さて、前回のエントリーに引き続き、いよいよ本題のビジネス専攻者の年収の水準を見ていきます。データの出所はこちら。給与水準の指標として使用する「Mid Career Pay」は、「卒業後10年以上の調査対象者の年収の中央値」です。

 

本ブログの最近の関連記事はこちら。データソース・用語の定義などは過去記事をご参照ください。

 

筆者の独断で、あまたある専攻を「ファイナンス」、「情報システム・技術(IS/IT)」、「会計学」、「オペレーション」、「マネジメント」、「マーケティング」の6分野に分類し、分野ごとの年収の水準の分布をまとめてみたのが以下のグラフです。

 
少しぼやっとしていて分かりにくいと思いましたので、予めノートを入れてみました。

 

(注)日本語のノートは筆者の独断で分野ごとの傾向を模式的に示したもので、分かりやすさのためあえて一部の例外を無視しています。詳細は本文をご覧ください。
 

Ÿ   重ねて言いますが、分類の仕方は筆者の独断です。分類をまたがるような専攻も筆者のセンスで適当に振り分けています。ご容赦を。

Ÿ   IS/ITは、ビジネススクール内外の専攻を含んでいます(「コンピュータサイエンス」「エンジニアリング」等は除外)。詳細は以下「IS/IT」の説明文をご覧ください。

Ÿ   再掲となりますが、データの出所はこちら。「Mid Career Pay」は、「卒業後10年以上の調査対象者の年収の中央値」です。

 
ノートなしバージョンはこちら。

 

 

前回紹介したトップ20に入るような専攻はありませんが、総じて高いですね。特にファイナンス、IS/ITは、(全米の!)中央値が10万ドルを超える専攻も少なくありません。

 

Ivy League等とは無縁だが普通に優秀なアメリカ人が、例えば「30歳で年収1千万円」ぐらいの目標を達成したい場合、理系が無理なら頑張ってビジネススクールに行って(ビジネススクールは人気があるので、成績が良くないと入れないことが多い)ファイナンスかビジネスITでも専攻しとけ、みたいな話になるのが定番だと聞きますが、それもうなずけます。

 

逆にその程度の目標なら、Ivy League等の大学に行かなくても普通に頑張れば十分達成できるわけですね(ちなみに、Ivy Leagueのスーパーエリート達の水準は「2年目で1千万円」です)。

 

細かくなってしまいますが、分野別に見ていきましょう。

 

 1.ファイナンス

 

ファイナンス関係の専攻別年収水準一覧は以下の通りでした。便宜上「Business Economics」関係も含めています。

 

 

Ÿ   上位5専攻でMid Career Payの中央値が10万ドル超え(ビジネスの専攻を用意していない名門校出身者を除いた全米の中央値で!)。下位はBanking、Insurance等の専攻であり、普通のファイナンス専攻ならいずれも中央値9万ドルは超えてきます。高いですね。

Ÿ   トップの「International Business & Finance」は、正直のところあまりピンときません。もしかしたら特定の大学の卒業生が順位を引き上げているのかも。

 

 2.IS/IT

 

IS/IT系の専攻は、ビジネススクールでやっている場合とそうでない場合があります。ビジネススクールでやっている場合は、「Management Information SystemsMIS)」等と呼ぶことが多いと思います。今回は便宜上、ビジネススクールでやっていそうな専攻名もそうでなさそうな専攻名も一緒くたにしています(「コンピュータサイエンス」「エンジニアリング」等は除外)。

 

 

Ÿ   Business & Information Technology」「Management Information Systems」等、ビジネス系の専攻の方が年収も高い傾向。普通に10万ドル以上の年収を狙える専攻といってよさそうです。

Ÿ   非ビジネス系の専攻でも中央値9万ドル以上がほとんど。十分高給ですね。

 

 3.会計学

 

アメリカの大学の会計学専攻は、公認会計士養成コースになっていることがほとんどです(少なくとも上位校は)。ただし、最近資格試験の受験資格を得るのに必要な単位数が急増しており、大学院まで行くケースが増えています(他分野と2重専攻するなどして、大学院には進まずに単位を揃える場合もあり)。大学院に進んだ学生は集計の対象外なため、その辺の事情はちょっと気を付けて見る必要があるかもしれません。

