例えばこんなことがあったとします。
Aさん、Bさんにとって友人というほどでない知り合いのCさんが、
先月8日に降った大雪の翌日、路面の凍結に足をとられて倒れ、腕を骨折してしまいました。
AさんとBさんは互いに「Cさん、気の毒になぁ…」と些かの心配顔。
翌週14日にはまた大雪が降り、その翌日にCさんは再び氷で滑って脚を骨折。
どうやら入院したらしいとの話を聞いたAさんとBさんは
「Cさん、気の毒になぁ…」と同じように言い交わすものの、今度は心配顔半分、含み笑い半分。
Cさんの状況は、Aさん、Bさんが最初に心配顔をしたときよりも悪くなっているにも関わらず、
Aさん、Bさんの反応は微妙なものになっている…。
これって、決してCさんを「バカなやつ」とか思っているわけではないながら、
「どうしてこの人に繰り返し起こっちゃうわけ?」てなところに、
何とはなし笑いが伴ってしまうのではなかろうかとも思ったりしますですね。
本当に可笑しくてというより、ちと呆れるというか何というか。
かなり藪から棒の前振りですけれど、
先日「タイタニック
」ならぬ「ブリタニック」という船に関するTV番組を見たものですから。
タイタニックならぬ…と言いますのは、単にカタカタとして語感が似てるというだけでなく、
ブリタニックという船はタイタニック号を就航させた船会社が同型の姉妹船として建造したもので、
1912年にタイタニックが沈んだ2年後の1914年に完成したものなのだとか。
基本的に同じに造られたといっても、タイタニックの教訓を生かして、
衝撃に耐える船体の構造や積載する救命ボートの増加といった改良は加えて
「今度こそ不沈船!」くらいの勢いだったようです。
が、折悪しく1914年は第一次世界大戦が始まってしまう年でして、
華々しく大西洋横断航海に出るはずだったブリタニックは英国海軍に徴用されて、
大きな船体は真っ白に塗られてど真ん中には赤十字…という病院船へと姿を変えることに。
バルカン半島が火種であった第一次大戦の故か、地中海の東方に多くの負傷兵がおり、
ブリタニックは数多くの傷病者を英国に運ぶという任務を5回までこなした後の6回目、
エーゲ海を航行中に大きな爆発音とともに、わずか55分で海底に沈んでしまったそうな。
…と、ここで「どうして繰り返し起こっちゃうわけ?」と枕の話に繋がると思われるかもですが、
まだちょっと早いのですね。
とまれ、ブリタニックの沈没は独軍が敷設した機雷に接触したことが原因のようですけれど、
番組としてはタイタニックの欠点を補った設計のブリタニックがなぜ55分という短時間で
(タイタニックは沈むまでに3時間)沈んでしまったのかを解明するために、
海底に横たわるのブリタニックをダイバーが調査するというのが本筋。
ただここではその本筋の何故(番組の中でも解明まではいかない)をどうこうするのでなくて、
「ブリタニックよ、お前もか」的に繰り返された海難事故のどちらにも遭遇し、
どちらからも生還したという人が一人だけいることが紹介されたのですよ。
タイタニックには客室係として乗り組み、
ブリタニックには(病院船だけに)志願看護婦として乗船したヴァイオレット・ジェソップという女性。
で、ひとりで番組を見ているときには「何と運の悪いというか、運の強いというか」と思う口元には
これっぽっちもにやけは無かったんですが、おそらくこんな奇なる事実は知らなかろうと
人に語る段になって話している途中で相手が「またぁ」的ににやりとし始めたこともあり
(というと、いかにも人のせいですが…)、「そうなんだよね」とこちらまで笑ってしまっていた、
結果的に…。
ここでまた思い出すのは、ひと頃ネット上もずいぶんと賑わせたイギリスのTV局の話ですね。
広島でも長崎でも原爆に被害にされされた人物をして、最高に運の悪い人みたいな取り上げ方で
笑い者にしたとやり玉にあげられた番組のことですね。
最初に思ったのは、同じ番組が同じ状況で、
原爆被害の日本人ではなく、ジェソップさんが取り上げられそうになってたら、
おそらくは放送内容そのものが変更されていたろうなということ。
たぶん今でも確実に
「自分たちのがエラいんだから、海の向こうの有色人種を多少笑ったって」
てな意識を持ってる人たちっているでしょうし…。
とまれ、これを漏れ聞いた日本の側でも
「ことは原爆だよ、不謹慎じゃん」という反応があって、これももっともなんですが、
では取り上げられていたのがジェソップさんで「ついてない人ですね」と紹介されていたとしたら、
日本人はもしかして笑って見ていたのではなかろうかと思い至りました。
これって要するにどの程度の他人事度合いで接するかの話ではないのかなと
思えてきたのですよ。
そもそも滑って転んだのと海難事故と原爆とをいっしょくたにするとは
不謹慎な!と言われればその通りなんですけれど、
他人の失敗、不幸、不運をついつい笑ったりしてしまうことが、どうしてもありますよね。
きちっと律していればそんなこたぁない!のかもしれんですが、普通はそうじゃない。
ですが、滑って転んだ例え話も、ジェソップさんのことを語った我が身の話も、
辛うじて当人に聞かせるとか、あるいは大勢で盛り上がり話にしてしまうとかはしてないわけで、
最後のTVの話が決定的に違うのは笑いの対象として不特定多数に発信してしまったことですね。
この点については、不謹慎とも軽率とも無思慮ともどんな誹りも免れえないところでしょう。
じゃあ、原爆に対する認識があれでいいのか?!と言われればよかぁないでしょうけれど、
それはまた別の部分の話でもあって、とかく人は他人のあれこれを笑うという習性(?)があるんでしょう。
それでもごく普通に考えを巡らせることのできる人なら
「あんまりいいことじゃないよね」と知ってますし、
ましてあちこちに触れまわるとか、大勢でわいわいやるとかはもっとよろしくないと知っている。
それだけに、TVみたいな大勢の人が見聞きするメディアを介して、
やっちゃあいけんと知ってなくてはいけないですよね。
何だかまとまったような、まとまらないような話になってしまいましたが、
人間には(と、もちろん自分も含めてですが)こうした悪癖?があるわけですから、
気を付けておかないとなぁと、改めて思ったものでありますよ。