2502 :こんな細いのに"単一指向性" 「Probe-T u1」の試作完成まで | ShinさんのPA工作室 (Shin's PA workshop)

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管理人Shinは知財保護において個人による「特許」のようなものを好まず、「全公開」を旨とします。(巻末詳細)

 

 TODAY'S
 
   プロローグこんな細い「単一指向性」マイク見たことある?

 ! これは試作です

 

 

 

今年はまず無指向性MEMSマイク2個を使ってProbe-Tの単一指向性化Probe T-u1の試作から始めます。

 

先端部 6Φの単一指向性が実現できれば画期的、これが出来れば更に細いモノ(2mm~)も射程に入る、と「ドンキホーテか奇術師か」昨年から少しづつ仕込んできた方式の完成までを追う。

 

 

 

・無指向性+逆相無指向性=双指向性

・双指向性+無指向性=単一指向性

・双指向性+速度成分(逆相)の混合比=各種単一指向性

 

 

ならばMEMSマイクだって、ひとひねり加えれば簡単に「単一指向性」が実現するハズ・・・

 

昨年までにMEMS型の楽器用単一指向性クリップオンマイクは実現されましたが、その先へ進みます。

 

 

しかし「オフマイク狙い」の設計は一般コンデンサマイクでも「単一指向性」は設計難易度が高く、MEMSマイクでは「大きさ・質量・音響構造」により勝手が違い、はるかその上を行きます。

そしてツボを外すととんでもないマイクになる難しさがあります。

 

筆者は「一つの方式」に固執しません、MEMSマイクに向く方式はどれなのか、あらゆる方式の可能性を追求していきます。

 

 

 

6mm径で単一指向性をめざす

「単一指向性」マイクは一定以上の口径が必要、というのがこれまでの常識でした、しかし極細で作りたい・・・

 

 

「Probe T」の単一指向性化をめざして、試作1号機が完成。

「Probe T-u1」Knowles SPM0687LR5H-1を2個使用

 

 

 

 

 

完成したMEMS「スーパーカーディオイド」指向性マイクの実測ポーラパターン。 (赤線が最終形です)

 

 

 Knowles SPM0687LR5H-1 はMEMSマイク3巨頭の1つ。

(特徴)SN比:70dB、AOL:130dB SPL、約10Hzで‐3dBの低域特性。

さらにIM73A135V01に次ぐ小ささと、同MEMSでは構成上困難な「Single」動作ができることがKnowlesの「買い」です。

 

 

 

 

 

(特徴)

1.背面感度が前面比-6~-10dBまでを「ハイパーカーディオイド」、-10dB以上 -15dB程度を「スーパーカーディオイド」に分類されます。

 

従って本マイクは「スーパーカーディオイド」となります。

 

 

 

2.この例でウィンドスクリーン使用時に指向性能が悪化するのは、逆相関係にある2つの音穴に空気マスがまたがって与えられた結果と見ます。

このマイクでは背面穴は吹かれに強いため、事実上フロント側だけにすれば良く、短いウィンドスクリーンなら問題はなくなる。

その場合、2dB以内の感度上昇が得られる。

 

3.MEMSマイク独特の宿命的な20kHz付近の大きなピークはこの単一指向性化により「皆無」となり、40kHz程度までフラットになった。

 

注意一般家庭の比較的反射の少ない居間環境で5cmの小型SPを用い測定しました。

 

 

 

 

 

 

当初4個あった速度穴をふさいで、1個だけにした穴部分には特殊不織布を貼り、その音響抵抗によるイナータンス制御を突き詰めて仕上げました。

 

 

 

縦長ウィンドスクリーンを装着した様子

 

 

 

 

 

 

指向性・音響構造

 

 

 

 

 

 

 

 

指向性能のステップアップ V01

 

まずはここから手始め(V-01ステップ)

速度穴はノーマルな4個からスタート、データを取りながら銅テープでふさいでいく。

 

 

 

まずここからスタートです。

 

