以前、ビジネススクール等で提供されるデータ分析のSpecialized Mastersプログラム(MBAとは別枠の専門職修士課程)である「ビジネス・アナリティクス修士課程」を紹介しました。この記事を書いたのはもう2年前ですが、最近は同分野ではUS Newsのランキングも公表されるようになるなど、すっかり定着したのではないかと思います。
こうしたプログラムはもちろん大学院だけでなく、学部でも提供されています。但し、こうした学部のプログラムは、Specialized Mastersプログラムとはかなり内容が異なることもあるようです。その理由の一つとして、受講する学生層の違いがあると思われます。Specialized Masters、MBA、学部の各プログラムの特徴と、各々のデータ分析教育の特徴について以下にまとめてみました。
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Specialized Mastersの場合、短期集中的なトレーニング(フルタイムであれば1年~1年半程度なことが多いようです)で即戦力になるアナリストを育てるべく、「理系レベルの数学」「統計学」「プログラミング」等を履修済みの学生を受け入れているケースが多いように見受けられます。一方、学部の場合、おそらくビジネススクール全体で最低限、履修が必要なレベルを超える前提条件(数学で言えば、所謂「文系数学」程度)を求めるのは難しく、Specialized Mastersのような高いレベルの前提を置いたカリキュラムは組み難いのではないかと思います。
こうした専門職課程は、これまでこのブログのいろいろな記事で書いてきた通り、学部・院に関わらず卒業後のキャリアと密接に結びついています。特に学部の場合、管理職・ゼネラリスト養成課程であるMBAと比較してもスペシャリスト志向のカリキュラムになっていることも多いです。その状況でどのようなデータ分析教育を提供すればいいのか?少し調べてみると、学校によってはかなりテクニカルな内容に力を入れようとするケースもあれば、逆にビジネス・アナリティクスについては「専攻」までは設けずに「副専攻」に留める等、学生に教えられるスキルやキャリアパスを勘案して様々な工夫を凝らしているようです。
以下、US Newsのランキングで上位に入っている大学のプログラムをいくつか調べてみました。
1. ジョージア工科大学「Master of Science in Analytics」(参考)
https://www.analytics.gatech.edu/
https://www.analytics.gatech.edu/curriculum/course-listing
ジョージア工科大学「The Master of Science in Analytics」のウェブサイト。次から述べる学部のプログラムの比較対象としてよいかと思いましたのでご紹介します。「Scheller College of Business」「College of Computing」「College of Engineering(H. Milton Stewart School of Industrial and Systems Engineering)」の連携により提供。同校H. Milton Stewart School of Industrial and Systems Engineeringは、学部・院ともに約30年の長きに渡り全米1位に輝き続ける名門です。
カリキュラムを見ると必修に加えて「統計学」「コンピューティング」「ビジネス」「オペレーションズ・リサーチ」の各分野から授業を選択するようになっており、個々の授業は連携する各学部が持ち寄って提供しています。各学部はそれぞれ別に自分の修士課程を持っており、多くの授業がその自分の修士課程からも取れるようになっているようです。全体的に見ても、完全に理系レベルのプログラムとなっています。
2. ジョージア工科大学Schller College of Business「Business Analytics Certificate」
https://www.scheller.gatech.edu/degree-programs/undergraduate/courses-curriculum/certificates/businessanalytics.html
こちらは同じくジョージア工科大学の学部で提供される「Business Analytics Certificate」のカリキュラム構成。こちらは「Scheller College of Business」が単独で提供。専攻でなく「Certificate」なので履修科目は多くなく、必修の「Business Analytics」に加え、マーケティング・ITマネジメント・オペレーション等の各科が持ち寄った授業や各種のトピックス・コースから選択するようになっています。必修の「Business Analytics」の他、プログラミング等の授業もITマネジメント専攻と共用になっており、同専攻の学生なら無理なく取得できそうに見えます。「データ分析に強いITプロフェッショナル」というスキルセットは、実際的なニーズも高そうです。
なお、修士課程を共同で提供していた同校College of Computingは学部レベルでは「Minor in Computational Data Analysis」を、H. Milton Stewart School of Industrial and Systems Engineeringは「Analytics and Data Science Concentration」を、それぞれ独自に提供しています。
3. MIT Sloan「Major in Business Analytics」
https://mitsloan.mit.edu/undergrad/15-2-business-analytics-major-requirements
MIT Sloanの学部の「Business Analytics Major」のカリキュラム構成。同校の学部のカリキュラムは少し特殊で、所謂ビジネスのコアコースを履修する必要がなく、直ぐに専門に入るようになっているようです。そのため、専門の授業により多くの時間を割いたカリキュラム構成になっています。その専門の授業も必修で確率・統計、オペレーションズ・リサーチ(最適化・確率モデル)、機械学習・プログラミング等、テクニカルなトピックをじっくり時間をかけて学べるようになっており、理系レベルの極めてスペシャリスト志向の強いプログラムになっているように見えます。
4. CMU Tepper「Business Analytics and Technologies Concentration」
https://www.cmu.edu/tepper/programs/undergraduate-business/curriculum/concentrations/index.html
カーネギーメロン大学Tepperビジネススクールの学部の「Business Analytics and Technologies Concentration」のカリキュラム構成。同校は学部でもMBAのようなConcentration制を採用しています。そのため先ほどのMIT Sloanとは対照的に、専門の授業はかなり少なくなっています。選択必修の「Data Mining & Business Analytics」「Machine Learning for Business Analytics」の他は、やはりIT関係やオペレーション関係、その他のトピックスコースから構成されているようです。データ分析のスペシャリストというよりは、ビジネス・レベルのアナリスト、ゼネラリスト志向のプログラムになっているように見えます。
5. UT Austin McCombs「Major in Business Analytics」
https://www.mccombs.utexas.edu/faculty-and-research/departments/irom/degree-programs/undergraduate/business-analytics/
テキサス大学オースチン校McCombsビジネススクールの学部のBusiness Analytics Majorのカリキュラム構成。プログラミング、データ管理、Predictive Analytics(機械学習が中心のようです)、最適化、キャップストーン・プロジェクトからなる必修科目に加えて選択科目も多く、しかもビジネスのコアコースに加えてこのカリキュラムですので、かなりワークロードは多いのではないかと思います。まだ新しいプログラムのようですが、スペシャリスト志向のかなり力の入ったカリキュラム構成になっているように見えます。
なお、上記のMIT Sloan、CMU Tepper、UT McCombsの各校は、主専攻に加えて授業の数をかなり絞った副専攻(Minor)を同時に用意しています。
こうした形で上位校のプログラムを見比べてみても学習内容にはかなりばらつきがあり、各校が想定する卒業生のキャリアパスもかなり異なっているのではないかと思います(学校の方も、ターゲットとなる学生・想定キャリアパス等、悩みながら作っているのではないかと思います)。学生の方も良く調べた上で専攻を選択する必要がありそうです。