世間は新学期。本ブログではアメリカのビジネス系のプログラムを中心にいろいろな専門職課程を紹介していますが、日本で特に文系の人の場合はこうしたプログラムは限られますので、日本で勉強する限りは教養的な勉強をする人が多いものと思います(日本の所得水準で海外留学するのはどんどん難しくなっていますしね…)。そこで今回は本ブログの守備範囲からは少し離れてしまいますが、「おすすめ教養科目」と題して、いくつかおすすめの分野を書いておこうと思います。
 

参考:

学ぶ側から見たリベラルアーツ課程と専門職課程の違い

ビジネススクールのアカデミックな源流

(枠内では過去記事、参考情報等を記載していきます)

 

 1.数学

 
私自身もあまりできる方ではないのですが、理系でなくとも、数学はできる限りやっておいた方がいいと思います。後からビジネス系の勉強をするときに役に立つこともありますし、そうでなくても分析的な考え方を身に着けておくことはいろいろな面でプラスになります。少なくとも「高一で数学はおしまい」がベストではないことの方が多いでしょう。

 

参考:

感染症の数理モデル:「SEIRモデル」で遊んでみた

 

早稲田大学の離散数学(グラフ理論)の授業が丸ごと公開されています。いい時代になったものですね…。

 

但し、私のように適性があまり高くない人が数学の勉強にあまり多くの時間を使ってしまうと、他のことに使える時間が減ってしまい、全体的なアウトプットも下がっていってしまいます。自分のレベルに合わせて、細く長く続けていくのがおすすめです。 

 2.英語・外国語

 
英語については以前、記事も書きました。現状では依然としてできる限りやっておいた方がいいです。

以前の記事で書いていなかったこととして、プロフェッショナルなライティングのスキルがあります。私自身は正直のところ、少なくとも留学した段階では十分なスキルが身についていたわけではなく、職場で(周囲に多大な迷惑をかけながら…)習得した側面が大きいです。なかなか習得できる環境を見つけるのは難しいですね…。

 

参考:

アメリカで人気の外国語

仕事で使える英語

地域専門家の育成

 

コーヒーブレイクということで、過去記事でもやった口語の練習のための歌唱シリーズをもう一つ。古い/マイナーですいませんが、このぐらいの歌を違和感なく聞ける/歌えるのであれば、かなり英語の口語のイントネーションが身についているのではないかと思います。

 

英語以外の外国語は私は全然できないので、できる人には憧れます(2外はすっかり抜けてしまいました…)。ただ日本人は正直のところ、外国語力が総じてあまり高くないのと、日系だと現地の言語・社会の深い理解が必要になるような事業(特に現地の最終消費者に直接製品・サービスを売り込んでいくような事業)にはもうあまり力を入れていないケースも多いので、外国語のスキルを活かす機会もあまり多くないのが残念ではあります(例えば韓国のエンターテイメント産業の海外展開とかすごいですが、あれを日系がやるようなことはなかなかできないですね…)。 

 3.社会科学

 

文系でビジネスに興味がある人の場合、社会科学系の分野が比較的、興味を持ちやすいことが多いと思います。経済学や行動科学・心理学等の分野であればビジネス分野の学問的な基礎になっていることもありますので、直接役に立つことがあるかは分かりませんが、後々、そうした分野を勉強するときに役に立つことはあるでしょう。個人的には、何らかの演習要素(「興味があるデータセットをダウンロードして分析してみる」「公開情報・データ・報道から事実関係を追って整理してみる」といった程度で十分です)がある分野を勉強することをおすすめします。

 

参考:

経済学の活かし方・学び方
周波数オークション:財務諸表から見る企業経営への影響

デフレが経済を停滞させる理由

ウクライナ経済はEUに引き寄せられていたのか?

 

政治学・地域研究のシンポジウムの配信。面白いです。

 
「国際関係学は役に立たない」か?

