もちろん、実際にはそんなことにはなりません。
だからこそ、細かく強さが違ったステロイド外用薬が30種類以上も作られているわけです(軟膏とクリーム、ローションの違いで種類が増えているということもありますが)。
そしてさらに、これもそもそもの話なんですが。
「効果が高いのに、副作用が少ない」というステロイド外用薬を作る、決定的な技術はまだ開発されていません。
「アンテドラッグ」というステロイドが血中に入っていきにくいタイプのステロイド外用薬も使われていますが、塗った部分の皮膚への副作用がなくなるわけではありません。
強い効果があれば。強いステロイドであれば、どうしても強い副作用がつきまとうもの。
副作用が少ないステロイド外用薬は、それだけ効果も弱くなってしまうのです。
「効果だけ強い割りには、副作用がない」という都合の良いステロイドは、現在のところまだないのが本当のところです。
つまり、アンテベートの場合、たとえワセリンで64倍以上に薄めて副作用のリスクが半分程度になったとしても、いちばん大事な「皮膚の炎症をおさえる力」も半分程度に落ちてしまう わけなんですね。
これでは、副作用の心配がなくても、湿疹がうまくおさまってくれない、ということになってしまいます。
混合しても、ステロイドが強くなるか、弱くなるかは分からない
ステロイドと保湿剤の混合には、もうひとつ問題点があります。
それは、皮膚からの「浸透のしやすさ」の問題 です。
下のグラフが、混合した場合の「浸透のしやすさ」違い を調べたものです 3) 。
ステロイド軟膏単独と、
それに尿素クリームを混ぜた場合の「皮膚への浸透しやすさ」の違い
リドメックス軟膏を単独で使うよりも、パスタロンソフトという尿素クリームと混合した場合は4倍以上の浸透しやすさ。
同じ尿素クリームでも、ケラチナミン軟膏と混合した場合は、3倍以上の浸透しやすさ。
浸透しやすくなるということは、それだけ混ぜたステロイドも吸収されやすくなり、効果が強くなると考えられます。
つまり、薄めて効果が弱くなるどころか、保湿剤によっては、効果が強くなってしまうこともありうる のです。
混ぜたことによって浸透しやすくなったのは、クリームに含まれる乳化剤によるものだと思われます。
しかも困ったことに、グラフからもわかるように、同じ尿素クリームに混ぜても、ステロイドの種類を変えると、「浸透しやすさ」まで、まるで変わってしまいます。
リドメックスにパスタロンを混ぜた場合は、浸透のしやすさが4倍だったのが、ステロイドをアンテベートに変えると、2倍になってしまいます。
つまり、組み合わせによって、浸透のしやすさが全く変わってしまうわけです。
極端なことを言ってしまえば、混合することで効果が強くなるのか、弱くなるのかは、どんな保湿剤を使うか、どんなステロイドとの組み合わせでやるかで、まるで違う。
「やってみなけりゃ、調べてみなけりゃ、使ってみなけりゃわからない」という状態なんですね。
これは、よく考えてみれば当たり前のことで、商品化されているステロイドは、発売前に効果や安全性を厳しく検証しているからこそ、品質が保証されている のです。
大事なのは、「実際の経過を診てもらう」こと
ステロイドをそのまま使ったほうがいいのか、混合したほうがいいのか。
こうして見ると、答えは、1つじゃないのも少しは感じてもらえるかと思います。
予想できる効果や副作用がストレートなのが、そのままのステロイド。
混合した場合は、混合の仕方、組み合わせによって、効果が大きく変わる可能性もある反面、効果も副作用もほとんど変わらないケースもあり、どう変化するかは未知数です。
ただ、お医者さんは、初めての混合方法で作った軟膏を処方をするわけではない はずです。
これぐらいの症状には、どの混合軟膏をどれだけの期間塗れば、きれいにおさまってくるのか?
毎日の診察、経験で、ある程度わかっている はずです。
それに、混合軟膏の「塗る手間を軽減する」というメリットも、ケアを続けていく上で、なかなか捨てがたいものです。
少しばかり手間でも、最低限、品質が信頼できるステロイドを使うか。
それとも、塗りやすさを考えて、先生の経験を信頼して、「これで試してみましょう」という混合軟膏を使うか。
お医者さんとよく相談することが大事です。
さらに大事なのは、どんなステロイド外用薬を使うにしても、再診で経過をていねいに診てもらう ことです。
再診でみてもらうポイント:
・ 薬の効果で、順調に皮膚の炎症がおさまってきているか?
・ 副作用が出ていないか?
最初は、通常、1週間後の再診で、経過を診てもらいます。
参考記事:
⇒ ステロイド外用薬は最初、1~2週間でよくなるものを
副作用は怖いものではなく、早めに再診で見つけてもらえば、そこでステロイドを中止することで、皮膚萎縮線条 (ひふいしゅく・せんじょう)以外の副作用はゆっくり回復していきます。
あまりにも怖がって、塗る量、塗る期間が足りないなどしたほうが、炎症がおさまらず、かえって治療を難しくしてしまう。
こっちのほうが、より心配なんですね。
炎症が消えてすべすべの肌に戻れば、あとは湿疹がぶり返さないように、保湿剤でフォローアップしていく。
もしくは、段階的にステロイドを弱いものに切り替えたり、段階的に減らしていくのが、治療の基本です。
もちろん、薬まかせ、保湿剤まかせ、だけの治療ではなく、普段からできる範囲で悪化因子を取り除いていく ことも、お忘れなく。
関連記事:
最善のアトピー治療法とは?
湿疹が「苔癬化」していませんか?
汗をふく……フレンチタオルの作り方
参考文献:
1) 川島 眞: 合成コルチコステロイド Betamethasone butyrate propionate (TO-186) 外用剤の血管収縮能の検討. 臨医薬 6: 1671-1681, 1990.
2) 大谷 道輝, 松元 美香, 山村 喜一 ほか: 基剤中に溶解している主薬濃度および皮膚透過性を指標としたステロイド外用薬の先発および後発医薬品の同等性評価. 日皮会誌 121(11): 2257-2264, 2011.
3) 大谷 道輝, 山田 伸夫, 高山 和郎 ほか: 市販ステロイド外用剤の混合が与えるヒト血管収縮効果への影響. 薬学雑誌 122(1): 107-112, 2002.