男はつらいよ(フジテレビ版) 最終回 | 俺の命はウルトラ・アイ

男はつらいよ(フジテレビ版) 最終回

  『男はつらいよ』

男はつらいよ テレビ

  テレビ トーキー 60分 白黒

  放映日 昭和四十四年(1969年)三月二十七日

 

 

  制作  フジテレビ

       高島事務所

 

  原作  山田洋次

 

  脚本  山田洋次

       森崎東

 

  音楽  山本直純

 

  主題歌 『男はつらいよ』

 

  出演

 

  渥美清(車寅次郎)

 

  

  長山藍子(諏訪さくら・語り)


 

  佐藤オリエ(坪内冬子) 

 

  杉山とく子(車つね)

  井川比佐士(諏訪博士)

  津坂匡章(川又登)

   榎本良三

  筒井竜介

 

  東野英治郎(坪内散歩)

  佐藤蛾次郎(雄二郎)

 

  

 

  森川信(車竜造)

 

 

  演出  小林俊一

 

  ☆☆

 

  森崎東はノークレジット。

  津坂匡章→秋野太作

  東野英治郎は写真出演・ノークレジット。

  佐藤蛾次郎はノークレジット。

  ☆☆

 

  第二回から第二十五回までの粗筋を諸資料・DV

 

D解説映像から探る。

 

 寅次郎は冬子に恋し、妹さくらに熱い兄妹愛を抱いて

 

いる。

 

 初めは暴れん坊の寅に困っていたさくらさが、内面

 

は優しい男であることを確かめ、兄のあったかさを妹

として深く愛し信頼関係が生まれる。

 

 だが、医師諏訪博士がさくらに恋し、二人は結ばれる。

 

 

 散歩先生は鰻を食べたくなり、寅にその思いを語る。

 

昭和四十四年(1969年)三月二十日、寅と登は鰻を捕

獲するが、先生は発作が起こり急死してしまう。

 

 通夜の席。

 

 

 冬子を藤村という美男の音楽家の恋人が支えていた。

 

 

 

 寅さんは失恋の悲しみを堪える。

 

 

 

 ☆☆

 

 

 寅次郎は恩師坪内散歩の墓を尋ねる。

 

 

 さくらの結婚。

 

 

 男として寄る年波を考え、一儲けするという決意を確

 

かめる。

 

 人生は一人旅であることを確かめ、「男はつれえよ」と

 

いう思いを語る。

 

 


 

 

 

 「とらや」では、竜造・つね・さくら・博士・登が寅次郎

の胸中を思って話し合っている。

 

 寅はメロドラマをよく見るようになって、考えこむこと

 

が多くなっていることが話し合われた。

 

 「とらや」閉店が決まり、来月にも他人の手に渡る

 

のだが、竜造は寅と相談したくても、冬子結婚の衝撃

を受けて傷心の甥を思うと、相談が切り出せない。

 

 博士は「寅さんも歳でしょう」と義兄に変化が来て

 

いることを予想する。

 

 おばちゃんは寅さんを繊細に見守る。

 

 

 さくらは明るく寅が立ち直ってくれることを期待してい

 

る。

 

 

 寅が現れる。「我が妹ながら」さくらの美貌と色っぽさ

 

 

は「薄気味悪い」程素晴らしいと寅は絶賛する。

 

 

 笑顔で挨拶し、帰路につく寅とさくら。

 

 

 

 後にさくらはこの時の楽しい会話が、兄との最後の

 

語らいであったことを確かめる。

 

 

 寅は冬子を尋ねる。ショパンを聞いていた。

 

 

 

 「寅ちゃん、ごめんね」

 

 

 冬子は気持ちに応えられなかったことに対して、こみあ

 

げてくる思いを堪えきれず、思わず詫びる。

 

 「何を言うんです。」

 

 

 寅は振られた事実をしっかり受けとめ、冬子お嬢さんの

 

幸せを思っていることを確かめる。

 

 写真の故散歩先生は笑顔であった。

 

 

 

 大阪で弟雄二郎がチンピラに絡まれている場を見て、兄

 

 

寅次郎は助ける。

 

 兄弟一緒に奄美大島でハブを捕獲して売り一獲千金を実

 

現しようと持ちかける。

 

 

 「とらや」は閉店した。

 

 

