男はつらいよ 私の寅さん  | 俺の命はウルトラ・アイ

男はつらいよ 私の寅さん 

『男はつらいよ 私の寅さん』

映画  トーキー 107分 カラー

昭和四十八年(1973年)十二月二十六日 公開

製作国 日本

製作言語 日本語

製作 松竹大船

配給 松竹

 

 

渥美清(車寅次郎)

 

 

倍賞千恵子(諏訪さくら)

 

 

三崎千恵子(車つね)

前田吟(諏訪博)

太宰久雄(タコ社長こと梅太郎)

佐藤蛾次郎(源公)

 

吉田義夫(買占め商人)

河原崎國太郎(画伯)

葦原邦子(画伯夫人)

 

加島潤(買占め商人の取り巻き)

土記養児(買占め商人の取り巻き)

高木信夫(買占め商人の取り巻き)

中村はやと(諏訪満男)

 

長谷川敏英(工員1)

羽生昭彦(工員2)

村上猛(工員3)

木村賢治(工員4)

大原みどり(工員5)

後藤泰子(八百屋のおかみ)

門久小百合(バスガイド)

川井みどり(夢の柴又芸者)

秩父晴子(ご近所)

谷よしの(柴又村民)

 

 

松村達雄(車竜造)

笠智衆(御前様)

 

津川雅彦(一条)

前田武彦(柳文彦)

 

 

岸恵子(柳りつ子)

 

 

製作 島津清

企画 高島幸夫

    小林俊一

脚本 山田洋次

    朝間義隆

 

撮影 高羽哲夫

音楽 山本直純

 

美術 佐藤公信

録音 中村寛

調音 松本隆司

照明 青木好文

編集 石井巌

スチール  堺謙一

製作宣伝 丸山富之

デザイン 河島孝之

 

主題歌

『男はつらいよ』

作詞 星野哲郎

作曲 山本直純

唄   渥美清

 

 

原作・監督 山田洋次

 

河原崎國太郎=五代目河原崎國太郎

 

加藤雅彦=沢村マサヒコ→

津川雅彦=マキノ雅彦

 

岸恵子=岸惠子

 

山田洋次=山田よしお

令和二年(2020年)七月十一日 

大阪ステーションシティシネマシアター5

にて鑑賞

☆感想では物語の結末迄言及します。

 未見の方はご注意下さい☆

 夢。

 明治か大正の頃と思われる時代。柴又村

では悪徳商人にさくらたちが苦しめられてい

た。

 国賊・謀反人と追われ睨まれている車寅

次郎がさくらたちを救出する。

 

 覚醒した寅次郎。九州の連絡船に居た。

港で乗る予定だった船が出航していた。

 

 故郷柴又のとらやに帰ってきた寅次郎は、

竜造・つね夫婦・博・さくら・満男が旅行準備

をしている光景を見る。

 御前様が表れて車・諏訪一家に餞別をく

れた。寅次郎は家族旅行に行けず、とらや

で留守番しなければならないことに不満を

覚える。

 

 さくらは、「ちっちゃい時両親を亡くしても

ちっとも哀しい思いなんかしなくてもすんだ

のはこのおいちゃん・おばちゃんのお陰な

のよね。それはお兄ちゃんだって同じ気持

ちでしょ?」と問う。

 両親の代わりに支えてくれた叔父夫婦に

孝行したいというさくらの気持ちを思うと寅

も同意し、不本意ながら留守番を承諾する。

 

 おいちゃん・おばちゃん・博・さくら・博は

大分空港を経て高崎山・阿蘇・熊本・雲仙

を歩み、九州の絶景に感動する。

 

 竜造はとらやに留守を頼んだ寅次郎を

気にして電話すると、寅さんは社長・源公

とおいちゃんが隠しもっていたジョニ赤を飲

み干してしまった。

 

 おいちゃん・おばちゃん・博・さくら・満男

は九州旅行を喜び、翌日の夜旅館で寛ぎ

疲れを癒す。

 

 夜になると寅次郎は電話が無い事から、

叔父夫婦・妹一家が事故に遭ったのでは

ないかと強く心配する。

 

 社長が大丈夫だよと宥めると、寅さんは

激怒する。

 

