両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

私は東京都中央区銀座にある両角レディースクリニックの院長です。


産婦人科専門医であり、また生殖医療専門医でもあります。


専門は不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術です。


毎日、不妊治療、体外受精、顕微授精に携わっております。


専門医の立場から生殖医療に関する正確な情報をお伝えして、出来るだけ多くの方に早く妊娠して頂けたらと思いブログを始めました。
ブログには生殖医療に関係する最近の話題を、わかりやすく書きたいと思っております。可能な限り書籍、文献に基づき記載していく予定です。


また国内外の学会や論文で発表された最新の治療等についても書いていきたいと思います。


できるだけわかりやすく説明したいと思いますが、もし難しい内容があれば気軽にコメントを頂けたらと思います。


2012年7月~中央区銀座で生殖医療専門のクリニックを開業しました。


詳細はクリニックのホームページ
を見て下さい。


個人のホームページ
も良ければ見て下さい。


ハワイダイヤモンド・ヘッドに数年間留学していたので、息抜きにハワイハワイ諸島の事も書きたいと思いますハイビスカスプルメリア


どうぞよろしくお願いいたしますニコニコ


以下はこれまで掲載した記事の主なテーマになります。


不妊ドックのすすめ
不妊のスクリーニング検査について

不妊の治療について


胚盤胞(グレード、妊娠率)

精子関連の話題

顕微授精のまとめ

体外受精のリスクについて

卵管造影検査について

凍結胚移植について

人工授精について

卵巣予備能低下症例の取り扱い

胚培養について(工夫、疑問)

子宮筋腫と不妊症

子宮内膜症について

腹腔鏡手術について

不妊治療とストレスについて

マイハワイベスト

ハワイ出産

アメンバー限定記事について


免責事項



妊娠してから生活習慣や健康状態を見直すことはもちろん大切ですが、妊娠が成立する前から健康状態を整えることも、妊娠経過や生まれてくる子どもの健康に影響します。これをpreconception health、PCHと呼び、その健康状態を改善するために行う医療や支援をpreconception care、PCCと呼びます。

今回Human Reproduction Updateに、これまで世界でPCHとPCCがどのように定義されてきたのかを整理したsystematic reviewが報告されました。

 

この研究では1993年から2024年までの研究論文、ガイドライン、政策文書などを幅広く検索し、最終的に176件を解析しています。

この図は今回の研究全体を非常に分かりやすくまとめています。これまでPCHやPCCの定義には大きなばらつきがあり、「いつから行うのか」「誰を対象にするのか」「何を行うのか」が統一されていないことが示されています。 妊娠前に改善できる項目は多くあります。

Table 1には、飲酒、喫煙や電子タバコ、肥満、栄養不足、精神的な問題、既存疾患、薬物使用、職業・環境因子などが挙げられています。つまりプレコンセプションケアは葉酸を飲むことだけではありません。体重を適正にする、禁煙する、飲酒を控える、糖尿病や高血圧などの持病を妊娠前にコントロールする、必要なワクチンを接種する、感染症や遺伝的リスクを確認するといったことも含まれます。 

2180件の文献から176件を最終的に解析しこれらを詳しく検討すると、PCHとPCCについて4つの重要な問題が浮かび上がりました。

この表では、PCHとPCCの考え方を整理するうえで重要な4つのテーマが示されています。まず、プレコンセプションケアをいつから始めるべきなのかについて統一された考え方がありませんでした。妊娠を考え始めた数週間前とするものもあれば、1年前、2年前、さらには生殖可能年齢全体を対象とする考え方もありました。

著者らが重視しているのは、妊娠を希望してから始めるだけでは遅い場合があるということです。世界では予定外または予定した時期ではない妊娠も多いため、「妊娠を希望していますか」と聞いてから初めて健康管理を開始するだけでは、多くの人がプレコンセプションケアを受けられません。

肥満の改善や慢性疾患の管理などには数か月から年単位の時間が必要な場合もあります。したがってPCHは妊娠直前だけの問題ではなく、生殖可能年齢を通じて考える必要があるとしています。 

Figure 4にはPCCを行う時期について、思春期から生殖可能年齢全体、通常のプライマリケア、月経開始から閉経までなど、非常に幅広い考え方が示されています。もう一つ重要なのが、対象を女性だけにしないことです。従来のプレコンセプションケアは女性を中心に考えられてきました。

