将棋小説「背徳の棋譜」人生を賭けた三番勝負⑨ | 藤井七冠応援ブログ

藤井七冠応援ブログ

藤井七冠の対局速報などを発信しています。

※登場する人物・団体名等は、架空のもので実在しません。

 

  一週間後、人生を賭けた三番勝負の第二局が始まろうとしていた。対戦相手は、橋部八段。Aランクに所属した経験を持つ強豪である。気さくな人柄で、ファンも多い。また、テレビ将棋の解説も評判が良く、引っ張りだこの一流棋士である。はっきり言って、今回は非常に厳しい対戦だ。
 午前十時、対局が始まった。先手は雲母。いつものようにお茶を一口して、飛車先の歩を突いた。後手も飛車先を突き、戦型は相懸かりへと進んだ。序盤は、既定路線のような手順で進んだ。しかし、雲母の飛車の転回の構想が拙く、昼食休憩前の形勢は後手よし。雲母は、昼食休憩も考えたいと思い、十二時まで考え続けた。
「拙い。このままではじり貧だ・・・。」

 ラーメンをすすりながら、局面の難しさに頭が痛くなる雲母。ここまでなのかという思いが過る中、休憩時間は終わりを告げる。起死回生の一手は思い浮かぶことなく、粘りの手を指さざるを得ない雲母であった。
 昼食休憩後も、形勢は一向に雲母に傾く様子はなかった。しかし、簡単に土俵を割るわけにはいかない。雲母は、形勢が悪いながらも、懸命に逆転の棋界を待った。
 時刻は午後九時を回った。双方の持ち時間が切れ、一分将棋になっていたが、形勢は後手の勝勢で、雲母の将棋人生も終わりに近づいていた。局面は、七筋の飛頭に香車を打たれると、先手の受けがないというところだった。
「ここまでか・・・」
雲母は、背広を着て正座に戻り、後手の着手を静かに待った。記録係の秒読みが進む。
「五十秒、一、二、三・・・」
橋部八段が駒台から駒を掴み、運命の一手が打ち下ろされた。

 

 

 

 

【これまでの主な登場人物】

 

雲母 岳
35歳独身
ランキング外棋士四段
ランキング外所属10年目で引退が迫る





 
町田 凛子
30歳独身
女流棋士
雲母とは、錬成会の同期
雲母のランキング昇格を心から願う存在
居酒屋「凜」の女将


 
臥龍岡 拓磨
名人位、龍将位、十段位の三つを保持している棋界の第一人者
雲母とは錬成会の同期






 
水原 連
元錬成会三段
東都大学の准教授
将棋AIソフト「水蓮」の作者
雲母の後輩






 

 

 

写真ブログもよろしくお願いします