ミャンマーのクーデターニュースフォロー①今後の展望(2022/1時点)、2022年まとめ中国の進出(2023/6時点)、紛争の行方(2023/12時点)

「ヒルビリー・エレジー」とアメリカ大統領選挙の行方

 

因果推論の統計学

社会科学では統計学が多く使われます。最近は経済学にも限らないようです。その中で、おそらく最も良く行われていることの一つが「回帰分析」という手法を用いて変数間の因果関係を調べることです。最近、データサイエンス関連でも良く耳にする「因果推論」というやつですね。

本ブログでも以前、関連する記事を書きました。

非専門家のためのデータサイエンス101:RCT、A/Bテスト、DD

回帰分析は、以下のような感じで、データを見ながらに当てはまりのいい線を引くものです。以下の式では、変数XとYが記録されたデータセットを使って、パラメータαとβを推定しています。
 


iはデータセットに含まれる各サンプルの通し番号、εは誤差項(すべてのサンプルが推定した線の上に乗っているのでなければどうしても発生してしまいます)を示します。ここでは式の右辺にある変数は1つだけですが、もちろん複数の変数を使って分析を行うこともできます。



こうした分析によって適切に変数間の関係を説明するには、一定の条件が満たされなければなりません(「誤差項と説明変数の非相関」なんていいますが、直ぐにはピンとは来ないと思います)。以下では、単純な回帰分析が誤った結果をもたらしてしまう2つの典型例(もちろんこれがすべてではありませんが)と、一般的に使われる解決法を説明します。

 

実際にはこれから説明する諸手法は回帰分析の枠組み以外で取り扱われることも多いと思いますが、筆者が統計学を習った際の流派の都合上、ここでは回帰分析の枠組みの中で説明していきます。

除外変数バイアス

どのようにデータを集めるにせよ(実験や調査をしてデータを作ったり、出版データを活用することもあるでしょう)、変数Y(「被説明変数」といいます)を説明する要因となるあらゆるX(「説明変数」)を全てリストアップし、測定し、完全な分析を行うことができるケースは極めて限られると思います。そのため、実際に分析する際には、どうしても本当は式の右辺に含まなければならない変数が、いくつか入っていない状態で(「除外変数」)分析を行わなければならなくなります。式にしてみると、以下のような状態です。



今、手元のデータセットでは変数XとYだけが記録されていて、Z1、Z2…、の各変数はデータが存在しなかったとしましょう。ここで無理やり変数XとYだけを使って回帰分析を走らせるとどうなるか?こうした分析を行った際に問題が生じるのは、変数XとZ1、Z2…、の各変数のいずれかが相関してしまっていた場合です。もしそのような相関があったとすると、回帰分析によってパラメータβを推計するときに、除外変数Z1、Z2…の効果(γ1、γ2…)も部分的に「拾って」しまうことになります。それによりβの推計にバイアスが生じてしまい、こうした単純な分析ではXとYとの関係を説明することができなくなってしまいます。

解決方法としては、例えば以下のようなものがあります。

(i)実験を行う

こうした問題を解決する方法として、ベストなのが「実験」を行うことです。例えば医薬品の臨床試験をしようとしているとしましょう。被験者をたくさんつれてきてランダムに2つのグループに分け、片方のグループには医薬品を、もう片方のグループにはプラシーボを与えます。このときデータ上は、医薬品を与えられた被験者には「X=1」を、プラシーボの被験者には「X=0」を記録しておきます。その上で各被験者の予後の健康状態(Y)を記録し、データを揃えた後で、上記のような回帰分析を走らせるようなイメージです。

こうすると、変数Xは各被験者にランダムに割り当てられているので、各被験者のいろいろな特性(Z1、Z2…)からは完全に独立して決まっているはずです。そのためデータ収集が終わって回帰分析を走らせるときには、XとZ1、Z2…の間の相関はないと考えることができ、余計な効果を「拾って」くることもなく、適切にパラメータβを推計することができます。

実際には、このように完全な形で実験を行うことは難しいケースも多いでしょう。そのため実際には、「不完全な形でもとにかく実験を行い、それに合わせて分析をデザインする」「実際に実験はできなくとも、実験しているのと事実上同じようになっている状況を探す」といったリサーチも良く行われます。過去記事で取り上げた「Difference-in-Differences(DD)」は典型例です。詳細は過去記事をご覧ください。

(ii)マッチングを行う

少しわかりにくいので、例を用いて説明しましょう。心理学の分野では、「遺伝要因と環境要因のどちらがその人の心理学的性質(性格かもしれませんし、学力や知能かもしれませんし、他にもいろいろな性質が考えられるでしょう)により大きな影響を及ぼしているのか」というような問いを立て、研究を行うことがあるそうです。式にしてみるとこんな感じでしょうか。

 

X1、X2…は環境要因で、この中には観察しようと思えば観察できるものもあるでしょう。一方、Z1、Z2…は遺伝要因ですが、明らかにこれを観察し測定することはできません。

