両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

私は東京都中央区銀座にある両角レディースクリニックの院長です。


産婦人科専門医であり、また生殖医療専門医でもあります。


専門は不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術です。


毎日、不妊治療、体外受精、顕微授精に携わっております。


専門医の立場から生殖医療に関する正確な情報をお伝えして、出来るだけ多くの方に早く妊娠して頂けたらと思いブログを始めました。
ブログには生殖医療に関係する最近の話題を、わかりやすく書きたいと思っております。可能な限り書籍、文献に基づき記載していく予定です。


また国内外の学会や論文で発表された最新の治療等についても書いていきたいと思います。


できるだけわかりやすく説明したいと思いますが、もし難しい内容があれば気軽にコメントを頂けたらと思います。


2012年7月~中央区銀座で生殖医療専門のクリニックを開業しました。


詳細はクリニックのホームページ
を見て下さい。


個人のホームページ
も良ければ見て下さい。


ハワイダイヤモンド・ヘッドに数年間留学していたので、息抜きにハワイハワイ諸島の事も書きたいと思いますハイビスカスプルメリア


どうぞよろしくお願いいたしますニコニコ


以下はこれまで掲載した記事の主なテーマになります。


不妊ドックのすすめ
不妊のスクリーニング検査について

不妊の治療について


胚盤胞(グレード、妊娠率)

精子関連の話題

顕微授精のまとめ

体外受精のリスクについて

卵管造影検査について

凍結胚移植について

人工授精について

卵巣予備能低下症例の取り扱い

胚培養について(工夫、疑問)

子宮筋腫と不妊症

子宮内膜症について

腹腔鏡手術について

不妊治療とストレスについて

マイハワイベスト

ハワイ出産

アメンバー限定記事について


免責事項

本日はご参加いただきありがとうございました。

ご質問も有難う御座いました。

次回は、12/13(土)16時半に開催いたします。

テーマは『未来の妊娠を守るために今できること』です。

 

参加希望の方はこちらから登録をお願いします。
オンライン説明会登録フォーム

 

これまでのセミナー動画は全てYouTubeで公開しております

 

第1回:PGT-Aについて

第2回:腹腔鏡手術(ラパロ)について

第3回:良好胚をつくるための刺激方法

第4回:着床障害に対する検査と治療法

第5回:不妊治療の費用と流れ

第6回:不妊治療の基本から

第7回:男性不妊

第8回:良い卵子を作るためには

第9回:着床率向上の工夫

第10回:着床前診断:最新の情報

第11回:FTと腹腔鏡下手術について

第12回:胚培養

第13回:高齢の方の治療戦略

第14回:高齢の方の治療戦略 続編

第15回:40歳代前半に焦点を当てた高齢不妊治療の成功例:ここを改善したら出産できた

第16回:高齢、低AMHで結果を出す治療戦略:成功例をもとに

第17回:高齢で結果を出す方法:ここが他院とのちがい

第18回:高齢で結果を出す秘訣

第19回:PFC-FD:最新技術で妊娠させる!

第20回:保険診療で結果が出なかった場合の治療戦略

第21回:高齢で結果を出している方の共通点

第22回:高齢の方への治療戦略:排卵誘発編

第23回:不妊治療大質問会

第24回:着床不全に対しての対策

第25回:結果が出た方の不妊治療中の運動習慣および生活習慣 医学の観点から

第26回:培養技術の疑問 その技術はエビデンスがあるか?

第27回:保険診療での課題:どうしたら妊娠できるか、具体的な戦略は

第28回:培養の疑問 その技術はエビデンスがあるか?<続編>

第29回:採卵:当院の工夫を紹介します

第30回:移植:当院の工夫を紹介します

第31回:受精:当院の工夫を紹介します

第32回:AMH0.1未満で結果を出した方の治療法~具体的な症例をもとに紹介します~

第33回:腹腔鏡手術で授かる:腹腔鏡手術の詳細を説明します

第34回:夫として妻のために、父親とし子どものためにどう考え何をすべきなのか

第35回:妊娠に好ましい食生活

第36回:妊娠に好ましいライフスタイル

第37回:当院における体外受精の治療方法

第38回:当院における体外受精の治療方法

第39回:高齢不妊治療:仕事と両立をするために

第40回:海外・遠方からの不妊治療

第41回:不妊治療何でも質問会

第42回:諦めない!40代、限られた時間で成果を出すための治療選択

第43回:不妊治療大質問会

第44回:25年最新!『40代前半に焦点を当てた高齢不妊治療の成功例:ここを改善したら出産できた』

第45回:PFC-FD投与~高齢症例に対して当院の工夫~

第46回:妊娠しやすい身体づくりのための生活習慣の見直し

第47回:胚盤胞まで育てるべき?それとも早く戻すべき?初期胚vs胚盤胞~最新データで読み解く妊娠戦略~

第48回:45歳以上で生まれた方に共通する刺激方法、治療戦略

第49回:皆様からの質問にお答えする会

 

