(この記事では、ミャンマーのクーデター関連のニュースをフォローしています(2022/10~2023/5)。関連記事は以下の通り)
© Vyacheslav Argenberg / http://www.vascoplanet.com/, CC BY 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/4.0>, via Wikimedia Commons
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/12/Bagan%2C_Myanmar%2C_Ancient_temples_at_sunset.jpg
ミャンマーの古都バガンの遺跡群
(5/13追記)
関連報道を追加しておきます。ASEAN首脳会議は大きな進展なく閉幕、それに先立って中国外相が軍政トップと会談したことが報じられました。
(4/29追記)
関連報道を追加しておきます。国軍と近隣国からの参加者を集めた第2回の「トラック1.5」ラウンドテーブルがインドで開催、元国連事務総長がミャンマーを訪問、等の外交ニュースが続いています。
少し古いですが、このブログでも第1回の「トラック1.5」ラウンドテーブルをフォローできていなかったので、検索してみたところこの記事(バンコクポストの社説)が出てきました。近隣国のミャンマー問題に対する見方が分かる内容となっていますので少しご紹介します。
- 3 月 13 日にバンコクで開催された「トラック 1.5」ラウンドテーブルでは、国軍と近隣国との間の認識の相違が極めて大きいことが明らかになった。国軍が考える以上にミャンマーの不安定化は近隣国の間で重要な課題となっており、近隣国にはミャンマーの紛争が続いた場合、外部の干渉等によりミャンマーが「ウクライナ化/バルカン化」しかねない、とのコンセンサスがある。
- 欧州で進行中の戦争が示しているように、近隣国は何よりもまず自らの力で問題を解決しなければならない。さもなければ、他のより強力な国が、近隣国の利害に関係なく自らの方針に従って政策を実施しようとする可能性がある。
- 国軍を除く会議の参加者は、誰がトラブルメーカーで誰が一連の問題の根源になっているか、十分に認識していた。
- また、ミャンマーの悲惨な現状は、外部の関係者の関与による麻薬、武器密輸、人身売買の影響を受けているとの認識が持たれた。長大な国境を接するタイは、こうした問題についてミャンマーと利害を共有する立場にある。
- ASEANの「5つのコンセンサス」は依然として包括的な枠組みだが、他に共有できる目標を見い出すことは有益であり、こうした試みは、進行中のASEANの取り組みの一環と見なされるべきである。
以前の記事でも触れた通り、近隣国にとってミャンマーに関わる利害は大きく、特に周辺部・国境付近の安定がなければ、これらの国は難民の流入や麻薬・武器密輸等の広がりによる治安悪化等のリスクを排除することはできません。この辺の感覚は、中心部の都市や港湾等が機能していればあまり周辺部への利害のない日本等とはかなり異なるのではないかと思います。一方で、域外国(アメリカ、ロシア?)の干渉により情勢が泥沼化するとの認識・警戒感も強いようです。
(4/15追記)
関連報道を追加しておきます。国軍による北部の式典空爆によりこれまでで最悪の数の死者が発生、東部でも戦闘激化で多数の住民がタイに避難との報道が出ています。当地は雨期が近づいており、例年通りであればこれから多少、紛争は落ち着いてくるものと思いますが、足元の状況は深刻なようです。
(3/25追記)
関連報道を追加しておきます。
China ‘Increasingly Concerned’ About Instability in Post-Coup Myanmar: US Expert (irrawaddy.com)
先月のものですが、最近の中国の対ミャンマー外交について解説したレポート。下の記事は、その筆者に対するミャンマーの英字メディアIrrawaddyによるインタビューです。なかなか情報が入ってこない中国の動向について、深く掘り下げた貴重な内容となっていますので少しご紹介します。