Figure 5を見ると、女性だけを対象とした定義が56件と最も多く、男性を含めた考え方はまだ限定的でした。しかし精子の状態、男性の肥満、喫煙、生活習慣、既存疾患なども妊娠や次世代の健康に関係するため、著者らはPCHを「将来親になる可能性のあるすべての人」の健康として考えるべきだとしています。 またPCCの目的は妊娠することだけではありません。

Table 5では、女性自身の健康と妊娠転帰、将来の子どもの健康、親になる人の健康、短期・長期の健康など、幅広い目標が示されています。つまり「妊娠できればよい」というものではなく、妊娠前から両親の健康状態を改善することで、妊娠中の合併症を減らし、生まれてくる子どもの将来の健康まで良くしていこうという考え方です。 

この論文が伝えている最も重要なメッセージは、プレコンセプションケアを「妊娠を希望した女性が妊娠直前に受ける医療」と狭く考えないことです。妊娠を希望するようになってから葉酸を飲み始めるだけではなく、男女とも若い時期から体重、食事、喫煙、飲酒、精神的健康、持病などを整えておくこと自体がプレコンセプションヘルスにつながります。医療側についても、不妊治療施設や産婦人科だけが担当するのではなく、一般診療、精神科、生活習慣病診療など様々な場面で将来の妊娠を意識した健康管理を行う必要があるとしています。 妊娠は妊娠反応が陽性になったところから始まる医療ではありません。将来妊娠する可能性がある男女が、そのずっと前から自分自身の健康を整えることが、将来の妊娠、出産、そして子どもの健康につながります。今回のsystematic reviewは、プレコンセプションケアを妊娠直前の短期間の準備ではなく、生殖可能年齢全体を通した健康管理として捉え直す必要性を示した重要な報告です。

 

What do we mean by preconception health and preconception care in research and policy? A systematic review. Chingara O, Sumegi A, Logan S, Bhattacharya S, Woolner A. Human Reproduction Update. 2026;32(4):471–487. Advance Access Publication Date: March 5, 2026. doi:10.1093/humupd/dmag005. 
 



多嚢胞性卵巣症候群、PCOSは排卵障害や不妊症だけではなく、肥満、糖尿病、脂質異常症などを合併しやすい全身性の疾患です。

また排卵が少ない状態が続くことで子宮内膜がエストロゲンに長期間さらされるため、子宮内膜増殖症や子宮体がんのリスクが高くなることは以前から知られています。

今回Fertility and Sterilityに、PCOSと女性の生殖器関連がんとの関係を250万人以上のデータから調べた非常に大規模な研究が報告されました。

 

この研究では米国の大規模医療保険データベースを用い、18~50歳のPCOS女性42万2613人と、年齢を合わせたPCOSのない女性211万3065人を比較しています。平均年齢は両群とも31.3歳で、乳がん、子宮体がん、卵巣・卵管がん、子宮頸がんの発症を調べました。

 

Figure 1は約4750万人のデータベースから最終的なPCOS群と対照群を抽出した過程を示しており、この研究の非常に大きな規模が分かります。

PCOSでは肥満や糖尿病など、それ自体ががんのリスクに関係する病態が多いため、単純にがんの発症率を比較するだけでは正確ではありません。そこでこの研究では、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙、不妊症、遺伝性がん症候群、さらに低用量ピルやプロゲステロン製剤などの使用まで考慮して解析しています。

 

Table 1を見ると、PCOS群では肥満21.0%、糖尿病8.0%、高血圧13.3%、不妊症10.9%と、対照群より代謝疾患や不妊症が多いことが分かります。これらの違いを調整した後でも、PCOS女性では複数のがんのリスク上昇が認められました。

 

最も重要な結果がTable 2です。PCOS女性の調整後ハザード比は、乳がん2.66、子宮体がん5.76、卵巣・卵管がん4.38、子宮頸がん2.22でした。特に子宮体がんは約5.8倍、卵巣・卵管がんは約4.4倍という大きな差が認められています。乳がんについても、従来の研究ではPCOSとの関連について結論が一致していませんでしたが、今回の研究ではPCOS群だけで2800例を超える乳がんが発生しており、肥満やホルモン剤使用などを調整してもリスク上昇が残りました。子宮体がんについては従来から知られている結果と一致しています。