その他のリンクもお送りさせていただきます。

当院HP

院長ブログ

当院公式ブログ

オンライン診療



多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、排卵障害やホルモン異常を特徴とする疾患として広く知られています。しかし近年、ホルモンの影響が脳機能や認知能力にも及ぶ可能性が指摘され、PCOSは生殖だけでなく脳にも影響を与える疾患であるという新しい視点が生まれています。
この論文は、過去20年間の研究を整理し、PCOS女性の「神経心理学的プロファイル」つまり、言語、記憶、注意、実行機能など脳の働きに関する特徴をまとめたレビューです。

1. PCOSと認知機能の研究はなぜ注目されているのか
PCOSの女性では、抑うつや不安などの心理的ストレスが多く報告されています。
また、テストステロンなどのホルモンが過剰な状態(高アンドロゲン血症)が、脳の記憶や注意機能に影響する可能性があることが指摘されてきました。この研究チームは、PubMedを用いたシステマティックレビューにより、PCOS女性と健常女性を比較した最新の研究を解析しました。

2. 記憶と認知の基礎構造(Table 1)

Table 1では、人間の記憶を短期記憶と長期記憶に分け、それぞれの神経経路を整理しています。
短期記憶(ワーキングメモリー)は情報を一時的に保持し処理する働きで、前頭葉が中心となります。
一方、長期記憶には、言葉や出来事を覚える「陳述的記憶」と、習慣や感情に関わる「非陳述的記憶」があり、海馬や扁桃体が関与しています。
この複雑なネットワークのバランスが崩れると、言語や注意、問題解決などの機能に影響が出ると考えられています。

3. PCOS女性の認知機能の傾向(Figure 1)

Figure 1では、人間の「実行機能」を構成する要素が整理されています。
PCOSでは特に、ワーキングメモリー(情報を保持しながら処理する能力)や注意分配、課題への集中、柔軟な思考などの分野に軽度の低下がみられる傾向があります。
ただし、この影響は個人差が大きく、年齢、BMI、インスリン抵抗性、うつ・不安の有無などが複雑に関与しています。

4. PCOSと各認知領域の関係
言語流暢性:単語を思い出すスピードが低下する傾向があり、語彙を使う流暢性がやや弱いと報告されています。
記憶:短期記憶や複雑な情報を保持する力に差が見られ、脳の白質構造(神経伝達経路)に微細な変化があるとする報告もあります。
注意・集中:複数の課題を同時に行う「分配注意」や反応速度が遅れる傾向があり、抑うつ症状との関連が強いと考えられています。
実行機能:判断力や柔軟な思考、行動の切り替え能力が低下する例があり、特に高アンドロゲン血症やインスリン抵抗性がある場合に顕著です。
これらの結果は、「ホルモン・代謝・心理状態」の三つの要素が同時に脳機能に影響することを示しています。

5. 治療による改善効果はあるか
抗アンドロゲン療法(シプロテロン酢酸+エストロゲン)を14週間行った研究では、言語流暢性が改善したという報告があります。
一方、経口避妊薬やスピロノラクトンを用いた治療では、認知機能への明確な改善効果は認められませんでした。
脳画像研究では、PCOS女性が課題を行う際、健常者よりも多くの脳領域を動員して同じ課題をこなす「代償的な神経活動」が確認されており、
脳がホルモンバランスの乱れに適応している可能性が指摘されています。

6. 今後の課題と展望
この論文の結論として、PCOS女性では以下のような傾向があるとまとめられています。
言語流暢性、記憶、実行機能にわずかな低下傾向がある。
高アンドロゲン血症やインスリン抵抗性が影響を与える。
認知機能の変化には、ホルモン・代謝・精神の要因が重なり合っている。
著者らは、今後は神経心理検査と脳画像を組み合わせた長期的研究が必要であり、ホルモン補充療法や代謝改善が脳の健康を守る新しい手段になり得ると述べています。

Bernstein ME, Dokras A, Flaherty C.
Neuropsychological profile of polycystic ovary syndrome: past, present, and future.
Fertility and Sterility. 2025;124(5):948–955.

本日16時半からセミナーを開催いたします。

テーマは『2人目不妊』です。

以下の内容に沿って話をします。

 

①帝王切開瘢痕症候群
②ご主人への対応(精子の老化、メンタル)
③子宮因子:慢性子宮内膜炎
④メンタルの保ち方
⑤卵子の老化への対策
⑥成功した症例を提示
 

参加希望の方はこちらから登録をお願いします。
オンライン説明会登録フォーム


〜PGT-Aで「異常」とされた胚の再評価を促すケース報告〜

染色体異常を検出する着床前胚染色体検査(PGT-A)は、体外受精で胚の選別を行う補助的技術として広く使われています。
しかしその精度には限界があり、「異常」と判定された胚が実際には正常(euploid)であったという報告が少しずつ増えています。
今回の論文は、スタンフォード大学の医療チームが報告した、非モザイク型の染色体異常と診断された胚3個の移植後に健康な双子が誕生した症例です。
PGT-Aの限界と今後の生殖医療の方向性を考える上で重要な内容となっています。

