何かと評判の悪いロースクール。私個人としては、大学を通じて弁護士を養成すること自体には賛成の立場です(以前の記事参照)。しかし、現状のように、アメリカを参考にした3年制のJD課程を引き写そうとするのがベストとは必ずしも思っていません。大学が弁護士の養成に関与しない国は米・欧・アジアのいずれの地域でも稀なのではないかと思いますが、一方で、実は、3年制のJDを通じて養成している国もまた、少数派なのではないかと思います。
ジョージタウン大学ロー・センターの構内
そこで今回は、アメリカ式の制度が機能する前提条件を簡単に纏めたうえで、対案となるイギリス(大英帝国圏)式の制度を簡単にご紹介します。
アメリカ式の教育課程:選抜課程としての学部・教養教育
個人的には、専門職教育の中に「選抜」というような考え方を取り入れるのはあまり好きではありません。ロースクールであれば、弁護士として勤められるだけの能力・適性(誠実さ!!)がある人であれば、しかるべき教育を受けて弁護士になっていいと思っています。しかし、それでもしかるべき能力・適性を見極めなければいけないことに変わりはないですし、学校の入学枠に限界があるのであれば、少しでも弁護士として成功確率が高い人を選んで欲しいと思うのは当然のことです。
従って、アメリカ式のロースクールが機能するためには、学部→院の選抜が機能していることが前提になります。
アメリカでは、ロースクールに限らず、専門職・学術双方を含めて、大学院に進む人は優秀なエリートです。標準化された学力テスト(ロースクールならLSAT、ビジネスならGMAT、学術ならGRE)、学部の成績は勿論、推薦状、大学時代の課外活動、エッセイ等が総合的に見られます。総じてアメリカの大学の学部というのは、日本の受験を(より多次元な競争尺度で)4年間を通して行っているようなところがあります。日本の大学院の入試には、そこまでの厳しさはないんじゃないでしょうか?
余談ですが、この選抜は、実は、1、2年生の教養課程から始まっています。というのも、各学部の希望者が入学定員を超えた場合の選抜は、教養課程の成績で行われるからです。アメリカの大学生は教養を良く勉強する、と言われますが、実際にはそういう事情が大きいと思います。以前、学部の専攻別の年収を調べた記事(①、②、③-1、③-2)を読んで、こんなに差が出るのか!!と驚かれた方もいるかと思いますが、実はそこでも、身に着けた専門性に加えて、言わば「選抜効果」のようなものが効いているのではないかと思います。例えば、(非常に模式的な例ですが)ビジネス専攻に入るのが難しいのであれば、ビジネスを専攻できた学生は、丁度日本で偏差値の高い大学に入った人と同じような感覚で優秀なはず、という見方をされ、就職で有利になるわけです(勿論、学問の分野を通じて選抜するのがそもそもいいことか、というのは別問題です)。
それはさておき、最後に少しだけ話を戻すと、そもそもアメリカでは弁護士だけでなく、医師も同様の制度で養成しています。日本の場合、医師は学部からの6年制、弁護士は2~3年制の大学院、というのはいかにもちぐはぐで、優秀な学生を選抜できる(さらには、ロースクールに進学したい学生にしかるべき努力をさせる)制度になっているとは必ずしも思えません。日本の大学入試の一発試験システムが優秀な弁護士(医師も)の卵を選抜する方法としてベストだとは全く思わないのですが、日本の現状を考えると、選抜はその段階で行わざるを得ないのではないか、というのが正直な感覚です。
イギリス式・旧大英帝国圏の弁護士養成課程
最初に述べた通り、アメリカ式の3年制のJD課程は世界的に見て、必ずしも一般的ではありません。例えば対案として、イギリス式のやり方を見ると、以下のような感じらしいです。アメリカに比べると知識がないので、あやふやなところもあるかもしれませんのでお手柔らかにどうぞ。また、旧大英帝国圏は類似のシステムを採用していますので、同時にオーストラリア・ニュージーランド方式も分かる範囲で追記しておきます。
前提知識として、旧大英帝国圏の場合、学部は3年制、アメリカのような教養課程はなく、大学入学の段階で専攻別の選抜が行われるのが普通と聞いています。
学部が弁護士養成課程になっている(学位名LLB)。3年制(オーストラリア、ニュージーランドは4年制)。
また、学部卒の段階で法学部に再入学することができ、その場合はより短いスケジュールで卒業できる。
オーストラリア・ニュージーランドでは、法学を専攻する場合、他の分野と2重専攻を取るのが普通で、その場合、5~7年程度で卒業となる。
全体の雰囲気としては、聞く限り日本の医学部ととても似ています。入学の難易度も医学部並、入ってからの忙しさも医学部並。でも、卒業した人は大半が弁護士になれます。
イギリスの場合、一般論として大学に入るまでも入ってからも進度が早く、例えば高校数学の段階で微分方程式等もやっていますし、学部卒業後は直接3年制の博士課程に入るのも普通です。なので、日本式にアレンジするとすれば、やはり恐らくは日本の医学部のようなシステムにならざるを得ないでしょう。正直のところ、日本人としてもそちらの方がイメージしやすいんじゃないでしょうか?
ちなみに、アメリカ時代に出会ったアルゼンチン人の知り合いによると、同国も弁護士養成は法学部で行っており、プラクティカルトレーニングも含めて6年制だそうです(ただ、ドロップアウトレートがかなり高いらしいですが...)。インドも同じく、6年制の法学部で弁護士を養成しているそうです。
そして、そのようにして学部で養成するシステムにした方が、教える側もイメージが持ちやすくなるのではないかと思うのです。別の言い方をすれば、ロースクールの先生方も、例えば医学部の先生並の自覚を持って取り取り組むべき、ということです。正直のところ、ロースクールの授業を受けても司法試験にも受からないというのはかなり厳しいです(学校別の合格実績はこちら、合格率順は、例えばこちら)。
また社会的にも、例えば地方の国立大学のロースクールで苦戦している(又は既に募集をやめた)学校が多いようですが、医学部であれば、これは地域社会が崩壊しかねない大問題とされると思います。弁護士だって、日本も法治国家なのですから、本来、これは同じように地域社会を揺るがす大問題なのです。米・欧・アジアの大半の国でもし同じようなことがあれば、やはりそういう反応になると思います。日本のロースクールの先生も、そういう使命感・危機感を持ってやるべきなのです(詳細はこちらに書きました)。
日本のロースクールはかなり問題が多いようなので、知識不足ではありますが、また折に触れ、取り上げたいと思います。
