やや旧聞に属しますが、Twitter等で、アメリカで人文系の専攻を卒業した学生数が急減したことが話題になっていました。
@ipeds_nces just released new data on degree completions for the 2021 class (the first class with a full semester during the pandemic.) History and Religion have both joined English in being down to half their 2000s peak; philosophy's rebound persists, while area studies falls. pic.twitter.com/tfy1DFYHra
— Ben Schmidt / @benmschmidt@vis.social (@benmschmidt) August 23, 2022
人文系の中でも歴史、英語等、専攻によっては2010年以降、卒業者数が半減しており、人文学全体で見ても、卒業者数が計算機科学1分野の卒業者数と比較できるような水準にまでなってしまったとのことです。上記の記事では、こうしたトレンドの背景として、人文学専攻者の就職状況が悪化していること、具体的には、ロースクール(弁護士)、メディア、教員等のキャリアで職を得ることが難しくなったことを取り上げています。バーニー・サンダース運動が人気を得たことなども、こうした人文系卒業者のキャリアへの不満が背景にあるのではないか、とのことです。
それと関連して(?)、最近、話題になっているのがTwitterのレイオフです。日本でも「日本法人の広報部門が全員レイオフになった」「社員が手動でやっていたと思われるキュレーションが止まった」といったことが話題になりましたが、もちろんグローバルベースでも多くのレイオフが行われており、狙い撃ちということではないでしょうが、コアな技術部門等以外の、所謂文系的な業務を行っていた部門で多くレイオフが行われたとのことです。
Yesterday was my last day at Twitter: the entire Human Rights team has been cut from the company.
— Shannon Raj Singh (@ShannonRSingh) November 4, 2022
I am enormously proud of the work we did to implement the UN Guiding Principles on Business & Human Rights, to protect those at-risk in global conflicts & crises including Ethiopia,
Human Rightsチームの部門長だった方のTweet。バックグラウンドとしては弁護士(学部時代は政治学と経済学の2重専攻)の方だそうです。
文系専攻の卒業者の年収と満足度のデータを見てみる
人文系専攻の卒業者の急減の背景にあるのは就職状況とのことですが、では、実際にはそうした卒業者はどのぐらい稼げているのでしょうか?本ブログでは毎年、Payscale College Salary Reportの専攻別の年収ランキングを見ていましたので、こちらから文系の専攻(ビジネス系は除く)のデータを調べてみることにしました。理系・ビジネスの専攻者等も含めた全体の動向については過去記事をご覧ください。
もともとはデータが更新されてからこの記事を書こうと思って待っていたのですが、未だに更新されないので、前年(2021-22)のデータを用いています。
過去記事では主に「Mid-Career Pay(職歴10年以上の年収の中央値)」を見ていましたが、このランキングには「% High Meaning(「自分の仕事が世界をより良い場所にするために貢献している」と答えた者の割合)」というデータもあります。今回はこの数値も含めることにして、この2つの変数で散布図を描いてみました。さらに、最初に紹介した連ツイにある以下のデータを用い、各専攻の最近10年間の卒業者の増減を色分けして表示してみました。
https://twitter.com/benmschmidt/status/1562227440314982401?s=20&t=ANvd3JBdsPJtM7aaRfrV_w
出来上がった散布図はこちら。
「Mid-Career Pay」と「% High Meaning」はPayscale(2021-22)、卒業生の変化率は上のTweetを参照。変化率の方は上位(25%以上の増加)と下位(20%以上の減少)が非対称になっていますが、これは元資料のスケールの取り方がそのようになっているためです。Payscaleの方は散布図に表示している通りの専攻名で検索していますが、実際には類似する専攻名のデータがたくさんあるため、この散布図が各専攻の全般的な傾向を完全には反映できていない可能性があります。なお、「地域研究」「外国語」「外国文学」は対象とする地域・言語によって結果が変わってきますので、上記の散布図には示していません。本記事の最後に元データのスクリーンショットを張っておきましたので、そちらをご覧ください。
