※登場する人物・団体名等は、架空のもので実在しません。
人生を賭けた三番勝負
雲母の「三番勝負」が始まった。第一局の前日、雲母は東部将棋会館近くのビジネスホテルに泊まった。よく利用してきたホテルは、繁華街などもない殺風景な場所に位置していた。切羽詰まった雲母には、ちょうどいい環境ではあった。
雲母の棋風は、純粋な居飛車党である。将棋を指し始めて以来、先手後手に関係なく、初手は飛車先の歩と決まっていた。
「明日は、先手を生かして角換わりに誘導するかなあ。相手次第ではあるが・・・。」
雲母はそうつぶやくと、指し手の変化を確認するのだった。夕食に出かけようと部屋を出ようとすると、携帯が呼び止めた。凛子からの着信だった。
「もしもし、凜ちゃん。どうした?」
「岳ちゃん、夕食終わったあ?」
「まだだよ。今食べに行こうとしていたところだよ。」
「そう。ナイスタイミング。」
「一緒に食事しない?」
「おお、いいねえ。」
「じゃあ、決まりね。」
「凜ちゃん、今どこにいるの?」
「シティホテルのロビーよ。」
「えー。同じホテルじゃん!」
「私も、明日対局なのよ。」
「そうかあ。じゃあ、直ぐに行くよ。」
「私は、大きめの帽子とサングラス。白のジーンズとピンクのパーカーよ。」
「了解!」
凛子は売れっ子の女流棋士。変装は得意中の得意だ。一方、雲母は注目される棋士でない。それでも、一応サングラスだけはかけることにした。
【これまでの登場人物】
雲母 岳 35歳独身 ランキング外棋士四段 ランキング外所属10年目で引退が迫る |
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町田 凛子 30歳独身 女流棋士 雲母とは、錬成会の同期 雲母のランキング昇格を心から願う存在 居酒屋「凜」の女将 |
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臥龍岡 拓磨 名人位、龍将位、十段位の三つを保持している棋界の第一人者 雲母とは錬成会の同期 |
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