男はつらいよ 望郷篇 | 俺の命はウルトラ・アイ

男はつらいよ 望郷篇

『男はつらいよ 望郷篇』

映画 トーキー 88分 カラー(一部白黒)

昭和四十五年(1970年)八月二十六日公開

製作国 日本

製作 松竹

 

 

製作 小角恒雄

企画 高島恒夫

    小林俊一

脚本 山田洋次

    宮崎晃

 

撮影 高羽哲夫

美術 佐藤公信

音楽 山本直純

 

録音 小尾幸魚

調音 松本隆司

照明 青木好文

編集 石井巌

監督助手 宮崎晃

 

装置 小島勝男

装飾 町田武

進行 福山正幸

衣装 東京衣装

現像 東京現像所

製作主任 峰順一

 

 

主題歌 『男はつらいよ』

      クラウンレコード

作詞 星野哲郎

作曲 山本直純

歌  渥美清

協力 柴又神明会

 

 

 

出演

 

渥美清(車寅次郎)

 

倍賞千恵子(諏訪さくら)

長山藍子(三浦節子)

 

井川比佐志(木村剛)

前田吟(諏訪博)

津坂匡章(川又登)

松山省二(石田澄雄)

 

三崎千恵子(車つね)

太宰久雄(蛸社長こと桂梅太郎)

杉山とく子(三浦富子)

佐藤蛾次郎(源公こと源吉)

木田三千雄(竜岡正吉)

谷村昌彦(正吉の子分)

 

大塚君代

谷よしの(旅館の女中)

光映子

山田百合子

高島礼美子

二宮良一

山本幸栄

 

石井愃一

大杉侃二郎

市山達己

尾和義三郎

高木信彦

樫明男

みずの皓作

中村はやと(諏訪満男)

 

 

笠智衆(御前様)

森川信(車竜造)

 

原作・監督 山田洋次

 

津坂匡章→秋野太作

 

松山省二→松山政路

 

山田洋次=山田よしお

 令和二年(2020年)六月二十九日

大阪ステーションシティシネマシアター5

F-16席にて鑑賞

 車寅次郎は叔父車竜造が死亡した光景

を見た。叔父不孝を詫び後悔する寅さん。

 はっと目が覚める。「夢か」と感じつつも

冷汗をかき不安を覚えて柴又のとらやに

電話する。

 

 おばちゃんの車つねが電話を取り、竜造

おいちゃんに知らせる。おいちゃんは悪戯

をしようと考え、「俺が危ない」と言ってやれ

と述べ、おばちゃんも悪戯に同調する。

 

 おいちゃんが重篤と知らされ、寅さんは「正

夢だったか」と悲しみ、葬儀の用意を為しつつ

とらやに帰ると、おいちゃんが寝ていた。

 寅さんはこれまでの不孝を深く詫びる。だが

芝居であることが明かされた。

 御前様が現れる。寅次郎が竜造の死の芝

居を事実と思い込んでかけた電話により、とら

やに葬儀屋が来た。竜造の機嫌は悪くなり、

寅次郎と口論になり、紐で首を括ろうとして、つ

ねやさくらに止められる。怒る寅さんは社長と

も喧嘩し暴れる。

 

 舎弟の川又登から恩義ある竜岡正吉親分が

重篤と聞いた寅次郎は、北海道の病院に行き、

看取りたいと望むが旅費が無かった。御前様は

とらやに寅から金を貸して欲しいと頼まれたが

断ったことを告げた。寅次郎は妹さくらに頼む。

 

 さくらは渡世の義理より真面目な仕事が大事

と説き、「お兄ちゃん。年取ったら後悔するわよ」

と諭される。寅次郎はかつて渡した甥満男への

誕生祝いのお金五千円をさくらから貰い、舎登

と北海道の病院を尋ねて見舞いに行く。

 

 素人相撲で大関迄張り、羽振りの良い暮らし

をしていた正吉が病院の小さなベッドに寝てい

ることはないだろうと思った寅さんだが、親分は

一人の子分の看病を受けながら寝ていた。

 

 愛人に産ませて捨ててしまった息子のことがき

がかりの正吉は泣いて「会いてえ」と求める。寅

次郎は親分の息子石田澄雄を必ず病室に連れ

て会わせてやるよと約束する。

 

 澄雄は国鉄の機関士として働いていた。寅

さんと登が事情を話し、お父さんに会ってあげ

てくれと頼むと、澄雄は無視して機関車の仕事

に取り組み、機関車を走らせた。

 

 寅と登はタクシーで追う。追いついて、澄雄

に懇願する。澄雄は少年時代父を尋ねたが、

父がお店の女性達を殴っている光景を見て

失望し二度と会わないと決めたと覚悟を語っ

た。澄雄の気持ちを聞き、寅さんと登は病院

に戻り、正吉親分の死を見た。

 浮草稼業のやくざは辞めようと決めた寅さん

は、真面目に地道に働くことを決める。

 

 

 就職は厳しかったが、浦安の三浦富子・節子

親子の豆腐屋三七十屋(みなとや)に入った寅

さんは仕事に懸命に取り組み、美しい節子への

恋心も燃やした。

 

 寅さんの熱意ある仕事は三浦親子に絶賛さ

れる。

 さくらは三七十屋を尋ねて兄が真面目に勤務

している光景を見る。

 節子に会ったさくらはお礼を言い、節子も寅

さんのおかげで助かっていますと感謝を述べる。

 三七十屋に豆腐を買いに来る国鉄職員木村

剛はある日節子に「時間良いか」と何事かを

相談した。

 節子と富子は言い争う。御前様に怒られ題経

寺をクビになった源公も三七十屋に住み込む事

になった。

 

