昨日、ふと思い立って一人でドライブに出かけた。
そんなときによく行くのが山口県の日本海沿いの海岸線である。小倉から高速道路に乗り下関インターで降りて国道191号線に入った。GWも終わり道は混んでいなかった。
朝方は曇り空で風が強く、横風のため高速道路は速度規制されていた。車から見た海には白い波が立ち岩場に砕けしぶきを上げていた。やがて昼が近づくにつれて、天気も少しずつ回復していった。
途中、福徳稲荷神社の近くの湯玉の「稲荷茶屋」で昼食をとった。ここの「かつ丼セット」は素朴な味で量もちょうど良い。周りは地元の常連客が多いように思われた。
人心地ついて湯玉を越え右折して内陸部に入り菊川方面へ車を走らせた。これもいつものコースである。随分走り慣れたからか、山口県の北西部は何処に何があるか大体わかるようになった。まるでもう一つの故郷のような親しみを感じる。
豊浦町川棚に「虚無僧墓」、「小野小町の墓」という史跡がある。いつも車で通り過ぎた後に看板に気付く程度の地味な存在で立ち寄ったことは無かった。今回もまた同じ轍を踏んでしまった。とはいえ、山口県には「楊貴妃の墓」もあるほどなので真贋のほどは定かではない。
車中で聴いたのはユーミンの「14番目の月」(1976年)と「紅雀」(1978年)だった。いずれも名曲が散りばめられたアルバムで、リリース時期は私が高校から予備校時代のものである。
「14番目の月」に「朝陽の中で微笑んで」という曲がある。この曲にはある思い出があった。高校3年の秋も深まる頃、受験勉強の真っただ中、苦手科目が克服できずに悩んでいた。夜遅くまで起きてはいるが、勉強は進まず、ラジオの深夜放送ばかり聴いていた。ある日、とうとう空が白むまで眠ることなく朝を迎えた。
その時、ラジオ番組の最後に流れたのが「朝陽の中で微笑んで」だった。何処か哀しくて優しいメロディが徹夜で疲弊した体と心に響いた。
その日の授業で居眠りするのは目に見えていたが、何故か心は平静だった。いまでもこのメロディが流れると、勉強部屋の窓から見えた晩秋の白い朝の光景が脳裏に浮かぶ。
音楽は、ときに記憶よりも鮮明に、過去を蘇らせてくれるものらしい。