 

 竜造はさみしさを隠せない。

 

 

 跡地には喫茶店エトワールが建ち、登はウェイターとして

 

勤務し、客のアイスコーヒーの注文を受けている。

 

 

 

 さくらは博士・生まれた赤ん坊と共にアパートで暮している。

つねが尋ねに来てくれた。

 

 二人は金魚売りの叔父さんの美声に聞き惚れる。

 

 

 そこへ、雄二郎が訪ねてきた。

 

 

 さくらとつねは喜び、寅次郎の様子を聞く。

 

 

 雄二郎は奄美大島であった出来事を語り始めた。

 

 

 

 船酔いを経て、寅次郎は雄二郎と共に大島にあがった。

 

 

 

 ハブを捕えるが、牙が寅さんを襲った!

 

 

 「ハブに咬まれた!」

 

 

 大島の自然と木木がブラウン管に映る。

 

 

 「畜生!おっぱいにまで毒が回ってきやがった!

 

 雄二郎!あんちゃんの腕を斬れ!」

 

 だが、雄二郎は腕を斬れなかった。

 

 

 

 

 

 さくらとつねが心配になる。

 

 

 

 

 

 

 雄二郎は事実を静かに語る。

 

 

 

 

 「あんちゃんは、死んだんです」

 

 

 

 

 つねの頬に涙が走る。

 

 

 

 さくらは聞いたことが信じられない。

 

 

 

 夜。

 

 

 

 博士がさくらを落ち着かせる為に薬を処方する。

 

 

 だが、さくらは兄の死が信じられない。

 

 

 深夜。

 

 

 寅がさくらのもとに来てくれた。

 

 

 歓喜するさくら。

 

 

 甥か姪に当たる赤ちゃんの為にお土産を持って

 

きてくれた。

 

 さくらは部屋にあがるように進めるが寅は笑って

 

さる。

 

 深夜の公園。

 

 

 消えた兄をさくらは必死に探すが、見つからない。

 

 

 博士が現れ、さくらの前に現れたのは幻影の寅

 

であったことを告げる。

 

 「君の中で、寅さんが死んだんだ。」

 

 

 夫の言葉にさくらは涙が溢れる。

 

 

 夫の肩に泣き崩れながら、さくらは懸命に歩く。

 

 

 二人の様子を、幻影の寅は優しく見つめる。

 

 

 

 ☆☆

 

 

 「陽気な悲劇」をテレビで描いた山田洋次・森崎東・

小林俊一

 ☆☆

 

 

 フランスの映画監督ジャン・ルノワールが1939年に

脚本・監督を担当した傑作『ゲームの規則』は「陽気

な悲劇」と言われている。

 

 貴族たちの華やかな恋愛が鮮やかに描かれ、終盤

 

一気に悲劇に転換する。

 

 29・30年後に日本で発表されたテレビドラマ『男はつ

 

らいよ』にはこの「陽気な悲劇」のテーマが反映している

と思われる。

 

 第一回では東京駅の便所で豪快に語る寅さんの様子

 

を映す。

 

 「とらや」に帰ってきて大暴れして、妹さくらは悲しむ。

 

 

 だが、暴れの根には純粋な愛が兄の心にあることを

 

知り、さくらはそんな寅を優しく見守る。

 

 

 

  渥美  その『男はつらいよ』を山田さんに書いて

       もらってやり始めて一番印象に残っている

       のは、同業者のホン書き、演出家、プロデ

       ューサー、俳優、そうした人たちが、いまま

       でよりあの時間を待ってて、チャンネル合

       わせて見てくれてるっていう、そういう確認

       があったことを覚えてますねえ。

 

 渥美清・山田洋次

 

「対談・男はつらいよ」

 (『講座日本映画7 日本映画の現在』 159頁

 1988年 岩波書店)

 

 渥美清は昭和六十三年の山田洋次との対談で番組の

反響について確かめている。

 

 映画・テレビのスタッフ・キャストが毎週注目していた

 

ドラマであったのだ。

 

 作り方・見せ方・聞かせた方の巧さで毎週スタッフ・

 

キャストを感嘆させていたことは想像しうる。

 

 当時は家庭にビデオがない時代で、テレビはリアルタ

 

イムで見るしか視聴の方法は無かった。

 