 そこへ電話が鳴った。竜造からだった。

 

 寅次郎は電話が遅いと感じていたので、上

機嫌で話すおいちゃんに不満を感じた。

 おいちゃんは、2800円も取られちまうからも

う切るぞと話を終えようとする。その態度を寅

次郎はケチと呼んでからかう。おいちゃんは

怒る。寅次郎は笑って挑発する。

 

   寅次郎「おめえのはとらやのケチ団子って

        有名じゃねえか?」

 

   竜造「畜生!悔しいな」

 

 さくらと博とつねは竜造を止める。だが竜造

の怒りは収まらず、受話器に叱声が響く。

 

   竜造「出ていけ!」

 

   寅次郎「出ていけ!それを言っちゃ

       おしめえよ!」

 

 怒った寅次郎は電話を切り、「さくら!止める

な!」と叫んで戸口に向かう。

 

 振り返れば社長しか居ない。

 

 「見ちゃいられねえよ」と社長が呟く。

 

 おいちゃん・おばちゃん・博・さくら・満男が帰

ってくる。

 

 寅さんと社長は美味しい昼ご飯を用意する。

 

 九州から帰ってきたおいちゃん・おばちゃん・

博・さくら・満男は、寅次郎がご飯を作り、風呂

も沸かしてくれていたことに感動する。

 

 家族思いで優しい寅次郎の評判は柴又でも

良い。

 

 恋もしない兄の近況にさくらは寂しさを感じて

いた。

 

 河原で寝ていた中年男はさくらを見て驚き、

執拗にあとをつけてきた。ストーカーと思った

さくらは怯える。寅次郎が怒って男を問い詰め

ると小学校からの友人で放送作家の柳文彦

だった。

 「デベソか!」と寅次郎は柳を昔の綽名で呼

び、二人は再会を喜ぶ。文彦は自宅に寅次郎

を招く。

 

 文彦の妹りつ子が描いてる絵があった。寅

次郎は筆で悪戯し絵を汚してしまう。

 

 りつ子は無断でキャンバスを荒され悪戯さ

れた事に魂が汚された強く抗議し、寅次郎に

退出を求める。叱られ「熊さん」「カバ」と呼ば

れた寅次郎は「キリギリス野郎」と怒る。「悪口

のつもり」と問うりつ子は「あたし、昔からキリ

ギリスで通ってんのよ」と述べ、「知らないんで

しょ、カバさん?」と聞く。

 激昂した寅は、「てめえ男だったら三つ四つ

殴ってやる」と宣言する。文彦が謝り、りつ子

はどうして謝るのよと兄の姿勢を糾弾する。

「帰る。止めるな」と語る寅さんに、「止めやし

ないわよ」とりつ子は明言し、「嫌だ!」と語っ

て寅次郎は柳家を出る。

 

 とらやに帰ってきた寅次郎はりつ子の叱責

に不満を爆発させ、「女だてらに絵なんか描く

奴にろくな女はいねえ」と怒り、来やがったら

塩かけてやれと塩を投げる仕草をした瞬間り

つ子が現れた。

 

 兄文彦から寅次郎を許してやってくれと頼

またりつ子は笑顔で「熊さん」こと寅次郎に厳

しすぎる叱声を語ったことを謝る。

 寅次郎は美しいりつ子の笑顔に感動し恋す

る。意見も絵を描く人に悪い人はいねえに転

換する。

 

 画商の一条がとらやに煙草を吹かして現れ、

りつ子を執拗に口説いた。寅次郎はりつ子への

失恋を感じさくらに旅立つことを語る。だが、一条

が去った後、彼についてりつ子が大嫌いと評し

た言葉を聞き、寅は旅を撤回する。

 

 画家の生活は厳しく、気に入った作品は売りた

くないので益々家計も苦しくなり、パンに御砂糖

を塗る食生活で、兄文彦に助けてもらっていると

りつ子は語った。

 

