喜劇 女は度胸 | 俺の命はウルトラ・アイ

喜劇 女は度胸

『喜劇 女は度胸』
 映画 35㎜ トーキー 90分 カラー
 昭和四十四年(1969年)十月一日公開
 製作国 日本
 製作 松竹
 配給 松竹
 
 製作 上村力
 原案 山田洋次
 脚本 森崎東
     大西信行
 撮影  高羽哲夫
 音楽  山本直純
 美術  熊井正雄
 録音  田中俊夫
 調音  山本隆司
 照明  青木好文
 編集  浦岡敬一
 スチール 長谷川宗平
 
 出演
 
 倍賞美津子(白川愛子)
 
 沖山秀子(笑子)
 清川虹子(ツネ)
 
 河原崎建三(桃山信夫)
 花澤徳衛(桃山泰三)
 有島一郎(黒田甚兵衛)
 
 春川ますみ(春子)
 中川加奈(路子)
 大橋壮多(太一)
 佐藤蛾次郎(次郎)
 久里千春(スミエ)
 
 渥美清(桃山勉吉)
 
 監督 森崎東
 
 ☆
 山田洋次=山田よしお
 
 河原崎建三=河原崎健三
 
 森崎東=森﨑東
 ☆
 令和三年(2021年)七月二十六日
 シネ・ヌーヴォにて鑑賞
 ☆
 感想文の中で排泄に関する記述があります。
お食事中の方は御注意下さい。
 ☆
 自動車工場では青年達が終業すると風呂に
入り、疲れを取り、夕方のナンパに出かける。 
 電車で可愛い女性を見て胸をときめかす。仕
事仲間の次郎や太一のように積極的に声をか
けられない純情な桃山信夫は、レコード店でチ
ャイコフスキーを聞いていた。
 隣席した美人白川愛子に一目惚れする。
 
 羽田空港近くのどぶ池近くの家の中では、父桃
山泰三は気性が荒く、母ツネは寡黙で、トラック運
転手の兄勉吉は喧嘩っ早い。
 女性を連れ帰ってきた勉吉は両親に対しても威
張り散らし、女性が子持ちと聞いて帰すが、父泰
三と大喧嘩をする。
 
 桃山信夫は家庭とはみんなが暮らす場所であり、
喧嘩が絶えないこの家は家庭じゃないと嘆く。
 
 愛子に恋する桃山信夫は彼女を会社四ツ星電機
の寮まで送り誕生日を聞く。網越しに二人はキス
しようとする。
 誕生日プレゼントにゲーテの詩集を買った桃山
信夫は愛子に贈った。
 
 結婚を意識し母ツネにその希望を語る。兄勉吉は
喜ぶが、遊んだコールガールからゲーテの詩集を借
りて読み始める。桃山信夫はショックを受ける。勉吉
は便所で詩集を読み、便器の中に落としてしまう。
 兄勉吉からコールガールの本業の職場は愛子の
会社四ツ星電機であったことを教わり、弟信夫は
絶望的な悲しみを感じる。
 
 傷ついた桃山信夫は、愛する愛子がコールガール
の副業をしていると知り怒りに燃えた。コールガールの
斡旋をしているのは今川焼主人の黒田だった。
 黒田はつまようじで鼻を搔きながら斡旋料金を得て
いた。
 
 愛子は寮で友人の笑子に詩集返してと頼む。コール
ガールの副業をしていたのは笑子だった。
 
 笑子は勉吉のダンプカーに行き、荷台で抱きしめ合う
程二人は惹かれ合う。
 
 桃山信夫は愛子に婚前性交について問う。愛子は
桃山信夫の陰険な態度に怒り、びんたを喰らわす。
 
 黒田かコールガールの部屋を聞いた桃山信夫は
アパートで彼女を待ち殺意まで自問していた。現れ
た女性は笑子だった。そこへ愛子がやってくる。
 
 桃山信夫の疑惑は解けた。
 
 兄勉吉の歌声が聞こえ桃山信夫は去る。
 
 愛子は桃山信夫の兄とも知らず勉吉と話し合い、
うじうじした彼氏を別れようと決意する。桃山信夫
の居場所に行くと父泰三が居てコールガール副業
について問われ、愛子は怒る。泰三は息子の女性
関係調査から笑子に会い、口説いて振られた事が
あった。
 