 カラー番組も珍しかった時代である。

 

 

 わたくしは番組放映時乳幼児なので視聴していない。

 

 

 だが、白黒ドラマの深い味わいは記憶の底に光ってい

 

る。

 

 

 

 最終回では、金魚すくいのおじさんの声の聞かせ方

 

が凄まじい。

 

 さくらとつねが感嘆する。

 

 

 雄二郎から寅さんの訃報を聞いて、さくらとつねは

 

愕然とする。

 

 そこへ金魚すくいのおじさんの美声が再び響く。

 

 

 絶望的な悲しみにあっても、日常の光景は続く。

 

 

 小林俊一はそこで長山藍子のアップを映す。

 

 

 さくらの悲しみの深さを確かめる。

 

 

 山田・森崎脚本と小林演出は徹底的にさくらの悲しみ

 

を追う。

 

 

 

 兄の幻影を見て、一旦は喜ぶが、夫博士から決定的

な事実を告げられ、抑えていた号泣が一気に流れる。

 

 テレビドラマの出来事だが視聴者の涙を抑えられな

 

くなる。

 

 

 

 山田・森崎・小林の悲劇美の追求は壮絶である。

 

 

 

 この時代の山田洋次は、『愛の讃歌』『吹けば飛ぶ

よな男だが』と言った傑作で、大切な存在を亡くして

悲しみを堪える主人公の生き方を語っていた。

 

 春子(倍賞千恵子)の笑顔やサブ(なべおさみ)の涙

 

が観客の胸を熱くした。

 

 

 

 加藤泰の要請で構成を担当した『みな殺しの霊歌』は

大切な親友を亡くし復讐に燃える男川島の怒りを追った

映画である。

 

 

 この時代の山田洋次は悲劇の探求が課題にあった。

 

 

 

 

 

 テレビドラマ『男はつらいよ』は「陽気な悲劇」として

完璧な悲劇を描いた。

 

 寅さんは、暴れ騒いで怒るが、純で一途な愛をみんな

 

に伝えて、男を挙げようと志すが、志半ばで奄美大島に

散った。

 

 

 

 幻影の寅さんの笑顔は優しい。

 

 ひょっとしたらこのドラマの第一回約一月前の昭和四

十三年九月八日に放映された『ウルトラセブン』「史上最

大の侵略 後編」で生死不明になった主人公が微笑む

ラストから影響を受けているかもしれない。

 

 

 

 1967年から1969年にかけて映画・テレビで切ない悲劇

の傑作が数多く生まれた時代であったことを忘れてはい

けない。

 

 長山藍子が井川比佐志の胸で号泣するラストは悲しい。

 

 

 「お兄ちゃん」の泣き声にさくらの兄妹愛の熱さが現れ

 

ている。

 

 寅さんに対して時には嫉妬も隠さない博士だが、最愛

 

の妻にとって最も辛い悲しみの時であることを確かめ、

懸命にサポートする。

 

 幻影の寅さんは、さくらが悲しみを越えて歩むことを願

 

っているようにも思える。

 

 

 

 テレビドラマ『男はつらいよ』は主人公の死を以て完璧

なラストを描いた。

 

 そこには付け加える続編や新作の余地を残していない。

 

 

 

 だが、「寅次郎の死」という物語の事実を許さない存在

 

 

がいた。

 

 

 

 

 視聴者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 番組を見た寅次郎ファンの視聴者は、フジテレビに対し

 

 

 

 

て、「何故寅を殺した?」と怒り問うた。

 

 

 

 その声を聞いた山田洋次は一つの確信を得たのであ

る。

 

 本作放送から丁度五か月後の昭和四十四年(1969年)

八月二十七日、渥美清主演、森崎東・山田洋次脚本、

山田洋次のチームによる映画『男はつらいよ』が公開

され、車寅次郎は銀幕に復活した。

 


 

 

 

 

 画像出典 

 

 『男はつらいよ(テレビ版)』 DVD

 

 

 『講座日本映画7 日本映画の現在』

 

 「対談・男はつらいよ」

 渥美清・山田洋次

 (1988年 岩波書店)

 

 

 

 『男はつらいよ』最終回 放映四十五年

 

 

 



 

                              文中敬称略



 

                                 合掌


 

                            南無阿弥陀仏

渥美さん


 

                                セブン