散布図を見ると、「Mid-Career Pay」と「% High Meaning」の間にトレードオフがあり、「高収入」と「有意義な仕事」を両立させることは難しいことが分かります。さらに見ると、「% High Meaningは50%以下」だが「Mid-Career PayはUSD80Kを超えてくる」専攻(図の左上側)と、「High Meaningは50%以上」だが「Mid-Career PayはUSD80Kを下回る」専攻(図の右下側)に大きく分類することができそうです(「Anthropology」を除く)。
そして最初の分類(図の左上側)の方に属する専攻は「Economics」と「Linguistics」を除いて卒業生は減少しており、そこには「Philosophy」「History」「English Literature」等、最初に取り上げた人文系の専攻が多く含まれています。こうした専攻であっても、卒業生の年収で言えばより就職の良い工学、計算機科学、数物系、ビジネス等の専攻には(「Economics」を除き)及ばないため、学生が離れているものと見られます。
散布図を見ると、「Political Science」「International Relations」等の政治学系の専攻もこちらの分類に含まれています。進路としては最初に紹介した記事にあった人文系専攻の進路(ロースクール、メディア等)と重なるところもあると思いますので、似た傾向(数字上は相対的には良さそうですが)なのではないかと思います。なお、オレンジの点の専攻については減少率にかなり幅があり、例えば「Political Science」の減少率はさほど大きくなく、「Communication」はほぼ横ばいです(ただ、増加はしていません)。
2番目の分類(図の右下側)に属する専攻を見ると卒業生が大きく減少している専攻、増加している専攻の双方が混在していますが、文系専攻の中で卒業者数が急増した3つの専攻「Public Administration」「Psychology」「Criminology」がいずれもこちらの分類に含まれていることが目につきます。他に「Ethnic Studies」や「Criminal Justice」も卒業生の数を伸ばしています。
個人的な経験の範囲内で言えば、ビジネスロールでこれらの専攻だけで働いているケースは必ずしも多くないと思いますので、卒業者の中にはビジネス以外のキャリアに進んでいる人も多いのではないかと思います。「Public Administration」は分かりやすいですが(公務員)、例えば「Criminology」「Criminal Justice」等の学科は、アメリカでは警察官向けのトレーニングを提供する等もしていたと思います。
総じて、同じようなポジショニングにある専攻でも学生数の増減が大きく異なっているので確たることは言えませんが、文系の専攻が「高収入が欲しい、そのためには競争は厭わない」といったタイプの学生を惹きつけることはますます難しくなっており、「収入はそこそこでいい、でも意義が感じられる仕事がしたい」と思うようなタイプの学生に訴求することが生き残りへの道なのかもしれません。
(参考)
「Studies」「Language」「Literature」の検索結果。「Studies」は「Area Studies」の各専攻を調べようとしたものですが、他の関係ない専攻も混ざっており、またこの下にも関連する専攻(「French Studies」「Middle Eastern Studies」等)があります。上記の散布図と並べて見ると、いずれの専攻も概ね最初の分類(散布図の左上側)に入っており、やはりいずれも卒業者数を大きく減らしています。但しこうした分野の場合、他の分野と2重専攻することが多いと思いますし、元々それぞれの地域・言語のバックグラウンドがある人が専攻する場合も多いと思いますので、やや特殊ではあります。
「Sociology」と「Psychology」の検索結果。散布図で見ると互いに近いポジショニングに見えますが、検索してみると「Psychology」はかなり分類が細かく分かれており、その中には「Mid-Career Pay」が比較的高いもの、「% High Meaning」が高いもの双方あります。「Psychology」はこの10年で学生数を急増させていますが(「Sociology」は減少)、こうした分野が学生を惹きつけている可能性もあります。
上記の散布図では「Ethnic Studies」を取り上げていますが、これは卒業生の増減の方のデータでは「Cultural, Ethnic, and Gender Studies」となっています。この分類に含まれそうな専攻をいくつか探してみましたが、「Culture Studies」を除き、概ね「Ethnic Studies」に近いポジショニングになっています。所謂人文系の中では数少ない、卒業生が増加した専攻ですが、就職市場でこうしたポジショニングを確保できたことも、学生を集めることができた要因だったのかもしれません。










