右に卵巣チョコレート嚢腫があります。大きさは5センチです。生理痛もひどく性交通や排便痛もあります。担当医からは早く体外受精をして妊娠したほうが良いと言われています。ただこんなにひどい症状があり妊娠して良いか不安です。さらに妊娠中に嚢腫が赤ちゃんへ影響しないかも不安です。

 

このようなご質問がありましたのでお答えします。

 

症状があり、5センチのチョコレート嚢腫の場合には明らかにオペの適応となります。

放置しておくことで3%程度で破裂する恐れがあります。

また1%程度で悪性になる可能性があります。

 

そのためまず腹腔鏡手術でチョコレート嚢腫のみを摘出して、オペの所見を見て、その後自然妊娠をトライするか、または体外受精をトライするかが一番好ましく無理の無い流れだと思います。

 

手術をする問題点としては「オペにより卵巣にメスが入るため場合によってはAMHが低下すること」、また「妊娠への期間が遅くなること」、この辺りをもしかしたら医師から説明されるかもしれません。

 

ただ、オペで取り除くのは卵巣嚢腫だけであり、卵巣の正常部分は残します。そのためAMHはオペにより多少低下するものの大きく変動しないことになります。

腹腔鏡手術に詳しい医師であればこの様な事は当然理解しています。

両側の卵巣嚢腫や低AMHの場合で不安が強い場合には事前に採卵をして凍結胚を作っておいてから腹腔鏡手術を受け、オペ後に移植する方法をお勧めします。

 

また妊娠への期間が遅くなるということですが、オペ後すぐに翌月から自然妊娠をトライでき、また移植も普通にできます。経過が問題なければオペ後避妊期間は不要です。

 

オペをせず運良く妊娠したとしても、妊娠中に嚢腫が破裂して緊急オペとなり胎児に影響を及ぼすことになることもあります。

また卵巣嚢腫があることで卵胞発育が悪く十分に採卵できないこともあります。当然嚢腫があり採卵もしにくくなります。

また卵巣チョコレート嚢腫があることで着床環境が悪くなり妊娠しずらくなります。

実に様々なデメリットがあります。


この様なケースで体外受精だけとか、内科的な治療だけで結果を出そうとするのは物理的に無理があります。

 

確かにオペにより数ヶ月遅れますが、最終的にはメリットの方が明らかに勝ります。

まさに「急がば回れ」となります。

 

 

以前にも同様な記事を書いているため以下に掲載します。

卵巣嚢腫手術とAMH

卵巣のう腫の手術をやらなければいけない時に

卵巣機能(AMH)を下げないで卵巣のう腫をとる

これが出来る事がポイントです。

 

以前の記事で手術と体外受精との関連 について

取り上げましたが今後の妊娠を考えると

卵巣のう腫を取るだけではなく

卵巣機能を温存したまま

いかにのう腫を取り除くかが大切です。

 

ただこれはあくまで理想論であり、

手術により卵巣予備能が下がるのであれば

手術をしないでARTを行うという選択肢も

検討しなければいけません。

 

要は手術の技量にかなり多く左右される事になります。

手術により卵巣予備能が下がらない確証があれば、

まず手術を行った方が良いと思います。

 

腹腔鏡手術は施設間格差、医師間格差が

開腹術と比較し大きい事が指摘されています。

 

また論文で様々な比較検討が行われていますが、

施設や術者の技量までは加味されておらず、

どこまで正確に検討されているか

一概には言えないと思います。

 

以前は卵巣予備能を図る検査の一つとして

FSHがありましたが、FSHは月経周期により

ばらつきが出るため最適ではありません。

 

近年AMHが簡便に測定できるようになり、

このAMHは月経周期によりばらつきが出る事はないため、

いつでも正確に卵巣予備能が図れる事になりました。

 

