最近はTVでプロ野球中継を見るとホームベース上にストライクゾーンの枠が表示されることがある。そしてピッチャーの投球が通った部分がマークされる。そのマークが枠の外なのにストライクとコールされたりすると視聴者は「なんだ、この下手クソ審判め!」と思ってしまうだろう。

こういう場合、アナウンサーは「この枠はあくまでも目安ですから」と言う。最終判定が人間の審判に委ねられていることは承知しているが、結局人間は機械のように正確に判定できない故の誤審だと我々は思うしかない。でも「本当にそうか?」と改めてルールを調べて驚いた!そうじゃないのだ。

 【白枠はTVのストライクゾーンで数字は球速(mile/h)】


ルールブックによればストライクゾーンはTVで示す様なベース上に想定した平面の枠ではない。五角形のホームベースをそのまま上空に投影し、下限をバッターの膝、上限を胸迄の水平線で仕切った五角柱の3次元空間であり、この空間を少しでもかすめた球はストライクと定義されている。(*1)

もしこの定義通り厳密に判定したら大変なことになる。何故ならフォークボール(最近の言い方ではスプリット)等でホームベースの投手側先端のストライクゾーン下限をかすめてベース上に落ちる球も打者の顔の前を通過してホームベース後方のゾーン上端をかすめる山なりの球もストライクになる。

問題は上下限だけではなく左右でも起こる。スイーパー(曲がりの大きなスライダー)などはホームベースの投手側左右両端どちらかの角をかすめて曲がれば捕手が横っ飛びで獲るような球でもストライクになってしまう。でも人間の審判はそんなバッターが打ち難い球をストライクとは判定しない。


野球に限らず、ルールや法律の具体的な条文や定義が時代背景等によって変わった場合は「立法精神(意味)」に立ち返って適用することが求められる。ストライクゾーンも速球だけの時代から多様な変化球の時代になって「定義」自体が本来の「立法精神(意味)」と合わなくなっているのではないか。

ストライクゾーンの「立法精神(意味)」は「打者が自然体で構えた時にバットにボールを当てられる範囲」である。だから打ち難い球を「Strike!(動詞の命令形だから「打て!」)」とはコールできない。つまり人間の審判の判定は「定義」を踏まえ「立法精神(意味)」に則った高度な判断なのだろう。

勿論、人間であれば個人によって多少異なる事もあろうし同じ人でも同じ球に違う判定を下す事もあろうから判定が機械化されることで一貫性は向上する。実際に米国ではマイナーリーグでロボットアンパイアを試験的に導入しているというが、その際は「定義」の見直しも必要になるだろう。(*2)

いずれにしても、あのTVでの安易な枠表示は審判の権威を貶めているだけではなく、視聴者のリテラシーに対しても“百害あって一利なし”だと思う。審判の皆さんはもっと声を上げて抗議しても良いのではないかと思うし、この点について野球ファンの私は一視聴者としてTV局にも一考を促したい

そして何より私が驚いたのは、これだけ野球が好きな日本国民でもストライクゾーンの正しい定義を知らない人が多いであろうことだ。自分もそうだったが、正しい定義も知らずに「今のは(ストライクじゃなくて)ボールだろ!この下手クソ!」等と罵るのは無体であり、これは大いに自省したい

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*1:公認野球規則 定義74「STRIKE ZONE『ストライクゾーン』…打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、膝頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間をいう。このストライクゾーンは打者が投球を打つための姿勢で決定されるべきである」
ストライクゾーンはルールブックでどのように定義されている? | 野球コラム - 週刊ベースボールONLINE
ストライクゾーン - Wikipedia

*2:米国でのロボット審判に関する事象は下記ご参照。
【MLB】ストライクゾーン機械判定導入に向けた課題 公認規則上のゾーンと機械判定のゾーンの違いとは?

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