これでは変形双指向性です、指向性の調整はここからです・・・

ここから先は強烈な意志しか頼るものがありません。

 

 

 

指向性改善のため、次に背面穴(速度穴):2Φを減らしていきました。

4個の背面穴を2個、さらに1個にして指向性を比較してみました。

 

徐々に理想的な指向性へと変化していくのを確認しながら。

 

 

 

 

 


指向性能のステップアップ V02

 

 

(at.1kHz、音源よりマイク先端間20cmにて測定)

注)

0度~180度を30度スパンで7点測定、プロットしました。

プロット間の補正は「線形補間」と「スプライン補間」の中間を採用しました。

0度~180度間の実測値をミラーリングにて180度から360度(0度)を描きました。

 

 

 

 

  ここまでの指向性改善効果


(A):速度穴:(2Φ)を4個 2個に減らすことで指向性はやや改善されました。

「双指向性」でもなく、「ハイパーカーディオイド」とはやや異なるが、Nullポイント90°は40dB以上切れ、これはこれで使えそうなパターンではあるが・・・

 

 

 

(B):速度穴:1個にすると「ハイパーカーディオイド」として、ちょうどRCA-77DXL1L3ポジションと同様のところまでたどり着きましたが、「Null」が甘い。

 

この点は「単一指向性化」のひとつの到着ポイントではありますが筆者の目標からは未完成です。

 

4個開けた背面(速度)穴を銅テープで3個塞ぎ、1個だけにした。

 

 

PA実使用ではすっかり単一指向性マイクに見えるが、しかし1kHZの180°感度がフロント比でまだ8dBですので、PA使用では真裏ですぐハウる。

 

まだまだ・・・

 

 

 

「RCA 77D(DX)」の可変指向性切替パターン

(「マイクロホンハンドブック」:日本放送協会刊 昭和36年初版より)

 

 

 

 

 

Western Electric (ALTEC )639A(B)のプロセス応用も含め、あらゆる可能性が考えられる。

 

 

639A(B)のリボン(双指向性)+ダイナミック(無指向性)による単一指向性は一説にはRCAのパテントを踏まないように考えられた苦肉の策といわれている。

(マイクロホン テクニカル ハンドブック」高柳裕雄 著、昭和61年刊 より)

 

 

 

 

指向性能のステップアップ V03、V04最終

 

希望の灯は突然訪れることがあります。

 

プロットをつないでいったら見たことのあるポーラパターンを描いてくれました。

 

そこから音を聴きながら「イナータンス制御」の「手作業ワザ」は追い込みに突入していきました。

 

背面「速度」穴を1個にし、流入量を微調整する特殊不織布による音響抵抗により指向特性(ポーラパターン)を予定値に追い込むことができた。

 

 
 
 
さらに「V-04」ではトランスの1-3間のコンデンサを0.47μFから1μFにして音質の適正化をはかった。それは指向性パターンにも影響し、一層の改善でスーパーカーディオイドの最高値-15dBを超え(180度比:18dB)に達した。やり過ぎだがこのパターン、歓迎です。
 
 
「ハイパーカーディオイド」~「スーパーカーディオイド」間は案外任意の特性を出せることも身をもって経験でき、収穫です。
V-01の指向パターンから進み、1kHzの背面感度は初期の前面比8dBから12dB、18dBとなり、一層強い「スーパーカーディオイド」となりました。
 

 

特殊不織布(音響抵抗)によるイナータンス(空気流入量)の制御

 

 

Nullポイントの「120°」では24dB減衰、背面「180°感度」も18dB減衰のスーパーカーディオイド、当初予定をはるかに上回り、PA使用でも快適なマイクとなりました。「完成」とします。

 

 

 

回路図

 
 
 

 残骸たち

実験中どんなに測定値を記録しても、肝心な指向パターンは絶対にわかりません。

 

目で見て判断するファクターは図表にしてはじめて分かるパラメータだからです。

カットアンドトライ:耳で感じながら背面調整して測定、ちょっと変えてはまた測定の連続で仕上げました。

❤ そして頭の中の指向性もだんだん整っていく。

こういう「カットアンドトライ」は私のマイク技術の師匠(元S社マイク設計)によればマイクメーカーにおいても似たり寄ったりだそうです。

(コンデンサマイクの背面構造を針でつついたりしておこなう指向性・音質決め)

 

 

 

特記事項

1.

