以前のエントリーで、MBAではない、かといってアカデミック・キャリア向けでもない専門職修士「Specialized Masters」を紹介しました。今回はその続きとして、MBAとSpecialized Mastersは何が違うのか、より具体的にカリキュラムを調べてみました。

 

分野としては、Specialized Mastersの中でも比較的ポピュラーと思われるファイナンスに焦点を当てることにしました。前回紹介した記事をもとに、ランクが高くてファイナンス修士とMBAを両方提供している大学を探してみるとMITスローン(注)。ウェブサイト(http://mitsloan.mit.edu/mfin/)を見ると情報も豊富だったので、今回はスローンのファイナンス修士のカリキュラムを中心に調べてみました。正直、ウェブサイトだけでわかることはかなり限られるのですが、よろしくお付き合い下さい。

 

(注)コロンビア・ビジネススクール(「MS in Financial Economics」)も高かったのですが、こちらは「Ph.D.とMBAの授業を組み合わせたコースワークを2年でやる」、というちょっと変わったプログラムのようでしたので、今回はMITスローンの方を見ることにしました。詳細は同プログラムのウェブサイトをご覧下さい。また、MITスローンのビジネス・アナリティクス修士についてはこちら

 

 

http://mitsloan.mit.edu/より転載)

 

 1.学生

 

カリキュラムを調べる前に、学生の属性はこちら。

 

http://mitsloan.mit.edu/mfin/admissions/class-profile/(ファイナンス修士、Class of 2018)

http://mitsloan.mit.edu/mba/admissions/class-profile/MBA、Class of 2019

  

 

Ÿ   1学年約120人、全てフルタイムで12カ月又は18カ月のプログラムあり(18カ月の場合にはサマー・インターンシップに行くことができるそうです)。

Ÿ   大半(88%)が外国人。MBAの場合(33%)と比べても多いです。

Ø  アメリカの場合、理系(Science, Technology, Engineering and Mathematics: STEM)の学位を取得すると、卒業後米国で働く際のビザで優遇されます。スローンのファイナンス修士のプログラムはそれに該当するということで、学生はアメリカで就職したい若い外国人が多いということだと思います。通常のファイナンスのプログラムでこれに該当することは比較的稀です(Financial EngineeringQuantitative Finance等を除く)。

Ø  ただ、学生紹介のサイト(http://mitsloan.mit.edu/mfin/mit-sloan-community/student-profiles/)を見ると、アジア系でも英米の大学を出た学生が多かったです。美男美女多し。

Ÿ   平均就業年数はインターンシップを含め17.4カ月。MBA4.87年だったので、こちらもかなり差があります。

 

 2.カリキュラム

(1)概要

http://mitsloan.mit.edu/mfin/program-components/personalized-curriculum/core-requirements/

 

Ÿ   コア科目4つ(ファイナンス理論、会計学、数学基礎&上級)、必修上級科目3つ(金融市場、コーポレートファイナンス、定量分析)、アクション・ラーニング科目が最低1つ。残りが選択科目。論文等はありません(ように見えます)。

Ÿ   Concentration(専攻)を取ることもできますが(資本市場、コーポレートファイナンス、金融工学の3専攻)、選択科目を2つ取ればいいだけということなので、それぞれの分野をとても深く学ぶという感じでもないと思われます。

Ø  他の大学のプログラム等も見ても、ファイナンスの特定分野の専門性を狭く深く突き詰めるというよりは、ファイナンスの各分野を一通り押さえられるようにコースワークを設定している場合が多いようです。あまり多くの選択科目を用意していない学校も多いです。

 

Ÿ   Registrarのサイトを見ると、コア科目・上級必修科目のうち4科目(ファイナンス理論、数学基礎&上級、コーポレートファイナンス)はファイナンス修士専用、それ以外はMBAと同じ授業に出席するものと思われます。ファイナンス修士専用コースの内容を見ると、理論は「投資家の消費・投資間の意思決定」から書き起こし、数学の授業は確率過程、MATLAB(科学技術計算用のソフトウェア)によるプログラミングを求める等、明らかに普通のMBAレベルより高度です。

Ø  MBAの授業に、ある程度テクニカルな授業を加えてコースを構成するのは、ファイナンス修士課程の比較的一般的なパターンのようです。また、テクニカルな水準は流石に他校に比べて高いですね(Financial Engineering修士等を除く)。

