Debangana.mukherjee (https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Economics.jpg), „Economics“, https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/legalcode

 

一見、ビジネスと関係があるようで、少し勉強してみると全然関係なさそう、でも実は深く勉強していると関係が見えてくる経済学。今回は主に、アメリカにおける、ビジネスに関わる経済学教育について取り上げます。

 

(2023/6/10追記)経済学についてはこちらもご覧ください。

 

経済学はアメリカでは「リベラルアーツ」に分類されており、組織上も「ビジネススクール」でなく「文理学部」を中心に教えられています。一方で、MBAのコアコース教育等のために、ビジネススクールにも少数の経済学者が所属していることが多いです。

 

 学部教育

 

ビジネススクールで学部の経済学専攻が設けられていることは、なくはないにせよ多くはありません。多くは「文理学部」等に属する経済学科で教えられています。専門職学位ではなくともある程度実学的、または数理的な教育を受けたと見なされるということで、リベラルアーツの専攻としては就職に強いとされているようです(以前取り上げた専攻別の年収データを見ると、かなり高いですね)。アメリカの就職トップ5専攻は「工学」「経済学」「数学(統計学)」「物理学」「コンピュータサイエンス」であるとも言われています。

 

また、学校によっては(ビジネススクールで学部教育を行っていない場合を含む)、「ビジネス経済学」専攻を設けているところもあり、経済学、ファイナンス、会計学等を組み合わせて教えているようです。

 


ブラウン大学「Business Economics Track – The C.V. Starr Proram in Business, Entrepreneurship and Organization」のウェブサイト(https://www.brown.edu/academics/business-entrepreneurship-organizations/beo-concentration/business-economics-track-buse

 

他には、多くはないもののビジネススクールの学部で教えられる場合や(その場合、ビジネスのコアコースに、次のMBAで取り上げているような科目を組み合わせてカリキュラムを構成している場合が多いと思います)、農業経済学系の学科で「経営経済学」といった専攻を出していることもあるようです。

 

 MBA

 

MBAでは、コアコースでは必ずミクロ・マクロ経済学が教えられます。特にミクロ経済学的な意思決定は重視されます。選択科目でも、ポーターを源流とするミクロ経済学を応用した所謂「競争戦略論」や、それと深く関連する「ゲームの理論」等のコースは定番となっており、経営戦略論の中核を成す科目として人気も高いようです。最近は行動経済学を教えている学校も多いです。

 

それ以外に時折教えられる科目としては(ファイナンス関係を除く)、

  • 価格戦略
  • 医療経済学
  • 公共政策
  • 国際経済学
  • 時系列予測(計量経済学)

等もありますが、上記の「競争戦略論」「ゲームの理論」等と比べると人気はありません。

 

経済学それ自体のSpecialized Mastersプログラムは、存在はするようですが多くありません。公共政策大学院のプログラムの中には、経済学に重きを置くものもあるようです。以前取り上げた国際関係大学院の中にも、国際経済学専攻の専門職修士を出しているところもあります。

 

 Ph.D.

 

前提として、経済学のPh.D.プログラムは、原則的に研究者を養成するプログラムであり、卒業生の多くは研究者になります。政府機関等(外国人の場合にはなかなか行けないでしょうが)に就職する人も多いです。結果として、さほど多くの人が民間に行っているわけではないと思います。経済学科で開講されている場合が大部分ですが、一部のビジネススクールでも出しているようです。

 

余談ですが、米国の政府機関は経済学に限らず、理学等のPh.D.も多く雇います。所謂研究職にも限りません。国内では相変わらず博士の就職難が問題になっているようですが、政府が本腰を入れて雇い出さないうちは問題は解決しないんじゃないかと思います。

 

しかし、一方で、最近は一部のテック系企業で積極的に経済学Ph.D.を雇うところが出てきています。パイオニアとしてGoogleの広告オークション・モデルを開発したハル・ヴァリアン(以下の教科書の著者としても有名)が知られていますが、最近ではUber(ドライバー・顧客間のマッチング・アルゴリズムの開発)やAmazonでも多くのエコノミストを雇っているようです。

 

 

こうしたケースで面白いのは、統計学的なデータ分析だけでなく、ミクロ経済学の手法を用いたモデル開発を行っているところです。米国ではテック系企業が隆盛を極める前から、「研修医と病院のマッチング(日本でも導入済)」「周波数スペクトラム・オークションOECD加盟国で導入していないのは日本だけだそうです…)」等、公共政策分野で経済学者がマーケット・デザインに関わることがあったのですが、その発展形ということなのだと思います。もっとも、実際にやろうとすると、経済学の大学院生の平均よりはかなり高い数学力が必要なんじゃないかと思いますが…。

 

他に経済学Ph.D.が民間に行くケースとしては、金融機関に加えて「エコノミクス・コンサルティング」があります。特定の法律分野(独占禁止法、損害賠償、知的財産等)に関わる訴訟等の際に、当事者の立場をサポートできるような分析を提出することが主な仕事で、イメージとしては、例えば以前、アップルがサムソンを特許侵害で訴えたりしていましたが、こうした侵害に係る賠償金を算定するのも「エコノミクス・コンサルティング」の仕事の一つです。訴訟大国たるアメリカらしい職種ですね。
 

以前、企業価値評価の資格の記事を書いた際、特に無形資産価値評価をエコノミストが行うことがあると書きましたが、これもこうした流れなのだと思います。もっとも、ここまでくると、もうあんまり学校で習うような経済学は関係ないんじゃないかと思いますが…。

 

日本で「経済学」というと、「経世済民」「GDP等の経済指標やマクロな経済政策の話」「株の話」「マルクス経済学等の思想の話」等のイメージが強い言葉になってしまっていますが、英語で「Economics」というと、上記のようなミクロ経済学のイメージが比較的強くなります。この辺の言葉の意味付けというのも、今後、変わっていくといいですね。