少し前に、こんな面白いレポートを見つけました。IBMが、データサイエンス・アナリティクス職の求人数・待遇等の2020年までの将来予測をしたものです。

 

THE QUANT CRUNCH: HOW THE DEMAND FOR DATA SCIENCE SKILLS IS DISRUPTING THE JOB MARKET

 

このレポートの面白いところは、所謂データサイエンティストに代表される専門家だけでなく、データ分析に係る職種を幅広く取り上げ、分類し、分析対象としていることです。今回はこのレポートを見ながら、専門化・非専門家双方に必要なデータ分析スキルを概観した後、専門家については既にこのブログでは取り上げましたので(データサイエンス・アナリティクスの専門職修士課程)、今回はより幅広いプロフェッショナルを育成するMBA課程で、どのようなデータ分析プログラムを用意しているかを見ていくことにします。

 

 どんな職種があるの?

 

このレポートでは、データサイエンス・アナリティクス職を以下の6つに分類しています。

 


前述のレポート参照

  • Data Scientists & Advanced Analytics:「Data Scientist」「Data Engineer」「Statistician」「Economist」等、機械学習を始めとした進歩的な手法を用いてデータ分析を行う専門家です。本レポートによれば、39%の求人が大学院卒の学位を必要とし、成長率・報酬ともに極めて高い花形職種です。以前紹介したデータサイエンス・アナリティクスの専門職修士課程も、この職種をターゲットにしています。
  • Data Analytics:ビジネス・インテリジェンス(OLAP、ダッシュボード等含む)、データマイニング等、上記の「Data Scientists & Advanced Analytics」との比較で言えば、どちらかと言えば従来型の手法を用いたデータ分析業務を行う専門職です。
  • Data Systems Developers:「System Analyst」「Database Administrator」等、データベース・データ分析に係るインフラを構築するIT専門家です。
  • Analytics Managers:「Chief Technology Officer」「Marketing Analytics Manager」等、分析プロジェクトを統括するとともに、分析部門とビジネス部門の橋渡しをする管理職です。
  • Functional Analysts:この「Functional Analysts」と最後の「Data Driven Decision Makers」は、データ分析部門というよりはビジネス部門に属し、他職種に比べればデータ分析の専門性は比較的必要としない職種とされています。「Business Analysts」「Financial Analysts」「Logistics / Supply Chain Analysts」「Marketing Research Analysts」等、特定の機能分野のアナリストです。
  • Data Driven Decision Makers:データを活用した意思決定に携わる管理職。「CEO」「CIO」のエグゼクティブの他、財務・人事・マーケティング…といった各分野の管理職です。MBAが育成しようとしているのは、原則的・究極的にはここですね(こちらを参照)。

各職種の2020年までの求人数予測は以下の通り。

 

出所:同上

 

「Data Scientists & Advanced Analytics」が、求人数成長率28%、平均給与も約USD95Kと最も花形の職種と言えます。一方、2020年時点での推定求人数は約62,000件と、人数で見た割合は少ないですね。他の職種も15%前後の成長が見込まれており、特に「Analytics Managers」は平均給与USD100K超と、こちらも花形職種となっています。

 

一方、人数で言えば「Data Driven Decision Makers」「Functional Analysts」「Data Systems Developers」等の方が圧倒的に多いです(それぞれ「Data Scientists & Advanced Analytics」の10倍~15倍)。こうした職種でどこまでのレベルのデータ分析スキルが求められるのか、というのが今回の記事のメインテーマです。

 

 どんなスキルが必要なの?

 

少し細かい表ですが、各職種でどのようなスキルが必要なのかは、以下の表を見ると分かります。

 


出所:同上

 

「Data Scientists & Advanced Analytics」を見ると、「Apache Hadoop(分散処理を行うミドルウェア)」「Machine Learning(機械学習)」「R」「Python(プログラミング言語)」等の専門用語が並びます。一方、他職種は「SQL」「SAS(統計ソフト)」「Business Intelligence」等で、先進的な機械学習の知識やプログラミング技能までは要求しない、どちらかと言えば「従来型」のスキル要件が多いようです。「Functional Analysts」「Data Driven Decision Makers」には、さらに「Financial Analysis」「Budgeting」「Project Management」等のビジネススキルの要件が並んでいます。

 

ひとまず2020年までは、「Data Scientists & Advanced Analytics」以外は、とりあえず従来型のデータスキルを身につけておけばなんとか対応できそうです。

 

ちなみに、かくいう筆者は完全に従来型スキルの人間です。統計学はそれなりに勉強しましたが(行列を使って回帰分析をやったり、Diff-in-Diffでインパクト推定とか)、分析はパッケージソフト頼りでした。

 

 MBAでは何を教えているの?

 

従来、アメリカを中心としたMBAプログラムでは、基本的な定量手法は主に以下の2本柱で教育をしてきました。

コアコースでは上記の基本を教え(スプレッドシート・モデリングは選択科目なこともあると思いますが)、ツールはExcelに必要に応じアドオンを入れて活用、人によっては選択科目でより進んだ内容を勉強して定量分析の専攻(Concentration)を取得、あるいはマーケティング、ファイナンス等の各分野で必要な内容を勉強、といった感じだったかと思います。また、SQL等のデータ管理スキルは、少なくともビジネスIT専攻がある学校であればコースがあったでしょう。概ね、上の表で見た「従来型」の内容、という感じですね(SASを使ったかどうかはともかく)。

 

一方、最近はデータサイエンスブームに乗って、「従来型」のスキルを超えた、プログラミング等の上級のコースを提供するビジネス・スクールも増えているようです(ただ、自前でビジネス・アナリティクスのSpecialized Mastersプログラムを出せるようなビジネス・スクールを除くと、外部講師の活用等、後追いの感のある大学もあるようですが…)。その場合、従来型のコアコース、選択科目、各機能分野の提供科目等の上に、そうした上級スキルのコースを上乗せしたような形で、専攻(Concentration)のカリキュラムを構成することが多いようです。

 

http://www.kellogg.northwestern.edu/data-analytics/academics/curriculum.aspx
KelloggのMBAデータ・アナリティクス専攻(Concentration)のカリキュラム。コアコースでは伝統的な統計学を教え、選択科目は各機能分野で用いられる定量分析を中心に、さらに上級科目でIT技術やプログラミング等を教えています。

 

この分野でどのような専門職が確立されていくのかは、まだまだ不確実な部分があります。例えばファイナンス分野では、クォンツのように高度に定量的な分析を担当する職種に就く人はごく少数で、他に様々なレベルの専門職が発生しました(私も仕事でバリュエーションをやることがあるので、一応、その片隅に居させて頂いている、ということになりますか)。データ分析の分野では今後、どのような展開が見られることになるのか、注目して行きたいと思います。