今週、Twitter界隈では、「フリーランス国際協力師」こと原貫太氏の以下のツイートが炎上したことが話題となっておりました。

 

 

 

氏の主張を箇条書きにすると、概ね以下のような感じかと思います。

  • NGOや草の根の国際協力の道に進む場合は、国際関係学を勉強して学んだ知識を使える場面はほぼありません(他のキャリアの場合には別)。
  • NGOを起業した時は、南スーダンの難民の緊急支援に携わっていましたが、そこで役立つスキルって、例えば語学力やコミュニケーションスキル、日本から寄付を集めるための資金調達力や情報発信力でした。そういった力は大学の国際関係学では身に付きませんよね。
  • また、NGOといえども基本的な組織形態は会社とほぼ変わらないので、事務や経理に関する知識、ビジネススキルのほうがよほど大事だと感じていました。
  • 自分の収入を作るためにも、ウガンダの支援に使う寄付を集めるためにも情報発信に力を入れているので、国際関係学の知識よりもブログやSNSを使うスキルの方が圧倒的に役立っています。
  • 解決策は3つ。
    • 国際関係学以外の学問も勉強する。草の根の国際協力の道に進みたい人なら、文化人類学や地域研究をおすすめします。
    • 英語で国際関係学を勉強する。国際関係学を英語で勉強すれば、BBCやアルジャジーラのニュースも、英語で問題なく読めるようになるはずです。
    • 修士号を取ることを見据えて勉強する。修士号まで持っていれば、国際機関の一部のポストや、またNGOでもアプライできるようになると思います。

 

私自身は別に国際協力のキャリアに進んでいるわけでもない、単なる下手の横好きですが、正直のところ、上で書かれているようなことは個人的にはかなり頷けます。感想をいくつか書き出しておきます。

  • 氏は「解決策」として「修士号まで取ることを見据えて勉強する」ことを挙げており、実際、アメリカには専門職大学院として国際関係を教えている学校も幾つかあります。そうした大学では狭い意味での国際関係論(国際政治学)ばかりを教えているわけでなく、より政策的な各論(開発論、紛争解決、資源・エネルギー政策、国際医療等々)にもかなりの時間を使いますので、そういった勉強の中には役に立つものも多々、あろうかと思います。それでも、例えば「技術者」「医者・医療専門家」「国際法専門家」といったような水準の専門家としての専門性、というところまでにはなかなかいかないのではないかと思います(私の知り合いで国際関係の大学院を出た人は大抵、国際経済・経営の勉強をしていましたので、正直のところ、私からはあまり分からないところもありますが)。

 

  • つまるところこうした大学院も、ビジネススクールにおけるMBAと同じように、原則的には専門家というよりはゼネラリスト養成プログラムの色が濃いと思いますので、そういったことはやむを得ないかもしれません。有効なゼネラリスト養成プログラムをデザインするというのはとても難しいことのようで、正直のところビジネススクールだって学んだことがどこまで役に立つかは議論が分かれるところです。「MBA取得の一番の効果は(学んだことが実際に役に立つかどうか、ではなく)シグナリングだ」と言い切るアメリカ人は沢山います。

完全な余談ですが、シグナリング理論でノーベル経済学賞を受賞したマイケル・スペンス氏はその昔、スタンフォード大学経営大学院の学長を務められており、当時の学会では若干の「からかい」も発生していたとかいなかったとか…

  • また、氏が言っているように、国際関係学の世界はコミュニケーション能力が極めて重要であり、国際関係の大学院もそうしたことを反映して、Extra-Curricular(海外へのスタディ・トリップや国際機関へのインターン等)を通じた人脈形成、経験蓄積には(恐らくビジネススクール以上に)力を入れているイメージがあります(私は国際関係の勉強をするのは好きですが、こういう「コミュ力」が強い方ではないので、この方面のキャリアに進めるとは全く思わないですね…)。その他、氏が挙げている「事務や経理に関する知識、ビジネススキル」「語学力やコミュニケーションスキル、日本から寄付を集めるための資金調達力や情報発信力」が大事、といった見解も、個人的にはそうだろうな、と思えることばかりです。
  • 他の「解決策」として、英語で国際関係学を勉強することに加えて、国際関係学と同時に勉強すべき科目として「文化人類学や地域研究」を挙げておられるというのは、沢山勉強をして経験を積まれてきた氏ならではの(別の言い方をすればかなり「マニアック」な)意見だと感心させられます(こうした書きぶりからも、氏を「勉強不足」として論難するのは的外れだと思いますし、もし少なくとも直ぐには役に立たないものを「役に立つ」と言って売り込もうとする学会関係者がいるとすればそれは少し残念ですね)。ただ地域研究を(現地語の習得まで含めて)実務で使えるレベルで習得できる人というのはかなり限られると思いますが…。

最初に述べた通り筆者は単なる「下手の横好き」ですのであまり氏の論点に加えられることはありませんが、あえて付け足すとすれば、こうした「国際的な」キャリア(開発にせよビジネスにせよ)に興味をお持ちの方こそ、定量的・数学(又は数字)的なことに力を入れて勉強されることをお勧めします。私の偏見も多分にあるかもしれませんが、洋の東西を問わず国際関係に興味を持つような方は往々にして定量的なことが苦手な場合が多いようなので、そうしたことを勉強しておくだけでかなりの差別化になります(私自身のキャリア戦略も、まあそんなようなものです)。国際関係学のカリキュラムの中でも経済学定量分析会計学ファイナンス等を学べるようになっていることは多いと思いますので、そうした所でしっかり勉強しておくのがいいですね。