安眠妨害水族館的 2022年上半期CD大賞 | 安眠妨害水族館

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オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

相変わらず、デジタルリリースの波は押し寄せているものの、いくらかCDのリリースも戻ってきた感もあるでしょうか。

もっとも、従来の店舗型から、BASEやBoothといったアーティストごとのオフィシャル通販での購入が主流に。

コレクターアイテムとしての意味合いが強まり、価格も高騰傾向にあるので、音楽シーンにおいて重要な転換期にあることは間違いないのでしょう。

 

そんなこんなで、去年から選出基準を見直したりもしている安眠妨害水族館的CD大賞。

今回も、自己満足で10枚の名盤をピックアップし、ランキング形式で紹介していきたいと思います。

 

【レギュレーション】

① 2022年1月~6月に発表された作品であること
② 作品に紐付くアートワークが用意されていること
③ V系シーンをメインフィールドとして活動しているアーティストの作品であること

 

 

 

第10位

 

新約 鐘が鳴ったら事件が起きる/ベル

 

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現代における昭和歌謡系バンドの代表格、ベルのミニアルバム。

Gt.タイゾが加入したツインギター編成での"鐘が鳴ったら事件が起きる"シリーズは、そんな彼らの真髄が凝縮されていました。

5曲、それぞれコンポーザーが異なり、バラエティ性は確保されている一方で、ベルらしい音楽性がしっかり共有されていて、軸がまったくブレていない。

なんならコンセプチュアルな作品とすら捉えられるほどの統一感があって、哀愁ロックが好物であれば絶対に聴くべし、という作品に仕上がっています。

ツインギターになってアレンジの幅が広がった相乗効果か、Vo.ハロさんの表現力にも深みが増した印象ですね。

決して原点回帰ではなく、進化なのだな、と思わせる1枚。

 

 

 

 

第9位

 

M.E.T.A./vistlip

 

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新機軸に挑戦しつつ、総合力の高さを見せつけたvistlipの7thアルバム。

大人びた作風、という評価には、ともすれば丸くなった、勢いが削がれた、という意味合いが込められたりもするものだけれど、彼らの場合、攻めの姿勢でアダルトな要素を高めてきたのが面白かったな、と。

テーマをしっかり作り込んで、メッセージの説得力や、世界観の奥行きを深めていくと、新鮮なアプローチで耳に、体に沁み込ませてくるのです。

従来の王道展開ばかりであれば、過去と比較してしまって、ここまですんなり受け入れられなかったのでは、なんて思うほど。

新たな原点、彼ららしくて、彼ららしくないサウンド。

タイプによって収録曲に変化がある、マルチエンディング的な設計も見事でした。

 

 

 

 

第8位
 

V系やめるってよ/NAMELESS

 

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挑戦的なタイトルへの抵抗感だけで聴いていないリスナーがいたとすればもったいない。
ex-アヴァンチックのVo.NOAH、ex-NAZAREのGt.妖、ex-MAMIRETAのBa.かる。を中心に結成されたNAMELESSの1stアルバムは、ネームバリューに負けない力作でした。
8弦使いをふたり擁するツインギター編成で、どこかクラシカルな構成の楽曲を重低音から下支え。
タイトルとは裏腹、ザ・ヴィジュアル系なサウンドでまとめあげています。
ある種、身内に対して切り込んでいくようなスタイルは、ロックの源流である反体制的な精神とも合致しているようにも見え、楽曲のインパクトも抜群とあれば、総じてクオリティが上がっているシーンにおいても、そりゃ特出するというもの。
CD盤のほうが配信版よりも収録曲が多いこともあり、現物を手に入れておきたい作品でしょう。

 

 

 

 

第7位
 
BIOGRAPH/MIRAGE
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Gt.舜、Dr.YOMIを加えて、正式に始動となった第三期MIRAGE。
結成から25周年にしてキャリア初となるフルアルバムは、ド直球に"ヴィジュアル系"を叩き込む王道っぷり。
マイナーコードで疾走する、メロディアスなコテコテ系バンドの真骨頂を、これでもかと詰め込んでいます。
90年代当時の楽曲を現代に蘇らせる試みと、今のMIRAGEのサウンドを知らしめる宣戦布告。
ボーナストラックの「Cloudy」がそれらを食うぐらいの名曲という+αもあり、なんだかんだ、シーンを知り尽くしたKISAKIさんの経験値の高さを思い知らされました。
おまけに、初代Vo.TOMOさんまで参加しているとまできたものだ。
懐古主義者ならずとも、感涙モノの1枚です。

