前回に引き続き、ビジネス系と他分野の専攻の給与水準の比較を行います。今回は「他の専門職学位」の代表選手として、工学・計算機科学の専攻を分析した後、いよいよビジネス専攻の各分野との比較を行います。データの出所はこちら。給与水準の指標として使用する「Mid Career Pay」は、「卒業後10年以上の調査対象者の年収の中央値」です。
2.「他の専門職学位」の分析(工学・計算機科学)
ビジネス専攻以外の専門職学位の代表選手として、「工学(Engineering)及び計算機科学」の専攻を抜き出してみました(計算機科学は厳密には専門職学位ではないかもしれませんが、便宜上こちらに含めています)。単純に「Engineering」を専攻名としている専攻に計算機科学関係を加えたところ、45個の専攻が見つかりました。
(表が大きくなってしまったので縮小表示しています。別ウインドウでご覧ください)
全ての専攻で9万ドルを超えています。流石に高い!
工学系:この連載の初回で見た通り、トップはダントツで「Petroleum Engineering」。2000万円近く!上位には「Nuclear Engineering」「Chemical Engineering」等、ハードそうな専攻が並びます。専攻によっては、勤務地はかなりの僻地になるかもしれませんが...。
計算機科学系:「Computer Systems Engineering」「Computer Science & Engineering」等、コンピュータ関係は概ね年収中央値11万ドル台に並んでいます。前々回に出てきた「ビジネス系IS/IT」の上位の専攻でも10万ドル台でしたから、こちらの方が高いですね。
大半の専攻で年収中央値10万ドルを超えています。「Civil Engineering」「Environmental Engineering」「Architectural Engineering」等、比較的低めの専攻でも9万ドルは超えています。
全体の傾向としては、工学・計算機科学系であれば下位の専攻でも年収中央値9万ドル以上、多くの専攻で10万ドル以上、ということになります。
結局、ビジネス専攻者の年収って高いの?
これまでの傾向を大雑把にまとめると、以下の通りです。
人文・社会科学、自然科学(数物系・経済学以外)は概ね年収中央値8万ドル台まで
数物系・経済学なら概ね10万ドル以上
工学・計算機科学系なら9万ドル以上(多くは10万ドル以上)
前回にも述べた通り、上記の各分野とビジネス分野は母集団が違う(上記の各分野にはIvy League等の卒業生が含まれるが、ビジネス専攻には含まれない)ため、厳密な比較はできません。ビジネス分野と他分野の出身大学を揃えれば、他分野の年収中央値はより低くなると考えられますが、このデータから具体的なインパクトを算定するのは難しいです。
しかし、Ivy等込みの年収でも、人文・社会科学、自然科学の各専攻が概ね8万ドル台まで、工学・計算機科学系は9万ドル台から、ということですので、母集団の違いによるハンデがあってさえ、年収中央値が概ね9万ドルを超えているような専攻は、専門職学位としてプレミアムがついていると言っていいかと思います。
では、いよいよ上記の分析結果を適用してみましょう。前々回冒頭の、ビジネス専攻の分析を大雑把に纏めた分布図に上記の傾向を書き加えると、以下のようになりました。
(注)日本語のノートは筆者の独断で分野ごとの傾向を模式的に示したもので、分かりやすさのためあえて一部の例外を無視しています。詳細はこれまでのエントリーをご覧ください。
上の図を基に、非常に乱暴に傾向をまとめると、年収9万~10万ドル以上も普通に可能な
ファイナンス
公認会計士
会計システム
労務管理
国際経営
あたりは、学部とは言え専門職学位として十分にプレミアムがつく専攻分野である、と言えると思います。実際、専門性を多少なりとも生かして働いている人は多いです。
まとめ
アメリカのビジネススクールの圧倒的多数では学部教育を提供しており、卒業生はプロフェッショナルとして、アメリカのビジネス・シーンで非常に大きな役割を果たしています。しかし、日本ではどうしても華やかなMBAに目が行きがちです。そこで今回は「ビジネススクールの学部」の実力を測るため、人事・給与情報サイト「Payscale」学部が発表したランキングをもとに、ビジネス系の専攻の卒業生の年収を調べてみました。すると、Ivy League等の名門校ではビジネス系の専攻を提供していないにも関わらず、「ファイナンス」「IS/IT」等、多くの専攻で卒業生が他分野と比べても高い年収(中央値で9万~10万ドル以上!!)を得ていることが分かりました。
実際、こうした専攻の卒業生の多くは、非常に優秀でプロフェッショナルな人たちです。さらに上を目指そうと思えば、トップスクールのMBA等の道も開けてますしね。
今回のエントリーは以上ですが、Payscaleは例年、大学院卒の専攻別年収ランキングも公表していますので、今年度版が出たらまた記事にしてみたいと思います。