霧の旗(四) 葉書のことば | 俺の命はウルトラ・アイ

霧の旗(四) 葉書のことば

『霧の旗(一)』

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『霧の旗(二)「先生だけを頼りにやってきたんです」』

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『『霧の旗(三)「無実の罪で苦しんで」』

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原作 松本清張

脚本 橋本忍


倍賞千恵子(柳田桐子)


滝沢修(大塚欽三)

近藤洋介(阿部幸一)


露口茂(柳田正夫)

清村耕次(久岡)

桑山正一(奥村)

金子信雄(谷村)


音楽 林光


監督  山田洋次


桐子

 九州からやってきた美しい娘が大塚弁護士に

依頼したことが気になる阿部は彼女の名を教われ

なかったが、強烈な印象を受けたこともあり、彼女

に惹かれるままに、九州の事件がどのようなもの

であったかという問いを探求する。


 先輩の久岡が九州出身ということもあり、有力な

地方紙肥後日報を紹介してもらい新聞記事を丹念

に調べる。


 

 「金貸しの老婆殺し」の見出しに阿部は注目する。



 熊本市寺原町で金貸しの老婆渡辺キクが殺害され、

白河小学校の二十八歳の教諭柳田正夫が容疑者と

して逮捕された。


 柳田は会社タイピストの桐子(二十歳)と下宿で二人

暮らしをしている。


 銀幕には自転車で出勤する正夫を送る桐子の姿を

映す。


 阿部は柳田が一度自白したが、犯人は自分ではなく

てキクを尋ねた際に彼女は何者かに殺害されていた

と語った記事を読み、桐子が美しい娘と同一人物であ

ると確信する。


 しかし、阿部の上司谷村は、柳田が修学旅行の旅

費八万円を落としてキクに借りて、「強い返済の督促

を受けて恨みに思って殺害した」と検察に糾問され、

本人は「殺害はしていないが借用書は焼却した」と言

っているが、「大塚弁護士が引き受けても裁判に勝て

るのか?果たして柳田が黒だったらどうするんだ?」

と問うて、彼が編集する雑誌『論争』で取りあげること

を拒絶する。


 阿部は残念がり、久岡は「よっぽど印象的だったん

だな、その娘」と阿部の想いを想像する。



 一年後


 大塚弁護士事務所に大塚欽三が出勤し、助手・スタ

ッフ達から朝の挨拶を受ける。


 大塚「寒いね」


 大塚は部屋で一通のはがきを受け取る。



 桐子からのものだった。



  桐子の声「兄は一進で死刑の判決を

        言い渡されました。

        それを控訴して二審で審議中に、

        さる十月十日熊本拘置所で

         病気で死にました。

         国選弁護士さんは情状酌量しか

         懇請されませんでした。

         兄は強盗殺人のまま

         死にました。」


 大塚は始め何の事かわからず、奥村に問い合わせ

昨年九州から尋ねてきた若い美女の依頼人を思い出

す。


 大塚「まるで僕が断ったからこういう結果に

    なったとでも言いたげだね。」


 大塚は彼がゴルフに行った後も何度も桐子が電話

をかけてきたことを確認する。


 彼は奥村に九州の国選弁護人に連絡して、正夫の

事件の資料を送ってもらうことを頼む。


 

 ☆橋本忍の構成・山田洋次の演出☆


 桐子に惹かれた阿部が新聞記事を調査して、正夫の

事件の様子が伝えられていく。


 ここで初めて露口茂の正夫の映像が映る。


 事件の容疑者にされ苦悩すていることを映像は伝える。


 桐子が正夫を送るカットが深く心に残る。


 兄妹の絆を伝えるシーンだ。


 「正夫は無実か?」と直観する若い阿部が年配の谷村

に拒絶されるシーンが切ない。


阿部と谷村


 金子信雄の演技は冷静で落ち着いている。


 近藤洋介は若者の純粋さを明かす。

 

 一年後の大塚事務所の場面から物語の大きな動き

が示される。


 最愛の兄が殺人犯の汚名を着せられて獄死したこ

とを桐子の葉書は冷静に伝える。


 倍賞千恵子の葉書を読む静かな声が観客の心に

響く。


 静かな調子なので、内の怨念の熱さ一層強烈に

語られる。


 ここで大塚の心に変化が生じる。


 彼は柳田正夫事件に強い関心を呼び起こされ、調査

を開始する。


 橋本忍の脚本は、「一年前にこの気持ちになってくれ

れば!」という気持ちを観客の心を呼び起こす構成で

ある。


 偉大な脚本である。


 本日平成二十六年六月二十九日は、

倍賞千恵子の七十三歳のお誕生日である。


 お誕生日、おめでとうございます。