つまり術前術後においてこのAMHの変化が

出ない事が可能な施設であれば、

卵巣のう腫を先に取り除き、

その後ARTに進むという流れが理想通りで

最も好ましいと言えると思います。

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今周期胚移植を予定しています。担当医からもしかしたら卵管水腫かもしれないと言われています。どうしたら良いでしょうか?このまま移植する事は不安です。

 

このようなご質問がありましたのでお答えします。

 

胚移植を予定している場合に、エコーで卵管水腫がある場合、オペをしてから移植する事が必須です。

 

卵管水腫は非常に着床に対して悪い影響をもたらすため、あるとわかって移植する事は絶対に行ってはいけ無い事です。

 

卵管内に貯留している液体が子宮内に入り込み着床を阻害します。

原因はクラミジア感染、子宮内膜症です。

 

卵管水腫と胚移植での妊娠に関しては多数の論文でエビデンスが証明されていて、オペで水腫の治療をしてから移植をしたほうが有意に成績が向上しています。

 

治療の方法ですが、①卵管開口術、②クリッピング、卵管切断、③卵管切除、④穿刺吸引が挙げられます。

 

以下それぞれのメリット、デメリットを説明します。

 

①卵管開口術

卵管開口術のメリットは卵管を温存できることにあります。卵管を温存して、かつ卵管水腫を治すことができる唯一の治療法です。そのため卵管開口術が一番理想的な治療法と言えます。

ここで問題となるのが卵管水腫の再発と子宮外妊娠です。

卵管水腫の再発ですが、開口術の場合には水腫の部分にメスを入れ切開し、そこを外に開いて、縫合して卵管を形成するため、当面は再発しません。ただ根本的に水腫の原因が子宮内膜症で、その後妊娠せず内膜症が悪化することでその結果として卵管を巻き込み再度卵管水腫が起きてくる可能性はあり得ます。

この辺りは術者の技量に大きく左右されます。これは全ての仕事に言えることだと思いますが、同じことをするにしてもその人の技術により全く違います。経験や技術、こだわりが再発を含めて大きく左右します。術者に経験が余り無い場合には開口術を受けるよりはクリッピングの法が良いと思います。

 

子宮外妊娠の件ですが、ダメージがある卵管を残すため、オペ後修復され回復されるとしても卵管を残すことで子宮外妊娠が起きる可能性は当然残ります。

 

②クリッピング、卵管切断

これのメリットは再発が防げます。また卵管を切除しないため卵巣への血流の問題も避けられます。子宮外妊娠も防げます。

デメリットは両側に行えば自然妊娠の可能性がなくなります。またクリッピングの場合異物を体内に残すため感染のリスクがあります。

また卵管の出口に蓋をするだけのため卵管水腫そのものが残るため卵管水腫がその後感染したり、腹痛の原因になる可能性があります。

 

③卵管切除

メリットは卵管がなくなるため当然ですが再発が防げます。また子宮外妊娠も関係無くなります。

デメリットは②と同じで両側切除すれば自然妊娠の可能性がなくなります。

卵管切断により卵巣機能が低下するという意見も以前はありましたが、最近の論文ではそうでもないというエビデンスも出ています。

 

穿刺吸引のメリットは簡便に行えることです。経膣的な穿刺で採卵のように短時間で外来でも行えます。

デメリットは感染のリスク、姑息的な手技であり、一時的な効果しかなく、確実性がないため、治療効果を考えるとあまりお勧めしません。

 

これらのどの治療法を選ぶかは担当医、施設の考え方や方針により様々です。もちろん治療を受ける二人の意見や価値観もとても大切であると思います。

腹腔鏡の手術の際に開口術をトライしようとしても、卵管のダメージがひどく残しても回復が見込め無い場合、また癒着がひどく十分な視野が確保でき無い場合には卵管切断で終わることもあります。もちろん術者の技量でこの判断は大き変わります。

 

体外受精を行うと決めているのであれば卵管切除、クリッピング、卵管切断が再発のリスクや子宮外妊娠のリスクを考えると好ましいかと思います。

 

