2025年1月8日 夜
ソウル・論峴洞 観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業 マーケティングチーム代理まで勤務。退職3年。
「最後のカード」
知りたくない。
知ってしまうことは、別の問題だ。
雰囲気で知ってしまったら、耐えられない。
動けずにいる。
あの夜とは違う。
突然、車のドアを叩くような状況は、
起きない。
心臓が張り裂けそうで、
あの夜、結局確認しなかったものが一つある。
今夜、開く。夫の車のドライブレコーダーのメモリーカード。
夫は動けない。今は。
少し物音がしても、部屋から出てこられない。
ダイニングテーブルに座り、素早い手つきで準備する。
3インチのスコッチテープ、鉛筆削り用の小さなナイフ、ノートパソコン。
クラッチバッグに入れる。
ジッパーバッグを二枚、折らずにノートの間に挟む。
紙と大きな朱肉をテーブルに置く。
一度立ち上がり、夫の動きを見る。
わざと、ドアを20センチほど開けておく。
今、夜の10時30分。
わざと音を立て、通り過ぎるように、
開いた隙間から動きを確認する。
スマートフォンを見ている。
昼から休んでいた。
簡単には眠らない。
今夜は、長い夜だ。
脈は強くない。
緊張を、少し下げればいい。
テキストが必要だ。
夫は、リビングには出てこられない。
そう。冷蔵庫の扉、テーブルの角、そして官能的なテキスト。
今は、映像ではない。
密度のある叙述が、もっと必要だ。
最後に、もう一度、大きな足音でドアの前を通る。
20センチの開き。夫にとっては、助けの通路。
私にとっては、動きを把握するための、最小限の開放。
相変わらず、スマートフォン。
テーブルに座る。A4用紙を広げる。
親指から、左から右へ転がすように、朱肉を十分につける。
人差し指、中指、薬指まで。
白い余白に、正確に、ゆっくりと押す。1分、待つ。
夫の動きは、感じられない。
スコッチテープを切り、滑らかに貼る。
指紋が滲まないよう、正確に。
指先に力が入る。
無意識に、親指の足先が、テーブルの脚を両側から強く押している。張りつめている。
太ももが、大きく開いている。……。
感覚とテンションは、限界に触れている。
下着が、ヒップに貼りついている。
11時30分。バッグを閉じておく。
Ennd
by N≠N
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この記録は、連続した観察ログの一部です。
・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 6「確認 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 8「有能感」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)
・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