将棋小説「背徳の棋譜」人生を賭けた三番勝負④ | 藤井八冠応援ブログ

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※登場する人物・団体名等は、架空のもので実在しません。

 

 時刻は十一時五十五分。手番の雲母は、昼食休憩に入ることを告げた。昼食時間中もじっくり考えたいと思ったのだ。
 雲母の今日の勝負飯は、「カツ丼定食」。普段は「幕の内定食」を注文するのだが、この日は験担ぎで「カツ」に思いをかぶせたのであった。カツ丼を食べながらも、雲母の頭の中は局面の図で占領されていた。対局再開まであと一五分となったときだった。雲母は、局面をリードできる妙手を発見した。飛車の利きを生かした54銀である。放置すれば、63銀の只捨てに、同金ならば72角の飛車金両取りの強烈な一手がある。後手は、この順を嫌ってくるに違いないと思った。
 午後十三時、対局再開。雲母は予定通り、54銀と打った。後手は、想定名とばかりにノータイムで七筋の歩を突いた。雲母は着手の早さに驚いたが、自分の読みを信じて、ノータイムで63銀成りと踏み込んだ。同金に72角打つ。お互いにノータイムでの着手だ。しかし、この局面で後手の手が止まった。後手の考慮時間は、1時間を超えた。明らかに、後手の読み筋に誤算があったことを物語る長考だった。九〇分の考慮で、後手は飛車を九筋に逃げた。雲母は、悠然と金を取って角を成った。
 時刻は午後七時を回った。形勢は、先手の勝勢であった。記録係の声が響いた。
「笹野七段、残り時間一分です。」
この声を聞いた笹野七段は、静かに投了を告げた。雲母は、深々と頭を下げた。内容は、先手の圧勝であった。 

 

 

 

 

【これまでの登場人物】

 

雲母 岳
35歳独身
ランキング外棋士四段
ランキング外所属10年目で引退が迫る





 
町田 凛子
30歳独身
女流棋士
雲母とは、錬成会の同期
雲母のランキング昇格を心から願う存在
居酒屋「凜」の女将


 
臥龍岡 拓磨
名人位、龍将位、十段位の三つを保持している棋界の第一人者
雲母とは錬成会の同期






 

 

 

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