(2)MBAとの比較

http://mitsloan.mit.edu/faculty-and-research/academic-groups/finance/teaching/academic-programs/mba-finance-track/

 

Ÿ   MBAは、ビジネス関係の諸分野(経済学、データ分析、コミュニケーション、組織、会計、オペレーション、戦略等)を幅広く学ぶコア・コースと選択科目からなっています。ファイナンスをより深く学ぶために「ファイナンス・トラック」が用意されていますが、ファイナンス修士とは別枠の必修科目は3つ(経営財務(コアコース相当)、コーポレートファイナンス、セミナー科目)のみで、他にアクション・ラーニング科目1つが必修、残りは選択となっています。ファイナンス修士で必修になっている科目も選択となっており、テクニカルにもやや軽めですね。

Ÿ   MBAファイナンス・トラックのウェブサイトに、ファイナンス修士との比較が以下のように記載されていましたので、そのまま引用します。

 

How is the MBA Finance Track differentiated from the Master in Finance?

 

The Master of Finance program is a one-year intensive program in finance, targeted to recent undergraduates (those with two years or less work experience) and has a stronger technical emphasis than the MBA program. The Finance Track is part of a two-year MBA program targeted to students with several years of work experience.

 

The MBA program includes study of other management disciplines to develop students into managers, and the Finance Track allows students to integrate study of finance with study of other disciplines, such as economics, strategy, or behavioral science. MBA students also have an opportunity to participate in a summer internship, which Master of Finance students do not. 

 

 3.就職先

 

ファイナンス修士とMBAEmployment Reportが出ていました。

 

http://mitsloan.mit.edu/career-development-office/employment-reports/mfin-current-report/(ファイナンス修士、Class of 2016

http://mitsloan.mit.edu/career-development-office/employment-reports/mba-current-report/MBA、Class of 2016

 

Ÿ   MBAはフルタイム就職希望が8割超、1割足らずが社費留学なのに対し、ファイナンス修士のフルタイム就職希望は6割超、2割超がインターンシップを希望、社費留学は約6%でした。学生層の差がはっきりと出ていますね。

 

Ÿ   卒業生の年収中位値はMBAUSD125,000(全体・金融業界就職者ともに)、ファイナンス修士はUSD77,845(アメリカ国籍・永住権保持者でUSD80,000)でした。MBAの方がシニアでの就職ができているということですね(ファイナンス修士の方にインターンを含んでいるかどうかは分かりませんでした)。

 

 まとめ

 

Specialty MastersMBAの違いがある程度イメージできればと思います。正直のところ、日本人が社費留学等で行くのならMBAの方がフィットするでしょうし、どう使うかというのは難しいところです。アメリカで就職したい野心的な学生は、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

あとはまあ、MITスローンがアメリカの代表的サンプルと呼べるかどうかは微妙なところです。アメリカ人がマジョリティになっているプログラムもありましたし、MBAと共通の授業が中心の普通のプログラムと、より定量的なプログラムの2本立てにしている学校もありました。前者の場合には、MBA就学中にファイナンスの授業を多めにとることで「MBA/MS」といったダブル・ディグリーにできたり。ここまでくると学校側が教室の稼働率を上げたいだけかとも勘ぐってしまいますが、個人的には、社会人になってから時間を取って勉強する機会というのは貴重ですから、できるうちにやれるだけやっておきたい、という気持ちは分かる気がします。

 

日本でも似たようなプログラムを用意しているところは多いと思いますが(一橋、早稲田等)、多分、授業はMBAと共用でなく別枠になっていることが多いと思います。日本の場合、MBAコースのファイナンスの選択科目がアメリカほど充実していないケースが多いせいもあるかと思いますが、その辺もそのうちまた、調べてみれればと思います。

 

補足ですが、Specialized Mastersとしてのファイナンス修士と、博士前期課程とは全く違います。MITも、博士前期課程向けには全く別にコースワークを用意しています(http://mitsloan.mit.edu/faculty-and-research/academic-groups/finance/teaching/academic-programs/phd-program-in-finance/)。Specialized Masters(又はMBA)を取得した学生が博士課程に進学する場合、前期課程1年目からやり直しとなります。念のため。