何とはなしに映画『レディ加賀』を見ていて、先に甲府の「信玄公祭り」に託けて飲みに行った友人の話を思い出したり。祭りの当日に「甲府にこんなに人がいたのか?!」と思ったことは胸の内として、「ずいぶんと人が出てるねえ」と友人に水を向けますと、「80万人もいないんだよなあ…」とポツリ。
最初は甲府市の人口のことを言っているのかと思ったものの、これが山梨県全体の話であったのですな。つい先ごろに総務省が発表した2024年10月1日時点の人口推計によりますと、山梨県は79万人余りとありましたし。
こうしたことに行政としては危機感を抱くのかどうか、「信玄公祭り」のような観光イベントで盛り上げようという思惑はありましょうなあ…と、「町おこし」を観光イベントに頼るのはよくある話でして、『レディ加賀』もそんなような話ですので、連想が働いた次第です。
映画の舞台となる加賀温泉郷は石川県にありまして、その石川県は先の人口推計では109万人と百万人台ではある(ちなみに百万に満たないのは全国で11県)ものの、そのうちの45%くらいは金沢市という一強状態ですので他の自治体のようすは想像に難くないところかと。で、「町おこし」的に加賀温泉郷では「レディー・カガ」プロジェクトが立ち上がるわけですな。「加賀温泉郷の情報発信、おもてなしの向上を目指し」ていると「Lady Kaga Official Site」に。
どうしたってレディー・ガガを思わせるだけに、映画タイトルを見た時には「よもや、実話ベースではあるまい」と思ったものですが、映画のような登場人物のキャラクターやらタップダンス・イベントやらは作り物でしょうけれど、背景として「レディー・カガ」は確かに存在したのでしたか…。
ちなみに、ネーミングの類似性からレディー・ガガが訴えたとかいう話もありますが、そもレディー・ガガ自体、クイーンの『レディオガガ』からパクったのでもありましょうから、あんまりとやかく言えたものではないようにも思いますが。
と余談はともかく、「レディー・カガ」の町おこしプロジェクトは偏に観光振興なのだよなあと。確かに観光振興で来てくれる人が増えることで町の活性化が促されるという面はあるのだろうとは思うものの、その町に暮らす人は温泉関係者ばかりではないわけで、限定的なのではなかろうかとも。
その点では先に触れた甲府の「信玄公祭り」も同様と思えるところながら、世界最大の武者行列を謳う祭りには数多くの一般市民が参加するわけでして、祭りを見る(屋台の飲み食いを楽しむなども含めて)ことを楽しみやってくる観光客の誘致もさりながら、地元民が盛り上がる機会ともなっている点で違いがあるような気がしたものです。
町おこしの必要性は、そこに住まう人たちにそも活気が失われていること自体を何とかしたいという思いからということもあろうかと思ったりするのですよねえ。ま、そんなふうに思い至るのも、相前後して英国映画『ドリーム・ホース』を見たからとも言えましょうかね。
かつて炭鉱町として賑わいを見せたウェールズの片田舎では、廃坑後にすっかり町は寂れ、住まう人たちもどんよりしたふう。そんな中、ただただ動物好きという普通の主婦が競走馬を育てることを思いつき、町の人たちからなけなしの金を集めて馬主組合を作ることに。
集まった人たちも、眉唾ものとは思いながらも「育てた馬がレースで勝てば大金の配当が得られる」という欲得ずくで参加していくわけですが、やがて馬の育っていくようすに一喜一憂するようになって元気を取り戻していく。そして迎えたレースでは、ドリームアライアンスと名付けた自分たちの馬が大活躍し…と、出来過ぎた話に思えますが実話だそうで。
で、この話などはそこに住まう人たちが元気を取り戻す、町の状況は全く変わっていないのに町自体も元気になったようになる…と、このあたり、町おこしのひとつのありようなのではないかなと思ったのでありますよ。観光頼みもひとつの方法だと思いますが、度が過ぎるとオーバーツーリズムを引き起こしたりもする他力本願なものばかりでなくして、そもそも観光に頼むことができない自治体もありましょうしねえ。
そこに住まう人そのものが元気になる何らかの形というのは、全くそれぞれにあるような。それをなかなか発想できないのが現実で、例えば競走馬を買うなどというのは「なにをたわけたことを」で終わってしまう可能性大でしょうから、現実は厳しく難しいなとは思いますけれど、こんなありようもあるということではありましょうね。