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※管理人Shinは知財保護において個人による「特許」のようなものを好まず、「全公開」を旨とします。(巻末詳細)
この記事末にビンテージマイクに関する海外資料があります。

あれから7年 久しぶりの「RCA 77DX 」リボン張替レストア
先月、あるテストでRCA 77DXを使用する機会があった。

2015~2018年ごろリボンマイクの研究に集中して取り組める機会に恵まれ、リボン張替えを夢中になって習得した。中でも、RCA 77D(X)のリボン張替えと内部ラビリンスによる「77サウンド」を引き出すノウハウの習得は大きかった。
その後、自分の扱うマイクの方向性もすっかり変わって出番がなくなっていた。
先週、ある重要なテストに向けて音確認はおこなったものの、実テストでは見事に音が出なかった、このため関係者にはご迷惑をおかけすることになりました。
もともと残念な部分を許容しなければならない個体だったため、今回ばかりは即日、根本的レストアにとりかかかった。それはこの77DXを入手した時点からこのマイクの底カップ(ケーブル接続部)が固着していて開けることができないため、ただでさえ硬いベルデンケーブルをブッシングスプリングの中に隠して接続するしかなかったのです。
このため時々切れては直す、の連続だったのがこの部分でした。

今回は、この部分を開けてケーブルを正式に接続することを必須としてふたたびリボンマイクRCA 77D(X)レストアの世界へ戻ってきました。
そして「グレイトアメリカ」、輝かしい1940~50年代の、オルソン博士の傑作、RCAの本気度とまた向き合えることになった。

無事底カップ開けに成功した。
この底カップ開けはCRCでもダメ、スクレーパーでは危なくて無理、各種カードやノートPCオープナーを使ってわずかなスキマを確保、リボンの張り替えを前提にして、ドライバーとハンマーでスキマを叩きズラし、左腕のヒジの痛さをこらえて力づくで外すことに成功。しっかりとケーブル交換ができた、この個体からすれば70年ぶりの開眼だろう。
ハンマー叩きによるGショックはキツく、リボンは当然伸びきって、コルゲーションはほぼ消えてダルンダルンになっていたが、それでも音はわずかに出た、これまた貴重な経験でした。
「リボンマイクは丁寧に扱わないといけないヨ」という一般感覚からは大きくかけ離れた行動だったが、背に腹は代えられない。
RCA 77DX リボン張り替えふたたび
レストアにはかなり手慣れていたが7年のブランク後、今の私にできるのか・・・
この最大難関は「純正リボン」がないことです。
77D(X)のリボンは1.3㎜幅、長さ50mm程度、しかしその厚みは1.8ミクロンつまり(555分の1mm)という普通なら手に負えない「超極薄アルミ箔」です。

米 LEBOW COMPANYの1.8ミクロン厚アルミ箔、Made in Japanとなっている)
これを正確に切り出すのが第一の関門、これにヒダヒダ(コルゲーション)をつけるのが第二の関門。
第三の関門、マイクロホンのモーター部(マイクユニット構造体)への実装・調整はさらに熟練を要す。
手製コルゲーション形成治具

