※登場する人物・団体名等は、架空のもので実在しません。
店には、多くの棋士仲間が集まっていた。決して広いとは言えない店内に、よくぞまあこれだけ集まったものだ。棋士仲間の一人が興奮気味に言った。
「今日は、テレビ取材と聞いていましたので、きっと、お二人ともお見えになると思ってい ました。」
「今日は、雲母さんのお祝いに、みんなで押しかけてきました。」
「雲母さん、おめでとうございます!」
その言葉を合図に、店内は再び歓声に包まれた。この光景に、中根会長と雲母はぽかーんと口を開けたままであった。
「中根会長、一言お願いします!」
「ああ、いやあ~びっくりしたなあ。皆さん、雲母君の昇級をこんなに祝ってもらって、本当にありがとう。感無量だよ・・・」
「さあ、主役の登場です。雲母さん、一言お願いします!」
「いやあ、とにかくびっくりです。こんなにたくさんの方々がいらっしゃるとは思ってもいませんでしたから。みなさん、本当にありがとうございます。お陰様で、やっと地獄を抜け出すことができました。」
雲母は、深々と頭を下げた。その言葉に、再び大きな歓声が上がった。すると、中根会長が立ち上がって言った。
「諸君、今日は本当にありがとう。今夜は私の奢りだあ~楽しくやろうじゃないか!」
その言葉にうぉ~という歓声がまた上がった。
「さあ、乾杯しよう。雲母君の起こした奇跡と、これからの活躍に、そして、こうして集まってくれた諸君の益々の活躍を祈念して、カンパーイ!」
「乾杯!!」
その後、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎとなったのだった。そんな中、雲母は凛子にそっと話しかけた。
「凜ちゃん、やったよ。」
「岳ちゃん、おめでとう!この日をどれだけ待ったか・・・」
そう言うと、凛子は堪えていたのか、大粒の涙をぽろぽろと流したのだった。
「凜ちゃん、本当にありがとう。」
凛子は、ただただ何度も頷くだけだった。
【これまでの主な登場人物】
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