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子どものアトピー性皮膚炎治療、スキンケアなどについての正しい知識を、わかりやすくまとめています。

湿疹の三角形…湿疹の見た目がどう変化するのかを知る


こんにちは。橋本です。


アトピーの湿疹は、一気に良くなったり、一気に悪化したりすることはないものの、じわじわと見た目が変化します。


このように湿疹が変化する様子を「湿疹の三角形」と表現することがあります。


湿疹の三角形というもので、ざっくりと「湿疹はどのように変化するものなのか?」を知っておくことも、より正しいアトピーのケアの助けになります。


湿疹の三角形:アトピー


 


湿疹の三角形とは


「湿疹の三角形」は、できた湿疹が、通常どのような経過をたどるのかを「三角形」として表現したものです。


チャート:湿疹の三角形


湿疹の見た目が徐々に変化していく様子を、「三角形」という形で見ると、全体が少しわかりやすくなりますよね。


ただし、湿疹の三角形は、短期的な湿疹の変化。


それに対して、アトピーは湿疹が長く繰り返し、症状が慢性化するのが特徴です。


そのため、この短期的変化の三角形に加えて、アトピーの湿疹では慢性湿疹への変化も組み込まれてきます。


こうしてみると、アトピーの経過は一定ではなく、様々なパターンをとることが分かります。


 


湿疹のバリエーション


少し細かく見ていきます。


湿疹の三角形、それから慢性化した湿疹にあらわれる湿疹には、次のようなバリエーションがあります。


 


短期的に変化した湿疹(湿疹の三角形)


紅斑(こうはん): ⇒ 赤み

皮膚表面は盛り上がらず、色だけが赤く変化した湿疹です。

断面図:紅斑症例:紅斑


丘疹(きゅうしん): ⇒ ブツブツ

直径1cm以下の、小さくドーム状に盛り上がった湿疹

断面図:丘疹症例:丘疹


小水疱(しょうすいほう): ⇒ 小さな水ぶくれ

湿疹の中に水分がたまり、水ぶくれになったもの

断面図:小水疱症例:小水疱


膿疱(のうほう): ⇒ うみをもったブツブツ

湿疹の中に黄色い膿(うみ)がたまったもの

断面図:膿疱症例:膿疱


びらん : ⇒ ジクジク

表皮が赤くただれ、体液がしみ出しジクジクした状態

断面図:びらん症例:びらん


痂皮(かひ): ⇒ かさぶた

皮膚表面に膿や体液などがくっついて固まった、かさぶたの状態

断面図:痂皮症例:痂皮


落屑(らくせつ): ⇒ ポロポロ

ダメージを受けた皮膚表面の角質が白っぽく硬くなり、はがれ落ちる状態

断面図:落屑症例:落屑


 


長期的に変化した湿疹(慢性化した結果)


苔癬化(たいせんか): ⇒ 硬く厚く荒れた皮膚

皮膚が象の肌のように厚くなり、硬くてザラザラした湿疹

断面図:苔癬化症例:苔癬化


色素沈着 : ⇒ 黒い跡

炎症が長く繰り返した跡が、皮膚表面に黒く残った状態

断面図:色素沈着症例:色素沈着


ここからみると、汗疹(かんしん:「あせも」のこと)や蕁麻疹(じんましん)であらわれるようなプクっとした発疹、いわゆる膨疹(ぼうしん)は、湿疹とはまた別物なんですね。


汗疹や膨疹は、湿疹の三角形にあらわれるような様々な変化を見せません。


 


「アトピーは変化するものだから…」のワナ


本当にアトピーの見た目、経過は、百人いれば百通りある、という感じですね。


でも、だからといって、「少し変わった湿疹が出てきたぞ」というのを、放っておいていいわけではありません。


というのも、アトピーになっていると、合併することのある病気が色々とあるからなんですね。


「アトピーは変化するものだから…」と思い込み過ぎてしまうと、そうした併発した病気を見過ごすことにもなりかねません。


たとえば、


単純ヘルペスカポジ水痘様発疹症(かぽじ・すいとうよう・ほっしんしょう)

