霧の旗(十二)手袋の傍にライター | 俺の命はウルトラ・アイ

霧の旗(十二)手袋の傍にライター

 『霧の旗』

 映画 111分 白黒

 昭和四十年(1965年)五月二十八日公開


 製作国 日本

 制作 松竹

 白黒 111分




 原作 松本清張

 脚本 橋本忍




 倍賞千恵子(リエこと柳田桐子)




 新珠三千代(河野径子)

 




 川津祐介(杉田健一)
 河原崎次郎(山上)  





 撮影 高羽哲夫

 音楽 林光




 監督  山田洋次



posuta-


☆☆☆

 演出の考察・シークエンスへの言及・

台詞の引用は研究・学習の為です。




 松竹様におかれましては、お許しと

御理解を賜りますようお願い申し上げ

ます。


☆☆平成二十五年(2013年)十二月二

   十一日 東京国立近代美術館フィ

   ルムセンターにて鑑賞☆☆


  


 


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 ☆感想記事は物語の核心に触れます。原作・

映画を未読・未見の方はご注意下さい☆


 杉田健一の部屋から年配の女性が出て来

た。


 桐子は一度帰宅することにして玩具店の前

に立った。


 山上が慌てて走るように去っていった。


 桐子は健一の家の前に戻る。


 河野径子が現れ、健一の家に入る。


 霧が深い。


 桐子が健一の部屋の前まで来た。


 戸が開いた。


 径子が動転しながら現れた。


 桐子も驚く。


   径子「わたくしが殺ったんじゃありません。

       貴女、証人になって下さい。」


  径子は桐子に哀願して、室内の光景を見て

もらう。


 健一が血まみれになって死んでいた。


 何者かに刺殺されたようだ。


 山上のライターが鮮血の中に在った。


  桐子は径子に証人になることを承知し、名前

を聞き、「河野径子さん」と確かめ、みなせの支配

人であることを聞いた後、自身の名を問われて「柳

田桐子と申します」と名乗って、海草にリエの名で

勤務していることを語る。


 径子は人目を気にして、手袋を落としたことに

気付かぬままタクシーで帰路に着く。


 桐子は一度外出するが、もう一度、健一の部屋に

戻る。


 径子が落した手袋を拾う。


 桐子は血の中にあるライターの傍に径子の手袋

を落とす。


 真っ赤な血の中で、径子の手袋と山上のライター

が並んだ。


 桐子はライターを拾って去った。

 

 ☆霧の夜のできごと☆


 桐子が健一の家の前で浮気調査をするシーンは

霧の夜でミステリアスなムードを盛り上げる。


 倍賞千恵子のファッションが綺麗だ。


 玩具店の前で慌てる山上を見る。


 河原崎次郎は少ない出番で強烈な存在感を観客

の心に伝える。


 径子が健一の部屋に入って慌てて出て桐子と出会

い、無実を主張して証人になってもらうことを頼む。


 彼女自身にとって、藁をも縋る気持ちで頼んだ存在

が、彼女を嵌める者だとも知らずに。


 ここから、桐子の恐ろしさが明かされて行く。


 倍賞千恵子の眼力が光る。


 径子は愛人健一の死で動揺している。


 桐子は落ち着いている。


 径子と桐子は名乗り合って証人の約束を取り交わ

す。


 相手の名前と職業を聞いた桐子は、陰謀の計画を

瞬間的に巡らせた訳だ。


 径子が憎い大塚欽三の最愛の恋人であることを

確かめ、彼女を無実の罪で捕らわれの身としたら、

大塚を苦しめることが成り立つことを直感的に実感

したのだ。


 真犯人を助けてでも、大塚に復讐したいという野望

に、桐子の情熱は熱くなったのだ。


 健一の家を出た後は、冷静に策謀の計画を遂行し

て行く。

 

 林光の音楽が鋭く響く。


 桐子が計画を実行に移し始める。


 健一の家に戻り、径子が落した手袋を拾う。


 血まみれになった健一の死体を見つめる。


 大量の血の中にライターがある。山上の物だ。恐らく

犯人は彼だろう。


 だが、桐子はそのライターの傍に手袋を落とした。

 

 大量の血の中に手袋とライターが並んだ。


 高羽哲夫の白黒映像が無残に流された血を捉える。


 流れ出ている血の中に手袋とライターが並ぶカット

に残酷美が光り輝く。


 原作では、大塚が第一の渡辺キク殺しの犯人が山上

と杉浦健二(映画では杉田健一)で、第二の杉浦殺しの

犯人が山上と予測する。


 大事なことは、原作・映画共に真犯人が「恐らく山上

だろう」と予想させていることであり、結論は明かされて

いないことである。


 もし、第一・第二の事件の犯人が山上だったとしたら、

桐子は兄の仇を助けることになるのだが、それを承知で

ライターを隠した。


 それほど兄の無念を晴らしたいという思いが強く、その

復讐心は真犯人ではなく、弁護を断った大塚に向けられ

る。


 映画では、杉田が第一の事件に関わったかどうかも謎

のままである。


 しかし、その謎が観客の想像力を刺激するものになって

いる。


 杉田が何者かに刺され、大量の血を流して、死亡する。


 その遺体の前に、被害者の恋人の一人径子の手袋を

落とし、彼女に罪を着せようとする。


 桐子のこころは冷酷である。


 彼女をして冷血にならしめたものの根底には、大塚への

怒りがあった。


 無実の人を罪に陥れてでも復讐をしたいという桐子の

心情は凄まじい。


 倍賞千恵子の美しさは光り輝いている。



                                合掌