1. 症例の概要

患者は42歳女性、パートナーは49歳男性。3人の息子と2人の娘がいましたが、1人の娘を事故で亡くしたため、「もう一人女の子を持ちたい」という希望から、家族バランス目的でPGT-A付きの体外受精を行いました。

1回目の治療では正常な男児胚(46,XY)が1個のみ。
2回目の治療では3個の女児胚が得られましたが、すべてPGT-Aで非モザイク型の染色体異常(aneuploid)と診断されました。

胚のグレード    染色体異常の種類
5AB(XX)    5番と18番染色体の欠失(モノソミー)
4CC(XX)    11p部分欠失
4CC(XX)    7、9、18番染色体のモノソミー

医師は「異常胚の移植による妊娠の可能性は極めて低い」と説明しましたが、夫婦は強い希望を持ち、十分な遺伝カウンセリングと倫理委員会の承認を経て、正常胚1個と異常胚3個の計4個を移植することを選択しました。

2. 妊娠と出産の経過

6週の超音波検査では2つの胎嚢が確認され、双胎妊娠が成立していました(Figure 1A)。
妊娠16週には胎児の腸の高輝度(echogenic bowel)が見られましたが自然消失し、その他の異常はなく経過。

36週で破水し、経腟分娩で女児2人を出産。出生体重は2.7kgと2.3kgで、いずれも健康でした。
出生後に血液で染色体検査を行った結果、2人とも正常核型(46,XX)で異常なし。
また、DNA解析により2人は二卵性双生児であることが判明しました。

3. PGT-A結果が「誤判定」となった理由

著者らは、PGT-Aの誤判定が起こる主な要因として次の点を挙げています。

PGT-Aは胚盤胞の外層(trophectoderm)から3〜7細胞を採取して検査するが、胎児本体を形成する内細胞塊(ICM)とは別の細胞系統であるため、遺伝的構成が異なる可能性がある。

胚発生の過程で「異常細胞の自己修正(self-correction)」が起こり、外層には異常が残っても内細胞塊が正常化することがある。

DNA増幅過程でのアリル脱落(allele dropout)や不均衡増幅が技術的誤差を生む。

これらの要因により、PGT-Aで異常と判定された胚でも実際には正常な遺伝情報を持ち、着床・発育できることがあります。

4. TAME研究:モザイク・異常胚移植の追跡プロジェクト

この症例をきっかけに、スタンフォード大学では「TAME(Transfer of Aneuploid and Mosaic Embryos)」研究が立ち上げられました。
目的は、PGT-Aで異常とされた胚を移植した場合の妊娠・出産・小児期の経過を追跡することです。

Table 1では、TAME研究の登録基準が示されています。

TAME研究の主な登録条件       除外条件
18〜55歳              18・13番染色体トリソミー
PGT-Aで異常胚のみ残存        三倍体(triploidy)
遺伝カウンセリングを受けている    複合的染色体異常

現在までに103例が登録され、200例を目標に追跡が進められています。

5. 臨床的意義と今後の課題

本症例は、PGT-Aで「非モザイク異常」とされた3個の胚のうち少なくとも2個が実際には正常だったことを示す、非常に稀な例です。
この報告を受け、PGT-Aで異常とされた胚をすべて廃棄することのリスクが議論され始めています。
また、PGT-Aの限界を踏まえ、結果の解釈や患者への説明を慎重に行う必要があると指摘されています。

著者らは、異常胚移植は例外的ケースであり、十分な遺伝カウンセリング・倫理審査・合意の上で行うべき、現行の胚選別・廃棄方針を再考する必要があると結論づけています。

結論
この論文は、PGT-Aの限界と「異常」と診断された胚にも潜在的な発育能力があることを示す貴重な症例です。
科学技術の進歩によって選択肢が増える一方で、検査結果を「絶対視しない」柔軟な姿勢と、患者の意思を尊重する倫理的枠組みが求められています。

Tise CG, Verma K, Rivera-Cruz G, Chamanara S, Gerber SK, Boyd A, Mazzoni R, Nel-Themaat L, Behr B, Milki AA, Lathi RB.
Healthy euploid dizygotic twin birth after transfer of nonmosaic aneuploid embryos.
Fertility and Sterility. 2025;124(5P2):1016–1023.

この報告は、「異常」とされた胚にも可能性があるという新たな事実を提示し、PGT-Aを用いた生殖医療のあり方を再考するきっかけとなる重要な論文です。
技術的な正確さに加え、倫理・患者支援の両面から再評価が求められています。

 

 