伝染性軟属腫(でんせんせい・なんぞくしゅ:「水いぼ」のこと)

伝染性膿痂疹(でんせんせい・のうかしん:「とびひ」のこと)

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(ぶどうきゅうきんせい・ねっしょうようひふしょうこうぐん:通称、SSSS)


など、これらはアトピーがあると、おこしやすい皮膚感染症ですが、「単にアトピーがひどくなっただけかな?」と勘違いしてしまうこともあります。


勘違いによって見過ごしてしまうと、湿疹がどんどん広がってひどくなってしまい、対応が遅れれば、それだけ治療にも時間がかかってしまいます。


アトピー以外の湿疹があらわれた場合は、アトピーの治療だけではなく、それに見合った治療をする必要があります。


アトピーでこういった皮膚感染症がかかりやすくなるのは、皮膚をかくことで原因菌を広げてしまいやすいこと。


それから、湿疹によるダメージを皮膚が受け続けていることによって、皮膚のバリア機能が低下してしまっていること。


この2つの理由が挙げられます。


また、皮膚のバリア機能が低下していると、接触皮膚炎(かぶれ)をおこしやすくなることも知られています。


もし、かぶれがおきているなら、どんなにステロイドを使っても、接触皮膚炎の原因となっているものが肌につかないように対策を立てないと、湿疹は治りません。


接触皮膚炎をアトピーの悪化と思い込むことは、治療を難しくしてしまうわけです。


 


「おかしいな」と思ったら、プロに診てもらう


「アトピーでは、皮膚感染症、接触皮膚炎などが合併することもある」


そのことも頭の片隅に入れておいて、「なんかおかしな湿疹が出てきたぞ」「急に悪化してきた」という場合は、専門のお医者さんに診てもらうことが大切です。


いくらアトピーは、「湿疹の三角形」のようにその時々変化するものだといっても、おかしなときは迷わず診てもらう必要もあるんですね。


そして、そもそもこの「湿疹の三角形」の経過を何度も繰り返さないように適切な治療とていねいなケアをし、皮膚のバリア機能の低下を最低限におさえる。


そのことが、アトピー、ひいては皮膚感染症、接触皮膚炎、さらにはアレルギーが増えないようにするには、とても重要になってきます。


 


 


 


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しつこいカビ落としには、どのカビ取り剤がいい?


こんにちは。橋本です。


強力なカビ取り剤には、次亜塩素酸ナトリウム(じあえんそさん・なとりうむ)という成分が入っているものが多いです。


「次亜塩素酸ナトリウム」というと聞き慣れないですが、いわゆる「塩素系」といわれるものは、「次亜塩素酸ナトリウムが入ってますよー」ということなんですね。


カビ取りスプレーといえば、有名なのは「カビキラー」ですが。


そのカビキラーも塩素系のひとつです。


でも、塩素系以外にもいろいろ種類のあるカビ取り剤。


しつこいカビを落とすには、塩素系のカビ取り剤が本当に一番いいんでしょうか?


カビ取りスプレー


 


次亜塩素酸ナトリウムとは


次亜塩素酸ナトリウムというと難しい話になりそうですよね。


ところがそうでもなく、実際にはごく身近なものです。


次亜塩素酸ナトリウムが使われているのは、カビ取り剤以外にもあり、家庭用品で代表的なのは、「塩素系漂白剤」といわれるものです。


塩素系漂白剤は、カンタンにいうと、次亜塩素酸ナトリウムを水に薄く溶かしたもの。


つまり、「次亜塩素酸ナトリウムの水溶液」なんですね。


塩素系漂白剤のあの独特のツーンとした臭いは、次亜塩素酸ナトリウムの臭い。


次亜塩素酸ナトリウムには、漂白作用殺菌・消毒作用などがあります。


そのため、水道水やプールの消毒、哺乳瓶の殺菌剤、家庭用漂白剤、カビ取り剤などに広く使われているわけです。


そういう点で現在の生活を改めて見ると。


次亜塩素酸ナトリウムの、衛生環境の維持への貢献の大きさが、「じつは想像以上に大きいものなんだ」というのもなんとなくわかるかと思います。


たとえば、パンデミックとよばれる、爆発的な感染力を持つ「コレラ」のような病気が、今ではほとんどの国でみられなくなったのは、塩素を含んだ水道水のおかげともいえるんですね。