排卵障害によってプロゲステロンが十分に分泌されない状態が長く続くことや、肥満、インスリン抵抗性などが関係すると考えられています。

一方、今回特に注目されるのが卵巣・卵管がんと子宮頸がんです。卵巣・卵管がんはPCOS群で調整後4.38倍でした。また子宮頸がんについても2.22倍でしたが、子宮頸がんはHPV感染が主要な原因であり、PCOSとの直接的な因果関係はまだ分かっていません。

著者らも、この関連についてはさらに研究が必要としています。この研究からPCOSだから将来がんになると考える必要はありません。今回示されているのは相対的なリスクです。例えば子宮体がんの発症率はPCOS群で1000人年あたり0.85、非PCOS群では0.10でした。

卵巣・卵管がんも0.66対0.11であり、若い女性における絶対的な発症頻度そのものは高くありません。

また平均追跡期間は約3.6年と比較的短く、保険請求データを用いた後ろ向き研究ですので、この結果だけでPCOSが直接がんを引き起こすと証明されたわけではありません。それでも42万人を超えるPCOS女性を対象とし、様々な交絡因子を調整しても同じ傾向が認められたことは重要です。

現在のPCOS診療では特に子宮内膜増殖症や子宮体がんの予防が重視されており、月経を長期間放置しないこと、必要に応じてホルモン剤で周期を整えること、体重や糖代謝を管理することが重要です。

今回の研究は、PCOSを単なる「排卵しにくい病気」と考えるのではなく、妊娠・出産後も長期的な健康管理が必要な疾患として考える重要性を示しています。著者らも、今後はPCOS女性に対するがんリスクの説明や、どのようなスクリーニングが必要なのかをさらに検討すべきだと結論しています。

Polycystic ovary syndrome and its association with reproductive cancers in women. Alur-Gupta S, DiTosto JD, Busse KR, et al. Fertility and Sterility. 2026;126(3):557–564. September 2026. doi:10.1016/j.fertnstert.2026.05.158. 
 

9月19日(土)17時より、オンラインセミナーを開催します。

今回のテーマは、「45歳を超えて妊娠するために― 限られた胚と時間をどう最大限に生かすか ―」です。

45歳を超えると、妊娠・出産に至る確率はどうしても低下します。だからこそ私は、限られた時間の中で、妊娠の可能性が高いと考えられる方法を選び、それを繰り返すことが大切だと考えています。

今回のセミナーでは、その具体的な方法の一つとして、当院で行っている

「最も若い時期に作成した凍結初期胚」

「今回の採卵で得られた新鮮初期胚」

を組み合わせて移植する方法についてお話しします。

若い時期に作成した胚には、その時点の卵子の可能性が残されています。一方、新鮮胚は凍結・融解を経ていないという別の特徴があります。

また、新鮮胚移植を行うことで、採卵・刺激周期そのものを妊娠のチャンスとして活用でき、残った良好胚は凍結して次の治療につなげることもできます。

つまり、「若い時期の胚」「新鮮胚」「採卵周期」という異なる可能性を生かし、一回一回の治療機会を最大限に活用するという考え方です。

実際に当院では、このような治療戦略で非常に高年齢で妊娠・出産に至った症例も経験しています。

 

セミナーでは、現在のエビデンスと実際の症例を交えながら、高年齢で妊娠の可能性を少しでも高めるために当院がどのように治療を組み立てているのかをお話しします。

9月19日(土)17時からオンライン開催です。

40代で今後の治療方針について悩まれている方にも、ぜひ聞いていただきたい内容です。

お申し込みはこちらから ↓

 




不妊症には年齢や生活習慣など様々な要因が関係しますが、遺伝的な要因も存在します。では、妊娠までに時間がかかった夫婦から生まれた子どもは、成人後に自分自身も不妊症になりやすいのでしょうか。

今回Fertility and Sterilityに、親世代の妊娠しやすさと、その子どもが成人後に不妊症となるリスクとの関係を調べた興味深い研究が報告されました。