 

ここで、ある特定の環境要因X1(例えば教育・学歴)が、Y(上記の心理学的性質、あるいは経済学者であれば将来の年収に興味があるかもしれません)に与える影響を推定したいとしましょう。このX1はアンケートを取るなどして調べればわかります。しかし、このX1は観測できない様々な遺伝要因とも相関している(例えば、もともと遺伝的に健康だったり頭がいい性質がある子はそれだけで将来の収入が高い傾向があるだけでなく、より高い教育を受け、さらに収入を高めている可能性が高い)かもしれません。その場合、観測できる環境要因X1、X2...とYだけで回帰分析を走らせてしまうと、興味のあるパラメータβ1の推計の際に遺伝要因による余計な効果を「拾って」しまい、分析結果が歪んでしまう(恐らく「たくさん教育を受けたから収入が高い」と「もともと遺伝的に頭がいいから収入が高い」が混在した結果が出てくる)可能性があります。しかし既に述べた通り、遺伝要因Z1、Z2…を直接観察することはできません。

 

ではどうすればいいか?心理学者(や経済学者)の方々が考えた解決策は「一卵性双生児」です。一卵性双生児は遺伝的性質が全く同一のため、上で言うZ1、Z2…は(さらに、実際には観測できない環境要因の多くも)すべて同じと考えることができます。そこで、まずは一卵性双生児のペアをたくさん集めてきてアンケートを取らせてもらい、研究者が興味のある変数X1、X2…とYを記録します。そのうえで、「各々のペアの間で、X1、X2…が変動するとどのぐらいYが動いているか」という問いを立てて上述の回帰分析を行います。各々のペアの間では除外変数Z1、Z2...は同一ですので、こうすることでそれらの影響を除去することができ、興味のあるパラメータβ1(例えば教育・学歴が将来の年収に与える影響)を適切に推定することができます。

 

なお、実際の研究では、さらに二卵性双生児(遺伝的には全く同一ではないが環境要因の多くが同一と考えられる)のサンプルを使って様々な要因をコントロールすることも多いようです。

 

さて、少し長くなってしまいましたが、この例で言う「一卵性双生児のペア」が本題の「マッチング」に相当します。実際にはこの例のように、「一卵性双生児だから論理上、そのマッチングの中では除外変数は同一のはずである」といった前提を置けるケースは多くないでしょう。そのため、この手法を適用するためには、まずはいろいろな手法(「傾向スコア」等)を用いて手持ちのデータの中で「マッチング」を行う必要があります。

 

実際のマッチングは、上の「実験を行う」の例と同じく、特定の施策(上の例では医薬品を飲んだかどうか、「X=1、0」で測定できるような場合)の効果を測定する際に使用されます。


(iii)パネルデータを使う

長くなってきたので説明は省略します。が、考え方としては上記の「マッチング」にとても良く似ています。

逆因果(システム要因/同時方程式バイアス)

続いては「逆因果」です。これは「XがYに影響を与える、しかしYがXにも影響を与える」といったように双方向の因果関係が考えられるような場合です。こうした場合、単純にXとYの相関関係を見ていても、両者の間の因果関係を明らかにすることはできません。そうした単純なケースに加えて、より複雑な例としては下図のように、「XがYに影響を与え、Yが他の変数に影響を与え…、回り回って、その影響がXに帰ってくる」といった場合にも、同じような問題が発生します(こういった場合には「システム要因」と言った方が通りがいい気がしますね)。

 

例としては、マクロ経済学をイメージするとわかりやすいかもしれません。経済データを見ていると、例えば「物価上昇率がマイナス(デフレ)になっているときには失業率が上がっているな」とか「倒産が増えているな」といったパターンが見えてきます。しかしそうした変数を並べて相関関係を見ているだけでは、各変数間の因果関係のメカニズムは分かりません。そうした変数は直接的・間接的に、お互いに影響を与え合っているからです。

こうした場合の解決策は、「操作変数法」と呼ばれます。先ほどの図に戻って、変数XとYの間の関係を明らかにしたいとすると、まずは図のように、変数Xと相関する(しかしYとは相関しない)変数Zを見つけます。そして「変数Zの変動がXに与える影響(図では青線)」を分析し、最後にその結果を用いて「「変数Zが変動したことによる変数Xの変動」が変数Yに与える影響(赤線)」を分析します。こうした2段階のアプローチを用いることにより、変数XとYの間の逆因果/システム要因を除去し、「変数X→Y」という関係を明らかにすることができます。