当たり前過ぎて、日ごろ意識できないことですが、多くの子どもたちの健康は、日本の上質な衛生環境に支えられているのは間違いありません。


 


「しつこいカビには塩素系」である理由


カビの本体は、菌糸(きんし)といわれる糸状の構造が枝分かれしてつながったものなんですが。


次亜塩素酸ナトリウムをカビに反応させると、このカビの菌糸を化学的に変化させます。


カビと次亜塩素酸ナトリウムの反応が進めば進むほど、菌糸の分解が進み、カビの細胞がどんどんもろくなるわけです。


そうなると、もろくなったカビを水で流しやすくなる。


この作用が強いのが、「しつこいカビには塩素系」といわれるゆえんなんですね。


カビ取り剤:処理前後


さらに、次亜塩素酸ナトリウムは、漂白する作用も強く、カビの出した黒い色素の跡まで白く脱色させます。


ですから、塩素系のカビ取り剤は、カビに吹き付けたらこすらず、30分ほど放置してカビの分解を進めてあげるのが、賢い方法です。


カビを落とす前

カビ落とし:前


塩素系で30分つけ置き後、こすって洗い流し

カビ落とし:後


 


塩素系、酸素系、有機酸系…


カビ取り剤には、この「塩素系」のほかに、乳酸などを使った「有機酸系」といわれるもの。


それと、洗濯槽のカビクリーナーとして、過炭酸ナトリウムなどを使った「酸素系」といわれるものが市販されています。


塩素系 ………主成分: 塩素系化合物

(例:次亜塩素酸系、塩素化イソシアヌール酸など)

塩素系漂白剤:製品


酸素系 ………主成分: 過酸化物

(例: 過酸化水素、過炭酸ナトリウムなど)

酸素系漂白剤:製品


有機酸系 ……主成分: 有機酸類

(例: 酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸など)

有機酸系漂白剤:製品



有機酸系のカビ取り剤、それから酸素系の漂白剤、洗濯槽クリーナーなど…。


こういったものは、塩素系よりはるかに、カビを分解させる作用がマイルド(弱くおだやか)です。


その分、有機酸系や酸素系のものは、危険性が少なく取り扱いやすいともいえます。


しかし、頑固なカビを落とそうと思えば、塩素系以外のカビ取り剤や漂白剤では少し無理があります。


家庭用のカビ取り剤には界面活性剤(かいめん・かっせいざい)も含まれていますが、これはあくまでも補助的なもの。


カビ取り剤をカビに浸透しやすくしたり、泡状になってカビに密着しやすくしたり、カビが再びつきにくくしたりという効果を狙ったもので、カビを落とせるものではありません。


そういった理由で、市販品のカビ取り剤は、塩素系の製品が圧倒的に多いんですね。


カビが落ちないカビ取り剤では、意味がないわけですから。


 


ケースバイケースで安全に


今のところ、ひどいカビを落とそうと思えば、塩素系のカビ取り剤を使うのが、やはり一番効率的です。


ただ、その塩素系の実力を発揮させるには、このようにカビが落ちる仕組みを知っておく必要があり、その理屈に合った使い方をすること。


たとえば、「こすらずにつけ置きする」とか重要ですね。


そして、塩素系はカビにも効果がある分、臭いや刺激もそれだけ強いもの。


刺激を受けないように、ゴム手袋、マスク、保護メガネなどを身につけ、安全に使う方法を守る。


肌に直接つかないように気をつけることも大事です。


また、「カビがひどくなる前にこまめに手入れをしたい」


もしくは、「赤ちゃんの安全を最優先に」という場合には、塩素系ではなく、より危険性の少ない酸素系、有機酸系を使うのもありですね。


では、よりアレルゲンの少ない、カビの少ない環境を。


ぜひ安全第一で!