 さくらとりつ子の美人ふたりを「ラッキョとキリ

ギリス」と寅次郎はからかう。

 とらやの団欒で寅次郎はりつ子が日々のパン

の購入にすら苦しんでいることを察する。竜造

は芸術家はそんなに苦しいのかと問う。自分

の気に入った作品は売りたくないんだから苦し

いんだよと寅次郎は述べる。その気持ちを寅

がさくらに問う。

 さくらは、芸術家じゃないけど、内職で塗って

いるスーツが気に入った時は売りたくない気持

ちになるわと述べる。

 

 竜造は分からねえと述べ、よく出来た団子は

大威張りで売るよと心情を語る。とらやの団子

は芸術じゃねえと寅次郎は評する。社長は芸術

家はなんで食ってるんだよと問うと、寅次郎は

お前みたいな金持ちが買ってくれることだと解

説する。食うために必死だと社長が語ると、「食

いすぎだぞ」寅は注意し、竜造は「人間食うため

に生きてるんだぞ」と語る。寅次郎は、「話し合え

ないな、この連中とは」と述べ、博に同意を求め

る。

 博は食うことは大変だけど、人間はそれだけ

じゃなくて、りつ子さんのような芸術家が大事で

絵や音楽に感動するためにも人間は生きている

と語る。さくらはおいちゃんの盆栽やつねはみん

なで話し合うことかいと問う。竜造は「寅が恋す

ることもそうか」と問い、寅次郎は照れる。

 

 師匠の画伯は「スモッグで死ぬよ」と近況を

りつ子に語りつつ、弟子の三田良介が金持ち

の令嬢と結婚したと報告する。師匠夫妻の家

では我慢していたりつ子だが、秘かに思いを

寄せていた三田の結婚にショックを感じ、臥

せってしまい見舞いに来た寅に、自身を愛し

ているとも知らず、失恋したことを語る。

 

 緊張と興奮に押された寅は恋煩いで臥せっ

てしまう。寅次郎を見舞ったりつ子は、うわごと

から自身への恋を知った。

 

 寅次郎に友達として居て欲しかったりつ子は、

愛されることについて率直に「困るの」と気持ち

を述べた。

 

 りつ子の心に重荷をかけてしまった事を反省

する寅次郎はさくらに彼女の食生活を気にかけ

てあげてくれと頼み旅に出る。

 

 スペインからりつ子は年賀状に「私の寅さん」

と記した。

 

 阿蘇で元気に売をする寅次郎。

 

 側には非売品としてりつ子が描いてくれた絵

があった。

 

 ☆男の道☆

 

 山田洋次は昭和六年(1931年)九月十三日

大阪府に誕生した。父は満鉄のエンジニアで

洋次は二歳で満洲に渡り、昭和二十二年(19

47年)一家で大連から日本に引き揚げた。

 東京大学に学んだ洋次は学生時代、前進座

映画にエキストラとして出演したという。

 松竹に入り助監督として勤務し、脚本家とし

ても活躍した。

 

 昭和三十六年(1961年)十二月十五日公開

『二階の他人』が第一回監督作品である。

 昭和三十八年(1963年)四月十八日公開『下

町の太陽』が第二回監督作品で主演の倍賞千

恵子とのコラボレーションは、ずっと続いている。

 

 昭和四十三(1968)・四十四(1969年)のフジ

テレビのドラマ『男はつらいよ』の原作・脚本を

担当した。渥美清の車寅次郎が視聴者に愛さ

れていることを、最終回の寅の急死に対する

怒りの声で察した山田洋次は松竹に映画化を

提案する。

 

 昭和四十四年(1969年)八月二十七日映画

『男はつらいよ』が公開された。車寅次郎はテ

レビに引き続き渥美清が勤め、銀幕に寅が蘇

った。さくらは倍賞千恵子が勤めた。

 

 昭和四十七年(1972年)三月二十六日。テレ

ビ・映画の『男はつらいよ』で車竜造を演じて

いた森川信が六十歳で死去した。

 第九作『男はつらいよ 柴又慕情』から松村

達雄が二代目車竜造となった。

 

 『男はつらいよ 私の寅さん』はシリーズ第

十二作である。

 夢の場面では明治か大正らしい時代に、追

われている寅次郎がさくらを助け、目覚めると

九州の連絡船で乗る予定の船に乗り遅れる。

 

 九州は本作において重要な場所になってい

る。

 