 月の夜。節子は寅さんに「ずっとお店に居ても

らえないかしら」と優しい言葉を語ってくれた。

 

 寅さんは感激した。

 

 源吉は「プロポーズでんな」と祝福する。

 

 

 花火の夜。

 

 三浦家の団欒に寅さんと源ちゃんも加わり、西

瓜を持って剛も参加する。

 

 節子はお店に寅さんが居てくれることになったの

と感謝する。寅さんは心の底から感動し、節子との

結婚生活への夢に燃えた。

 その時剛が「宜しくお願いします」と挨拶した。

 

 ☆機関車・豆腐・花火☆

 

 山田洋次監督は『男はつらいよ』映画版第一作、

第二作『続男はつらいよ』の原作・脚本・監督を担

当した。第三作『男はつらいよ フーテンの寅』、第

四作『新 男はつらいよ』は原作・脚本に徹した。

 第三作は森崎東、第四作は小林俊一が、それぞ

れ監督を担当した。

 僕なりの寅さんを追求した山田洋次は第五作『望

郷篇』を完結篇として製作することを考え、テレビ版

『男はつらいよ』において車さくら後に諏訪さくら役・

ナレーターの長山藍子をマドンナ節子、諏訪博

士役の井川比佐志を恋敵の木村剛、車つね役の

杉山とく子を節子の母富子にオファーし、三人

が映画版に出演する事が成り立ち、シリーズ集

大成が為された。

 

 冒頭の夢から重い。寅次郎がおいちゃんに不孝を

したと後悔し、人生を見つめ直す。

 

 おいちゃんが死ぬ夢を見て叔父夫婦への不孝

を思うが、どうしてもうまく行かず争ってしまう。

 

 渥美清と森川信が、深い絆で繋がり合っていても

喧嘩してしまう甥と叔父の関りを熱く表現する。

 

 三崎千恵子がおばちゃんの情を力強く演じる。

 

 さくらの厳しい叱責を聞き、浮草稼業のテキ屋

ではなくて真面目に労働せねばと感じる寅。

 

 恩義ある正吉親分の切ない思いを聞き、親子

対顔をかなえようとするが、澄雄の悲しみを聞き

その心ももっともと思う。

 機関車の深い映像が心を打つ。澄雄が少年時

代に歩んだ光景を映す白黒映像が強烈な印象を

残す。

 木田三千雄が正吉の悲しみをしみじみと伝え

る。

 谷村昌彦が正吉親分を守る子分をじっくりと

演じる。

 

 正吉親分の死を見て、やくざの足を洗い労働者

として生きることを決める寅さん。

 

 前半は重厚で深い物語が語られ、後半は寅さん

の労働への想いが軽やかなリズムで展開する。

 

 三七十屋での熱心な勤務が讃えられお店も繁盛

する。

 

 さくらが三七十屋を訪問し兄や節子と出会う。

 

 倍賞千恵子と長山藍子の歴史的対面に感激し

た。

 

 杉山とく子の節子、井川比佐志の剛の存在感が

『男はつらいよ』の歴史を集成する。

 

 節子の暖かい言葉を聞き、有頂天になる寅さ

ん。

 

 花火の夜。三浦家の団欒では、渥美清・長山

藍子・杉山とく子・井川比佐志・佐藤蛾次郎が

集い、テレビ版『男はつらいよ』のレギュラーが

夕食を食べ語り合う。リアルタイムでテレビ版を

視聴していた先輩達の感慨は深いものだったと

思う。

 

 ここで襲い掛かってくる失恋の痛み。

 

 山田洋次の完璧な構成に痺れ感嘆する。

 

 寅さんの失恋の重さが、観客の胸にも堪える。

 

 笑顔で悲しみを隠す寅さんに胸が熱くなる。

 

 一方とらやでは、みんなが花火に感動する。

 

 寅次郎は笑顔で現れ、社長と喧嘩して去って

行く。さくらが懸命に話を聞くが、地道な暮らしは

性に合わねえという寅さん。

 

 浴衣姿の倍賞千恵子の美しさは言葉や文字を

越えている。

 

 渥美清の切ない笑顔に心を打たれた。

 

 寅次郎と登は再会し仁義を切って笑顔で語り

合い、二人を見守るように背後に機関車が走

って行く。

 

 テレビ版『男はつらいよ』は東京の電車のシー

ンから始まった。

 

 機関車の走る光景を見やりつつ、舎弟登ととも

に売を励み、節子への失恋の痛みも笑顔で隠し、

男車寅次郎は元気に熱く生きて行く。

 

 『男はつらいよ』の歴史を大成し、幕を閉じるに

相応しいラストであった。ここに『男はつらいよ』

は完結篇を迎え完璧なラストを語り明かした。

 

 映画版の寅さんは失恋の痛手を心の底にしま

って、テキ屋として懸命に生きるという道を山田洋

次は示した。

 

 

 物語は見事な終わり方を明かし、テレビ・映

画の寅さんシリーズは此処に終幕を迎えたので

ある。

 

 完璧な傑作である。

 

 だが、山田洋次に誤算があった。

 

 映画は大ヒットを記録し、観客への寅さん愛は

更に熱くなり、松竹は映画『男はつらいよ』シリー

ズを終えられなくなってしまった。

 

 海岸で寅次郎と登が遊び、背後に機関車が通

る。

 

 

 

 シリーズとしては第六作『男はつらいよ 純情

篇』を始めとして続篇は続いて行くのだが、登と

ふざけ合いながら海に小石を投げる寅に、人情

喜劇物語の集大成を感じた。

 

 

                          合掌