ビジネスデータを分析しているときにはこうしたシステム要因が強く効いてくるケースはさほど多くないものと推測しますが(逆に、上の除外変数バイアスはほぼどんな時にも出てきます)、社会科学ではこうした分析は良く行われます。こうした方法で複雑な変数間の関係を解きほぐし、因果関係を明らかにするのは、いかにも社会科学らしい研究、というイメージが個人的にはあります。

こうした内容は昔は計量経済学の教科書の後ろの方に押し込められていて、あまり普及もしていなかった気がしますが、今後はこうした内容も、大学で社会科学を勉強したのなら知っておくべき「教養」になっていくんでしょうかね…。

 

「ビジネス分野を教養的に勉強する」はアリか?

最初に述べた通り、日本の商学部・経営学部等は必ずしもアメリカ的な職業に深く結びついた専門職教育にはなっていないものと思います(カリキュラムの問題に加えて、卒業後のキャリアパスの方もアメリカとは全然違いますからね…)。ですので日本でビジネス系の勉強をするときには、必ずしも職業と直接結びつくわけではない教養教育の一種として勉強することになります。

そのような形でビジネス系の勉強をする際、個人的に注意しておいた方がいいと思うのは分野の選択です。特に分野によっては、(単純に実務経験がないとイメージがわきにくい、ということに加えて)企業の中にいるのと外にいるのとで情報格差が大きすぎ、学部で実際に役に立つレベルで勉強するのが難しいこともあります(例えば政治のことを勉強にするのにも同じことが障害になるのでは、と思う人もいるかと思いますが、「一つの企業」と「政府全体」では公開情報の分量が全然違いますので…)。

その格差を克服できる環境を大学で・自分で用意できるのであれば、個人的にはそうした勉強をするのもいいと思います。また、例えばファイナンス等の分野であれば、大学からアクセスできるデータベースで一通りのことはできると思いますので、そうした分野を勉強するのであればおすすめです。

 

参考:

「経営学」は役に立つのか?ビジネススクールにおける経営学教育

日立の経営戦略ー財務数値から見る成果と展望

シャープが失敗した理由

東芝が失敗した理由

資本資産価格モデル(CAPM):リスク(ベータ)の相場観

 

 4.その他(人文学・自然科学)

 

人文学(哲学・歴史・文学…)についても、時間があるうちに興味がある分野を選んで勉強しておくことはいいことだと思います。比較的スタンダードなのは歴史でしょうか?正直のところアメリカで働いていたときに歴史を勉強しておいて役に立ったと思ったことはあまりないですが、ユーラシア大陸の人たちと仕事をしているときには、多少なりとも知っておいた方がいいと思うことはあります。

また人文系の勉強をするのであれば、とにかくたくさん「読む」ことをおすすめします。数学などの問題を解いたり実験をしながらではとても読めないだろうと思えるような量を読む。それを通じて言語能力を養うのが差別化になる(逆に言えば、それをやらないようだとあまり他分野に対して差別化できない…)と思います。例えば私自身、今受けてもGRE(アメリカの大学院進学者が受けるテスト)のVerbalとか全然取れないと思いますが、ああいう言語能力は人文系の勉強をした人ならではだと思います(普段のビジネスではあまり出てこないレベルです…)。

科学・技術の知識はあったほうがいいです。「講談社ブルーバックスの中から興味を持った本をひたすら読む」とかでもいいので、勉強しておくと後々役に立ちます。
 

 

 

 

あまり人文学・自然科学のブログ記事は書いていないのでおすすめ書籍を。全くひねりはありませんが…。

 

教養的な分野が好きな人の中には、役に立つ分野を勉強することをものすごく忌避する方もいます。特に良く耳にするのは「役に立つものはつまらない」「役に立つものはすぐ消える」「役に立つものは積みあがらない」といった意見です。しかし個人的にはこうした批判には何かわからないところというか、あまり現実と合っていないのではないか、という実感がありました。

そうした人たちがしばしば取り上げるのが、(少し古いですが)スティーブ・ジョブスによる有名な以下の演説です。

 

 