ただ、体外受精だけが治療法では無く、治療の合間の周期に自然妊娠することもあります。

また体外受精での治療を断念したあとにAIHやタイミングで妊娠することもあります。

 

卵管開口術と比較するとクリッピングや切断は時間がさほどかからないオペですが、やはり治せるのであれば卵管を温存する努力を行うのが好ましいと思います。

 

卵管を温存して、卵管水腫を治すことが理想であり、それができる施設で手術を受けることが好ましいと思います。

原因不明不妊の場合体外受精を選択するケースが多い傾向ですが、腹腔鏡と子宮鏡を行いしっかりと診断して治療をすることで妊娠率が有意に上昇することに関しての演題が2017ESHREにありましたので紹介します。 

 

ESHREやASRMのガイドラインでは症状がある場合、リスク因子がある場合、エコーや子宮鏡で異常所見がある場合には腹腔鏡のオペを勧めています。

 

しかし症状もなく、異常所見もない場合に、診断的に腹腔鏡の検査を行うことの有用性に関してはよくわっていません。

 

今回の検討では2008-2013年にかけて25-38歳(平均33.8歳)の原因不明不妊の270名の方を対象として170名は腹腔鏡のオペを行い、100名はコントロール(オペを希望しないか、ARTを選択)としました。

 

BMI は 23.5 ± 2.2 kg/m2でした。

平均不妊期間は42.05 ± 5.03ヶ月。

49.4%の方に骨盤内に病気が見つかりました。

86名には原因不明不妊という診断が確認されました。このうち28名は自然妊娠となり、23名はARTにより妊娠しました。自然妊娠の割合は32.5%(86名中)。

100名のコントロール群では14%のみが18 ヶ月待機療法で妊娠に至りました。

手術を受けた群とコントロール群において妊娠するオッズ比は 2.96 (confidence interval 95%: 1.43–6.11, p < 0.01)となり有意に上昇しました。

 

結論

原因不明不妊の場合、手術を受けることにより妊娠率の向上が期待できることがわかりました。

 

この結果から言えることとして

エコー検査でも異常がなく、特に症状がない原因不明の場合でも腹腔鏡の検査を行い治療を受けることで妊娠率が向上することが期待できます。結果が出ない場合には是非腹腔鏡で原因を見つけて治療を受けることをお勧めします。

 

O-208 Expectant management may reduce overtreatment in women affected by unexplained infertility confirmed by diagnostic laparoscopy 

the 33rd Annual Meeting of ESHRE, Geneva, Switzerland 2 to 5 July 2017 

卵管造影検査やエコー検査で卵管に異常が疑われる場合どのようにしたらよいでしょうか?

医師からは腹腔鏡についても言われましたがオペは不安です。移植前にオペをすべきか悩みます。

 

このようなご質問を受けましたのでお答えします。

 

卵管造影検査やエコー検査は直に見ているわけでもなく、痛みやその日の状況で変わることもあり、精度がそれほど高くないため確定診断はつける事が出来ません。

 

この場合、腹腔鏡検査を行い、しっかりと確定診断をつけ、異常があればその場で治療する事が最もお勧めです。

 

卵管の異常の程度が軽いものであれば妊娠するかもしれませんが、問題を先送りして結局妊娠しなくて後で痛い思いをすることもあります。

 

腹腔鏡では癒着剥離、内膜症の治療、卵管水腫の治療、そして腹腔内の洗浄という非常に多くのことを一度に行えます。腹腔内、卵管内、子宮内の慢性炎症を取り除けます。

治せるものはきちんと治すべきです。

 

貴重な受精卵です。

不安材料を抱えたままの移植をするより、少し回り道なような感じもありますが、移植前にしっかりと腹腔鏡を受けて、腹腔内をきれいにしてから移植を行うことこそが一番の近道となります。

まさに急がば回れです。

 

以下の記事がお勧めです。

 

卵管造影検査に関して

 

体外受精と腹腔鏡

 

慢性炎症で妊娠しない