この論文から言えること

この症例は、PGT-A(胚染色体検査)の根本的な限界を示す重要な報告です。PGT-Aは体外受精で得られた胚の染色体を解析し、正常胚を選ぶことで妊娠率を高める目的で導入されました。しかし、この技術は胚盤胞の外層(将来胎盤になる部分)の一部の細胞しか検査しておらず、胎児本体を形成する内細胞塊とは遺伝的構成が異なる場合があります。今回報告された症例では、非モザイク型の「異常」と診断された胚から健康な双子が誕生しており、PGT-Aの判定が必ずしも胚全体を反映していないことが明らかになりました。この「誤判定の可能性」が、日本でPGT-Aが保険適用とならなかった理由の一つです。科学的には有用でも、誤って移植可能な胚を廃棄するリスクを完全には否定できないからです。患者にとっては、検査結果を絶対視せず、医師とともにリスクと限界を理解したうえで選択する姿勢が大切です。一方、医師側は検査の信頼性と不確実性を正確に伝え、患者の意思を尊重した倫理的な判断を支える必要があります。PGT-Aは便利な選別技術ではなく、「確率に基づく参考情報」であることを両者が共有することが重要です。
 


〜若年女性の段階からリスク上昇が始まっている〜

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は生殖に関わる病気として知られていますが、近年ではその影響が全身に及ぶ「多臓器疾患」として理解されています。
この総説では、PCOSが将来的な動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、つまり心筋梗塞や脳梗塞などにどのように関係しているかを、近年の研究データに基づいてまとめています。



1. PCOS女性では血圧・脂質・糖代謝異常が多い

PCOSではアンドロゲン過剰とインスリン抵抗性が共通の病態基盤にあり、それが高血圧・脂質異常・肥満・糖尿病といった心血管リスクを若い年齢から引き起こします。
メタ解析によると、PCOS女性は一般女性に比べて高血圧のリスクが約1.7倍、肥満・中心性肥満が2倍以上、糖尿病の発症リスクが約3倍に上昇していました。
また、閉経期以降も血中のHDL(善玉コレステロール)が低く、トリグリセリドが高い傾向が続くことが示されています。

2. 動脈硬化の前兆は若年期から始まっている

非侵襲的な検査である頸動脈内膜中膜厚(IMT)や冠動脈カルシウムスコア(CAC)を測定した研究では、PCOS女性は同年齢の女性より明らかに高値を示していました。
2022年のメタ解析(対象7,000人以上)では、PCOS群のIMTは対照群より平均0.56標準偏差高く、肥満の有無や年齢に関係なく有意差が認められました。
また、冠動脈カルシウムスコアもPCOS群で有意に高く、動脈硬化の初期変化が若年期から進行していることを示しています。

3. PCOS女性では心筋梗塞や脳卒中が多い

近年のコホート研究では、PCOS女性の冠動脈疾患と脳血管疾患の発症が明確に増加しています。
2024年の韓国の大規模研究(13万人以上)では、BMIや喫煙歴を補正しても、PCOS群では虚血性心疾患の発症リスクが1.25倍、脳卒中が1.2倍高い結果でした。

さらに、メタ解析をまとめると以下のような傾向が報告されています。

疾患        閉経前PCOS群    閉経後PCOS群
心筋梗塞        OR 2.50      OR 2.51
虚血性脳卒中      OR 1.71      OR 1.75
CVD死亡率       OR 1.19      データなし

これらは閉経後もPCOSの影響が持続することを意味し、若年期の管理が重要であることを示しています。

4. 心血管リスクの評価と予防戦略

2023年の国際ガイドラインでは、PCOS女性全員に対して血圧測定・血糖値・脂質プロファイルの定期的評価を推奨しています。
また、40歳以降は「10年間の動脈硬化リスク」を算出するAHA PREVENTスコアやASCVDリスクエスティメーターの利用が推奨されます。
Figure 1では、リスク別に生活改善・薬物治療を組み合わせた管理法が示されています。

低リスク群は生活習慣の改善で十分ですが、5〜20%の「中間リスク」ではスタチンやアスピリンの使用も検討されます。
また、PCOS自体を女性特有の心血管リスク因子として評価することも提案されています。

5. 改善のための介入:食事・運動・薬物
2023年の国際ガイドラインでは、すべてのPCOS女性に対して体重にかかわらず生活習慣改善を推奨しています。
食事:地中海食や低GI食が有効とされ、HOMA-IRや中性脂肪の改善効果が報告されています。
運動:中等度の有酸素運動(週150〜300分)が最も有効で、VO₂maxやウエスト径の改善が確認されています。
薬物療法:メトホルミンはインスリン抵抗性を改善し、長期的には動脈硬化の進行を抑える可能性があります。
さらにGLP-1受容体作動薬(リラグルチド・セマグルチド)は、PCOS女性においても体重・脂質・血糖を改善する新しい選択肢として注目されています。

結論
PCOS女性は、閉経前から動脈硬化が進行しやすく、心筋梗塞・脳卒中リスクが高い。
このリスクは閉経後も持続するため、生涯を通じた予防とフォローが必要である。
定期的な血圧・脂質・血糖チェックに加え、生活習慣の改善と必要に応じた薬物療法が最も効果的である。


Lee I, Dokras A, Alur-Gupta S.
Association of polycystic ovary syndrome with atherosclerotic cardiovascular disease events.
Fertility and Sterility. 2025;124(5):919–930.