 


 


 


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滲出液(しんしゅつえき)…アトピーの湿疹から出る黄色っぽい汁は何なの?


こんにちは。橋本です。


アトピーになると、湿疹や引っかいて傷になったところから、黄色っぽい汁がにじみ出てくることがあります。


このしみ出してくる汁のことを滲出液(しんしゅつえき)とよんでいます。


湿疹から滲出液が出てくることで、「肌は乾燥してるのに、ジュクジュクした状態」になってしまうわけなんですね。


これが原因で、湿疹がテカテカ、ベトベトした状態になることもあります。


アトピー:滲出液


 


滲出液の正体とは?


アトピーの湿疹や、乾燥で肌が割れたところ、かきむしった傷などから出てくるこの滲出液。


この黄色っぽい汁は、リンパ液などの血液成分が、しみ出てきたものです。


症例写真:滲出液
症例写真滲出液がにじみ出たアトピー


アトピーなどで皮膚に炎症がおこると、真皮(しんぴ:皮膚の深いところ)の毛細血管拡張します。


そうすると、血管の壁から血液成分が外にもれやすい状態になってしまいます。


通常は血管外には出ないフィブリノーゲンやグロブリン、アルブミンなどの血漿(けっしょう)やタンパク質のような血液成分が血管の壁からもれ出してしまうわけです。


滲出液:血液成分


もれ出した血液成分の多少の違いによって、湿疹のジュクジュクした汁が透明に近かったり、黄色っぽかったりするんですね。


このような血液成分を、一般的にリンパ液とよぶこともあります。


ただの湿疹なら肌の表面に、こうしたリンパ液がしみ出すことはありません。


しかし、皮膚の傷つき方やダメージによっては、時には湿疹がジュクジュクになるほどリンパ液がしみ出してきてしまうわけです。


「しみ出す」というのを漢字では「滲み出す」とか「浸み出す」と書くので、このようなしみ出したリンパ液を、


滲出液(しんしゅつえき)

・ または、浸出液(しんしゅつえき)


という感じでよんでいます。


 


「リンパ液が体を守る」というけれど…


傷のようになってしまった湿疹は、とびひなどの原因にもなるありふれた細菌…たとえば、黄色ブドウ球菌(おうしょく・ぶどうきゅうきん)などの温床になることもあります。


リンパ液にはこうした細菌など、外敵に抵抗する作用があるといわれています。


つまり、滲出液が出ることで、わずかながらでも細菌への感染を防いでくれているわけです。


そのリンパ液が傷をおおってくれるなら、傷が化膿(かのう)しにくくなるわけなので、「体の自然な仕組みも、良くできているよなー」と思いますよね。


でもだからといって、リンパ液が湿疹を治してくれるわけではありません。


リンパ液には、多少細菌に対抗する力があったとしても、皮膚の炎症をおさえる力はないのです。


 


滲出液が邪魔をする


滲出液をそのままにしてもアトピーが治っていくわけではありません。


しかも、滲出液が服についたりすると、ひどく汚れガビガビになり、血液成分なので洗濯してもきれいに落ちてくれません。


これってやっかいですよね。


滲出液が出るような症状を長く続けることは、子どものQOLを、いちじるしく低下させ、日常生活にストレスを与えてしまいます。


さらにやっかいなのは、この汁のおかげで、皮膚の炎症をおさえるための薬、ステロイド外用薬も塗りにくくなってしまうこと。


患部がジュクジュクになっていては、せっかく薬を塗っても流れてしまい、うまく薬が効いてくれない可能性もあるんですね。


結局、この浸出液は、普段の生活をする上でも、湿疹を治療する上でも、邪魔になってしまうのです。


 


滲出液が出たらどうすればいいの?