 

 

 
 

第6位

 

死場所 -shinibasho-/ミスイ

 

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令和元年に結成したミスイのフルアルバム。

1stアルバムらしく、とにかく衝動性が盛り盛りで、ソリッドな勢いが途切れずに持続。

激しくスピーディーに走り抜ける作風は、ヴィジュアル系が好きであれば嫌いなリスナーはいないでしょう。

もっとも、相応にキャリアを積んできたメンバーが揃っており、演奏力や表現力も十分。

構成面でもひと捻りしてあって、勢いを出したいスタートに、ドロドロとしたミディアムチューン「タメライキズ」を据える強かさがありました。

最初にテンポが遅めの楽曲を持ってくることで、その後のスピード感を強調。

ラストの「空白」で歌モノ路線を見せるまで、ひたすら手を変え品を変えでハードにまくし立てるので、振り切った印象を与えるのに成功。

絶大なインパクトを放っています。

 

 

 

 

第5位

 

NOX:LUX/NIGHTMARE

 

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NIGHTMAREにとって通算11枚目、7年ぶりのリリースとなったフルアルバム。

活動休止期間中、メンバーが個々に動かしていたプロジェクトは、正当派を貫き続ける彼らの音楽性にどのような影響を与えたのか。

音楽性がガラっと変わってしまうのでは、という懸念もあった中で、結論としては、見事に"2022年のNIGHTMARE"を表現してくれたな、と。

Vo.YOMIさんの歌唱力を筆頭に、経験値はしっかりバンドに落とし込んでいる一方で、戻るでもなく、変わるでもなく、しっかりと歩みを進めた彼らの音楽が、ここに刻まれているのですよ。

作品を重ねれば重ねるほど、マンネリのリスクに曝されることになる正統派という立ち位置ですが、奇をてらってすり抜けることなく、純粋なレベルアップだけで正面からハードルを越えていく。

本当に格好良いバンドに育ったものです。

 

 

 
 

第4位

 

MONSTER/アルルカン

 

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"5年以内に武道館でのワンマン"を宣言した効果か、ここにきて再びギラギラした衝動性が強まった感のあるアルルカン。

音楽性を大きく変えたわけでもないのに、パッションが前面に押し出されたことで、こうも衝撃度が大きくなるものかと驚かされました。

表題曲である「MONSTER」はもちろんのこと、とにかく高い熱量で展開される楽曲たち。

キャリアを積んでスキルアップした、というだけでは説明がつかないほどにエネルギーに溢れていて、哀愁漂うナンバーにすら、良い意味での攻め気を感じさせるのです。

サウンドにおいて、"キレキレ"というのはこういうときに使うのだろうな。

もちろん、ただ全面的に前のめりというわけではなく、アルバムとしての構成も計算されており、スケールの大きさを感じさせる場面も。

これぞ、ヴィジュアル系の未来を託すのにふさわしい作品だと言えるかもしれません。

 

 

 

 

第3位

 

【本音】/唯

 

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完全セルフプロデュースで制作された、umbrellaのVo&Gt.唯さんによるソロミニアルバム。

シンプルに、メロディが良い、歌詞が良い、世界観がたまらない。

いちいち、涙腺のツボを突いてくるようなサウンドワークに、こちらの心が全部見透かされているのでは、なんて疑ってしまうほど。

兎にも角にも、軽やかでやわらかい歌声が沁みるのですよ。

ブックレット上で、歌詞はあくまで視覚的なインスピレーションを与えるだけに留め、ストーリーは小説で語るというギミックにも恐れ入った。

大人の象徴として随所に出てくる"コーヒー"がなんだか飲みたくなってくる。

それまでコーヒーは苦手だったのに、これを聴いて以来、毎朝飲むようになったほどに惚れ込んだ作品です。

 

