※登場する人物・団体名等は、架空のもので実在しません。
一ヶ月半後、東京将棋会館は、朝から多くの記者で混雑していた。今日は、雲母の三十連勝という大記録が達成するかの世紀の大一番が行われる。前局で二十九連勝のタイ記録を達成した雲母は、まだタクシーの中であった。
「もしもし、凜ちゃん、どうした?」
「岳ちゃん、今どこ?」
「タクシーの中だよ。もうすぐ会館に着くところだよ。」
「そう、ちょうどよかったわ。会館のロビーは、取材の記者でごった返しているの。」
「そうかあ、面倒だなあ。」
「タクシーを会館の裏手に止めてもらって、非常階段から2階へいくというのはどうかしら。」「おお、いいねえ。それがいいよ。」
「じゃあ、非常口の2階の鍵を開けておくね。」
「了解!」
凛子の機転のお陰で、記者たちを避け、無事に2階にたどり着いた雲母は、その足で会長室へと向かった。
「先生、雲母です。」
「おう、どうぞ入って。」
「失礼します。」
「ロビーは大変だっただろう。朝から会館の職員も大変そうだったよ。」
「実は、凜ちゃんのお陰で、非常階段から・・・・」
「へえ。そりゃまた、妙手だねえ。記者さんたちは、君にインタビューしたいと言って、ずっと待っているからねえ。はは、こりゃ愉快だねえ。」
「本当に助かりました。では、対局室に向かいます。」
「いよいよだね。記録のことは気にせずに、伸び伸びと自分の将棋を指したらいい。結果は、 自ずと付いてくるものだよ。」
「はい。一所懸命の精神で臨みます。」
「うん。あっそうだ、ランキング戦の決勝に勝ち上がったから、昇段昇級だねえ。」
「はい。五段になれました。」
「じゃあ、健闘をいのるよ。雲母五段!」会長室を出た雲母は、三階の対局室へと向かった。途中、棋士仲間から激励の声をかけられた。
「雲母さん、大一番ですね。控え室で勉強させていただきます。頑張ってください。」
「ありがとうございます。兎に角、いい将棋を指すように集中します。」
対局室に入った雲母は、下座へ座り身支度を調えていた。そこへ、対戦相手の田中虎丸五段が入室してきた。下座に座った雲母を見て、
「雲母先生、そこは私が座る場所ですから、どうぞ上座へ・・。」
「何をおっしゃいますか、田中先生の方が上位ですから。私はここで。」
暫く押し問答があったが、雲母が動かないので、田中五段は渋々と上座に座った。田中五段にしてみれば、年齢が上で同じ段位だからということから、気を遣ったのであろう。しかし、雲母からしてみれば、相手は自分よりも早くこのランキングにいる先輩棋士である。下座に座るのはむしろ自然であった。奥ゆかしいやりとりがあったが、午前九時、運命の対局が始まった。この一局は、将棋史に残る妙手が誕生する。果たして、この妙手を指したのは田中五段か、それとも雲母なのか。そして、三十連勝の行方は。
先手の雲母は、初手26歩。ごて、34歩から先手の横歩取りへと進んだ。将棋は、中盤にかけて金銀の交換から、互いの飛車角がにらみ合う力戦となっていった。
新作です。オリジナル・ジャズバラードです。
【これまでの主な登場人物】
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