やっかいな浸出液を処理するには、通常、亜鉛華軟膏(あえんか・なんこう)を使います。


亜鉛華軟膏は、白い練り物のような軟膏で、酸化亜鉛(さんか・あえん)が含まれています。


酸化亜鉛には、滲出液を吸収し、乾燥させる作用があるので、亜鉛華軟膏を患部に塗ることで、いやなジュクジュクをさらっとさせてくれるわけです。


ただ、亜鉛華軟膏にも炎症をおさえる作用があるとはいわれるものの、その力はごく弱いもの。


湿疹を治すほどではありません。


そのため、滲出液が出ているようなアトピーは、次のような手順で湿疹を手当てします。


最近になって患部をわざと乾燥させないようにする湿潤療法(しつじゅん・りょうほう)というのが注目されていますが、それとは違い、以下の方法は、あくまでも今現在の一般的な方法です。


1) リント布に亜鉛華軟膏をヘラで塗り広げる

    ↓

2) 湿疹の重症度に合った強さのステロイドを適量、患部に塗る

    ↓

3) その上から亜鉛華軟膏を塗ったリント布を貼り付ける

    ↓

4) さらに上から包帯を巻く


これで炎症がおさまり、通常、1~2週間ほどで、すべすべの肌に戻っていきます。


もちろん、肌がきれいになった後も、ていねいなケアをしていかないとすぐに症状がぶり返してしまうことも多いので、その後も保湿剤でフォローアップしていきます。


亜鉛華軟膏には、皮膚を乾燥させる作用があるので、滲出液がおさまった時点で使用を中止するか、ほかの保湿剤に切り替えるのが原則です。


また、もう1つ注意してほしいのが、リント布などのように患部を密閉する治療では、ステロイドの吸収が良くなること。


吸収がいいと薬の効きがよくなるのはいいのですが、注意しないとそれだけ皮膚萎縮などの副作用も出やすくなります。


「皮膚萎縮がおこっているかどうか」は、素人目にはなかなかわかりません。


だからこそ、患部を密閉してステロイドを使っているような時は、特に注意して、ていねいな再診を受けることが大事になってきます。


 


 


 


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ステロイドざ瘡(ざそう)…ステロイド外用薬による副作用


こんにちは。橋本です。


ステロイド外用薬を使うと、まれな副作用としてステロイドざ瘡(ざそう)があらわれることがあります。


とはいっても、ステロイド外用薬を使えば、必ずステロイドざ瘡が出てしまうというわけではありません。


ステロイドざ瘡は、ホルモンバランスが関係する副作用なので、通常、子どもにはおこりにくい副作用です。


ステロイドざ瘡


 


ざ瘡とは?


まずは、ステロイドざ瘡以前に、そもそも「ざ瘡」というのが、あまり聞き慣れない言葉ですよね。


「ざ瘡」は、病院で使われる専門用語。


尋常性ざ瘡(じんじょうせい・ざそう)といえば、にきびのことを指します(尋常⇒「通常の」という意味)。


逆に言えば、普段「ニキビ」と呼んでいるものを、病院では「尋常性ざ瘡」と呼んでいるわけです。


ざ瘡:にきび


ざ瘡の「ざ」は、常用漢字ではないため、ひらがなで表記することもよくあります(漢字で表記すると「?」、へんが「にすい(冫)」で、つくりが「座」の漢字)。


 


ステロイドざ瘡:2つのパターン


ステロイドざ瘡は、ステロイド外用薬が原因でできてしまう「ざ瘡」のことです。


症例写真:ステロイドざ瘡
症例写真ステロイドざ瘡


ひとくくりに「ステロイドざ瘡」といっても、でき方は大きく2つに分かれます。


1つは、


すでにできている尋常性ざ瘡(にきび)がステロイドを塗ることによって悪化する場合


それと2つめは、


長期ステロイド外用によって顔面、首、胸の上部、背中の上部といったところに、ざ瘡ができる場合


この2パターンですね。


 


