前回の記事で、Specialized MastersとMBAの違いを調べてみました。そこで、じゃあそもそもMBAっていったい何なの?と疑問を持たれた方もいるかと思います。純粋に専門職の育成を目指すSpecialized Mastersと比べて、MBAがもたらすメリットって明確じゃないですよね。

 

MBAはリーダーを育成するためのプログラムである、とよく言われます。じゃあリーダーって具体的には何なの?具体的には、例えば以下のようなポジションの人のことを言うわけです。

 

 

 

ゼネラル・マネージャーとも言われ、「開発」「営業」といった機能別の組織を離れて事業全体の責任を取る人です。日本企業で典型的なゼネラル・マネージャーは、例えば事業部長です。かなり偉いポジションですね。

 

このポジションの人も、元々は機能別の組織(例えば開発)の階段を上ってきます。しかし、人はこのポジションについた途端、自分ではやったことのない機能(営業、製造等)の責任も取らなければいけなくなります。場合によっては、事業全体を一つの方向に進めるために、ある機能については自分よりはるかに経験を積んだ管理職を論破し、言うことを聞かせなければならないことすらあるわけです。

 

組織の階段を上ってくる過程でジョブローテーションをすると言っても、あらゆる機能について指導的な立場に立てるほどの経験を積むことはできません。でも、あらゆる分野について一通り勉強することはできます。私自身の個人的な、やや古いMBA観かもしれませんが、MBAのカリキュラムの第1の目的はそこにあります。

 

あらゆるMBAは、一年目の大半をコアコースに費やします。そこでは、経済学、会計学、ファイナンス、リーダーシップ、マーケティング、オペレーション、定量分析、戦略論と、あらゆる分野を万遍なく勉強することになります。

 

 

https://michiganross.umich.edu/programs/full-time-mba/curriculum

(ミシガン大学ロス経営大学院のフルタイムMBAプログラムのカリキュラム構成。図が分かりやすかったのでこちらをご紹介)

  

別の言い方をすれば、リーダーとして機能するにはこれぐらい勉強しておかないと難しくない?と思えるような内容を一通り叩き込むのがMBA、というわけです。

 
日本でいうと、事業部長まではいかずとも、部長クラスになると、自分の部門だけでなく事業全体を見た動き方が求められてくることが多いようです。ですので、日本ではMBAが効いてくるのは部長レベルから、というイメージですね。逆に、課長レベルまでは現場のリーダーという感じで、現場の専門知識と経験がモノを言うケースが多いように思えます。

 

MBAのもう一つの特徴は、もちろん一定の社会経験を積んだ学生を対象にする、ということであり、結果として卒業生は、マネージャー一歩手前ぐらいのポジションから比較的高給でスタートできます。Specialized Mastersの場合にはもちろん専門職として受け入れられるわけですが、ポジションとしてはあくまでスタッフレベルからですので、一般的にはMBAほど給料が出るわけではありません。

 

ここから先は余談となりますが、こうしたMBAのカリキュラム構成というのは、徹頭徹尾アメリカ独特のものです。英、加、等のアメリカ以外の英語圏(すいません、英語圏以外は分かりません)では、ビジネスの諸分野を幅広くカバーするコアコースは用意せず、経済学・会計学・統計学等のごく基本的な必修の後、すぐに専門のコースに入ってしまうカリキュラムが一般的です(少なくとも昔はそうでした)。そういうプログラムは、学位名ももちろん「MBA」ではありません(つまり、むしろアメリカでいうSpecialized Mastersに近い)。アメリカ式のMBA教育が一時期世界を席巻したため、これらの国もアメリカ式の教育を導入していますが、全てそれに移行したという状況ではないと思います。

 

ちなみに、アメリカでは学部でも同じようなカリキュラム構成が貫かれており、3年前半ぐらいまで必修をやっている、というケースも散見されます(それ以降は専門特化したコースになるようですが)。学位名もBBA(Bachelor of Business Administration)とかBSBA(Bachelor of Science in Business Administration)とか言われる場合が多いようです。アメリカでは、むしろSpecialized Mastersのようなカリキュラム構成の方が新しいんですね。

 

日本では専門職大学院制度が導入されたばかりの頃、ビジネス分野で社会人向けの教育をすればなんでもMBA、と言わんばかりの状況も見られました。最近は大分落ち着いてきたようですが、この辺の区別がついていないと海外では違和感を持って見られる可能性もあると思いますので注意が必要です。

 

筆者は日米以外の経験はかなり限定的(就学経験はあるが就業経験なし)なのですが、今後はアメリカ以外の状況もできるだけフォローして行ければと思います。