私もなんちゃってヴォーカリストの端くれなので、(大それた夢だが)いつか公式な場で国歌を歌ってみたいと思ったりもする。大相撲では日本国歌の演奏があるがMLBでは毎試合前に米国国歌を著名なプロ歌手やアマチュアの歌手が独唱してスタジアムを大いに盛り上げている。(*1)

【MLB試合前の国歌独唱(ドジャースタジアムにて撮影)】
但し日本の国歌「君が代」はワーッと人々を盛り上げるような雰囲気ではない。私は個人的には厳粛な感じがして好きな曲なのだが、オリンピックやスポーツの国際試合等で様々な国歌を聴くたびに「日本の国歌は他国の国歌とは随分雰囲気が違うなぁ」と「君が代」の特異性を感じていた。
日本の国家は世界中の国歌の中で最も短く最も古い歌詞なのだそうだ。まあそれはそうだろう、だって「君が代」の詞は10世紀初頭に編纂された「古今和歌集」掲載の読み人知らず(作者不詳)の和歌だから三十一文字(みそひともじ)つまり31音しかないので最古かつ最短は当然だと思っていた。
作曲は「林廣守」と記載があるから、この人はきっと著名な音楽家なのだろうと思っていた。しかし、いつ誰が何故その和歌を国歌の歌詞に選んだのか、そして作曲者の林廣守とはどんな音楽家なのか?となると、全く知らない。そこでちょっと調べてみたら“ビックリの連続”だった。(*2)
ビックリ①:国歌としての公式な制定は1999年とつい最近
ビックリ②:歌詞を選定したのは海外貴賓饗応担当者
ビックリ③:作曲者は外国人(英国陸軍楽隊長フェントン)
まず「いつ国歌になったか?」だが、これはなんと1999年(平成11年)に成立した「国旗国家法」だというのだ。よく“重要なものほどちゃんとしていない”などといわれるが、それまで「君が代」は“100年以上も慣例的に国歌として使われてきただけ”だというからビックリだ(国旗「日の丸」も同様)。
そして「この和歌を国家の歌詞に選定したのは誰か?」だが、1869年(明治2年)に英国王子エディンバラ公アルフレッド(ヴィクトリア女王の次男)が西洋王族として日本史上初めて来朝し天皇に謁見する。その際の接待担当者だった鹿児島藩の原田宗助、静岡藩の乙骨太郎乙たちだったというのだ。
彼らは政府の要人でもなく、英語に堪能だという理由で選ばれた英国貴賓饗応掛員に過ぎない。横浜に駐屯していた英国の軍楽隊長から外交儀礼上両国の国歌を演奏する必要があると求められたが日本に国歌など無く、指示を仰いだ政府からは「自分達で考えろ」と突き放されて困り果てたという。
当時の日本政府にとっては、国歌の制定など単に外交儀礼上の些事だったようでビックリだ。彼らは協議し、古歌「君が代」を歌詞とした。「何故か?」といえば、数ある古歌の中でも「君が代」は「古今和歌集」巻第七の「賀歌」冒頭にあり、将軍家でも元旦の儀式に使われていたからである。(*3)
そして作曲については、日本に国歌が無いと聞いて作曲を申し出た英国軍楽隊長のフェントンに任せた。フェントンが作曲を申し出たのは、立場上、日英両国の国歌を演奏しなければならなかったからだろう。西洋楽器用の譜面を作る必要があったとはいえ国歌の作曲者が外国人とはビックリだ。
フェントンが作曲した「君が代」はこの年に初演されたものの、下図上段にあるように日本語の文節とメロディが全然合わず歌い難いため、11年後の1880年(明治13年)に現在のメロディ(下段)に改訂された。しかしこの改訂をしたのは作曲者として記載された林廣守ではないというのである。(*4)

実際に改訂をしたのは宮内省雅楽課の若手(当時22歳)課員の奥好義(おく・よしいさ)だった。なのでメロディも雅楽調だ。作曲者として記載されている林廣守は宮内省雅楽課の代表者で、当時重要な曲は代表者名義で発表されたという。こうした(個人より)組織重視の姿勢も極めて日本的といえよう。
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*1:MLB唯一の米国外(カナダ)のチーム、トロント・ブルージェイズの試合では、カナダ国歌も演奏される。
*2:主に辻田真佐憲「ふしぎな君が代」幻冬舎新書・2015、を参考にした。
*3:「君が代」の意味は“主君(将軍やお殿様)の治世が安寧に永続しますように”、“大切な貴方の生涯が健やかで長寿でありますように”など、謡曲、浄瑠璃、小唄、長唄等において、武家から町人まで国内で最も一般的な祝いの歌だったという。ただ戦前の皇国教育では天皇制を称える歌として用いられたため斉唱拒否など国内外からの反発は現在も根強い。
*4:これを「作曲」とする見方もあるが両譜面をよく見ると同じフレーズ(「千代に八千代にさざれ」の部分)もあり、あくまでも日本語で歌い易くした「改訂」のようだ。当事者の奥も「(そのまま)国歌になるとは思わなかった」と述懐しているそうだから、なんだかなである。
Saigottimo


















