ステロイドで「ざ瘡」ができる理由


ステロイドざ瘡は、ステロイドによるホルモンバランスの変化が影響しておこると考えられています。


おおよそのメカニズムは次のような感じです。


ステロイドによるホルモンバランスの変化

    ↓

毛穴にある皮脂腺から、皮脂の分泌が盛んになる

    ↓

毛穴の出口が硬くなる(ステロイドとの関連なし)

    ↓

毛穴の中で皮脂をエサにアクネ桿菌(あくね・かんきん)が増殖する

    ↓

皮膚に炎症がおこる(ざ瘡ができる)


ステロイドざ瘡も、尋常性ざ瘡(通常のにきび)もできる仕組みは似ています。


違うのは、ステロイドざ瘡は「ステロイドを塗ったことによってできた、ひどくなった」ということだけなんですね。


にきび同様、赤くなったざ瘡は、炎症をおこしているケース。


黄色く膿(うみ)がたまったのは、アクネ桿菌がかなり増殖しているケースというわけです。


では、ステロイドざ瘡は、「強いステロイドだとできやすくなるのか?」という話なんですが。


 


「皮膚が薄くなる」という副作用


少し話がわき道にそれます。


ステロイド外用薬の副作用は、ステロイドざ瘡だけではありません。


「ステロイドざ瘡」と関連はないのですが、ステロイドには、ほかに「皮膚が薄くなる」という副作用もあります。


代表的なのが皮膚萎縮です。


30種類以上あるステロイド外用薬のうち、より強い効き目のステロイド外用薬であれば、あるほど、皮膚萎縮皮膚萎縮線条毛細血管拡張といった副作用は出やすくなります。


それも大量に使い続けたり、ちょこちょこ長期間に渡って塗っていると余計に、ですね。


もちろん、強い効き目のステロイドでも、きちんと用法・用量を守って使えば副作用が出ることはありません。


また、皮膚萎縮などは、徐々に進行するものなので、再診で「副作用が出ていないか」をチェックしてもらえば、早めに副作用の進行を止めることができます。


皮膚萎縮などの副作用は、通常、ステロイドを塗るのをストップすれば、ゆっくり回復していきます。


ただし、皮膚萎縮線条だけは跡が残り続けてしまうことも多いので、注意が必要です。


そういう意味でも、症状、経過に合わせてお医者さんとよく相談することが大切です。


 


強いステロイドを使えば、「ざ瘡」はできやすくなるのか?


それに対して。


ステロイドざ瘡は、皮膚萎縮などとは違って、ステロイド外用薬を使えば使うほど、できやすくなってしまうということはありません。


ステロイドざ瘡は、ステロイドによるホルモンバランスの変化が原因だと思われます。


しかし、ステロイド外用薬を使えば必ず、ざ瘡ができやすいホルモンバランスになるとは限りません。


強いステロイドを使ったり、長期に使ったりしても、ざ瘡が出ないケースがほとんど。


子どもでは、まず出ることがありません。


つまり、体質や個人差がとても大きい部分であるわけです。


皮膚萎縮などの場合は、そうはいきません。


強いステロイドを長期に塗り続けると、どうしても皮膚萎縮系の副作用は出やすくなってしまいます。


 


じゃあ、ステロイドざ瘡はどうやって治すの?