 

次回のオンラインセミナーは、11/8(土)16時半に開催いたします。

テーマは『2人目不妊』です。

 

今問題となっている帝王切開瘢痕症候群に関しても詳しく説明したいと思います。また二人目特有の問題(卵子の老化、精子の老化、産後子宮への炎症)に対してどの様に作戦を立てていけば良いのか、根拠を元に説明したいと思います。

 

一人目とは違う壁が、そこにはあります。時短勤務のやりくり、出産を経た身体の変化、ご主人のモチベーションの低下といった問題もあります。
仕事と育児と治療の両立という現実、そして「兄弟が欲しい」と願う我が子の気持ちに応えたいという親としての切実な想い。

2人目治療には他人には分からないたくさんの苦しさがありますが、それを越えたときの大きな喜びがあります。

 

そして2人目のパワーはものすごいものであり、多くの方がここを乗り越え結果を出していきます。ご主人への向き合い方やメンタルの保ち方も含め解説したいと思います。

自信を持ち決して諦めず治療を受けて欲しいと願っています。

 

参加希望の方はこちらから登録をお願いします。
オンライン説明会登録フォーム



〜AMH・腸内環境・心血管リスク・思春期管理まで〜

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、生殖年齢女性の約1割に見られる最も一般的な内分泌疾患です。これまで主に「月経異常や排卵障害による不妊の病気」として扱われてきましたが、近年の研究により、PCOSは生涯にわたる全身性疾患であることが明らかになっています。
2025年の本総説では、PCOSの理解を大きく広げる5つの領域――AMH(抗ミュラー管ホルモン)、心血管疾患、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)、脳機能、そして思春期診断――の最新知見が紹介されています。

AMH:単なる卵巣マーカーではなく病態の一因
PCOS女性ではAMH値が高く、これは卵胞数が多いだけでなく、ホルモンバランスに直接影響している可能性が指摘されています。
AMH受容体は脳の視床下部にも存在し、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の発火頻度を高め、LH過剰分泌を引き起こすことがわかっています。
さらに、妊娠中に母体のAMH値が高いと、胎児の脳発達にも影響し、成長後にPCOS様症状を示す可能性があることが動物実験で確認されています。
これらの発見は、AMHがPCOSの原因の一部であるという新たな病態モデルを示唆しています。

心血管リスク:PCOSはもはや婦人科疾患ではない
これまでPCOSの主な問題は排卵障害や不妊とされてきましたが、近年は糖尿病・肥満・高脂血症などの代謝異常に加え、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが有意に高いことが示されています。
2023年の国際ガイドラインでは、PCOSを「心血管疾患リスク増強因子」と明確に位置づけ、思春期や診断時から定期的な血圧・血糖・脂質検査を行うよう推奨しています。
つまり、PCOSはホルモン異常だけでなく、全身の代謝と循環系に影響を及ぼす慢性疾患として管理すべき段階に入っています。

腸内細菌叢:腸からホルモンと代謝をコントロールする
PCOS女性では、腸内細菌叢の多様性が低下し、短鎖脂肪酸や胆汁酸代謝の異常が認められています。
腸内環境の乱れ(ディスバイオーシス)は、インスリン抵抗性や慢性炎症、アンドロゲン過剰と関連しており、マウス実験では正常マウスの糞便移植によって月経周期が回復した報告もあります。
さらに、PCOSで高頻度にみられるうつ病や不安障害などのメンタルヘルス不調も腸内細菌叢との関連が示唆されており、腸を介した治療(プロバイオティクスなど)が将来の新たな治療ターゲットになると期待されています。

脳機能と認知:PCOSは脳にも影響を与える
PCOS女性では注意力・記憶・遂行機能の一部に軽度の低下がみられるとの報告があり、脳画像研究では前頭葉や頭頂葉の白質構造異常や脳容積の減少が観察されています。
AMHやステロイドホルモンが脳神経活動を修飾している可能性があり、PCOSは神経内分泌レベルでも全身に影響を及ぼしていると考えられます。
著者は、代謝・ホルモン・心理の3要素が複雑に絡み合って脳機能に影響しているとし、将来的には神経内分泌を標的にした新しい介入が必要だと指摘しています。

思春期PCOS:早期診断と長期予防が鍵
PCOSの診断は思春期には特に難しく、通常の成長過程でも月経不順や軽度の多毛が見られるため、誤診を防ぐことが重要です。
最新ガイドラインでは、思春期から2年以上月経不順が続き、かつ高アンドロゲン血症が確認された場合にPCOSを疑うとしています。
超音波検査やAMH測定は思春期では推奨されていません。
若年期に早く診断し、体重管理や生活習慣指導、代謝スクリーニングを開始することで、将来の糖尿病・不妊・心血管疾患を予防できると述べています。

結論
PCOSは単なる「排卵の病気」ではなく、ホルモン・代謝・心血管・腸内環境・脳機能にまで関わる全身性疾患です。
早期診断とライフステージに応じた管理が今後の鍵になります。
研究の進歩により、PCOSを「生涯にわたる健康リスク」として包括的にとらえ、個別化医療を実現する方向へと進化しているのです。

Dokras A.
Polycystic ovary syndrome in 2025—insights and innovations.
Fertility and Sterility. 2025;124(5):907–909.


