M&Aの買収価格算定のため、あるいは会計上・税務上のニーズにより、ある企業の財務的な価値を評価しなければならなくなることがあります。特にM&Aが盛んな国、アメリカでは、この企業価値評価(バリュエーション)を行う専門家向けに、様々な資格認定制度が存在しています。これらの資格がなければ外部専門家としてバリュエーション・サービスを提供できない、といった独占資格ではありませんが、いずれにせよ日本ではあまりなじみがないと思いますので、今回は少し表題から外れますがご紹介します。

 

主な資格の取得条件を下表に整理してみました。バリュエーションのみを守備範囲とする専門資格の他、専門家が良く持っているその他の資格、学歴も含めています。 

 

(表が小さくなっていますので、拡大してご覧ください)

(注1)       この表では省略していますが、各協会は別途、資格更新、継続教育、有資格者が順守すべき業務標準等のルールも策定しています。

(注2)       取得要件等は変更される場合もあります。詳細は各協会のウェブサイト等をご参照ください。

 

ちなみに、筆者も表中の資格のうちの一つを持っています。

 

概ね、いずれの資格も「教育要件」「資格試験」「実務要件」を課しています(どれかが欠けているものもあります)。教育要件については、CPA以外は大学での単位取得等を要求しているわけではなく、各協会が提供するコースへの出席等を課している場合が多いですね。バリュエーションはさほど幅広い知識が求められる専門分野ではないこともあり、資格試験自体は一般的にはそれほど難しくはないようです。

 

以下、各資格ごとに簡単にご紹介します。

 

 1.専門資格

 

Ÿ   ASA (Accredited Senior Appraiser: www.appraisers.org/): 実務要件が「5年間のフルタイムのバリュエーションの経験」と最も厳しく、資格取得の際に実際に業務で作成した評価レポートのレビューを求めること等から、この分野では最も権威ある資格とされているそうです。同資格を提供している協会(American Society of Appraisers)は他に不動産、宝飾品等の評価資格も提供しており、日本で言えば不動産鑑定士の事業版のようなものなのかもしれません。

 

Ÿ   ABV (Accredited in Business Valuation: https://www.aicpa.org/): アメリカ公認会計士協会がCPA取得者向けに提供している資格です。実務要件が比較的軽く(150時間又は6件の評価案件の完了)、フルタイムでバリュエーション業務を行わないCPA(独立して事務所を営んでいる、他分野の専門家で必要に応じバリュエーション・サービスも提供している等)でも取得可能なように配慮されているものと思われます。

 

Ÿ   CEIV (Certified in Entity and Intangible Valuations: https://ceiv-credential.org/): 米国の規制当局のコメントを受けて3つの資格協会が共同開発した、会計上の公正価値評価(M&Aの際のPurchase Price Allocation等)を行う資格です。ASAABVCFA(下記参照)等、他の資格試験に積み上げる内容となっています。まだ新しい資格ですので(実際に資格認定を始めたのは去年から位なようです)、詳細は今後、ウォッチしていければと思います。

 

Ÿ   CVA (Certified Valuation Analyst: https://www.nacva.com/): 比較的取得が易しい資格とされているようです。「CPA」又は「ビジネス専攻の学位+実務経験」が取得条件となっています。

 

Ÿ   CBA (Certified Business Appraiser: https://www.nacva.com/go-iba): 比較的取得が難しい資格とされていたようですが、2008年に同資格を提供していた協会が他の協会(上記のCVAを認定するNational Association of Certified Valuation Analysts)に身売りし、2016年から新規資格認定も停止してしまったそうです

 

 2.その他資格

 

Ÿ   CFA (Chartered Financial Analyst: https://www.cfainstitute.org/): 日本で言う証券アナリスト資格のようなもので、日本でも資格試験予備校等を通じ取得できます。資格試験の難易度が高いことで知られ、実務要件も厳しい(4)ことから、バリュエーションの専門家の間でも評価の高い資格です。

 

Ÿ   CPA (Certified Public Accountant: https://www.aicpa.org/): CPAがバリュエーションを行うことももちろんあります。上記のABVCVA等を追加取得していなくともできるようです。CPAの詳細はこちら

 

 3.学歴

 

Ÿ   MBA: MBA取得者がバリュエーションを行うこともあります。外部専門家として行うことは多くないかもしれません。

Ÿ   エコノミスト: 無形資産価値評価等は、エコノミスト(Ph.D.取得者等)が行うこともあります。通常のバリュエーションを行うことはあまりありません。

 

アメリカのバリュエーション専門家の人材層は厚く、こうした資格制度の貢献は少なくないものと思います(人材面だけでなく、評価に用いるデータベース等、他のインフラ面でも日本に比べ圧倒的に充実しています)。一方、CPAもそうですが、アメリカではこうした資格は基本的に民間資格ですので、各協会の動き方によっては資格が乱立し、場合によっては協会が潰れてしまうこともあります。正直、この分野はアメリカ人でも混乱するほどの乱立状態で、あまり見習える状況でもないと思いますが、新しい分野の専門職が確立されていくダイナミズムは日本にはないものだ、とは感じます。