 

 

Ÿ   Public Accounting」が11万ドルジャスト、「Accounting & Computer Systems」も10万ドル越え。下位はもしかしたら会計士を狙うようなコースでもないのかもしれません。

Ÿ   会計専攻はさほど年収が高いイメージでもないのですが(但しJob Securityは最強)、このデータを見る限り、公認会計士になるか会計情報システムに強くなれば、十分な年収が期待できる専攻と言えるでしょう。

 

 4.オペレーション

 

日本ではあんまりなじみがないかもしれないオペレーション系。現場の生産管理、プロジェクト管理等を学ぶ、極めて実践的なプロフェッショナル志向の専攻です。今回はサプライチェーン・マネジメント、ロジスティクス関係の専攻も含めています。

 

 

Ÿ   トップの「Operations Management & Information Systems」のみ10万ドル超え。本当はIS/ITに分類しないといけないのかもしれませんが、ご容赦を。2位の「Management Science」はビジネスに役立つ数学的手法(最適化、統計学等)を勉強する専攻ですが、便宜上ここに含めています。

Ÿ   オペレーション、サプライチェーン等の専攻は中央値9万ドル台。ロジスティクス関係は若干低めですね。

 

 5.マネジメント

 

続いてはマネジメント(経営学)。「Industrial & Labor Relations」「International Business」「Entrepreneurship」「Human Resource Management」「General Business」等、雑多な分野も全部含めています。

 

 

Ÿ   Industrial & Labor Relations」lのみ10万ドル超。上位は「International Business Management」「Entrepreneurship」等で、普通のマネジメント分野は中央値8万ドルを切ってくることがほとんど。「ファイナンス」「IS/IT」に比べるとやや低いですね。

Ÿ   「International Business」が高給なイメージはあまりなかったので、個人的には意外でした。

 

 6.マーケティング

 

最後はマーケティングです。残念ながら、筆者が一番苦手な分野かもしれません...

 

 

Ÿ   全分類で唯一、中央値10万ドル超の専攻がありませんでした(日本の感覚で言えば、簡単に超えてくる方がおかしいんじゃないかと思っちゃいますが)。9万ドル台も2専攻のみです。一方、8万ドル台の専攻は多くあります。

Ÿ   トップの「Sales & Business Marketing」が他の専攻とどのように違うのかは、正直のところ良く分かりませんでした。また、こちらでも「Marketing & International Business」が高いですね。

Ÿ   Advertising、Marketing Communication等は、もしかしたらビジネスクールの専攻ではないかもしれません(コミュニケーション学系?)。

  

 まとめ

 

長くなってしまいましたが、日本ではなじみの薄い「ビジネススクールの学部」について、多少なりともイメージをつかんでいただければと思います。日本の大学の商学部と比べてもかなり感じが違いますね(専攻分野からして...)。具体的な年収が出てくると若干血なまぐさい感じではありますが、簡単にまとめると、

 

Ÿ   ファイナンス:BankingInsuranceを除外すると中央値9万~10万ドル以上

Ÿ   IS/ITビジネススクールの専攻なら中央値ほぼ10万ドル以上、そうでなくとも9万ドル以上が大多数

Ÿ   会計学公認会計士や会計情報システム専攻なら10万ドル以上、そうでなければ7万~9万ドル程度

Ÿ   オペレーションロジスティクス関係を除けば9万ドル以上

Ÿ   マネジメントIndustrial & Labor Relations」「International Business」等の分野は中央値9万~10万ドル程度、それ以外は8万ドル以下が大多数

Ÿ   マーケティング:8万ドル台が大多数

 

卒業生の活躍の仕方のイメージとしては、日本で似たような給与水準(例えば「30歳年収1000万円」)を確保していて、エリートを自認しているような人が実際にやっている仕事は、アメリカではIvy League卒業者等でなく、こうした人達がやっているケースが多いように感じています(例えばメガバンク(商業銀行)の行員、事業会社の管理職、会計事務所の会計士・コンサル等々)。しかもプロフェッショナルで生産性の高い人が多く、絶対的な人数も多い。とても優秀ですよ。

 

次回は、ビジネス専攻者の給与水準が他分野と比べてどうなのか、理系、文系の各分野をベンチマークとして比較してみたいと思います。