この研究はデンマークで1984~1987年に妊娠していた女性を登録したHealth Habits for Twoという出生コホートを利用しています。出生した子ども1万1144人を、その後35~38歳になる2022年まで追跡しました。

親の妊娠しやすさについては、避妊をやめてから妊娠するまでの期間であるtime to pregnancy、TTPを用い、1~6か月、7~12か月、12か月超に分けています。さらに母親に不妊症の検査や治療歴、あるいは不妊症の診断歴があったかも調べています。

子どもについては成人後の不妊症診断やART治療歴をデンマークの全国登録データから確認しています。ここにTable 1を入れます。Table 1には対象となった1万687人の背景が、親のTTP別に示されています。68.7%は1~6か月以内に妊娠していましたが、8.8%は7~12か月、17.3%は12か月を超えて妊娠していました。

 

今回最も興味深い結果がFigure 1です。

親が1~6か月で妊娠した場合を基準にすると、娘では親のTTPが7~12か月だった場合、成人後の不妊症リスクが1.43倍、12か月を超えていた場合は1.41倍でした。またTTPが長くなるほど娘の不妊症リスクが高くなる傾向も認められました。

一方、息子では親のTTPが12か月を超えていた場合のリスクは1.25倍でしたが、95%信頼区間が0.92~1.71であり、明確な統計学的関連とは言えませんでした。

さらに興味深いのが母親自身に不妊症の既往があった場合です。

母親に不妊症の既往があると、成人した息子が不妊症となるリスクは1.81倍、娘では1.49倍でした。つまり親世代の妊娠しにくさと、次世代の不妊症との間に関連がある可能性が示されています。

この研究の大きな特徴は、ARTで生まれた子どもの影響を調べた研究ではないことです。対象者は1980年代半ばに出生しており、当時デンマークではARTによる出生はまだ非常に少なかったため、著者らは今回の結果をARTそのものの影響ではなく、親がもともと持っていた妊娠しにくさとの関連として検討しています。

では、なぜ不妊症が世代を超えて関連するのでしょうか。著者らは遺伝的要因を一つの可能性として挙げています。精液所見、生殖ホルモン、妊娠しやすさなどには一定の遺伝性があることが知られています。

また母親の閉経年齢と娘のAMHや胞状卵胞数との関連、男性不妊に関係するY染色体微小欠失が父親から息子へ伝わることなども知られています。

ただし今回の研究から「不妊症そのものが遺伝する」と断定することはできません。親子で共有する生活環境や、まだ分かっていない要因が関係している可能性もあります。またTTPは夫婦としての妊娠までの期間なので、その原因が母親側なのか父親側なのかを区別できません。

それでも1万人を超える親子を約38年間追跡し、成人した子どもの実際の不妊症診断やART治療まで確認した点は、この研究の大きな強みです。

今回の結果から、両親が妊娠までに長い期間を要した場合や、母親に不妊症の既往がある場合、その子どもも将来妊娠しにくくなる可能性があることが示されました。ただしこれは運命が決まっているという意味ではありません。

著者らも、結果の再現とそのメカニズムを明らかにするためにはさらなる研究が必要としています。将来的には、親の不妊症歴や妊娠までに要した期間が、本人の妊孕性を考える際の一つの情報になる可能性があります。

 

Intergenerational fecundity and infertility: a cohort study. Stokholm MV, Ernst A, Håberg SE, Ramlau-Hansen CH. Fertility and Sterility. 2026;126(3):547–556. September 2026. doi:10.1016/j.fertnstert.2026.06.018. 
 


PGT-Aは移植前に胚の染色体数を調べ、染色体正常胚を選択して移植する検査です。特に年齢が高くなると染色体異常胚の割合が増えるため、その有用性が期待されています。一方、若い女性から提供された卵子を使用する卵子提供でもPGT-Aを行う意味があるのかについては議論があります。今回Fertility and Sterilityに、卵子提供を受けた患者にPGT-Aを行うことで、出産までに必要な移植回数や出産までの期間を短縮できるのかを検討した研究が報告されました。

 