〜CAPA-IVMを用いたベトナムの研究から〜

体外成熟(IVM)は、排卵誘発をほとんど行わず未熟卵を採取し、体外で成熟させて体外受精に用いる技術です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性にとって、排卵誘発剤の使用を減らし卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を回避できる利点があります。
しかし、IVMでは従来、凍結胚移植(freeze-only)の方が妊娠率・出生率ともに高く、新鮮胚移植(fresh ET)は不利とされてきました。
今回の研究は、ゴナドトロピンを全く使わずに行うCAPA-IVM(biphasic capacitation IVM)において、新たな内膜準備法を用いた場合に、新鮮胚移植と凍結胚移植の成績がどのように異なるかを検証した初の臨床報告です。

研究の背景と方法
研究は2024年9月から2025年1月にかけて、ベトナム・My Duc Hospitalで行われました。
対象は、ロッテルダム基準(2003)に基づいて診断されたPCOS患者60名で、CAPA-IVMを実施後、新鮮胚移植群(30例)と凍結胚移植群(30例)に割り付けられました。いずれの群もゴナドトロピンは使用せず、卵胞刺激は行っていません。

新鮮胚移植群では、卵子採取8日前からエストラジオール・吉草酸エステル(Valeria 8mg/日)を内服し、採卵2日後から膣内プロゲステロン400mgを1日2回投与しました。一方、凍結胚移植群では通常のホルモン補充周期(エストロゲン+プロゲステロン)で内膜調整を行いました。
主要評価項目は「継続妊娠率(12週以降心拍確認)」であり、流産率や胚発育の成績も比較されています。

結果① 患者背景と卵子・胚成績(Table 1)

患者の年齢やBMI、卵巣予備能(AMH値、AFC)などの背景に有意差はなく、両群は均等でした。

結果② 妊娠成績(Table 2)

主要評価項目である継続妊娠率は、新鮮移植群43.3%、凍結群33.3%で有意差は認められませんでした(RR 1.3, 95% CI 0.68–2.49, P=0.6)。
臨床妊娠率・着床率も同様に差はありません。

指標      新鮮移植群    凍結群    相対リスク(95%CI)    P値
着床率       73.3%    46.7%     1.57 (1.01–2.44)      0.06
臨床妊娠率     60.0%    36.7%     1.64 (0.94–2.85)      0.12
継続妊娠率     43.3%    33.3%     1.30 (0.68–2.49)      0.60
流産率       16.7%    3.3%      5.00 (0.62–40.28)     0.19

注目すべきは、新鮮移植で凍結群と遜色ない妊娠率が得られた点であり、これは新しい内膜準備法が「十分な黄体化と内膜発育」を可能にしたことが要因と考えられます。

考察
従来、IVMでは採卵周期中のホルモン環境が自然周期とは異なるため、内膜と胚の発育タイミングがずれやすく、凍結移植の方が成績が良いとされてきました。しかし今回の研究では、採卵前からエストロゲンを投与することで、新鮮周期でも内膜の成熟が十分に進行し、移植時に胚受容性が確保されていた可能性があります。
また、胚を凍結・融解する過程を経ない分、新鮮胚は発育へのダメージが少ないことも利点と考えられます。一方で、流産率は新鮮移植群でやや高い傾向を示しており、この点は今後の大規模研究で検証が必要です。

結論
ゴナドトロピンを使わないCAPA-IVMにおいて、新しい内膜準備法を用いることで、新鮮胚移植でも凍結移植と同等の妊娠率が得られた。
凍結操作を経ない新鮮胚は、着床に有利に働く可能性がある。
ただし流産率の上昇傾向が見られ、さらなる検証が必要である。

Vuong LN, Le TK, Le HL, Le XTH, Pham TD, Nguyen MHN, Le AH, Tran CT, Gilchrist RB, Ho TM.
Fresh embryo transfer in in vitro maturation cycles without gonadotropin treatment.
Fertility and Sterility. 2025;124(5):1121–1123.

 

この論文の言いたいこと

この研究では、ゴナドトロピンを使わずに体外成熟(IVM)を行う場合、採卵の8日前からエストロゲンを内服する方法が用いられています。これは、体の中で自然に起こる「卵胞期(排卵前)」のホルモン環境を再現し、子宮内膜を着床しやすい状態に整えるためです。通常の体外受精では、卵巣刺激によりエストロゲンが上昇し、それが内膜を厚く柔らかくします。しかし、IVMでは卵巣を刺激しないため、その自然なホルモン上昇が起こりません。そこで、外からエストロゲンを補うことで、内膜の発育を助け、胚が着床する「タイミング」を合わせるのです。この方法により、IVMでも通常の体外受精と同じような妊娠率が得られることが確認されました。つまり、エストロゲンの前投与は、薬を使わないIVMであっても子宮環境を整え、胚の着床と妊娠の成功率を高める大切な役割を果たしています。