 愛子は桃山信夫に会ってびんたを喰らわす。
 
 勉吉は笑子を連れて婚約発表をしようとする。
 
 笑子は客だった泰三が恋人勉吉と桃山信夫の
父であったことを知り吃驚する。桃山兄弟は激しく
対立する。近所の人たちが心配する。
 
 母ツネが現れ、息子達と夫と愛子・笑子を家に
招き入れ、それぞれの言い分を語らせる。
 
 ☆森﨑東の情☆
 
 森﨑東第一回監督作品・倍賞美津子第一回主演
作品である。
 
 倍賞美津子と河原崎建三が純粋な恋で惹かれ合
いながら、偶然の出来事により、信頼関係が揺らぎ
和解し再び堅く愛し合う恋人達を爽やかに勤めた。
 
 河原崎建三は石段から転げ落ちる危険なアクション
を体当たりで演じている。父と兄の激しい喧嘩を黙っ
て耐えている母を見て、家庭の在り方に疑問を投げ
る。愛子が好きな気持ちが拡大し嫉妬や疑惑に身を
焦がし暴走してしまう。青春の純情が凄まじい執念に
なってしまう在り方を建三が熱くかつ繊細に語る。
 
 倍賞美津子は第一回主演で清らかな心の女性愛子
を鮮やかに演じる。既に逞しさや野性味が漂っている。
清純な姉千恵子と逞しい妹美津子の役柄は、この時代
から既に始まっているようにも感じた。
 
 沖山秀子は笑子役で豊かな母性を示した。副業コ
ールガールの業務を蔑視され傷つく心を鮮やかに表
した。
 「コールガールだって人間」の名セリフを爽やかに
語ってくれた。
 この言葉は、山田洋次・大西信行・森﨑東のテーマ
であろう。
 
 花澤徳衛が短気な親父泰三を熱演する。
 
 森﨑東脚本・山田洋次監督作品『愛の讃歌』『吹け
ば飛ぶよな男だが』で純情中年男を勤め切った有島
一郎は本作では強かな斡旋業者を粘り強く演じる。
 
 清川虹子が母ツネを重厚に勤め、深い存在感を
顕示する。
 
 喧嘩を仲裁し、息子二人とその恋人たちと夫の
話を聞き、秘密を打ち明けるクライマックスに痺れ
た。
 
 清川虹子の母性愛表現は圧巻である。
 
 喧嘩し川に入り、帰宅し衣類を乾かし合う男たち。
 
 母・妻ツネはじっと見守る。
 
 息子たちは愛する彼女と暮らす道を選ぶことを
包容する。
 
 森﨑東は強い母親像を描き、清川虹子が重い
芸で表した。
 
 クライマックスで、勉吉が便器に落としたゲーテ
詩集のその後について語られる。このエピソードは
液体涙ではなくて、心の震えを感じさせてくれた
 
 渥美清の勉吉の存在感は一番強烈だった。公
開当時の渥美清の勢いを感じた。短気・助平で
喧嘩っ早くて手も早い。多弁で歌が巧くて女にも
てる。勉吉は出てくると全ての美味しい所を持って
いってしまう。
 
 主演は倍賞美津子で、準主演は河原崎建三な
のに、勉吉が登場すると全てをさらってしまう。
 
 車寅次郎のモテるトラック運転手版と映った。
 
 「喜劇ではなくて怒劇」と森﨑東は呼んだらし
い。
 
 
 情が心の奥底から染みてくる名作である。
 
 渥美清の勉吉の迫力は圧巻である。
 
 
 
                          合掌