この手製のコルゲーション成形治具はずいぶん世話になってきました。ヨレヨレのアルミ箔(1.8ミクロン厚)も信じられない程、このようにまっすぐになる。(写真でもハッキリわかると思います)
(改良は要するが音は安定している)
ふしぎなのはこの0.05インチ(約1.36mm)幅は最終的に自分の目測感覚に頼っていますが寸分の誤差もない、0.07mm狂えば確実に磁極に当たってしまいます。なぜそんなことが出来るのか自分にもわかりません。
リボンは1.36㎜幅、磁極との幅は0.14mmです。したがって磁極とリボンとのスキマ(余裕)は両極ともわずか0.07mm、しかもリボンはこの磁極に一切触れてはならない、というキツイお題・・・
それ以前にリボン材の切り出しがある、この超薄箔に「何をもって1.36mm幅」を決定させるのか、印をつけても「印」には幅があり金属スケールをあてても相手は正月の酒に浮いている金箔よりちょっと厚いだけの、触っても何の感覚もない1.8ミクロン(1/555mm)厚のアルミ箔。
切り出したものは、ピンセットで挟むと「フワフワ」と舞う、静電気でも、身体を除電してもすぐに材料からフワ~、と反発を受けてしまう難しさもある。
結局、心穏やかにさせた状態で、このアルミ箔は目測で「スーー」っと一気に切断する。コルゲーションをつけたものは除電に心がけ磁極にあてると、ピッタリと収まる。それが不思議と失敗することがなく自分でもわけがわからない事実なのです。
精神集中だけでこれまでやってきたので、「どうやって?」の説明はできません、自分にもわからないのですから・・・
どんな方法かで正確に測って切ったとしても0.1mmの誤差などあたりまえ、本当に正確にやるには自分の感でやるしかありません。
さりとて純正リボンなど手に入るはずもなし、職人ワザと言われようと、無謀といわれようと、はたまた神がかりだとしてもやるしかないのです。

かつてはこんな純正リボンがあったわけで、米国内のあるルートではリボン1本600ドルというのを見かけましたが、そこまでの価値は自分には考えられません。
リボンの交換
「RCA 77DX」というビンテージ楽器に命を吹き込む外科手術です
リボンをはずすと磁極には微鉄粉がビッシリと貼りついていました。

磁極にはかなり鉄粉が付着していましたので、清掃(かなりコツがいります)
リボンが鉄粉にあたると、そこを支点とする振動が発生するため低域が出なくなり、スイープ音源ではある周波数でビリツキを起こします。
リボン材はわずかな風でも舞う、呼吸を止めて「気」を集中する、静電気の影響も強いため作業前に部屋の湿度をある程度上げておく
今回、実作業を優先して写真を撮る余裕がなかった為、過去写真をとりまぜて同一行程を説明しています。(年月入りは今回の写真)

磁気回路にそっと置く。重量がなく、静電気の影響を受け熟練を要します、爪楊枝の先を平たくしたモノがすこぶる役に立ちます。
(リボンテンション調整中))
ここからは最後までヘッドホンモニターしながら調整します。
ネジは本締め仮締めの半々

(この真鍮小ネジを必要最小限お分けできますのでご連絡ください)
(ピンセット)
磁気地獄のここではステンレス製は使えずマグネットに吸い付かない真鍮製ピンセットを使います。竹製も使ったが自由度の点で作業が不器用になってしまう。圧倒的に真鍮製が良い。
(ネジ・ドライバー)
マイナスねじは小さなドライバーでも左右の回転だけで圧倒的に強く固定できる点がプラスねじと異なります。
その強さで「接触抵抗」は軽く0.1オームは変わる、トランスの一次巻線インピーダンスが0.4Ωですから普通なら無視できるような「接触抵抗」もモロに感度と音質に直結します。
リボンを強く締めていくと感度が上がり、音の鮮度が上がるのはそういう理由です。
かならずしも古いからマイナスねじ、ということではありません。
モーター部(リボンマイクユニット)TOP2つのネジはリボン位置の左右微調整用、正面2個のネジはリボン押え金具の締め付け用。
!リボンマイクには「ネジロック」絶対禁止、これは誤解しやすいですが、ネジロックは絶縁物、金属表面に回り込んで高確率で音は停止します。
(調整)

以下はヘッドホンモニターしながらおこなう
① リボンの浮き沈みがあると磁極から浮いた部分から入るのは「「逆相成分」、違和感ある逆相まじり音になる。
② 奥に沈めるとフレミングの右手の法則通り、切る磁束(鎖交磁束数)が増えるため感度が高くなる、コルゲーションを痛めずにこれを調整できるのは先を平たくした爪楊枝、そしてテンション調整との両方でおこないます。
③ 沈める位置は、磁極中心近くまで深く沈めると、リボン前にレゾネーション空間ができてしまう。
④このあといったん緩めてから音を聴きながらテンション調整、位置調整を念入りにおこなう。
(緩める→位置調整→仮締め→テンション調整)の繰り返し。
⑤「リボンの磁極当たり」を避けるため、音声領域のスウィープ音源で異常のないことを確認する。
もしそれが僅かならリボンの左右位置調整で避けられる。
これらで、良い結果を得られない場合は「ふりだし」へ
(コルゲーション調整棒)