〜コロンビア大学の研究が示した針を使わないホルモン検査の可能性〜
体外受精や人工授精などの不妊治療では、ホルモン値のモニタリングのために頻繁な採血が必要になります。しかしこの「血管からの採血(静脈穿刺)」は、痛み・不安・負担感を伴い、通院のストレス要因にもなっています。
今回紹介する論文は、針も刃も使わない自己採血デバイス「TAP Micro Select」を用いて、血管採血と同等のホルモン測定が可能かを検証した研究です。結果として、このデバイスは高い精度でホルモン測定ができるだけでなく、患者の満足度・快適性でも圧倒的に優れていることが明らかになりました。

研究の目的と方法
研究はコロンビア大学生殖医療センターで行われ、46名の女性が参加しました。各被験者は同じタイミングで2種類の採血を行いました。1つは通常の静脈採血、もう1つはTAPデバイスによる自己採血(皮下毛細血管血)です。
TAPデバイスは針も刃も使用せず、上腕に装着してボタンを押すだけで400〜600μLの血液を採取できます。採取されたサンプルは、FDA認可のBeckman-Coulter社製免疫測定機器(DXI600)を用いて、E2(エストラジオール)、LH、FSH、P4(プロゲステロン)、hCGの5種類のホルモンを同時測定しました。
統計解析にはPassing-Bablok回帰とSpearman相関係数を用い、両者の一致度を評価しました。
また31名が採血後に「痛み(0〜10点)」と「どちらの方法を好むか」についてアンケートに回答しました。

結果① 採血精度(Table 1)

Table 1に示すように、TAP採血で得られたホルモン値は、静脈採血と極めて高い一致を示しました。相関係数(Spearman ρ)はLH 0.99、FSH 0.98、hCG 0.77といずれも有意に高く(P<.00001)、特にFSHとLHではほぼ完全な一致(一致度0.988〜0.989)が確認されました。

ホルモン      回帰式          相関係数 (ρ)    一致度 (CCC)    備考
E2        TAP=1.077×静脈−4.31     0.94        0.973     精度良好
LH        TAP=1.023×静脈−0.006    0.99        0.988     高一致
FSH       TAP=1.036×静脈−0.081     0.98        0.989     高一致
P4        TAP=1.040×静脈−0.140    0.88        0.932     良好
hCG       TAP=1.011×静脈−0.143     0.77         0.998     変動ありも高精度

結果② 痛みと患者の満足度(Figure 1)

31名のアンケート結果では、74.2%がTAPデバイスを好むと回答し、静脈採血を選んだのはわずか3.2%でした(残り22.6%はどちらでもよい)。
痛みスコアでは、静脈採血が平均2.68(SD1.70)に対し、TAPデバイスはわずか0.28(SD0.53)と、痛みがほとんど感じられませんでした(P<.001)。
Figure 1Aは採血方法の好みを円グラフで示しており、TAPが圧倒的多数を占めています。
Figure 1Bは痛みスコアの箱ひげ図で、静脈採血では中央値2.5に対し、TAPでは中央値0(範囲0〜2)でした。

結論と臨床的意義
この研究により、TAPデバイスで得られる毛細血管血サンプルは、従来の静脈採血と同等の精度でホルモン測定が可能であることが実証されました。さらに、患者の負担を大幅に軽減し、在宅での自己採血にも応用できる可能性が示唆されました。著者らは、TAPが特に頻回採血が必要なIVF・IUI治療における患者ストレスを大幅に減らすと述べています。
また、従来の指先穿刺(フィンガースティック)よりも痛みが少なく、安定した検体量を得やすい点も利点です。今後は、在宅でのホルモンモニタリングや遠隔医療への応用も期待されます。

Lattin MT, DiBianco LP, Holcomb Z, Fontanez-Eng R, Morgan SL, Vinas RF, Agama GP, Angley M, Chen JSL, Ka K, Forman EJ, Williams Z.
Painless, needle-free capillary blood collection for fertility hormone monitoring.
Fertility and Sterility. 2025;124(5):1124–1126.

 

TAP Micro および Micro Select(製造元:YourBio Health, Inc.)という名称で展開

このデバイスは,針や刃を用いずに皮下毛細血管から血液を採取する「タッチ アクティベイテッド・フレボトミー(Touch Activated Phlebotomy)」方式を採用しています。HALO™テクノロジーというマイクロニードルアレイを用し,最大約 900 µL のキャピラリー血(毛細血管血)を,ほとんど痛みを感じずに採取できるとしています。

 



〜中国・同済病院の大規模研究で明らかになった意外な結果〜

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性では、卵巣内の小卵胞数が多いために血中AMH(抗ミュラー管ホルモン)値が高くなります。AMHは卵巣予備能を示すマーカーとして知られていますが、近年では「高AMHが早産や胎児発育不全のリスクを高めるのではないか」とも言われてきました。この疑問に対し、中国・同済医科大学附属病院の研究チームが1,952例の大規模データを用いて検証したのが今回の報告です。