 東京柴又とらやに帰ってきた寅次郎は、御前

様が持ってきてくれた餞別から、叔父夫婦・さくら

一家が九州旅行に行くことを知り、留守番に寂し

さを感じるが、さくらの叔父孝行・叔母孝行の心

情を聞くと同意せざるを得ない。

 

 倍賞千恵子の暖かい台詞回しが、さくらの家

族愛を伝えてくれる。

 

 『男はつらいよ 私の寅さん』は2419000人の

観客が劇場鑑賞し、シリーズ最大のヒット作に

なった。

 前半はとらやの九州旅行と寅次郎の留守番

で盛り上がる。

 

 高崎山・阿蘇・熊本・雲仙の光景に、竜造・つね・

さくら・博・満男は感動する。

 

 私的な事柄を書くことをお許し頂きたい。本作公

開から五年後の昭和五十三年(1978年)に管理人

の祖父が、子供達・孫達の一家を九州旅行に連れ

ていってくれた。その時の旅行コースが高崎山・阿

蘇で、本作の車・諏訪一家の行程と酷似している

ことを本作鑑賞時に感じた。祖父は昭和四十八(1

973)・四十九(1974)年に『男はつらいよ 私の寅

さん』を鑑賞して示唆を貰ったのだろうか?

 

 とらやで寂しい留守番をしている寅さんが、社長

・源公と一緒においちゃんのジョニ赤を飲み干す

のは名場面だ。

 

 電話における寅次郎と竜造の口論は、前半最大

の山場で、渥美清と松村達雄の話芸が光り輝く。

 

 二人の話術と話術の激突だが、顔を合せず、

画面分割も用いられ、台詞と台詞で喧嘩にな

るところが劇的興奮を盛り上げる。

 

 「ケチ」「ケチ団子」の寅の嘲笑に、竜造の激怒

は燃え上がる。

 

 短気なおいちゃんを松村達雄に想定した山田

洋次の意図は電話シーンで鮮やかに決まる。

 

 松村達雄の厳しい怒鳴りは強烈である。

 

 叱られ怒った寅次郎は一人で戸口に行き、

「さくら止めるな」と述べるが、振り向けば社

長だけで家族は誰もいない。

 

 フーテンの寅次郎の孤独を鮮明に表す。

 

 一夜明けて帰宅する叔父夫婦・妹一家の

為にご飯を用意する寅次郎の優しさを、渥美

清が繊細に演じる。

 太宰久雄の見事な包丁さばきに感嘆した。

 

 

 九州旅行の疲れを思い、風呂まで沸かし

てくれていた寅さんの暖かさに、竜造・つね・

さくら・博・満男は感謝する。

 

 前夜の怒りの寅の孤独感と翌日の寅の

優しさに、観客は心で痺れる。

 

 名場面の連続ではあるものの、前半は

松村達雄と渥美清の電話口論が、九州・

東京の地理を越えて、叔父甥の意地と意

地の戦を顕示し、全ての美味しい所をさら

ってしまった印象がある。

 

 後半においてようやくマドンナりつ子が登

場する。

 

 さくらが土手で会った文彦に追われて恐

怖を感じるシーンには緊張感がある。

 

 前田武彦が柳文彦を繊細に演じる。

 

 寅次郎は旧友デベソこと柳文彦と再会し

喜び彼の家に招かれてりつ子と出会う。

 悪戯をして怒られるが、初対面の瞬間

からりつ子の美貌に惹かれていたようだ。

絵を汚した事を厳しく叱責され、意地で激

怒したが、とらやに謝罪に来てくれたりつ

子に恋心を覚える。これは抑えていた気持ち

が相手の優しい言葉を聞いて一挙に溢れ

出たと見れるのではないか?