ステロイド外用薬の使用で、ざ瘡がひどくなるようであれば、基本的には塗るのを一時ストップします。


ステロイドは、塗った部分の菌に対する抵抗力を落としてしまうこともあります。


そうなると、ステロイドが、ざ瘡の原因菌であるアクネ桿菌(あくね・かんきん)の活動を元気にさせてしまう可能性もあるわけです。


そういう意味でも、ステロイドを塗るのを中止するのが、まず第一。


ただし、アトピーの症状がきちんとおさまっていないと、塗るのをやめたとたんに、一気に症状が悪化することも考えられます。


ステロイドざ瘡がひどくなった場合は、どういうふうにステロイドをストップするのか


これもやはり、お医者さんとよく相談して、ひとりひとりの症状に合わせた方法を決める必要があります。


また、ステロイドの中止だけでは治すのが難しいと思われる場合。


そういう場合は、いわゆる抗生物質(こうせいぶっしつ)といわれるような抗菌外用薬を塗ったり、抗菌薬を飲んだりして治療する場合もあります。


治療に抗菌薬を使うという点では、通常のにきびの治療と共通しています。


しかし中には、特に胸や背中に広がるにきび状の場合、抗菌薬がまったく効かず、治療がうまくいかないケースもあります。


その時は、ステロイドざ瘡ではなく、癜風菌(でんぷうきん)という真菌(しんきん:「カビ」のこと)によるマラセチア毛包炎(もうほうえん)という症状の可能性があります。


マラセチア毛包炎であれば、ざ瘡の治療とは、使う薬がまったく違うので注意が必要です。


参考ページ:

ニキビと間違えやすい「マラセチア毛包炎」とは?


このように、ステロイドざ瘡への対応方法は、はっきりとしています。


そのため、もともとニキビがひどかったケースは別として、ステロイドざ瘡という副作用があるからといって、あまり過剰にステロイドを怖がる必要はないんですね。


 


 


 


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アトピーは、シャワーの回数を増やしたほうがいいのか?


こんにちは。橋本です。


「アトピーが、汗でひどく悪化する時もあるような……」


経験からそう感じる人も多いかと思います。


だったら、汗をかいたらシャワーを浴びるようにしたほうがいいような気がします。


でもそこで心配なのが、シャワーを使い過ぎると肌の保湿成分まで、過剰に洗い流されて、「余計に肌が乾燥してしまわないか?」ということ。


ものの見方ひとつで、「いいか悪いか」が変わってしまうんですよね。


汗や汚れへの対策として、アトピーは、夏に昼間のシャワーの回数を増やしたほうがいいのか?


もっともらしい理屈をつければ、結論はまるで違ったものになってしまいます。


アトピー:シャワー


そうではなくて、実際に効果があるのか、ないのか。


本当にアトピーにシャワーが効果があるのかを知るには、実際にシャワーを「使った場合」と「使わなかった場合」で比較試験をするのがいちばんです。


「なぜ比較試験しなければ効果が分からないのか?」はこちら:

「体験談」という落とし穴

ランダム化比較試験…治療法に効果があるか知るには?


アトピーに対するシャワーの効果を調べた比較試験は少ないのですが、それぞれ別の報告者による、次の2つの試験があります。


 


比較試験1: 5月、6月、平日の昼休みにシャワー


1つめの試験は、アトピーの小学生を対象に、5月から8週間、平日の昼休みにシャワーを実施した子どもと、実施しなかった子どもを比較した試験です 1)


試験内容:


対象者


・ 6~11歳(平均7.8歳)


・ アトピー軽症から重症


・ 16例(2名が途中から脱落)


・ 脱落理由は、治療中の外用薬を変更したため


 


2つの群にわけて比較


・ シャワー使用群…9名


・ シャワー非使用群(シャワー浴が8週間のうち2回以下)…5名


 


シャワー浴の方法


・ 5月からの8週間、平日の昼休みに3~5分の微温水による全身のシャワー浴


 


期間


・ 12週間後まで調査


 


評価方法:


・ 全身を25のブロックにわけ、それぞれの湿疹の重症度を点数づけ


・ 保護者や教諭が皮膚症状を評価


 


試験結果:


・ シャワー使用群は、すべてのケースで、シャワー浴実施後、2週間で重症度の点数が低くなった(改善した)


・ その後もシャワー浴実行中は、良好だった


・ シャワー非使用群は、重症度の点数が変わらなかった


・ シャワー使用群で、結果的に家族の満足度が高かった


 


比較試験2: 9月、運動会の練習時期


2つめの試験は、小学校1年生から中学校2年生のアトピーの子ども58名を集め、9月始めの時期におこなわれた比較試験です 2)


9月始めという時期は、学校ではちょうど運動会の練習なども重なり、汗をかきやすい時期だったようです。


 


試験内容:


対象者


・ 7~14歳(小学校1年生から中学校2年生)


・ 58例(途中脱落者なし)


・ アトピー中等症以上


 


4つの群にわけて比較


・ A群(シャワー浴非実施)…15例


・ B群(4週間シャワー浴実施)…22例


・ C1群(前半2週間シャワー浴実施)…11例


・ C2群(後半2週間シャワー浴実施)…10例


 


シャワー浴の方法


・ 学校でシャワー浴を実施


・ 石鹸を使わず、温水シャワー浴のみ


 


期間


・ 4週間調査


 


評価方法:


・ SCORAD(スコラッド)といわれる、湿疹の範囲、強さ、自覚症状などを数値化し点数にして、重症度を測る方法で評価


・ 9月始め、2週間後、4週間後に皮膚科医が症状をSCORADで評価


 


試験結果:


・ どの群も4週間後には、SCORADが低下した(改善した)


・ 前半2週間での変化をみると、シャワー浴であきらかな改善がみられた


・ あきらかな改善は、B群とC1群のみ


・ 重症度別でみると、重症度以上の例で、シャワー浴の効果があきらかに出た


 


2つのシャワー試験からみえてくること


1つめの試験は、対象になった人数が16例で、試験の規模があまり大きくありません。


しかも、「シャワー使用群は、家族がシャワー浴によるスキンケアの希望があった子どもから選んだ」と報告されています。


試験結果が正しく出るようにするには、対象者の条件、重症度、個人差などで、どちらの群に振り分けるか決めない。


かたよりなく振り分ける、いわゆる「ランダム化」という振り分け方をしますが。


ここでは、そのランダム化がされていないわけですね。


人数も少なく、ランダム化されていない。


そして、経過していく症状の評価を専門の皮膚科医がおこなっていない(保護者や教諭が皮膚症状を評価)。


その点で、この試験の結果が、確信に近い答えかというと、残念ながらそうは言えません。


とはいうものの、日中のシャワーが、アトピーのケアに有効である可能性が、経験によるものだけでなく、比較試験によってみえてくるというのは重要です。


2つめの試験は、参加人数がさらに多くなり、ランダム化もされているので、より結果の信頼度は高くなっています。


そして、結論は「アトピーにシャワーは有効」という点で、2つの試験は一致しています。


2つめの試験で、さらにみえてくるのは、汗対策としてのシャワーの効果です。


より汗をかく、9月前半2週間での改善が、あきらかだったことから、そういった可能性がみえてきますよね。


「誰にでも合うベストな、ただひとつのスキンケア」というのはありません。


それでも、こういった比較試験が、これからさらに数多くおこなわれるようになれば、より的確なアトピーのケアがわかってくるのかな、と思います。


 


通常の治療もきちんとおこなっている


もうひとつ重要なのが、「シャワーがアトピーを治療するものではない」ということ。


あくまでも、


適切なアトピーの治療をした上でなら、シャワーを積極的に使っていくことで、症状が良くなっていくケースも多いのではないか


ということです。


2つの比較試験ともに、皮膚科医の目の行き届く試験にかかわっている子どもたちということで、通常の適切な治療も受けているだろうと思われます。


つまり、通常の治療をきちんと受けているからこそ、シャワー浴による効果がよりはっきり出てきたのではないか、ということですね。


そういう意味では、今ある湿疹をきちんとおさえてあげることが、やはり優先です。


その上でなら、シャワーを賢く使ったりすることも、ぜひやってもらいたいわけです。


もちろん、必要なら保湿剤によるケアも忘れずに、ですね。


 


 


 


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参考文献:

1) 望月 博之, 滝沢 琢己, 荒川 浩一 ほか: アトピー性皮膚炎に対する小学校でのシャワー浴の有用性. 日本小児科学会雑誌 107(10): 1342-1346, 2003.

2) 亀好 良一, 望月 満, 高路 修 ほか: アトピー性皮膚炎に対する学校でのシャワー浴の効果. アレルギー 57(2): 130-137, 2008.