- 2022年の後半以降、中国政府は、国連における評判の棄損やASEANとの対立等の政治的なコストを払ってまで、国軍を支持することには限度があることを示すようになっている。また西側の民主派への支持が拡大することに対応し、国軍と中国国境付近に所在する少数民族武装集団(EAO)の双方を支援することにより、ミャンマー全体により強い影響力を及ぼすことを目論んでいる。
- クーデターが起こった当初、中国政府はしばらく様子を見ていたが、2021年6月以降は国軍を支持する外交を展開してきた。この方針は2022年7月にメコン川流域5か国との外相会談で同国の外相がミャンマーを訪問した時にピークを迎えた。しかし、この方針は国軍に対してより厳しい態度を取るASEANとの間で路線対立を引き起こした。また中国は、ミャンマー国内の中国との国境近くに所在する7つのEAOに国軍と交渉するよう圧力をかけてきたが、これらのEAOは国軍の軍事力が落ちているのを見て自らの勢力を拡大させた。
- さらに2022年12月の国連安保理決議(中国は拒否権を行使せず)と米国の「ビルマ法」の成立により、国軍の中国に対する交渉上の立場が弱くなったことを受けて、中国は対ミャンマー政策を再調整した。現在は中国の新しい対ミャンマー特使が、これらの少数民族により高度な自治権を与えるよう働きかけている。民主派より国軍を優先する姿勢は変わっていないが、これらのEAOが国軍に挑戦することには以前より寛容になっている。またこの特使は国軍と面会する前にEAOと面会しており、これらのEAOに対し、国軍と交渉するとともに西側からの支援を受けないよう圧力をかけている。
- こうした外交の背景にあるのは、経済進出を目論むインフラ等の国営企業、雲南省政府、多国籍犯罪組織を含む「影の」ビジネスネットワークによる支持である。
- 下のインタビュー記事では、そのような中国外交の変化に対するタイ政府の反応も紹介されています。中国の進出による投資の拡大や経済協力が進展すること自体は歓迎しつつも、メコン川流域を含む中国の安全保障上の南進は警戒していること、またこれらの少数民族が支配する地域では「グレーなビジネス」が多いことから、それらの拡大に対する対策を取っていること等が指摘されています。
ミャンマー情勢は「国軍vs民主派」の対立の構図となっていますが、中国国境付近に所在するこれらのEAOは双方から距離を置いた「第三勢力」のような存在となっており、中国がその勢力の拡大を後押ししている形となっているようです。
(3/11追記)
関連報道を追加しておきます。年末の「ビルマ法」の成立を受け、米国が外交に積極的な姿勢を見せようとしているようです。一方、中国の特使が(民主派に合流していない)少数民族側、国軍側の双方と面会したことも報じられています。
(2/4追記)
関連報道を追加しておきます。
ほぼ親軍政党しか登録できない政党登録制度を設けるなど、今年の夏を目指して強引に突き進んでいた選挙は先送りになりました。これまで国内外の風当たりを無視して突き進んできた国軍でしたが、ここにきてその行動を変えざるを得なくなったようです。但しその後で広い地域に戒厳令を施行する等、弾圧は止まっておらず、基本的な行動プランを変えるまでには至っていないようです。
外交面では、ASEAN議長国となったインドネシアに加えて、昨年末から引き続いてタイが活発化させています。
クーデターから2周年ということで、各紙が報道を増やしています。
(1/14追記)
関連報道を追加しておきます。
米シンクタンクがインド・タイで民主派勢力にインタビューした際の内容を元に書かれた記事。各々の民主派武装勢力(少数民族武装組織(EAO)、人民防衛隊(PDF))がそれぞれの持ち場を守る戦略から転換して勢力圏の拡張を始めていること、各武装勢力はそれぞれ独自に活動していてNUGが集権的に統治・支援している状況ではないこと、自らの勢力圏の統治のための暫定的な自治政府の設立が議論されていること、将来の国の形(連邦か独立か?)を巡っても議論が分かれていること、等が報告されています。
