将棋小説「背徳の棋譜」人生を賭けた三番勝負⑤ | 藤井八冠応援ブログ

藤井八冠応援ブログ

藤井八冠の対局速報などを発信しています。

※登場する人物・団体名等は、架空のもので実在しません。

 

 午後九時の過ぎたところで感想戦が終わり、雲母の「三番勝負」の第一局が終わった。
「何とか、首が繋がったか。あと二番・・・。」
心地よい疲れを感じながら、雲母は東部将棋会館を後にした。
 雲母は、報告を兼ねて、居酒屋「凜」に向かってタクシーを拾おうとした。その時、背後から
「岳先輩!」
と、懐かしい味のある呼び名が足を止めた。雲母が振り返ると、そこには懐かしい人物が立っていた。
「おお~、水原君じゃないか!。久しぶりだねえ。こんなところで会うなんて、奇遇だねえ。」
「そうですねえ。先輩もお元気そうで何よりです。」
「一〇年ぶりの再会じゃないかなあ!」
「そんなになりますかあ。」
「いやあ、嬉しい再会だなあ。水原君、時間があるなら、ちょっと付き合わないか?」
「ええ、喜んで!」
 二人は、居酒屋「凜」へとタクシーを走らせた。雲母は、今日の勝利と水原との再会を凛子と共に喜びたいと心から思った。
「水原君、さあ、着いたよ。声をかけるから、それまで待ってて。」
「はい。わかりました。何か楽しそうですねえ。」
「そうとも、こんなに楽しいことはないよ!」
雲母は、暖簾をくぐり中に入っていった。
「凜ちゃん、お疲れ!」
「岳ちゃん、お帰りなさい。どうだったの?」
「白星だよ~。」
「きゃあ、良かった!嬉しい。」
「ありがとう。凜ちゃん、今日は珍しい人と一緒なんだ。」
「え~、誰かしら。」
「どうぞ、入って!」
雲母の声に促され、水原は元気よく声をあげた。
「こんばんは、凛子先輩!」
「え~、水原君?」
「そうですよ~。ご無沙汰でーす!」
「久しぶりねえ。元気だった?」
「はい、何とか頑張って生きてきました!」
「まあ、随分大げさなこと!」
三人は、顔を見合わせて大笑いした。思いもかけない水原との再会だったが、この再会が雲母の棋士人生を大きく変えることになるのだ。正に、奇想天外なストーリーの幕開けであった。
「水原君は今何をしているの?」
「僕は、今、こんなところで働いています。」
そう言って、水原は二人に名刺を渡した。名刺には、東都大学情報技術学部 准教授という肩書きが印刷されていた。その肩書きを見た二人は、同時に大きな声をあげた。
「東都大学の准教授。えー。びっくりだなあ。」
雲母は、水原が日本最高峰の大学の准教授と知って腰が抜けそうになった。凛子も、あまりの転身ぶりに言葉を失った。
「水原君って、失礼な呼び方ねえ。これからは水原先生って呼ばなくちゃ。」
凛子は申し訳なさそうに言った。
「何言ってんですか。これまで通りでお願いしますよ。」
「了解しました。水原君でいきましょう。」
凛子の言葉に、三人は大笑いした。再会を祝して乾杯した三人は、十年間の空白を埋めるように語り合った。

 

 

 

 

【これまでの主な登場人物】

 

雲母 岳
35歳独身
ランキング外棋士四段
ランキング外所属10年目で引退が迫る





 
町田 凛子
30歳独身
女流棋士
雲母とは、錬成会の同期
雲母のランキング昇格を心から願う存在
居酒屋「凜」の女将


 
臥龍岡 拓磨
名人位、龍将位、十段位の三つを保持している棋界の第一人者
雲母とは錬成会の同期






 
水原 連
元錬成会三段
東都大学の准教授
将棋AIソフト「水蓮」の作者
雲母の後輩






 

 

 

写真ブログもよろしくお願いします