また、指向性コンデンサマイクではすべて、「吹かれ」=「風雑音」に弱い欠点がありますが、前作を含めた「仮想音圧傾度型」、この方式のマイクの大きな特徴として、この「吹かれ」に対し驚異的に強いということがわかりました。

 

したがってマイク近接で起こるポップノイズの防止は、簡単なウィンドスクリーン、ポップスクリーンで十分です。

 

 

2. メカニカルアース

もうひとつ、背面のMEMSマイク固定法(メカニカル・アース)により「摺動ノイズ、タッチノイズ、それに伴う振動系ケーブルノイズは「無指向性並み」に大幅に小さくなりました。

 

そのココロはMEMSマイクのダイアフラムから見た質量の巨大な「筐体」と一体化=(接着剤で十分)により、次元を超えて激減しました。

 

「音」は出すも受けるも運動支点が決め手。

「運動支点」をガッチリ固定することによりタッチノイズ、摺動ノイズはウソのように消えると同時に、音声に「力感」が増します。

 

質量のきわめて小さい「MEMSマイク」では「防振ゴムやスポンジ」はかえってノイズを誘発・増大し、設計値から大幅に悪化するのに対し、質量無限大の「筐体」と一体化することで、メカニカルアース(故 江川三郎氏 提唱)されてダイアフラムは周囲から独立した振動モーションを得られることを経験しました。

 

 

 


 さいごに

ここまでご覧いただいておわかりのように、マイクロホン、特に「単一指向性マイク」設計・製作のノウハウは、AMPなど「電子回路設計」の延長線にはなく、まったく異なる世界であることがおわかりになったと思います。
 
MEMSであれ、ECMであれ無指向性マイクなら「電子回路+カプセル」の構成がある程度通用しますが、単一指向性マイクにはそれはまったく通用しないという事。さらにMEMSでは過去のマイク構成にはなかったファクターが加わって一層難しくしています。
 
しかし、どんなにそれが変化してもマイクロホン技術の本質は何も変わりませんので、いかにそれらを応用して付き合っていくかがカギでしょう。
 
 
指向性MEMSマイク:特に「単一指向性」はここまでの記述のように、別次元といえる「機械音響等価回路」のカタマリと格闘しない限りどうにもならないのです。
 
すなわち、どれだけ理想的な回路を設計したとしても、それはそれ、
「MEMSマイクの単一指向性化」とは何の関係ないということです。
 
電子回路だけでなく、キモは「純音響的要素」とそれに関わる「流体的要素」ですので、当然です。
まして、シミュレーションソフト頼りに描いた回路と高級測定器を並べて何とかなるシロモノでもありません。
 
 
マイクロホン音響技術を学ばない限り不可能、この独特なハードルを越えなければなりません。
無知から発する憂うべき実態がYOUTUBEあたりで散見されます。
一筋縄ではいかないMEMSマイク単一指向性化の、このカナメをぜひモノにしてください。
 
また日本ではネットに散乱した情報以外、しっかりした「マイクロホンの技術教科書」や文献が過去半世紀でほとんど消滅してしまったこと、学べる場が極端になくなってしまったことも一因だと思います。
ましてchat GPTでどうにかなる世界でもありません。
 
 

(本記事は下記を参考資料にしました)

・マイクロホンハンドブック 日本放送協会刊 昭和36年初版

・マイクロホンテクニカルハンドブック 昭和61年 高柳裕雄著 兼六館出版刊

・オーディオデータマニュアル 加銅鉄平・山川正光共著 オーム社 昭和51年刊

 

 

以上

 

 

 

 

 

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