この演説の中に、ジョブスが大学をドロップアウトした後、大学に居候して聴講生をしていた時に、純粋に興味をひかれて勉強した「カリグラフィー(西洋書道、"Serif""Sans Serif"といったフォントでお馴染み)」が、後になってMacを開発するときに思いがけず役に立った、というエピソードが出てきます(詳細は演説の方を聞いていただければと思いますが、Macが開発されるまでのPCには、今のように様々なフォントを使って自在にレイアウトできるような機能は備わっていなかったのでした)。このエピソードが「役に立たない教養の価値」を示す例みたいに言われることもあるのですが…。素朴な疑問として、カリグラフィーはジョブスが大学で勉強していた当時、全く役に立たない分野だったのでしょうか?そんなことはないでしょう。広告・出版・産業デザイン等のキャリアを志す学生であれば、当時であっても身につけておいて損のないスキルであったことは間違いないと思います。なので、私から見るとこのカリグラフィーのエピソードは、「ある分野で役に立っていたスキルを他のところに持っていったらもっと役に立った」例になっているように見えます。世の中の発展というのは「基礎分野⇒応用」といったように、いつも単線的な経路を通るとは限りません。

 

勿論、最初にカリグラフィーが確立した時にはそうした応用は考えられていなかった、ということはありうると思います。しかし一方で、カリグラフィーが今(ないしは当時)のように発展したのはそうした応用のニーズがあったからこそだ、という可能性も多分にあると思います(「応用が基礎分野の発展を引っ張る」というのは、数学等でもまま見られるケースですね)。

ジョブスにとってそれが直ぐに役に立たないスキルだったのは、ジョブスがそうしたキャリアを歩むことを考えていなかったからです。そして「先のことは分からないし、自分が何に向いているのかもやってみるまでは分からないんだから、あまり戦略的・打算的にならずに興味のあることを勉強しよう」といったことであれば、私自身も全く反対しません。しかし、もしそうやって興味を持った分野が「役に立つ」分野だったとしたら、私はその分野を勉強するのに何のためらいも感じる必要はないと思います。この例を見てもわかる通り、ある分野の面白さとか応用性といったものとその分野が役に立つかどうかは、無相関ではあるかもしれませんが逆相関になるとはあまり考えられないからです。興味を持てて、面白く感じられて、それが職業に結びつくのであれば、こんなにいいことはありません。

「役に立つ分野はすぐ消える」「役に立つ分野は積みあがらない」といった意見にもあまり説得力を感じません。例えば「経営情報システム」はそういった「役に立つ」分野の典型だと思いますが、10年、20年前に同分野を勉強した人は、そうした勉強をしてこなかった人よりも、例えば昨今のDXやデータ活用にもはるかに上手く対応できます。また、アメリカの大学のプログラム等を調べてみても、「経営情報システム」の教授陣がプラットフォームとなって最新のデータ分析スキルのカリキュラムを整備していることは多いです。実際、MBA等のランキング等を見ていても、「経営情報システム」に強い大学は「ビジネス・アナリティクス」でも上位に入ってきます。教わる側も教える側も、ちゃんと積みあがってます。

一つ蓋然性があるかもしれないと思うのは、「既に長く続いてきた分野は今後も続く可能性が高い」「新しい分野はすぐ消える可能性が高い」というものです。しかしこれも「役に立つ」「立たない」は直接関係なく、新しく役に立たなくてすぐに消える分野は当然、たくさんあります。また、こうしたことをいう人の「新しい」分野というのは既に四半世紀とかそういう長さで有効性を発揮している場合も多く、一人の人間としてのキャリア寿命を考えたときに、勉強する分野を選ぶ際のアドバイスとしてはあまり意味がある話にはなっていないケースが多いと思います。

個々人の選択肢としては、私は好きな分野を勉強すればいいだけだと思うのですが、もしこうした考え方が、政策として「役に立つ」分野を軽視する背景になっていたとすると、それはもちろん社会の発展を阻害していましたよね、という感覚は否めないものがあります。


最後に、アメリカ等の海外に行きたい人には、もし芸術関係の勉強をする機会があればおすすめしたいのが「モダンアート」です。これは単純に、アメリカ等ではモダンアートに接する機会が日本に比べ、格段に多いからです。アメリカでは総じて建物の間取りが大きいこともあり、壁のスペースが格段に広いため、オフィスでも住居でも壁に絵を飾る人は多いです。そしてモダンなデザインのオフィスや住居であれば、壁に飾る絵の方もモダンアートがとても良く合います。モダンアートの知識や審美眼があれば、アメリカ暮らしはより楽しめると思います。