本ブログでは以前から、データサイエンス関係の学位を幾つか紹介してきました。アメリカでは大学の学位の他にも、データサイエンス・アナリティクスを勉強できるトレーニングプログラム・資格等もあるようですので、少し調べてみました。
こうしたトレーニングプログラムや資格の中には、大学で一定の学位を取得したことを条件とする等、大学教育と連動しているものが見られます(もちろん、そうでないものも多くあります)。また、テック系企業等でハイレベルな製品開発等を担う所謂「データサイエンティスト」だけでなく、個々のキャリアパスに合ったプログラムがいろいろと用意されているようです。
トレーニングプログラム
既に博士号・修士号等を取得した人、他分野で経験を積んだ人向け等に、短期集中的(2か月前後)にデータサイエンティスト・エンジニア向け等のトレーニングを提供するプログラムです。
- Insight fellowship
Insight(民間企業)はデータ関連の様々な領域について、短期集中的なトレーニングプログラムを提供しています。
https://www.insightdatascience.com/
博士号取得者(データ関係とは限らない)向けに、7週間でデータサイエンスの基礎を教育するプログラムです。ウェブサイトの情報を見ると、主に理学分野の博士号取得者(物理・生物等)がデータサイエンス関係に転業する際に使用しているようです。
https://www.insightdatascience.com/
Insight Data Science Fellowship受講者のバックグラウンド
アメリカではPh.D取得者がデータサイエンティストとして就職するケースが多くあり(こちらで紹介した情報によれば、データサイエンティストの46%がPh.Dだとか)、このプログラムを使ってデータサイエンティストに転業した人も実際に知っています。今後、こうしたデータ関係以外の分野の博士業取得者の流入が続くのか(あるいはよりデータ関係に特定の専門的な勉強をした人が主流になっていくのか)、ちょっと興味があります。
こちらは博士号取得者に限らず、ソフトウェア工学・計算機科学の基礎を習得したエンジニアや関係する専攻の卒業生(アカデミックからの転業希望者を含む)にデータエンジニアとしてのトレーニングを施すものです。内容としては、"Build scalable, distributed data pipelines,""Benchmark data technologies,""Contribute to the latest open source projects"と謳われています。卒業生のバックグラウンドを見ると、こちらは多くが「Engineering」「Computer Science」「Mathematics」となっています。
https://www.insightdataengineering.com/
Insight Data Engineering Fellowship受講者のバックグラウンド
Insightは他に、MBA卒業生等も対象とした「DATA PM」の他、「HEALTH DATA」「AI」「DEVOPS」「CONSENSUS(ブロックチェーン関係)」「SEQURITY」の各プログラムを用意しています。
コーネル大学が提供している類似のデータサイエンティスト養成プログラム。こちらは博士・修士号取得者双方を受け入れています。
https://www.thedataincubator.com/fellowship.html
その他の資格
適当に検索してみると、色々出てきます。多くが所謂ベンダー資格で、中身としてもIT系の各種資格と似たノリのものもあるものと思われます。例えば以下の通りです。
上記の中には日本から受験できるものもあります。また上記の他に、プログラミングの検定・資格等はいろいろとあるようです。
ちょっと面白そうなのがCertified Analytics Professional(CAP)。あのINFORMS(Institute for Operations Research and the Management Sciences、経営工学関係で有名な学会・協会)が運営する資格です。
https://www.certifiedanalytics.org/
CAPのウェブサイト。「ベンターニュートラル」な資格であることを謳っています。資格取得条件は資格試験に加えて「学部卒+関連の経験5年」又は「修士卒+経験3年」、学位も分析業務に関連する専攻(アナリティクス、OR、統計学、関連のビジネス領域等々)のものであることを推奨しているようです。アメリカのビジネス関係の資格では比較的見かけるパターンですね。まだ新しい資格なようですが、データ分析の世界で、こうしたパターンの資格がどこまでフィットするのか少し興味があります。
もっとも、こうした資格がどこまで普及しているかについては、正直のところ分かりかねる部分もあります。また、実際にはこうした資格まで行かなくとも、例えばCourseraでコースを取るだけでも十分、アピールになるようです(履歴書にも書けますし)。ただ、関連する学位も資格も何も持っていない、というケースは限られるのではないかと思います。
日本では…
こうした資格は日本でももちろんあります。例えば以下の通りです。
アメリカの場合、データ関係のキャリアパスは、テック系企業等でハイレベルな製品開発等を担う所謂「データサイエンティスト」と、より他のビジネス/ITプロフェッショナルに近いキャリアパスを進む「アナリティクス」に2分化されてきているような印象があります(それに加えて、データ関連のインフラを構築する「エンジニア」もあり)。それに対応し、各種の学位やトレーニングプログラム、資格等も、それぞれのキャリアパスに対応して用意されてきているように見えます(概ね、上記の「トレーニングプログラム」は前者、「その他の資格」は後者に該当するものが多いものと思われます(「エンジニア」はどちらもあり))。実際、言葉として現地で圧倒的によく聞くのは「データサイエンス」ではなく「アナリティクス」の方です。
また、データ分析の専門家以外のビジネス/ITプロフェッショナルもデータ分析のトレーニングを受けることには熱心です。所謂「バブル」なのかもしれませんが、国を挙げて取り組んでいる感すらあります。
日本にいると、トップレベルのデータサイエンティストが注目されがちですし、そうしたポジションは勿論、一番の花形ですからそれはそれでいいのですが(そしてそのポジションにおける日米格差は勿論大きいのですが)、「アナリティクス」等、それ以外のデータ分析関係者の質・量の蓄積にもかなりの差が出てきています。個人的には、実はそちらの方もかなり心配しています(この辺についていけなくなっているのは、正直のところ、自分も含めて高齢化の影響は否めませんね…)。