アメリカには、日本の税理士のように「税務代理」を独占的に行う資格はなく、原則として誰でも行うことができます(役所から登録番号を取得する必要がありますが、基本的に誰でもできます)。ただ、そうは言っても税務には専門性が必要ですから、様々なバックグラウンドで税務の教育を受け、専門性を証明した人が税務プロフェッショナルとして働いているわけです。

 

そのような税務プロフェッショナルが持っている学歴・資格のうち代表的なものを、以下にまとめてみました。

 

 

個人的な肌感覚ですが、花形は弁護士(JD)です。税法も法律なので、アメリカでは税法はロースクールで勉強するもの、というのが一般的な認識です。とはいっても税法は特殊な領域ですから、JDを終えた人向けに、追加で一年程度のLLM(法務修士)課程を設け、税法を教えている学校も多くあるようです(LLMは外国弁護士の留学用になっているのが普通だが、税法に限って言えば米国弁護士向けも多い)。学校によっては、弁護士でない人向けにも税法のLLMを提供していることもあります。

 

他には、日本と同じくCPAが税務をやっているケースは当然多くあると思います(会計修士で税務専攻を提供している場合もあり)。CPAJDを両方とも持っている人も稀ではありません(教育の元が取れているのかどうかは、良く分かりませんが)。また、それほど多くの学校でやっているわけではないようですが、ビジネススクールが別枠で税務修士(MSTMaster of Science in Taxation)を提供していることもあります。

 

資格試験で取得できる資格としては米国税理士(EAEnrolled Agent)もありますが、個人的にはあまり保有者に会ったことはありません。少なくともハイレベルなプロフェッショナルの資格としては、かなりマイナーだと思います。

 

 プロフェッショナル・キャリアを歩むアメリカの弁護士

 

JDの知り合いと話してみると、弁護士としてトップ級の弁護士事務所に就職して法廷弁護士としてのキャリアを歩む...、という人は一握りで、多くは他のビジネス分野等と同じようなプロフェッショナル・キャリアを歩むようです。米国弁護士と個人的に付き合ったことがあるのは、幸いにして(?)税法弁護士と移民弁護士ぐらいなわけですが、いずれもそのようなキャリアを歩んでいたと思います。

 

そしてその場合、弁護士だからと言って、他のバックグラウンドのプロフェッショナルと大きく違うキャリアを歩むわけではありません(就職しやすい・初任給良い・昇進有利、等はあると思いますが)。例えば税務であれば、Big4を含む会計事務所のみならず、一般企業の税務部にもJD保持者はよくいます。もちろん法務部には普通にいます。成功した法廷弁護士ほどではないのでしょうが、年収もかなり高いようです。

 

 日米のプロフェッショナルの層の厚さの違いとプロフェッショナル教育

 

日本のロースクール制度は米国を模倣しており、概してあまり評判は良くないようです。しかし、個人的には、何らかの形で公のお金を使って法務等のプロフェッショナル教育を行うこと自体には賛成の立場です。少し難しい言い方になってしまいますが、試験制度と合格枠だけ決めて、教育自体は完全に自由競争(資格試験予備校)に委ねる、というやり方では、必ずしも社会的に見て必要な教育が十分に提供できるとは思わないからです(詳細はこちら)。

 

例えば日本の場合、誰でも知っているような大企業と中堅企業(といってもれっきとした上場企業)の間で、税務・法務を含む管理部門のレベルには傾向としてかなり差があるように思いますが、アメリカでは中堅企業でも十分な教育を受けたプロフェッショナルが管理部門の要職を担当しており、業務も十分に遜色ないと言えるレベルでできています(年収の方も全く遜色なし)。地域的なばらつきも同様で(以前も書きましたが)、日本では大都市圏(というか東京)を離れると、受けられる専門サービス(税務・法務・会計等含む)に大きな差が出るように思いますが、アメリカではニューヨーク等に行かなくとも、ほぼ全米どこでもトップクラスの多国籍企業が本社を構えられるだけのサービスが受けられる体制が整っています。実際、米国では多国籍企業の本社は全米に散らばって立地しています(参考)。

 

アメリカのこうしたプロフェッショナルの圧倒的な層の厚さは、当地のプロフェッショナル教育への投資の賜物と思わざるを得ません。そして現実として、アメリカと日本では、全体的な経済的豊かさにおいて大きな差がついています。

 

ビジネスから離れたところでも、特に法務の場合、日本も法治国家なのですから、全国どこにいても法律にアクセスできる体制を整えることは、公共の責任において行うべきではないか、というのが個人的な意見ではあります。

 

とは言ってみたものの、アメリカ式のロースクール制度(3年制のJD)をそのまま輸入しようとすることは、実はベストとは言えないのではないか、と言う感覚はあります。実際、アメリカの制度は世界的に見るとかなり特殊なようです。この辺は畑違いですので難しい部分はあるのですが、できれば回を改めてまとめてみたいと思います。(追記:まとめてみました