将棋小説「背徳の棋譜」人生を賭けた三番勝負⑪ | 藤井七冠応援ブログ

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※登場する人物・団体名等は、架空のもので実在しません。

 

 雲母は、凛子の店の前に立った。しかし、何となく入るには気が進まなかったが、意を決して、暖簾をくぐった。
「岳ちゃん!ダメだったの・・・その顔つきからすると・・・。」
「白星だよ・・・。」
「よかったあ。ダメだったのかと思ったわ。勝ったのに、まるで敗者のような顔・・・。何 かあったの?」
 雲母は、ことの顛末を詳しく凛子に話した。そして、深いため息をついた。
「そうだったの・・・。」
 凛子は、雲母の複雑な心境が、同じ勝負師として深く理解できた。そして、敢えていつものように明るい声で言った。
「岳ちゃん、今日の勝負は、将棋の神様が『雲母よ、お前はここで終わる人間ではないだろう。』って、チャンスをくれたのよ。将棋の神様にお礼を言わなくちゃねえ。」
 努めて明るく接してくれている凛子の気持ちが、雲母には痛いほどにわかった。
「そうだなあ。凜ちゃんの言う通りだよなあ・・・・」
「さあ、飲みましょう。嫌なことは飲んで吹き飛ばすのよ!」
「よーし、飲もう!白星に乾杯だあ!」
「今夜は貸し切り!」
 そう言って、凛子は暖簾を取り込んでしまった。凛子は、今日の結果が気になって何も手がつけられない状態だった。だから、嫌な出来事にもかかわらず、報告に来てくれたことが嬉しくて仕方なかったのだ。どのくらい時間が経ったのだろう。雲母は、ほろ酔い気分でカウンターで寝てしまっていた。凛子は、その寝顔を見ながら呟いた。
「岳ちゃん、私は何があってもあなたの見方よ。あなたは、私にとって一番大切な人。頑張ってね・・・。」
そう言った瞬間、雲母が呟いた。
「凜ちゃん、ありがとね。大好きだよ・・・ムニャムャ・・・。」
「えっ、岳ちゃん・・・。寝言かあ・・・。でも最高に幸せな言葉よ!」
凛子の心は、何とも言えない暖かさに包まれていた。

 

 

 

【これまでの主な登場人物】

 

雲母 岳
35歳独身
ランキング外棋士四段
ランキング外所属10年目で引退が迫る





 
町田 凛子
30歳独身
女流棋士
雲母とは、錬成会の同期
雲母のランキング昇格を心から願う存在
居酒屋「凜」の女将


 
臥龍岡 拓磨
名人位、龍将位、十段位の三つを保持している棋界の第一人者
雲母とは錬成会の同期






 
水原 連
元錬成会三段
東都大学の准教授
将棋AIソフト「水蓮」の作者
雲母の後輩






 

中根 誠
将棋連合会会長
第20世名人
雲母の師匠






 

 

 

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