この研究は2016年から2024年までに卵子提供によるIVFを行い、最終的に少なくとも1回の生児獲得に至った629人を対象とした後ろ向きコホート研究です。PGT-Aを行った312人と、PGT-Aを行わなかった317人を比較し、合計927回の単一胚移植を解析しています。提供卵子の年齢中央値はPGT-A群26.5歳、非PGT-A群27.2歳と非常に若く、卵子提供では胚の染色体異常率が自己卵子を用いる高年齢患者より低いことが大きな特徴です。

 

1017人の卵子提供患者から条件を満たした629人が解析され、PGT-A群と非PGT-A群にほぼ半数ずつ分かれています。この研究で最も重要なのは、単純な1回あたりの妊娠率ではなく、「赤ちゃんを得るまでに何回の胚移植が必要だったか」と「赤ちゃんを得るまでにどれだけ時間がかかったか」を調べた点です。結果として、初回生児獲得までに必要だった胚移植回数の中央値は、PGT-A群も非PGT-A群も1回であり、調整後の解析でも差は認められませんでした。

Table 1では両群の背景が比較されています。PGT-A群の方が利用できる卵子や胚の数が多く、すべて凍結胚移植であるなど両群には違いがありますが、これらを調整してもPGT-Aによる明確なメリットは認められませんでした。

さらに重要な結果がFigure 2とTable 2です。初回胚移植から生児獲得までの日数はPGT-A群257日、非PGT-A群255日でほぼ同じでした。初回胚移植での生児獲得率もPGT-A群70.8%、非PGT-A群71.6%で差がありませんでした。また流産率も患者あたり8.3%対9.1%、移植あたり5.4%対5.8%で差を認めませんでした。つまりPGT-Aによって染色体正常胚を選択しても、卵子提供では初回移植の生児獲得率を上げることも、流産を減らすことも、出産までの移植回数を減らすこともできませんでした。

興味深いことに、受精から生児獲得までの日数はPGT-A群321日、非PGT-A群266日とPGT-A群で55日長くなっていました。ただし患者背景などを調整すると、この差は統計学的に有意ではなくなりました。そのためPGT-Aによって出産までの期間が長くなると結論することもできませんが、少なくともPGT-Aを行えばより早く出産できるという結果ではありませんでした。

 

この結果には理由があります。提供卵子は通常若い女性から得られるため、胚の染色体異常率は約25%とされています。したがって自己卵子を使用する高年齢患者と比較すると、PGT-Aによって除外できる異常胚そのものが少なくなります。

また、染色体正常胚を移植しても必ず出産するわけではなく、胚移植の成否には染色体以外にも多くの要因が関係します。

著者らは今回の結果が、卵子提供周期におけるPGT-Aのルーチン使用を支持しないというASRMの見解とも一致するとしています。ただし、この研究には重要な限界があります。後ろ向き研究であり、さらに最終的に生児獲得した患者だけを対象としているため、卵子提供を受けたすべての患者にそのまま当てはめることはできません。

また、年齢の高い知人などから提供を受ける場合にはPGT-Aが有用となる可能性があり、個別に判断する必要があります。

それでも今回の結果から、若いドナーから提供された卵子を使用する場合、「PGT-Aをすれば移植回数を減らせる」「流産を減らして早く出産できる」という明確な根拠は示されませんでした。

PGT-Aはすべての患者に同じようなメリットをもたらす検査ではなく、卵子の年齢や患者背景を考えて適応を判断することが重要だと思います。

 

Preimplantation genetic testing for aneuploidy in donor egg recipients does not decrease number of embryo transfers needed to achieve live birth. Bayefsky MJ, Mehra A, Hernandez-Nieto C, et al. Fertility and Sterility. 2026;126(3):527–533. September 2026. doi:10.1016/j.fertnstert.2026.06.004. 
 



