
妊娠してから生活習慣や健康状態を見直すことはもちろん大切ですが、妊娠が成立する前から健康状態を整えることも、妊娠経過や生まれてくる子どもの健康に影響します。これをpreconception health、PCHと呼び、その健康状態を改善するために行う医療や支援をpreconception care、PCCと呼びます。
今回Human Reproduction Updateに、これまで世界でPCHとPCCがどのように定義されてきたのかを整理したsystematic reviewが報告されました。
この研究では1993年から2024年までの研究論文、ガイドライン、政策文書などを幅広く検索し、最終的に176件を解析しています。
この図は今回の研究全体を非常に分かりやすくまとめています。これまでPCHやPCCの定義には大きなばらつきがあり、「いつから行うのか」「誰を対象にするのか」「何を行うのか」が統一されていないことが示されています。 妊娠前に改善できる項目は多くあります。
Table 1には、飲酒、喫煙や電子タバコ、肥満、栄養不足、精神的な問題、既存疾患、薬物使用、職業・環境因子などが挙げられています。つまりプレコンセプションケアは葉酸を飲むことだけではありません。体重を適正にする、禁煙する、飲酒を控える、糖尿病や高血圧などの持病を妊娠前にコントロールする、必要なワクチンを接種する、感染症や遺伝的リスクを確認するといったことも含まれます。
2180件の文献から176件を最終的に解析しこれらを詳しく検討すると、PCHとPCCについて4つの重要な問題が浮かび上がりました。
この表では、PCHとPCCの考え方を整理するうえで重要な4つのテーマが示されています。まず、プレコンセプションケアをいつから始めるべきなのかについて統一された考え方がありませんでした。妊娠を考え始めた数週間前とするものもあれば、1年前、2年前、さらには生殖可能年齢全体を対象とする考え方もありました。
著者らが重視しているのは、妊娠を希望してから始めるだけでは遅い場合があるということです。世界では予定外または予定した時期ではない妊娠も多いため、「妊娠を希望していますか」と聞いてから初めて健康管理を開始するだけでは、多くの人がプレコンセプションケアを受けられません。
肥満の改善や慢性疾患の管理などには数か月から年単位の時間が必要な場合もあります。したがってPCHは妊娠直前だけの問題ではなく、生殖可能年齢を通じて考える必要があるとしています。
Figure 4にはPCCを行う時期について、思春期から生殖可能年齢全体、通常のプライマリケア、月経開始から閉経までなど、非常に幅広い考え方が示されています。もう一つ重要なのが、対象を女性だけにしないことです。従来のプレコンセプションケアは女性を中心に考えられてきました。
Figure 5を見ると、女性だけを対象とした定義が56件と最も多く、男性を含めた考え方はまだ限定的でした。しかし精子の状態、男性の肥満、喫煙、生活習慣、既存疾患なども妊娠や次世代の健康に関係するため、著者らはPCHを「将来親になる可能性のあるすべての人」の健康として考えるべきだとしています。 またPCCの目的は妊娠することだけではありません。
Table 5では、女性自身の健康と妊娠転帰、将来の子どもの健康、親になる人の健康、短期・長期の健康など、幅広い目標が示されています。つまり「妊娠できればよい」というものではなく、妊娠前から両親の健康状態を改善することで、妊娠中の合併症を減らし、生まれてくる子どもの将来の健康まで良くしていこうという考え方です。
この論文が伝えている最も重要なメッセージは、プレコンセプションケアを「妊娠を希望した女性が妊娠直前に受ける医療」と狭く考えないことです。妊娠を希望するようになってから葉酸を飲み始めるだけではなく、男女とも若い時期から体重、食事、喫煙、飲酒、精神的健康、持病などを整えておくこと自体がプレコンセプションヘルスにつながります。医療側についても、不妊治療施設や産婦人科だけが担当するのではなく、一般診療、精神科、生活習慣病診療など様々な場面で将来の妊娠を意識した健康管理を行う必要があるとしています。 妊娠は妊娠反応が陽性になったところから始まる医療ではありません。将来妊娠する可能性がある男女が、そのずっと前から自分自身の健康を整えることが、将来の妊娠、出産、そして子どもの健康につながります。今回のsystematic reviewは、プレコンセプションケアを妊娠直前の短期間の準備ではなく、生殖可能年齢全体を通した健康管理として捉え直す必要性を示した重要な報告です。
What do we mean by preconception health and preconception care in research and policy? A systematic review. Chingara O, Sumegi A, Logan S, Bhattacharya S, Woolner A. Human Reproduction Update. 2026;32(4):471–487. Advance Access Publication Date: March 5, 2026. doi:10.1093/humupd/dmag005.


































