このブログを始めた初期に、ビジネススクール等の大学院で教えれられるデータ分析関連のSpecialized Masters(MBAとは別枠で提供される専門職課程)としてビジネス・アナリティクス修士(本編番外編)を紹介しました。最初の記事を掲載してから時間が経ちましたので、一回、纏め直しておきたいと思います。あまり新味はないかもしれませんが、よろしくお付き合い下さい。

 

 データ分析系の課程の種類

 

アメリカではデータ分析ブームということもあってか、例えば以下のような、いろいろな大学院がいろいろな学位を出しています。

計算機科学部や統計学部が提供する場合、「データサイエンス専攻」と呼ばれることが多いようです。実際には計算機科学部も統計学部も既に自前の専門職修士を出していることが多く、両者が(ありものの/新規の)コースを出し合ってこうしたプログラムを作っていることも多いようです。

 

https://datascience.columbia.edu/master-of-science-in-data-science

コロンビア大学のデータサイエンス修士課程のウェブサイト。「Data Science Institute」がホストとなり、統計学、計算機科学、経営工学の各科の連携により提供されています。

 

一方、ビジネススクール、工学部(経営工学科)、School of Professional Studies等で提供される場合は、「ビジネス・アナリティクス」又は単に「アナリティクス」と呼ばれていることが多いようです。「アナリティクス」は日本だとやや馴染みが薄い言葉ですが、アメリカでは「データサイエンス」以上に一般的な言葉になっています。

 

https://poetsandquants.com/2018/05/09/the-big-picture-in-business-analytics/3/

こちらから再掲。少し古いですが、2018年時点でのビジネススクールが出しているBusiness AnalyticsのSpecialized Masters(MBAとは別枠の専門職課程)のまとめ。ランキングはこの情報ソースが提供しているMBAプログラムのランキングですが、全般的なMBAプログラムのランキングとこうした個々の専門分野のランキングは往々にして全然一致しないので、参考までにご覧ください。

 

 MIT Sloanのビジネス・アナリティクス修士課程(MBAn)

 

http://mitsloan.mit.edu/より転載

 

前回の記事を書いた時にはまだ始まったばかりだったMIT Sloanのビジネス・アナリティクス修士課程で、卒業生の進路等も含めて詳細なレポートが公表されていましたので見てみることにしました。

 

同プログラムはフルタイム1年制のSpecialized Mastersプログラムです。MIT Sloanが全米の平均的なプログラムということはもちろんなく、さらに以前にも調べた通り、ビジネス・アナリティクス修士課程はプログラムによって対象とする学生等、かなり違うようなのでご注意ください。ただ、「ビジネススクールでフルタイムで提供されているプログラム」に限って言えば、比較的似た傾向のプログラムが多いかと思います。

(1)学生

https://mitsloan.mit.edu/master-of-business-analytics/admissions/class-2020-profile

“Class of 2020 Student Profile”より。Average Work Experienceはインターン含めて15か月、40%が女性、70%が留学生。学部の専攻は理系、文系双方が入っていますが、実際には多くが理系のようです。

 

「ビジネス・アナリティクス」プログラムは「データサイエンス」プログラムに比べると「文系」っぽいイメージがありますが、実際には学部で理系だった学生を中心に採用し、経済学・ビジネス等の学生も一部入っている、といったケースが多いようです。学生にどれぐらい外国人留学生がいるかは学校により分かれるところで、大半が外国人(アメリカでの就職目的)ということもあれば、半分程度はアメリカ人が占めている、ということもあるようです。MIT Sloanも外国人が多いようですが、それでも以前調べた同校のファイナンス修士課程と比べると、アメリカ人がまだいる感じですね(Class of 2019では、4割程度が米国籍だったようです)。

 

フルタイムのプログラムの場合には、入学時の就労経験はMBA等と比べると比較的少ない(全くない/インターンしかない)場合が多いようです。一方、パートタイムの場合には経験年数の長い(場合によってはMBAよりも長い)学生が多くなるようです(参考)。また、統計学修士課程についての過去記事でも触れましたが、日本の感覚で言うと米国のこうしたプログラムにおける女性の割合は極めて高いようです。

(2)カリキュラム

「ビジネス・アナリティクス」に限らず、こうしたデータ分析プログラムの特徴として、勉強しなければいけない領域の範囲が広いということが挙げられます。例えば以下のような内容があるでしょう。

  • 基礎的なプログラミング
  • データベース・データ管理
  • 統計学
  • AI・機械学習
  • 各機能分野のビジネス知識(ファイナンス、マーケティング等)、等

https://mitsloan.mit.edu/master-of-business-analytics#curriculum

MIT Sloanのカリキュラム。「MIT Operations Research Center」と共同で提供しており、「最適化」へのこだわりを見ても経営工学の色彩が強いのかもしれません。全般的に、ケース・プロジェクトコース中心のMITらしい(?)カリキュラムになっているように見えます。


「ビジネス・アナリティクス修士課程」の場合、もちろんプログラミングや機械学習といった専門的な内容の勉強が中心となりますが、例えば統計学修士課程のような「数理統計学を一から」といったレベルではないことが多いようです。その一方で、各機能分野ごとの応用に多くの時間を割くMBAのデータ分析のカリキュラムとも異なっています。

 

また、上記のMIT Sloanのカリキュラムを見ると、技術的な側面でのビジネスコミュニケーション、リーダーシップ等のトレーニングが含まれています。こうした領域で学校でのトレーニングがどこまで有効かは別として、ビジネススクールや経営工学関連のプログラムの中には、程度の差はあれこうしたトレーニングを提供している場合もあるようです。

(3)就職・キャリアパス

https://mitsloan.mit.edu/sites/default/files/2020-02/MasterofBusinessAnalyticsEmploymentReport.pdf

Class of 2019の就職先。以前調べた同校のファイナンス修士課程と比べても稼いでますね(笑)。割合としてはテック系よりコンサル・インダストリーが多く、また東海岸の名門プログラムらしく、BCGやマッキンゼーといった名門戦略コンサルが多い結果となってます。外国人が多いプログラムですが、ほぼ全員がアメリカで就職しているようです。

 

「ビジネス・アナリティクス修士課程」の場合、以前の記事を見ても、どちらかと言えばテック系だけでなく、コンサル・インダストリーへの就職が多いようです(こちらも参照)。また、MBAの卒業生に比べれば社会経験の浅い学生が中心ですが、それでもかなりの就職先・年収を確保できているようです。

 

そんなわけで、こうしたプログラムの就職は良好と言っていいものと思いますが、それだけをもってこうしたプログラムの成果とまで言っていいかどうかは少し留意が必要かもしれません。こうした成果の少なからぬ部分が、アメリカでデータ分析分野での就職が現在、完全な売り手市場となっていることによるものと考えられるからです。実際、大学院まで行かずとも、学部卒だけでも適切な分野を専攻していればかなりの成果を期待できるとも聞きますし、また、こうした「ビジネス・アナリティクス」専攻と、他学部の「データサイエンス専攻」「統計学専攻」等とどちらに行った方が有利か、あるいはPh.Dまで進むのと比較してどうか、といったところもまだ分かりません。

 

ビジネススクールはこうした就職状況等の情報も積極的に開示してアピールしますので、まずは調べやすいところから調べてみた、というのが正直なところではあります。今後も、できるところから調べてみようと思います。