体外受精における排卵誘発、採卵、胚移植といった一連の流れの中で一番妊娠率に大きな影響を与える大切な手技は胚移植と言えます。
ここで失敗すると今まですべて完璧にこなしたとしても台無しになります。もの凄く大切な瞬間と言えます。
我々医療サイドとして最も神経を使う部分になります。
同時に胚移植は医師の技量が問われる瞬間にもなります。
以下日ごろの診療で私が気をつけている事を書きたいと思います。
①トライアルトランスファーで移植困難例を選別し事前に対策を練る
②頚管粘液を十分に取り除く
③胚は子宮腔内の中央に移植する
④出来る限り短い時間で移植を終わらせる
⑤ソフトタイプのカテーテルを出来るだけ使用する
以上を順に説明します
①トライアルトランスファーで移植困難例を選別し事前に対策を練る
(トライアル:練習 トランスファー:移植)
子宮の長さ、形、傾きは大体同じため移植のカテーテルが入らないというケースはそれほど多くはないものの、入りにくい症例は3割程度存在します。ものすごく難しいという症例も5%位はあります。いざ移植しようとしたら入らなかったでは済まされないためそういう難しい症例を事前に把握しておくことが大切と言えます。
練習の事をトライアルトランスファーと呼んでいます。本番と同じ状態でリハーサルを行います。おかなの上からエコーをあてたまま膀胱充満下に練習用のカテーテルを挿入します。その際子宮底までの長さを記載しておきます。特徴的な所見があればそれらも記載しておきます。
そしてもし入りにくい場合には、子宮鏡を行って原因を探ったり、狭い所があればそこを拡張する処置を行ったりして本番の移植に備えておきます。
②頚管粘液を十分に取り除く
子宮の出口を頚管と呼んでいますが、ここには粘液が多量に付着しています。この粘液を取り除かないまま移植しようとすると、胚が粘液にトラップされてしまい移植は不成功に終わります。
また取り除かないで移植をすると子宮内感染の原因にもなります。そのため注射器などでこの粘液を完全に取り除くようにしています。
これはとても大切な作業の一つとなります。
③胚は子宮腔内の中央に移植する
子宮底から1㎝が良いとか2㎝が良いとかいう報告がありますが、そういう指標ではなく子宮腔内の真ん中に移植するというイメージが大切です。
エコー下に正確に子宮の中央に胚を置いてくる事が出来れば妊娠率は向上します。
子宮底にカテーテルをあてたり、子宮腔内の手前に移植したりする事は論外です。
④出来る限り短い時間で移植を終わらせる
丁寧に慎重に行う事が大切である一方、移植を出来るだけ早く終わらせることも大切と言えます。胚は温度や光に対して敏感なため出来るだけ早く子宮内へ戻してあげる必要があります。
⑤ソフトタイプのカテーテルを出来るだけ使用する
現在50種類ものカテーテルが販売されています。
柔らかいタイプのほうが子宮腔内を傷つけにくく出血も少なくなるため妊娠率が高くなると報告されています。
また近年シュアビューカテーテルと言ってカテーテルが見えやすいタイプのものも販売されています。カテーテルが見えやすい方が正確な位置に素早く移植できるため当然妊娠率も高くなります。
(なお胚移植のコツ① も参照して下さい)