体外受精では、受精確認の際に2つの前核が確認される2PNを正常受精と判断します。一方、前核が1つしか見えない1PNや、3つ以上見える3PN以上の受精卵は、従来は異常受精と考えられ、その後発育しても移植対象とせず廃棄されることが一般的でした。しかし近年、この考え方が変わりつつあります。

今回Fertility and Sterilityに、1PNや3PN以上をatypically-pronucleated zygotes、APZと呼び、PGT-Aを行って染色体が正常であることを確認した胚を利用することの臨床的、経済的意義を検討した研究が報告されました。

 

APZは受精卵全体の5~10%程度に認められます。従来は1PNなら半数体、3PN以上なら三倍体などの可能性があるため使用しないことが基本でした。しかし最近の遺伝学的解析では、1PNや3PNと見えた受精卵のすべてが本当に染色体異常というわけではなく、その後胚盤胞まで発育したものの中には、両親から正常に染色体を受け継いだ二倍体胚が含まれていることが分かってきました。

実際、この研究で用いられたデータでは、二倍体である割合は1PNで71%、3PNで46.5%、3PNを超える場合でも32%と推定されています。

もちろん、これはそのまま正常胚率を意味するものではなく、最終的にはPGT-Aによる染色体評価が必要です。

研究ではイタリアの施設で行われた8334周期のICSI・PGT-Aデータなどを用いて、通常の2PN由来胚だけを使用する方法と、PGT-Aで正常と確認されたAPZ由来胚も使用する方法を比較しています。APZから胚盤胞まで発育する割合は、1PNで14.9%、3PNで33.6%、3PNを超える場合で19.1%でした。つまりすべてのAPZを使用するという話ではなく、まず胚盤胞まで発育し、さらにPGT-Aで正常と確認された胚を候補にするという考え方です。

Figure 1は2PN由来胚だけを使用する場合とAPZ由来胚も利用する場合について、最大2周期までの治療経過、生児獲得率、費用を比較したdecision treeです。

結果として、2PN胚のみを使用した場合の累積生児獲得率は72.94%でしたが、APZ由来の正常胚も使用すると74.36%となり、絶対値で1.42%上昇しました。

一方、患者1人あたりの平均治療費は12,749.49ユーロから12,737.92ユーロとなり、むしろ11.57ユーロ低下しました。またAPZを少なくとも1個認めた2913周期だけを見ると、APZを利用することで73人の追加生児獲得が予測され、約100周期あたり2.5人の増加に相当しました。

 

Figure 2では横軸に生児獲得率の差、縦軸に費用の差を示しています。APZを利用する方法は、生児獲得率を高めながら費用もわずかに低下する領域に位置しており、経済的にも有利であることが示されています。

 

さらにFigure 3では、治療費や2回目のIVFを行う確率など様々な条件を変え、1万回のMonte Carlo simulationを行っています。すべてのシミュレーションでAPZを利用した方が生児獲得率は高く、68.4%では生児獲得率が高いだけでなく費用も安くなりました。年齢別の解析も興味深い結果です。

 

APZを利用することによる生児獲得率の上昇はすべての年齢層で認められ、特に38~40歳では1.56%上昇しながら治療費が57.09ユーロ低下しました。また通常の2PN由来胚盤胞が1~2個しかない患者では、生児獲得率が2.02%上昇すると推定されました。胚が少ない患者ほど、これまで使用していなかった胚を救済できる意味は大きいと考えられます。ただし、この研究はAPZ胚を実際に無作為に移植して生児獲得率を比較した試験ではなく、後ろ向きデータを用いた費用対効果のモデル解析です。

また、この論文はPGT-Aそのものをすべての患者に推奨しているわけではありません。あくまでPGT-Aを行うことがすでに決まっている周期において、1PNや3PN以上から発育した胚盤胞を最初から廃棄せず、PGT-Aで正常と確認できれば利用する価値があるのではないか、という研究です。

従来の「1PN、3PNだから異常受精胚として廃棄する」という考え方から、「前核の見え方だけで判断せず、発育した胚を正確に評価して利用できるものは利用する」という方向への変化を示す研究です。特に得られる胚の少ない患者さんにとって、貴重な胚をできる限り無駄にしないという意味でも興味深い報告だと思います。

 

Cost effectiveness of routine utilization of atypically-pronucleated zygotes in in vitro fertilization cycles with preimplantation genetic testing. Capalbo A, Mulas F, Cavagnola R, et al. Fertility and Sterility. 2026;126(3):509–517. September 2026. doi:10.1016/j.fertnstert.2026.06.012. 
 

