※登場する人物・団体名等は、架空のもので実在しません。
臥龍岡が電話をかけた相手は、十段戦の協賛社であった。
「臥龍岡ですが、ちょっと相談がありまして。」
「臥龍岡先生ですか。少しお持ちいただけますか。担当部長にお繋ぎいたします。」
「はい、ありがとうございます。」
「臥龍岡先生、担当部長の佐々山でございます。」
「佐々山さん、ご無沙汰をしております。実はお願いがあって電話させていただきました。」「はい、十段戦のタイトル戦も近くなりましたので、その件でのことでしょうか。」
「ええ、そうです。雲母四段はご存知ですか。」
「はい、今や将棋界の時の人ですから。」
「実は、タイトル戦の第一局の記録係に彼はどうかなと思いまして。」
「おお~、それは素晴らしい案ですねえ。宣伝効果も非常に高いと思います。」
「では、私からの提案というのは極秘で、佐々山さんから連合会長に依頼してくださいませ んか。」
「わかりました。喜んで対応させていただきます。貴重なご提案、ありがとうございます。」「いえいえ、では、よろしくお願いします。」臥龍岡は、電話を切ると、不敵な笑いを堪えながら呟いた。
「おそらく、思い通りに記録係になるだろう。大恥をかかせてやる。天国から地獄へ真っ逆 さまに落ちるような大恥を・・・」
陰謀が忍び寄る中、雲母は、連勝海道を突き進んでいた。水原教授から提供されたスーパーソフトのでの研究が功を奏している形だ。ランキング戦や各種棋戦でも勝ちまくっている。棋士仲間からは、
「最近の雲母さんは、強すぎる。」
「昇級してから、人が変わったようように思えるくらいだ。」
と噂になるほどであった。
この日雲母は、十連勝目がかかった十段戦予選決勝の対局を将棋会館で戦っていた。本局に勝てば、本戦トーナメントに進むことができる。局面は中盤の難所を迎え、手が広い悩ましいものであった。
(待てよ。この局面は・・・。)
雲母は、局面の打開策を掴みかけていた。
(一筋からの歩攻めだ!)
意を決した雲母は、駒音高く一筋の歩を突いた。
【これまでの主な登場人物】
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