研究の目的とデザイン
この研究は、2016年から2023年に体外受精または顕微授精を受けて単胎の出産に至ったPCOS患者1,952人を対象とした後ろ向きコホート研究です。患者は妊娠前に測定されたAMH値に基づき、低値群(≦6.54 ng/mL)、中間群(6.54〜14.53 ng/mL)、高値群(>14.53 ng/mL)の3群に分類されました。

主要評価項目は早産、低出生体重、巨大児、妊娠高血圧症候群(HDP)、妊娠糖尿病(GDM)などの周産期合併症であり、AMH値を連続変数およびカテゴリ変数として解析しました。

結果① 患者背景(Table 1)

患者背景を比較すると、AMHが高い群ほどBMIが低く、卵巣内小卵胞数(AFC)が多く、血中テストステロン値も高い傾向がありました(P<.001)。
一方、年齢や喫煙歴、既往流産歴には有意差はありませんでした。

項目       AMH低値群(≤6.54)  中間群(6.54〜14.53)    高値群(>14.53)    P値
年齢(歳)    29.8 ± 3.7         29.4 ± 3.3           29.2 ± 3.2     0.044
BMI(kg/m²)    24.0 ± 3.6        23.0 ± 3.5           22.6 ± 3.2     <.001
AFC        21.8 ± 4.9        24.2 ± 5.4           26.9 ± 7.5     <.001
テストステロン 33.9           41.7              50.8       <.001

結果② 全体解析(Table 2)

AMH値を連続変数・カテゴリ変数のどちらで解析しても、周産期合併症との関連は認められませんでした。早産率はAMH低値群9.6%、中間群9.7%、高値群7.8%で有意差はなく(P>0.05)、低出生体重児・巨大児・妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群なども同様でした。

周産期指標    低値群    中間群    高値群    調整オッズ比(95%CI)
早産       9.6%     9.7%     7.8%     0.92 / 1 / 0.82
低出生体重    6.3%     4.6%     4.3%     1.26 / 1 / 1.00
巨大児      5.5%     6.4%     6.8%     0.70 / 1 / 1.21
妊娠高血圧    4.7%     3.9%     4.3%     1.14 / 1 / 1.14
妊娠糖尿病    6.3%     4.9%     7.0%     1.65 / 1 / 1.24

結果③ 凍結胚移植と新鮮胚移植の比較(Table 3・Table 4)

AMH値の高さによって、凍結胚移植(FET)と新鮮胚移植(Fresh ET)のどちらにおいても結果は変わりませんでした。
いずれの群でも早産・低体重児・巨大児などのリスクに統計的な差は認められません。

周産期指標    凍結胚移植(FET)    新鮮胚移植(Fresh ET)
早産    10.3〜7.8%(差なし)    9.2〜7.8%(差なし)
妊娠高血圧    約5%前後(差なし)    約2%(差なし)
妊娠糖尿病    約5〜7%(差なし)    約6〜8%(差なし)

考察

この研究は、AMH値が高くても妊娠経過や出産時のリスクは上昇しないことを明確に示しています。過去の一部研究では「高AMHが早産と関連する」と報告されていましたが、本研究のような大規模解析では再現されませんでした。著者らはその理由として、AMHは卵巣機能の指標であり、子宮や胎盤機能を直接的に変化させるものではない、妊娠中のAMH値は妊娠前より自然に低下し、胎児環境への影響が限定的であると説明しています。また、民族的要因も考慮すべきであり、今回の対象がすべて中国人女性であった点は、欧米報告との差異の一因かもしれません。

結論
PCOS患者では、妊娠前のAMH値は早産や低体重児などの周産期リスクに影響しない。
凍結・新鮮胚移植いずれでも結果は同様であり、AMH値による治療方針の変更は不要。
IVF管理においては、AMHよりもBMI、年齢、代謝異常などの臨床的要因を優先して判断すべき。

Guo Y, Chen H, Zha L, Bai D, Jin L.
Prepregnancy levels of antimüllerian hormone do not impact the perinatal outcomes in women with polycystic ovary syndrome.
Fertility and Sterility. 2025;124(5P2):1093–1103.

 

この結果から言えること

この研究では、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の女性において、妊娠前のAMH(抗ミュラー管ホルモン)値が高くても、妊娠経過や出産時のリスクには影響しないことが明らかになりました。AMHが高いと「卵巣が過敏で妊娠中の合併症が起こりやすいのでは」と不安に思う方もいますが、本研究では早産・低出生体重・妊娠糖尿病・妊娠高血圧などいずれのリスクにも差は認められませんでした。つまり、AMH値が高くても妊娠中の経過を心配する必要はなく、治療方針を変える理由にもなりません。一方で、PCOSの妊娠管理ではAMHよりもBMIや血糖、血圧、生活習慣の影響が大きいとされます。そのため、体重管理、適度な運動、バランスの取れた食事など、代謝の安定を意識することが大切です。AMH値は卵巣予備能の指標にすぎず、妊娠の安全性を左右するものではないため、数値にとらわれず、医師と相談しながら全身の健康を整えることが最も重要です。