体外受精の分野でもAIの導入が急速に進んでいます。特に胚の評価や移植する胚の選択について、AIが経験豊富な培養士に代わることができるのかは非常に興味深いテーマです。

今回Fertility and Sterilityに、米国生殖医学会ASRMとSociety of Reproductive Biologists and TechnologistsのPractice Committeeから、IVFラボにおけるAIについてのcommittee opinionが掲載されました。

 

この論文では、AIは胚評価だけでなく、採卵件数の予測や業務量の調整、witnessing、凍結胚の保管管理、さらに将来的にはICSIや精子選択の自動化にも利用できる可能性があるとしています。

しかし現在最も研究が進んでいるのは胚評価です。従来の胚評価は培養士が胚盤胞の拡張度、内部細胞塊ICM、栄養外胚葉TEなどを観察して判定しますが、どうしても評価者によるばらつきが生じます。AIを用いることで、この評価をより客観的かつ均一にできる可能性があります。

 

実際、タイムラプス画像をAIで評価した研究では、胚盤胞の評価に必要な時間を約10分の1に短縮できたことが報告されています。つまり現時点でAIのメリットが比較的明確なのは、妊娠率を上げることよりも、培養士の業務負担を減らし、胚評価を標準化することです。

 

次に重要なのが、AIによる胚の妊娠能力の予測です。タイムラプスでは胚の分割速度、多核、fragmentation、直接分割や非対称分割など大量の情報を連続的に取得できます。AIはこれらを人間よりはるかに大量に解析できるため、どの胚を優先して移植すべきかを予測する技術として期待されています。

後ろ向き研究では非常に良好な成績も報告されており、22研究、22万2998個の胚、52万2516枚の画像を解析したsystematic reviewでは、多くのAIモデルが80%を超える精度を示し、一部では培養士を上回りました。しかし、ここからがこの論文の最も重要なところです。後ろ向き研究でAIの成績が良くても、実際の患者さんの治療成績が良くなるとは限りません。これまで行われたランダム化比較試験では、AIによる胚選択が通常の形態評価を上回ることはほとんど示されていません。特に大規模RCTでは、18施設11万5832個の胚を用いて開発されたiDAScore version 1を実際の治療で検証しました。AIで胚を選択した群の臨床妊娠率は46.5%、通常のGardner gradeなどによって選択した群では48.2%で、AIの方が良いという結果ではありませんでした。

 

「Prediction of embryo potential」からiDAScoreのRCTの結果は非常に重要です。AIは大量の画像から複雑な特徴を抽出できますが、現時点では経験ある培養士による通常の形態評価を臨床成績で超えているわけではありません。

またAIで染色体正常胚を予測できるかという研究も進んでいます。現在の大規模研究ではeuploidyの予測精度はおおむね60~75%程度で、完全自動モデルでもAUC 0.76程度です。将来的にPGT-Aを補完する可能性はありますが、現段階でPGT-Aの代わりになるものではありません。

 

そしてASRMが特に強調しているのが、AIを新しいadd-onとして安易に導入しないことです。IVFでは過去にも、新しい技術が十分な検証を受けないまま普及し、その後になって生児獲得率を改善しないことが分かった例があります。AIについても企業やクリニック側のcommercial pressureによって、まだ証明されていない効果を患者さんに期待させるべきではないと警告しています。

 

AIにはblack boxの問題、データの所有権、規制、安全性など解決すべき課題も残っています。ASRMの結論は、AIを否定するものではありません。むしろ胚評価の標準化、培養士の業務効率化、エラーの減少などには大きな可能性があるとしています。

 

しかし、AIで胚を選べば妊娠率や出生率が上がるというところまでは証明されていません。今後は妊娠率だけでなく、生児獲得率、妊娠までの期間、安全性、エラー、コストまで含めた質の高い前向き研究が必要です。現時点では「AIか培養士か」という二者択一ではなく、経験ある培養士をAIが補助し、より客観的で効率的な培養室を作るための道具として利用することが最も現実的だと思います。AIは非常に有望ですが、IVFでは新しいことと効果が証明されていることは同じではありません。この点を冷静に見極めながら導入していくことが大切です。

 

Artificial intelligence in the in vitro fertilization laboratory: a committee opinion. Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine, and Practice Committee of the Society of Reproductive Biologists and Technologists. Fertility and Sterility. 2026;126(3):494–498. September 2026. doi:10.1016/j.fertnstert.2026.05.004.