 

 芸術に全てを賭ける美人画家柳りつ子は

岸恵子の当たり役だ。

 昭和七年(1932年)八月十一日神奈川県に

誕生した岸恵子は、日本戦後映画史を支えた

大スタア・大女優であり、日仏に活躍するエッ

セイストである。

 

 昭和二十七年(1952年)二月二十二日

公開、製作松竹京都、脚本・監督伊藤大

輔の映画『治郎吉格子』においてヒロイン

お喜乃を勤めた。

 

 昭和三十五年(1960年)十一月一日公開

製作大映京都、監督市川崑の映画『おとう

と』においてヒロインげんを熱演した。

 

 勝気で気位が高く芸術に妥協せず燃える

画家りつ子役は、岸恵子の気品豊かな演技

によって銀幕にその魅力が開花した。

 

 津川雅彦は一条のキザで嫌味たっぷりの

個性を短い場面で鋭く表現する。

 

 一条が振られたことを知り、寅さんが歓喜

する場面も忘れられない。

 

 とらやで寅次郎がさくら・博・おいちゃん・お

ばちゃん・社長に芸術論を語る。りつ子の厳

しい暮らしを思う寅さん。絵で食べていくこと

は苦しい。日々のパン料金も大変である。気

に入った作品は売りたくないから、家計は更に

大変だ。

 

 裁縫しながら内職のスーツ作りを思うさくら

の言葉も印象的だ。

 

 芸術の尊さをとらやの人々と社長は語り合

い、寅が美女に恋することは生きてる事の

証であると確かめ合う。

 照れる寅次郎だが、りつ子への恋は更に熱

くある。

 

 五代目河原崎國太郎・葦原邦子の画伯夫妻

の気品は光っている。

 

 画伯役の五代目河原崎國太郎は明治四十二

年(1909年)十月十四日に誕生した。本名は松

山太郎である。父は画家松山省三である。

 前進座旗揚げのメンバーである。

 自分は五代目河原崎國太郎の舞台に

間に合わなかったが、映画・テレビの演技

はリアルタイムで鑑賞している。

 次男の松山省二後の松山政路は、昭和

四十五年(1970年)八月二十六日公開の

映画『男はつらいよ 望郷篇』で機関士石

田澄雄役を繊細に勤めた。

 

 

 

 父子二代の『男はつらいよ』シリーズ出演

となった。

 

 平成二年(1990年)十月十一日八十歳で

死去した。

 

 

 葦原邦子(あしはら・くにこ)は大正元年

(1912年)十二月十六日兵庫県に誕生した。

本名は岡本英子後に中原英子である。宝

塚女優で映画・テレビにも出演された。

 夫は画家の中原淳一である。実生活にお

いても画家夫人であった葦原邦子が画伯夫

人を演じている。

 平成九年(1997年)三月十三日。八十四歳

で死去した。

 

 画伯がりつ子の気持ちを知っていたのか

どうかは分からないが、三田結婚を知らせる

シーンは重い。

 

 銀幕に一度も登場せず、名のみ語られる

三田良介の存在感も鋭い。

 

 失恋にりつ子は悩む。

 

 恋敵一条は振られ、三田は別の女性と

結婚する。

 

 だが、寅次郎には決定的失恋が待ってい

た。

 

 寅さんに友情を感じつつも、恋人ではない

と感じたりつ子は自分の言葉で「困るの」と

正直に寅次郎に語る。

 

 恋する女性から直接拒絶の意志を示され、

寅次郎は全てを受け入れる。

 

 失恋において傷を負いつつ、悲しみを秘

める寅次郎だが、本作の姿勢も立派で、「男

ならかくありたい」と感じた。

 

 スペインからの年賀状に「私の寅さん」と

友情をこめてりつ子は記した。

 

 フランスで活躍する岸恵子とりつ子が呼応

していることを感じた。

 

 山田洋次・高羽哲夫が映す昭和四十八年

(1973年)に、当時の時代の記憶を思い起こ

した。

 

 

 ラストは昭和四十九年(1974年)阿蘇山である。

 

 阿蘇山は、『霧の旗』(昭和四十年五月二十八

日公開)において柳田桐子が訪れた場所でもあ

る。

千恵子さん

 倍賞千恵子は『霧の旗』の公開から

約十年後に桐子役をもう一度演じたい

とセルフリメイクの企画を述べたが、通

らなかったことをインタビューで語ってい

る。

 

 前作『男はつらいよ 忘れな草』にお

いてさくらが、富裕層家庭のピアノを見て

憧れるシーンは、『霧の旗』で桐子が富裕

層家庭のピアノレッスンを見つめるシーン

と呼応していた。

 

 これは私の想像なのだが、本作において

阿蘇がラストに舞台となることも、『霧の旗』

との照応なのではないだろうか?

