ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児6歳。
キャリア:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職後3年。
2025年1月18日
▶ 午前10時30分
703号室の玄関ドアを掴んでいた夫の手。
夫の手。
薬指。
光を反射する結婚指輪。
そして、
キャメルコートの彼女。
夫はドアを急いで閉めなかった。
完全に中へ入ることもなかった。
一瞬、止まり、
ドアを握ったまま立っていた。
薬指。
光。
映像にはっきりと映っている。
私の指輪とデザインを照合した。
一致。
今回は、
状況でも、疑いでもない。
冷たい証拠を一つ、手に入れた。
何日も掴んでいた疑いが、
初めて形になった。
旧正月。
義母はきっと見渡すだろう。
私の後ろ姿、横顔、歩き方。
話す口元、
笑う時の視線の行き先。
気づかれないように、
私をスキャンし、
以前の私と照合する。
一緒にいる間、ずっと。
以前なら、
無防備なまま、すべて読まれていただろう。
疑いで重くなった頭。
落ちた肩。
整わない表情。
今回は違う。
私は知っている。
何を見て、
何を確認したのか。
排除の視線が来ても、
顔を上げる。
ノートパソコンを閉じ、頭を預ける。
少し、目を閉じる。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ビー。
停止。
再び、
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ビーー。
誤入力。
この時間。
一度。
そして、もう一度。
ドアの前に、
誰かが立っている。
この時間に、夫?
夫が引っかかったのか。
それとも、別の誰か。
朝、登園前に、
玄関の暗証番号を
[2][1][0][3]から
[8][8][5][9]に変えておいた。
昨日、
夫は一度、番号を間違えた。
玄関の前に立つと、
思うより先に指が動く。
以前の番号を押した可能性が高い。
だから、変えた。
昨日押した数字が
この組み合わせだったのか、確かめるために。
もし
ドアが開けば、
ドアの前にいるのは夫だ。
静かに立ち上がる。
ソファ横のラグを避け、
足を運ぶ。
床が鳴らないように、
かかとを先に上げる。
ドアスコープの前に立つ。
ピッ。
ピッ。
ビー。
一度、失敗。
再び。
ピッ。
ピッ。
息を止める。.
ピッ——
ビー——
義母だ。
ドアスコープ越しの顔。
指の動きに迷いはない。
この時間に、なぜ。
しばらくして、
エレベーターの扉が閉まる音。
静寂。
私は動かない。
10分。
20分。
30分。
エレベーターが下りた後、
家の中は真空のように静かだ。
ドアロックの数字盤の灯りも消えた。
玄関側の空気が冷えている。
脳も、
感覚も、
一瞬止まったかのように凍りついている。
これまで、
私の知らない間に、
この家で何が起きていたのか。
単なる浮気と見るには、
あまりにも古い匂いがする。
けれど、
このまま座っているわけにはいかない。
もうすぐ子どもを迎えに行かなければならない。
手を握り、
次の習い事へ連れていく。
いつもより少し早めに行き、
何もなかった顔で
待たなければならない。
子どもの前では、
揺らげない。
私の子。
もしかして。
また、もしかして。
不安が再び頭を揺らす。
思考が逸れる前に、
先に体を動かす。
幼稚園へ。
駆けるように地下駐車場へ降りる。
リモコンを押す前に、
ドアを開ける。
出発。
周囲の車が
やけに速くすれ違う気がする。
信号が遅く変わる気がする。
アクセルを少し踏み込む。
一度、後ろを見る。
誰かついてきていないか。
義母の顔が、
ミラーに重なる。
窓を下ろす。
車内にこもった空気が抜ける。
その時、
冷たい風がスカートの内側へ深く入り込み、
太ももの内側、中心へと広がる。
その時、
ようやく、息を吐く。
幼稚園の駐車場入口。
車を停める。
周囲を一度見渡す。
義母はいない。
よかった。
時間を見る。20分前。
余裕がある。
子どもを動揺させることはない。
ハンドルに頭を預ける。
先ほどの状況を、
ゆっくり辿る。
なぜ、
家の暗証番号を、
何の躊躇もなく押したのか。
あの指の動きは、
初めての人間のものではなかった。
私がいない時、
この家に来たことがあったのかもしれない。
私がどこにいるか、
確認していた可能性。
鳥肌が立つ。
ならば、
車は。
ドライブレコーダーにも、
残っていないか。
すぐに保存画面を開く。
1時間前へ戻す。
地下駐車場。
私の車の前。
いる。
ちょうど50分前、
私の車の前に立ち止まった人物。
顔を下げ、
車のナンバーを確認する。
義母だ。
私は画面を止める。
時間的に、
義母は私の家のドアロック暗証番号を押して失敗した。
そして駐車場へ下り、
私の車があることを確認した。
私が家にいたことを、
確認したということだ。
ブーン。
ブーン。
太ももの間に置いたスマートフォンが振動する。
夫からの電話。
この時間。
少し前、
義母は私の車の前に立っていた。
そして今、
夫が電話をかけてくる。
なぜ、
ここまで畳みかけるのか。
Ennd
by N≠N
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