2 Million IDPs Since the Coup - ISP-Myanmar (ispmyanmar.com)
2022年まとめの冒頭で使ったインフォグラフィックが更新されていました。国内避難民(IDPs)は2022年12月時点で2百万人近くに達しており、またそのうち1.3百万人以上が2022年に発生していたということです。グラフを見ても、報道が減った2022年の方がその前年よりずっと状況が悪くなっていることが伺えます。なお、UNHCRによれば、2023年1月29日時点の国内避難民は1.5百万人となっています。
(12/27追記)
関連報道を追加しておきます。
(11/27追記)
関連報道を追加しておきます。
(11/12追記)
関連報道を追加しておきます。これから国際会議が続きますので(G20、APEC)、関連報道があれば追加します。
これまで、ASEANはなかなか実効性がある成果を挙げられていないように見えます。ただ、ASEANのミャンマー国軍に対する立場は少しづつ変化しているようです。今年の前半、カンボジアが対応を主導しようとしていた頃には、ASEAN内部における「国軍寄りのインドシナ半島の権威主義国(カンボジア、タイ、ラオス、ベトナム)」対「民主派寄りの島嶼部諸国(インドネシア、マレーシア、シンガポール)」といった分断の構図が報道されていました。しかし、夏に国軍が国際社会の制止を振り切ってスーチー氏の側近だった元議員ら4人の死刑を執行した頃から、カンボジアからも国軍に批判的な発言が目につくようになり、今では国軍に同情的な構成国はあまりなくなっているようにも見えます。
その背景として、ASEANの中では比較的権威主義的な国であっても、西側の投資を受け入れる等、バランス外交を展開している国が多いことがあるのではないかと考えています(一方、比較的民主主義的な国であっても西側べったりになっているわけでもなさそうです)。例えばベトナムは共産国ですが、中国からは多大な影響を受けつつも島嶼部で領土問題を展開しつつ、経済改革を行って西側(日韓等を含む)からの投資を受け入れ、一方で軍事面ではロシア製の兵器を多く揃える等、ロシアとの関係も保っています。
ASEANは構成国が共同で外交を展開する(それによって域外の大国との交渉でも交渉力を得ようとする)場でもあると思いますが、ミャンマー国軍は各構成国のこうしたバランス外交からは全くかけ離れた立場を取っているようであり(夏以降にロシアと急接近してからは特に)、仮に国軍がASEANに復帰したとして、各構成国と歩調を合わせて域外国との外交を展開していけるものかどうか、甚だ疑問です。これを各構成国の立場から見ると、国軍をASEANに引き入れることに対して、構成国としても外交的にあまりメリットを見い出しにくくなっているのではないか、という気がします。
もしそのような背景があったとすると、今後、ASEANが実効性のある手立てを打てるのかどうかは分かりませんが、一方で国軍主導のミャンマーのASEAN復帰を積極的に促すような動きもまた、出てきにくいのではないかと思います。
(10/30追記)
関連報道を追加しておきます。
そのあまりの残虐さから、国軍が少数民族のコンサート会場を空爆したことは大きな衝撃を呼びました。以前から国軍の空爆は市民に損害を加えていましたが、それは国軍のパイロットの練度が低く、反撃を恐れて高空から攻撃するため、軍事拠点を国軍にしても爆撃が外れてしまい、結果として市民に被害が及ぶ…、といった状況であったと報道されていました。しかし、今回のことと言い、少し前に報道された学校への空爆といい、最近は市民が集まる拠点によりピンポイントに空爆が行われています。こうしたことを見ても、国軍の内部に一定の変化が起こっているように見えます。
こうした変化の一つの要因として考えられるのが、ロシアによる支援です。今回の空爆ではざっと報道を見た限りでは確認できませんでしたが、前回の学校の空爆の際はロシア製のヘリが使われたとの報道が見られ、また、実際のところは分かりませんが、ツイッターなどではロシア人パイロットや軍事顧問等が国軍を支援している、と言った話もあります(未確認)。さらにロシア製の兵器の流入自体は、上にも記事のリンクを取り上げておきましたが、米国が仲介業者に制裁を課したり、国連でも報告者が懸念を示す等、かなり深刻なようです。