 

 昭和四十九年(1974年)正月。

 

 車寅次郎は阿蘇山でテキヤの売(ばい)に

励む。

 

 りつ子が描いてくれた似顔絵を側に置く。

 

   「自分の好きな絵は誰にも売り渡した

    くない」

 

 片思いの恋心を秘めて明るく口上で語る

寅次郎。

 

 

 

 純情で清らかな真心は観客の胸を暖め

る。

 

 車寅次郎が教えてくれた男の道に学び

たい。

 

二階の他人 昭和三十六年 山田洋次監督作品

 

下町の太陽(一) 1963年4月18日公開 倍賞千恵子主演 山田洋次監督 作品

愛の讃歌 昭和四十二年四月二十九日公開 山田洋次監督作品

 

下町の太陽 (二)

 

下町の太陽 (三)

 

 

 

『霧の旗(一)昭和四十年五月二十八日公開

 倍賞千恵子主演』

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11862338349.html

 

『霧の旗(二)「先生だけを頼りにやってきたんです」』

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11866535768.html


『霧の旗(三)「無実の罪で苦しんで」』

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11868837903.html

 

『霧の旗(四) 葉書のことば』

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11885792423.html

『霧の旗(五)大塚の調査 本日山田洋次八十三歳誕生日』

http://amba.to/YGdkNU

 

『霧の旗(六)兄妹(きょうだい)』

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11924602713.html


『霧の旗(七)「犯人は兄さんではありません」

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11950409727.html

 

『霧の旗(八)海草での再会」

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11951636152.html

 

『霧の旗(九)記録を読んでいた弁護士」

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11951648576.html

 

『霧の旗(十)愛煙家のサウスポー』

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11953277833.html

 

『霧の旗(十一)銀座駅のふたり』

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11953715764.html

 

『霧の旗(十二)手袋の傍にライター』

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11966277753.html

 

『霧の旗(十三)手すりをさすりつつ』  
http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11966643686.html

『霧の旗(十四)リヨンの客』

http://amba.to/1AtH7Ip


『霧の旗(十五)「先生が好き」』 http://amba.to/1sYE3Dk

『霧の旗(十六)仮面を剥ぐ』
http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-11967047887.html

 

霧の旗(十七)空を見つめる

 

男はつらいよ (テレビドラマ版)  第一回

 

男はつらいよ(フジテレビ版) 最終回

 

男はつらいよ

 

喜劇 女は度胸

 

続男はつらいよ

 

男はつらいよ フーテンの寅

 

男はつらいよ 望郷篇

 

家族(弐)

 

男はつらいよ 純情篇

 

男はつらいよ 寅次郎恋歌

 

男はつらいよ 寅次郎相合い傘

 

男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け

 

男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 

 

男はつらいよ 花も嵐も寅次郎

 

男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇

 

男はつらいよ お帰り寅さん

 令和三年(2021年)八月十一日。

 

 岸惠子(岸恵子)は八十九歳になられ

た。

 

 女優・文筆家として現役で活躍されて

いる。八十九歳。年上の方に失礼な物

言いだが、益々お若い。そして、益々お

綺麗。驚異の若さと驚異の美貌である。

 

 令和三年(2021年)九月十三日。

 

 山田洋次九十歳誕生日である。

 

 九月二十九日から十月六日まで国立文

楽劇場で上演される舞台『一万石の恋 裏

長屋騒動記 愛の仮名手本篇』の脚本・監

修を勤める。

 

 五代目河原崎國太郎の孫六代目河原崎

國太郎・七代目嵐芳三郎が出演する。

 

 自分は『キネマの神様』をまだ鑑賞して

いない。近く鑑賞したい。

 

 九十歳で映画・舞台に情熱を燃やす山田

洋次監督。

 

 四十二歳で演出した映画『男はつらいよ 

私の寅さん』は優しさを伝える大傑作であ

る。

 

 

                      合掌

 

 

                 南無阿弥陀仏

 

 

 

                     セブン

yamada youji