四月も下旬だし、冬物はとうにしまい込んで…という頃合いに、昨日から今朝にかけて妙に冷え込んだ感があったのはどうしたものかと。どうも近頃は大きな幅で訪れる寒暖差に身体が付いていきにくいと感じる昨今でありますよ(苦笑)。

 

そんな折だから、というわけではありませんが、炎のコバケンこと小林研一郎指揮による読売日本交響楽団の演奏会@東京オペラシティコンサートホールを聴いて、温まってきた(?)という次第です。

 

 

プログラムの最初は、木嶋真優をソリストに迎えたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。ずいぶん前に聴いたときには感じなかったですが、この人のヴァイオリンから受けたざらっと感ある音色といいますか、メンデルスゾーンに重厚感を増して、曲としてはチャイコフスキーのコンチェルトの方がお似合いかなとも。アンコールで弾いた『イグデスマン・ファンタジー』はアレクセイ・イグデスマンという現代の作曲家の楽曲を木嶋自身がアレンジしたものとあって、なおさら個性に適うものであったような気がしてものでありますよ。

 

続くメインはチャイコフスキーの交響曲第4番。もとより爆演系の一曲が炎のコバケンに火付けされて(?)大爆発を引き起こすことになりましたな。それにしても御年85歳という老匠ながら、驚くべき体力と精神力であるような。余計なことを言うようですが、この指揮者はステージ上で絶命するタイプであるかもと…。

 

というところでやおら思い出話になりますが、爆演を聴きながらチャイコフスキーの交響曲第4番を初めて聴いたときのことがふいに脳裡に浮かんできたりしたもので。

 

もう何十年も前の学生の頃ですけれど、当時はオーケストラの演奏会になぞ、学生の小遣いではなかなか行けないものでありました。今のような、学生割とかユース割引とか、そんな制度は全く無かったわけで。

 

となれば音楽を聴く一助はレコード(CD登場以前)であるも、これもやっぱり新譜をおいそれとは購入できず…という状況でありましたよ。そんな時に(今はもうない)雑誌『レコード芸術』の広告で見かけたのだったか、ドイツ・グラモフォンが新譜を紹介するレコード・コンサートがあると知り、葉書を書いて応募し、見事!当選して出かけていったという。会場は音楽の友ホールだったか、千日谷会堂だったか、いずれでもなかったか、ともあれ新宿区あたりにあるホールだったように思います。

 

で、そこで紹介されたのがチャイコフスキーの交響曲第4番でして、クラウディオ・アバドが振った一枚。アバドは後にシカゴ響と組んでチャイコフスキーの交響曲全集を録音しますけれど、これはそれ以前、1975年録音のウィーン・フィル共演盤でありました。

 

その頃のアバドは40代そこそこ、やがてベルリン・フィルのシェフになるなど誰も思っていない、スカラ座でばりばりやっていた時期で、注目の若手といった位置づけだったのでは。LPカバーの写真も精悍さに溢れて、爆演系ながら陰りも湛えるところのある曲調にマッチした印象と思われたものです。

 

 

個人的には吹奏楽に勤しんでおった頃合いだけに、冒頭はもとより随所に現れる金管の咆哮に「この曲は!」と一気に引き込まれたことが思い出される。今回の読響演奏では、ついぞ思い出すことの無かったレコード・コンサート会場内のようすまでうっすら蘇ったものでありましたよ。

 

というような昔話を通じて思い巡らましたのは、レコード・コンサートから何十年、世の中は便利になったのであるなということで。例えば、ひとつ気になる曲があって、題名が分かれば即検索をすれば見つかる。曲名が分からなくても、メロディーを口ずさむことで該当曲を発見できる。そして、Youtubeなどでいくらでもその曲に接することができるとは、なんと便利なことであるかと。

 

ですが、何でも昔のことをありがたく思うわけではありませんが、この便利に手に入れたものの印象はどうにも薄いような気が。ある曲(これは映画に置き換えてもいいですが)が聴きたいと思って、演奏会の敷居は高く、レコードもそうは買えないという中、レコード・コンサートの開催を見つけ、葉書を買いに郵便局へ行き、必要事項を書いて投函し、当選すれば通知を持って会場に足を運び、ようやっとその曲と巡り合えた…てな手間暇のかかるプロセスがあったことは、そのプロセスをも含めて強く記憶に刻み込まれたのでもあるような。

 

もっとも、同様に手間をかけたことごとの全てを記憶しているとは思いませんので、必ずしも一事が万事ではないにせよ、またお手軽にアクセスできたものの全てが印象に残りづらいと言い切るわけではありませんが、傾向としてはやはり手間暇分の刷り込み効果はあるような気がしているのでありまして。

 

ま、年齢的に昔のことばかりよく覚えている…てな領域に踏み込んでいるだけかもしれませんが…(笑)。