国軍は夏以降、ウクライナ戦争で西側世界と対立するロシアに接近しており、こうしたロシアの支援がミャンマーにおける戦況にインパクトを及ぼす可能性もあります。ミャンマーは冬が乾季ということで(タイと同じだと思いますが)、昨年も今ぐらいの時期から紛争が激しくなっていっていたようですので、今後の戦況は気を付けて見ておこうと思います。
なお、ロシアだけでなく、中国ももちろん国軍に兵器を提供する等は行っています。しかし中国の場合、自らの国益(安全保障、経済権益等)のため、ミャンマー国内のいくつかの少数民族とも関係を持っており、あまり一方的に国軍に肩入れしすぎるようなことは、多少はやりにくいのではないかと推測します。一方、ロシアの場合にはそのような複雑な関係はなく、より大きな西側世界との対立の中で、自分の側になびいてくれそうな勢力を(言い方は悪いですが)てなずける目的で支援しているだけなのだと思います。こうした利害関係の相違は時間が取れればまた整理しようと思いますが、ひとまず過去記事をご覧ください。
経済関係の報道もいくつか出ています。
9月FDIは1029万米ドルに - NNA ASIA・ミャンマー・経済
ミャンマー投資委員会(MIC)によると、2022年9月の海外直接投資(FDI)認可額(ティラワ経済特区=SEZ=を除く)は……
2022年を通じて、主に強い利害関係を有する中国・タイ等の近隣国を中心に、ミャンマーとの経済関係を再開する動きが見られました。詳細は過去記事も併せて見て頂ければと思いますが、特に貿易、出稼ぎ労働等の面では成果が上がっているとされています。そのこともあってか、今年の経済成長予測は、まだばらつきは見られるものの当初の見込みからは上方修正する動きが出ています(まだ細かく見ていないので分かりませんが、実は対日輸出が大きく伸びており、それによる寄与もあるようです)。一方、直接投資の回復は見られないようです。中国等によるインフラ整備等が報道されていますが、それらはあくまでも中国国内での取り組みが中心で、中国がミャンマー国内で大規模な投資を再開した、というような段階ではないようです。
ミャンマーはクーデター前は貿易赤字の国で、特に2010年代中頃は貿易赤字を海外からの投資でファイナンスしながら経済成長を続けてきました。まだ細かい数字は見ていませんが、現状ではその投資が止まってしまったため、輸出(及び出稼ぎ労働者の海外からの送金)できた分だけ輸入しているような状態になっているのではないかと思います。ミャンマーでは外貨不足が頻繁に報じられていますが、これも海外からの投資の受け入れを通じた外貨の獲得が困難になっている(さらに撤退が増加している)影響が大きいのではないかと思います(一方、既に進出している企業は、現地の規制により外貨の獲得に苦労しているようです)。
総じて、近隣国を中心とした経済活動の再開は一定の成果を上げていると思われるものの(そして、それによる経済の回復は国軍にも利益をもたらしているでしょう)、クーデターにより撤退した企業による投資を埋め合わせられるような状況ではなく、全体としてクーデター前のようなダイナミックな成長が見込めるような状況には至っていないのではないかと思います。今後のことは分かりませんが(例えば、治安等が回復すれば中国が十分な投資を提供できるのかもしれませんし、一方で国軍・ミャンマー市民双方に中国への警戒感もあるようなので、そこには一定の歯止めがかかるかもしれません)、できればもう少し具体的に数字を見る等もしてみたいと思います。
(10/15追記)
関連報道を追加しておきます。
On Myanmar’s Front Line: Armed resistance gathers pace | Politics | Al Jazeera
最後の日経新聞の記事2つですが、最初の記事の内容としては、中国側では鉄道インフラの整備が進んでいるもののミャンマー国内で大きな工事等が行われているわけではなく、トヨタの自動車生産開始の方も足元では月産数十台程度ということです。