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「土方さん、先風呂もらうぜ?」
「…ああ」
入口に視線を向ければ原田がじっとりとした視線を俺に向けていた。
その視線は高橋へと移される。
高橋が静かに口を開く。
「左之…。お疲れ様」
「ああ、お疲れさん。…とっとと寝ろよ、明日だって早いんだからな」
「わかった。お風呂いってらっしゃい」
「…ああ」
少し苛立ちを含んだような原田の雰囲気に、高橋の少しばかりの動揺が見て取れた。
いや、原田に俺とのやりとりを見られたからか?
缶を両手で包み、膝の上に置いて、少し俯きがちに視線を落とす高橋。
きゅっと口が一文字に結ばれた。
そんな表情をさせたくてお前を連れて来たわけじゃねぇ。
自販機の無機質な動作音が部屋に広がった。
一口、コーヒーを流し込み、口を開く。
「お前と原田、何で別れたんだ?」
俺を見つめ返した高橋の視線が一瞬揺らいだ。
「…今聞きます?それ。思いっきりプライベートですけど」
「聞かせろよ。別れてんだろ?」
睨むような視線を受け止めながら、俺も目を細めて応える。
高橋は視線を外して、一口カフェオレを飲む。
小さく息を吐いて、言葉を零した。
「…遠距離が耐えられなかったってとこですね」
「そうか。じゃあまだ気はあるのか」
「ちょっ…。そんなことあるわけないじゃないですか!だって…」
俺の言葉に声を上げて身体を向ける。
俺はその瞳をまっすぐ見つめた。
「…だって、何だよ」
「…何でもありません」
口を噤んだ高橋に少しの苛立ちを覚える。
お前の気持ちはまだアイツにあるのかよ。
「土方さんだって彼女に連絡しなくていいんですか?合宿あるから会えないだろうし」
「あ?そんな相手いるわけねぇだろ」
突拍子もない言葉に眉間に皺がよる。
「そうなんです?もてそうなのに」
「この歳になるとな、本気になれる相手しか付き合いたくねぇんだよ」
「へぇ…。土方さん理想高そ」
俺の言葉が意外だったのか、眉をあげる高橋。
ここで俺の心中(しんちゅう)を口に出せばお前はどんな表情をするんだろうな。
笑いは喉の奥で堪えた。
「まぁ、俺が惚れるんだ。いい女だろうな」
高橋は俺の言葉にくすくすと笑い出す。
「ふふふ。いつか奥さんになる人見たいなぁ。あ、もうこんな時間!
寝ますね、明日も早いし。土方さんご馳走様でした。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
その後姿を見送り、煙草を一本取り出す。
静かになった空間。
煙草に火を付け、吸い込んだ煙を深く吐き出す。
さっきまで隣にいた高橋の表情を思い浮かべる。
薄暗い中に浮かぶ煙が形を変えていった。
人の気持ちは変わるもんだ。
だが、揺るがない想いがあるのも確かだ。
自分の胸の内に在る想い。
「まだ…早い、か」
焦るような気持ちを自嘲して。
また深く煙を吐き出した。