霧の旗(十六)仮面を剥ぐ | 俺の命はウルトラ・アイ

霧の旗(十六)仮面を剥ぐ

 『霧の旗』

 映画 111分 白黒
 昭和四十年(1965年)五月二十八日公開


 製作国 日本

 制作 松竹

 

 原作  松本清張

 脚本  橋本忍


 

 滝沢修(大塚欽三)
 

 内藤武敏(島田検事)

 

 撮影  高羽哲夫

 美術  梅田千代夫

 音楽  林光


 監督  山田洋次

 

☆☆☆

 演出の考察・シークエンスへの言及・

台詞の引用は研究・学習の為です。


 松竹様におかれましては、お許しと

御理解を賜りますようお願い申し上げ

ます。


 今回の感想想記事は物語の核心

に触れます。原作・映画を未読・未見

の方はご注意下さい。



☆☆平成二十五年(2013年)十二月二

   十一日 東京国立近代美術館フィ

   ルムセンターにて鑑賞☆☆


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 島田検事は柳田桐子から送られてきた手紙を、大塚欣三

弁護士の前で読む。


  手紙では、大塚が「河野径子さんの無実を証明する犯人

と思われる者のライターをお前が持っている筈だ」と述べて

しつこく店に来て偽証を強要しされたと訴える内容であった。


 大塚は怒りを覚えて眼鏡を握る。


大塚の権威が失墜

 島田は落ち着いた声で手紙を朗読する。


   

   「私はどんなに言われても偽証は出来ない。持っても

   いないライターは出せないと言うと、大塚弁護士は私

   をベッドに連れ込んで肉体関係を迫りました。

   私は極力抵抗しましたが、大塚弁護士の力に負けて

   汚されてしまいました。」


 大塚は「そんな馬鹿な!」と激怒する。


  島田は冷静に手紙を読む。



   「かけがえのない一生の汚点でたまりませんが、

    それよりももっと腹の立つことがあるのです。

    そんなことまでして私を仲間に引き入れ偽証を

    強要することが一流の弁護士のなさることで

    しょうか?そんなことが許されていいのでしょう

    か?私は高名な弁護士の仮面を剥ぐ為にこの

    手紙を綴りました。」


 島田は手紙を読み終えて、一服して、法律家の大先輩の

大塚に対して、「どうでしょうか?」と問う。


 大塚は「出鱈目に決まってる」と眼鏡を握り潰さん勢い

で語る。


  だが、島田は桐子は医学的な証拠を提出したことを

語る。


 大塚は、「あんなバーで勤めている女が他にどんな男と

関係を持ったかどうかは、私の知ったことじゃない」と笑い

ながら語る。


 だが、島田は医師の診察の結果を聞いたことを報告す

る。


 それは大塚が桐子と肉体関係を持ったことを立証する

決定的な事柄だった。


 桐子が「レイプされた」と告発した。


 大塚がいかに否定しようともー事実は誘惑されたのだ

がーそのことは聞いてもらえず、強姦犯人として罪を問わ

れる身となり、抗弁をすれば裁かれる身となっていた。

 


 大塚は桐子の誘惑に乗って、罠に嵌められたことを知

った。

 

 島田は今大塚が関係している事件から手を引き、弁護

士を辞職すれば、偽証教唆罪は成立しないことを説き、

内々に来てもらったことと辞表の提出の勧めは、大先輩

大塚へのせめてもの便宜であることを語る。


 
崩壊美の大塚  


 大塚欣三は弁護士を辞めざるを得ない状況にあった。


 法律家・弁護士の権威としての名声・栄光は一通の手

紙によって、粉砕し崩れ落ちていった。


 ☆崩壊・逆転の美☆


 検事の部屋の描写は重く深い。


 滝沢修と内藤武敏の白熱の演技合戦が迫力豊かだ。


 内藤の島田は、桐子の手紙を落ち着いた声で読む。


 その静かな口調が、桐子の恐るべき計画を伝えるもの

となっている。


 滝沢の大塚が、手紙を聞く間、眼鏡を固く握る仕種を

していることも印象的だ。


 大塚は桐子と肉体関係を持った。


 「先生が好き」と語って抱き付いてきた桐子。


 桐子は大塚に甘美な夢を見させて、僥倖で感動させ、

幸福感をたっぷり味あわせた。


 大塚は内心で「私はモテる」という自尊心が更に強く

磨かれたと思う。


 だが、それは桐子が周到に用意した策謀だった。

 

 自身の純潔を犠牲にして、大塚と肉体関係を持って、

彼に「レイプされた」という事実を打ち出したのだ。


 桐子の恐るべき作戦であった。


 大塚は桐子の身体を奪ったと言われても、抗弁でき

なかった。


  いかに「レイプじゃない。彼女に誘惑されたんだ」と

事実を主張しようとも、桐子が提出した医学的証拠は

処女が男性と肉体関係を持ったことを示し、その男性

が大塚ただ一人であることを明かすものだった。


 可愛い小悪魔桐子の復讐により、大塚は全てを失っ

た。


 手紙の中の「仮面を剥ぐ」という表現に、「法律の権威」

と呼ばれる大塚の名声・肩書・栄光を粉砕しようとする

桐子の怨念と憎悪がある。


 一夜の夢の後に来る全てを失う悪夢。


 この大逆転を大塚は味わう。


 日本の高名な弁護士としての名誉が崩れ去る。最愛

のひと河野径子を救いたいという方法も無くなってしま

った。。


 大塚は無言で笑う。


 その笑いに、策謀に嵌められた者の悲しみがあった。



 滝沢修の笑いに、大塚欣三の悲しみの全てが集約さ

れ明かされていることを思った。

 

 



                              合掌