 

 

 

第2位

 

海辺/シド

 

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"令和歌謡"を掲げ、様々な愛の形を歌い上げる、2年半ぶりのフルアルバム。

ジャジーなテイストであったり、懐メロ風のレトロ感だったり、インディーズ時代の彼らに見られた哀愁たっぷりの歌謡テイストを、ここにきてメインに据えてきました。

ただし、単純に時計の針を戻すのでは能がないと言わんばかりに、現代的なアプローチも随所に散りばめ、古臭さを感じさせないアレンジの構築にもこだわったのでしょう。

ノスタルジックなメロディへの回帰である一方で、新しいジャンルの提唱でもある本作は、全方位的に楽曲の世界観にのめり込ませるパワーを持っている。

我が身に起こった出来事のように身がちぎれそうになる心情描写のリアリティや、言葉遊びを巧みに使って間口を広げていく歌詞のセンスも、見事に研ぎ澄まされたなといったところ。

歌詞を読んで、曲を聴いて、なんなら口ずさみながら五感で体感したくなる作品です。

ライブ活動の休止、というタイミングでのリリースとなったことだけが悔やまれますが、これだけのアルバムを作り上げてくれたのだから、待つという行為も希望になるのでは。

 

 

 

 

第1位

 

PHALARIS/DIR EN GREY

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上半期の終盤にリリースされ、聴き込む期間は短かったのだけれど、強い、強すぎる。
直前までシドを1位にした記事で仕上げようとしていた矢先ではあったのですが、悩む暇なく、この「PHALARIS」を滑り込ませることにしました。
無駄を削ぎ落してきた近年のアレンジスタイルに、構築美とも言えるアート性を加えたようなフルアルバム。
拷問具から着想を得たタイトルが象徴するように、禍々しく、死の匂いが充満している作品であるにも関わらず、どことなく甘美な気配があったり、鋭い衝動性があったりと、一辺倒ではいかない展開の妙が、いかにも彼ららしいのです。
10分に届きそうな長尺曲「Schadenfreude」ではじまり、同じく9分台の「カムイ」で終える構成の中に、ブラストビートが炸裂するスピードチューン「The Perfume of Sins」や、プログレッシブな展開にドキドキさせられる「現、忘我を喰らう」など、癖のある楽曲ばかりを詰め込んで。
極めつけは、ボーナスディスクに収録された「ain't afraid to die」。
これがまた、圧倒的な進化を遂げており、例えるなら、別次元に完成した「MACABRE」といった作風でしょうか。
日本語詞に、和メロという組み合わせの相性も良く、"圧巻"以外に形容しようがない1枚でしたね。

 

 

 
 
結成直後のバンドの衝動性と、ベテランバンドの構成力。
どちらかのテーマで語れそうなラインナップが揃ったという印象でしょうか。
とびきり個性的なランキングにはならなかったかな、と思いつつ、それだけ圧倒的な作品も多かったということで。
 
次点となるのはKayaの「ROSE」。
アルバムとしてのまとまりを踏まえて選外とはしたものの、楽曲の粒としては非常に大きく、特に表題曲のキラーチューンっぷりが物凄かったですね。
同じく粒揃いという点では、XANVALAの「月と太陽」も、トップ15まで枠を広げれば確実にランクインしてくるアルバム。
-真天地開闢集団-ジグザグの「慈愚挫愚 参 -夢幻-」や、DIE-QUÄRの「溺想」なども捨てがたいです。
 
メンバー脱退の衝撃の中、クオリティの高いアルバムを作り上げたMUCCも忘れてはいけないところ。
新世界」は、刺さる人には刺さる作品であっただろうし、その間、Vo.逹瑯さんが「非科学方程式」と「=equal(イコール)」の同時リリースというド派手なソロデビューをやってのけたことも記憶に新しく、シーンの党滑油として、相も変わらず絶対的な存在感を放っていました。
下半期は、どんなバンドから、どんな作品が飛び出すか。
引き続き、安眠妨害水族館ではヴィジュアル系を応援していきたいと思いますので、願わくば、新しい音楽に触れるきっかけにしていただけましたら。