霧の旗(十)愛煙家のサウスポー | 俺の命はウルトラ・アイ

霧の旗(十)愛煙家のサウスポー

 『霧の旗』

 映画 111分 白黒

 昭和四十年(1965年)五月二十八日公開

 製作国 日本

 制作 松竹

 白黒 111分


 原作 松本清張

 脚本 橋本忍


 倍賞千恵子(リエこと柳田桐子)


 

 滝沢修(大塚欽三)

 新珠三千代(河野径子)


 川津祐介(杉田健一)
 近藤洋介(阿部幸一)

 市原悦子(信子) 

 阿部寿美子(「海草」のマダム)

 河原崎次郎(山上)  



 撮影 高羽哲夫

 音楽 林光


 監督  山田洋次


☆☆☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・

台詞の引用は研究・学習の為です。


 松竹様におかれましては、お許しと

御理解を賜りますようお願い申し上げ

ます。

☆☆平成二十五年(2013年)十二月二

   十一日 東京国立近代美術館フィ

   ルムセンターにて鑑賞☆☆

  

 

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大塚 径子


 箱根のホテルで大塚欽三と河野径子は逢瀬を

楽しみ愛を確かめ合っていた。


 大塚には妻がいるが、径子を深く愛している。

径子にとっても大塚との恋が生き甲斐だ。


  径子「何を見てらっしゃるの?」


  大塚「霧だ。」


  径子「風邪引きますよ。」



  大塚「君。霧は音を立てて流れるって言う

      けど、知ってる?」



  径子「存じませんわ。」


  二人はレストランで豪華な食事を取っていた。


  ボーイが近づき径子に「東京からのお客様」が

 来たことを知らせる。


 径子はデートを邪魔されたことに不快な気持

ちを露にするが、大塚は「行ってあげるように」と

計らう。


 東京から来た客とは杉田健一だった。


 彼は何か強く径子に訴えているようだ。


 大塚が見つめると、健一は敵意を露にして睨み

つけ、径子に対して不満を示すように、怒った姿勢

のまま東京に帰って行った。


 東京に着いた健一は泥酔したまま、海草に入る。


 信子が健一の介抱をしようとするが、「いいから、

いいから」と制される。


 リエこと桐子を呼び止めた健一は電話をさせる。


 彼は大塚の自宅の電話番号を知りたがってい

た。


 ママが健一を叱り、御店を欠勤したことを注意す

る。


 ドアが開いて、サングラスをかけた長身の男性が

入ってきた。


 信子が「山上さん」と呼んだ。男の名字は山上だ。


 山上「ちょっと話があるんだ」


 健一は承知する。


 彼はリエこと桐子に山上を「九州で同郷」の男

性であると紹介する。


 山上は元プロ野球選手で二軍で将来を嘱望

されていたが、自分から辞めてしまったという。


 桐子は杉田の話を笑顔で落ち着いた様子で

じっと聞く。


 山上は派手なライターで煙草を吸って大きく

吹かした。


 ☆霧のなかの人々☆


 大塚と径子のデートシーンは、不倫という関わり

で強く燃え上がる愛を確かめ合う二人の絆を語る。


 滝沢修と新珠三千代が大人の恋を重厚・繊細に

伝えてくれる。


 二人が箱根のレストランで食事を楽しんでいると

健一が邪魔に入り、大塚に対して露骨に嫉妬心を

見せて径子への思いを露にする。


 海草の女性達の強さと逞しさが生き生きと描かれ

る。


 信子は愛する健一の介抱をしようとして邪慳にさ

れる。冷たくされても健一を愛し続ける心は温かい。


 市原悦子の母性と川津祐介の色気が光る。


 倍賞千恵子がこのシーンにおいても静かな美貌

を知的に輝かせる。


 山上の登場である。


 左利きの男性でプロ野球選手として活躍しサウ

スポーとして将来の大成を望まれていたが、自分

から辞めてしまい、現在は豪華な装飾の付いた

ライターで渋く紫煙をくゆらせる。


 山上を渋く演じる人は河原崎次郎である。


 昭和十六年(1941年)一月十八日生まれ。


 倍賞千恵子とは同年である。


 次郎は、山田洋次監督作品『いいかげん馬鹿』

『馬鹿が戦車でやってくる』でヒロインを勤めた岩

下志麻の従兄弟である。


 本作では山上の凄みと迫力を静かな仕種や煙草

の吸い方で鋭く見せている。


 桐子と山上の対話シーンは迫力豊かである。



                        文中敬称略




                            合掌