爪楊枝の径は2mm、先端幅は1.3mm、先端がテーパーになっているため磁極面から1.2mm程度でSTOPしてくれるので、コルゲーションを崩すことなくリボン深さの調整ができる。
*この調整は必ず「ヘッドホン」により「マイボイス・リアルタイムモニター」で徹底して追い込んでいきます。
(その際大切なのは)
指向性は「B」(両指向性)を完成させ、つぎに「L3」を完成させます。77D(X)では単一指向性ポジションはけっして「U」ではなく「L3」または「L2」です。さいごにB→O→U→L3→L2→L1→Bと一周して音声を確かめます。
(L3~Bがラビリンスの効果によるあの「77Sound」の引き出しポイントです、Uはラビリンス動作が中途半端で不安定)。
この調整は難易度が高く、ラビリンスを持たない他のリボンマイクとの大きな違いです。
開始からここまで2日間、リボン調整に3時間でした。それ以上かけてもスイートスポットが得られない場合は「ふりだし」へ、再度リボン交換からやりなおしです。
リボン張替音声(試聴できます)(11月30日に更におこなったダメ押し再調整音声と入れ予定)
指向性ポジションはリボンマイクの基準「B」=両指向性です。
音源: 77DX77DXリボン張り替え(2025.11.25)
(SoundCroud の性質上、「くりかえし」または当該トラック再生後はSTOPしてください、無関係な音声がつぎつぎ再生されてしまいます)
部屋の時計のコチコチ音や私のおなかがグーと鳴る音まで拾っています。
完成
◉ かくして念願だったケーブルの内部接続が無事完了した。
(ビンテージのレストアはできる限りオリジナル部品で、ネジや外装パーツは紛失させない)
ケーブルは9年前のレストアで、RCAカラーのBELDEN 8402を使っている。
(リボン押さえ金具部の真鍮小ネジは必要最小限お分けできますのでご連絡ください)
外形があちこち痛んでいても、多少ネジが変わってもこの雄姿は77D(X)ならではのものです。


所々崩れていたり、緑青があっても現役を張る意思を感じ取れると思います。「RCAマーク」はダテじゃない気迫を感じさせます。
美しい音は美しいカタチを求めます
レストアを終えて
あれから年齢も重ねXX歳の私、今回は自信がなかったが、モーター部からリボンを取り去った瞬間から意識がガラッ変わった。
「前よりもいいコンデションにする!」と決め、結果はその通りになった。
まだまだリボンマイク、特に77D(X)が手に負える対象であることはありがたく、宇宙の神々と自分の健康に感謝するしかありません。
「だめかもしれない」は失敗への合言葉
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9年前、私のもとに来てくれた時のこのマイクロホン。

長らく誰にも愛されることなく倉庫で眠っていたのか・・・
2016年6月10日 到着したダンボールの上で。
このとき「助けて」という叫びが聞こえてくるようなのですぐ、レストアして長年使っていました。
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今回は久しぶりに RCA 77DXのリボン張り替えを含めたレストアを再度おこなった2日間の記録記事としました。
貴重👑二つの海外名サイトを紹介します
この2つのマイクロホン資料は世界でもまれにみるWeb上「マイクロホン名著」というべきサイトです。
1.MICROPHONES」:世界のマイク資料集(写真美しくサンプル音源あり)
Contentsタブから各社・各機種が見えます
RCA Type 77-DXRCA 77-DX microphone
coutant.org
2.「microporium」:世界のマイク回路図集(ほしい回路図がここにある)
以上
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